その少女は言った。
「こんな時間に人がいるなんて珍しいね。あなたもここの患者?それとも被験体?」
「いや、よくわからないんだけど、気づいたらこんなところにいたんだ。」
「気がついたらって・・・・・・。そんなこともあるのね。」
患者とか、被験体とか、穏やかではない単語を聞き、加えて自分の置かれている状況がわからないため、焦燥感が湧き上がる。
「ここはどこなんだ?見た感じただの病院でもなさそうだけど。」
少女は唇に人差し指を押し当て、少し考えた後に答えた。
「一応表向きは臨床試験を行う病院・・・・・・なんだけど、実際は人体実験場よ。もしかしたら、あなたはここで記憶を消されたのかもね。」
そういいながら、彼女は語尾にふふっと微笑を付け加えた。
「そう・・・・・・なのか?」
「まさか本当に記憶も無いの?名前とか、出身地とか、何か覚えてないの?」
「ああ。何一つ覚えていない。」
一瞬驚いたように見せた彼女はそのまま黙り込み、考え出した。
そのまま奇妙な沈黙が続くこと2,3分。気まずくなった。
「あの・・・・・・」「ねぇ・・・・・・」
盛大に被った。
しかし、彼女は臆することなく続けた。
「いいからちょっと着いてきて。」
そういって二の腕を掴まれ、強引に連れて行かれる。
「ちょっ・・・・・・!」
「黙って着いてくる!」
「・・・・・・」
成り行きに身を任せるしかないようだ。
ただただ、行き着く先に鬼も蛇も出ないことを祈るばかり。
しかし、そんな鬼、蛇や化け物の類よりも怖い人類がいるということをこのときにはまだ知らなかった。
最終更新:2012年07月22日 11:19