梓「……ふぅ」
唯「あ、あずにゃん? どうしたの? 何だか私よりも下手になってるよ!?」
梓「それは、ただ単に唯先輩が上手になっただけじゃないんですか?」ぐらぐら
唯「そんなこと無い――ってどうしたのあずにゃん? ふらふらしてるじゃん!?」
梓「気のせいです」ぽふっ
唯「あ、あずにゃん? 急にもたれかかってきてどうしたの――熱いっ!」
梓「どうしたんですか先輩……。今日はいつもよりハイテンションですね」
唯「そりゃあずにゃんが心配だからだよ! 凄い熱だよ!?」
梓「熱ですか……。はぁ、確かに少し熱いですねぇ」
唯「これは少しってレベルじゃないよ!? 家に帰って寝ないと!」
梓「それは、だめでしょう。ただでさえ練習時間短いのに」
唯「いいからっ! それにこんな状態じゃ練習にならないよ!」
梓「――はぁ、分かりました。では家に帰らせていただきます」ふらふら
唯「そんな状態じゃ無理だよ! 私が送ってあげるから!」
梓「――えっ?」
梓「せ、先輩……やっぱり無理ですよぉ」
唯「だいじょーぶ! ギー太だってちゃんと持ち運び出来るんだから!」
梓「ギターと一緒にしないでくださいよ……」
唯「ふんふーん♪ それじゃ、いっくよー?」ひょいっ
梓「わ、わ、わ……。だ、大丈夫ですか?」
唯「余裕だよ~」
梓「凄いですね……」
唯「それじゃ、あずにゃんのお家にれっつごぉ~!」
梓「お、おーっ」
梓「せ、先輩……かなり恥ずかしいです……」
唯「え~? 私はそんなことないよ?」
梓「どんな神経をしてるんですか……」
唯「だってあずにゃんが心配だからね。恥ずかしいなんて思えないしあずにゃんと一緒にいられたら嬉しいもん」
梓「…………ひきょうです……」
唯「うん? 何か言ったかな?」
梓「な、何でもありません。早く進んでください」
唯「? 変なあずにゃん」
唯「もう少しで、着くねぇ~」
梓「先輩、大丈夫ですか? 息が上がってきてますよ?」
唯「だいじょ~ぶっ……。ちなみに今日は家族の人いるの?」
梓「両親は今日から旅行に出かけて、お兄ちゃんは彼女さんのところでお泊りするそうです」
唯「お兄さん彼女さんいたんだねぇ。かっこいいから当然かぁ~。残念」
梓「残念?」
唯「うん。ちょっとだけ狙ってたんだけどな~」
梓「狙ってた? お兄ちゃんのことが好きなんですか?」
唯「好きっていうか、ちょっといいかなって思うぐらいかなぁ」
梓「だめですよ」
唯「へ?」
梓「お兄ちゃんとは付き合わせませんから」
唯「じょうだんだよぉ~。本当にお兄ちゃんっ子なんだからぁ」
梓(……鈍感)
唯「よっと……。ようやく着いたね」
梓「ふぅ。ありがとうございました」
唯「いえいえどういたしまして~。さ、鍵を開けて?」
梓「はい――へっ?」
唯「どうしたの? 開けないと中に入れないよ? もしかして鍵を無くしちゃった?」
梓「いや、鍵はありますけど……中にまで着いてくるつもりですか?」
唯「え? 当然だよ。だって家族の人誰もいないなんて寂しすぎるじゃない」
梓「はぁ……。さびしい、ですか」
唯「うん! だから今日は私が看病してあげるんだぁ~」
梓「――はっ!?」
「るんるーん♪」
何だかんだで家に上げてしまったけど……。
「剥き剥き楽しい~」
先輩に看病が出来るとはとてもじゃないけど思えない……。
「は~い、あずにゃん。りんご剥けたよ~」
「やっぱり帰ってもらったほうが――えっ?」
唯「どうしたの? あずにゃん」
梓「い、いえ……何でもありません」
唯「そう? ま、いっか。はい、りんご食べて」
梓「は、はい……」
唯「わくわく」
梓(うぅ……。凄い期待してる眼だ……。でも、唯先輩が剥いたものだよ? 食べられるわけが……)「い、いただきます」
唯「はい、どうぞっ」
梓(うぅ……ぱくり)「――お、おいしい」
唯「でしょでしょー」
梓(ほ、ほんとにおいしい……ぱくぱく)「いったいどうしたんですか」
唯「うん? 何が?」
梓「不器用な先輩がどうしてこんなに上手に剥けるのかなって……失礼ですね、すみません」
唯「そんなことないよ。実はね――」
唯「小学生だったころの憂は本当に体が弱くてね、毎日のように私が看病してあげてたんだ」
梓「憂が? そうだったんですか……」
唯「うん、その時はまだ私が守らなきゃって思ってたんだろうね。必死で看病の勉強をしてたんだ」
梓「唯先輩が必死になればすぐ覚えられたんでしょうね……」
唯「うーん。よくわかんないけどそれからしばらくして憂が元気になってね。そしたらもうだらけきっちゃって今の私の出来上がりですよ」
梓「ずいぶん端折りましたね……」
唯「うん。だって必要ないもん」
梓「まぁそうですね」
唯「うん。あずにゃんはゆっくり休みなよ。風邪のときは寝るのが一番なんだから」
梓「そう……ですね。では失礼して寝させてもらいます」
唯「うぃ。お休み――」
――気がつくと私は知らないお花畑にいた。
「あ、あれ? ここはどこだろう……?」
おかしい。さっきまでベッドの上で唯先輩と喋ってたはずなのに……。
ひょっとしてこれは夢なのだろうか。いや、もしかしたらさっきまでが現実でこっちが夢――――。
「まあ、いいか。何だか体もすっかり楽になったし、少し辺りをふらついてみよう」
そう思い、歩き出すこと数分。
「やぁ……恥ずかしいよぉ」
「ふふふ、そんなこといいながらここはビンビンだぜ?」
――甘ったるい唯先輩の声と、嗜虐的なお兄ちゃんの声が聞こえてきた。
「――――は!? ……夢か」
最悪の目覚めだった。
胸はドクドクしてるし、汗で寝巻きはぐっしょりだし。
……唯先輩と、お兄ちゃんが……。
ついついさっきの声を思い出してしまう。
「リアル……だったな……」
もしかしたら本当にあんなことをやっているのかもしれない。
「……うんう。そんなことは唯先輩に限ってないはず。私が信じないと」
とにかくもう一度寝よう。今度はいい夢を見られるように。
「――ん?」
布団を被り直そうとして、そこに人が寝ていることに気付く。
「……ん……あずにゃぁん……」
「……先輩」
本当に、ずっと看病してくれてたのかな……。
「……ありがとうございます」
疑ってたのがばかみたいだ。唯先輩は本当に私のことを考えてくれてるんだから……。
「…………」
少し考えてから、唯先輩と一緒に布団を被る。
そしてぎゅっと先輩を抱きしめる。
「おやすみなさい、先輩……」
今度はきっといい夢を見られますように――
Fin
最終更新:2009年07月15日 17:25