844 :あとがき:2009/08/07(金) 19:33:08.93 ID:LqBOitnS0
「ねー和ちゃん。あの雲、肉まんに似てないー?」
「うーん、どうかしらね……唯の発想は独特で、ついていけないわ」
「ひどーい」
軽く頬を膨らませてすねてしまった唯に、私は「ごめんごめん」と謝る。
845 :あとがき:2009/08/07(金) 19:35:18.60 ID:LqBOitnS0
今私たちは、桜が丘高校の屋上にいる。
そこで寝転がりながら、空を眺めているのだ。
「きょうは、きもちいいねー」
「ええ、そうね。春爛漫、といったところかしら」
「なーに、らんまんって? まんじゅうのこと?」
「ふふっ、違うわよ」
相変わらずの唯の抜けっぷりに、私は微笑む。
851 :あとがき:2009/08/07(金) 19:40:31.16 ID:LqBOitnS0
隣で寝転がる唯は、「まんじゅうじゃないなら、なんだろう……どら焼きかな?」
などと、またしても私がついていけない思考をしているようだ。
「春爛漫っていうのは、明らかに春、というような状況を指すのよ。
他にも天真爛漫とか――」
「うーん、私には分かんないや。和ちゃんは、頭いいねー、すごい」
「そんなことないわよ。知っていることだけ、よ」
違うよ、頭いいよ、と続ける唯を見ていると気持ちが楽になるのを感じる。
855 :あとがき:2009/08/07(金) 19:43:58.06 ID:LqBOitnS0
(そういえば……)
言っていて、気づいたことがある。
天真爛漫――それは、まるで。
(この子みたいね)
「どしたの、和ちゃん。私の顔に何かついてるー?」
「い、いや、別にそういうわけじゃないのよ。ただ、唯っていつもマイペースよねーって」
思った通りのことを、彼女に伝える。
それに対して、唯は
「うーん、まいぺーす、なのかな。そんなこと考えないしなあ」
ゴロンと転がって、私の方に近づいてきた。
858 :あとがき:2009/08/07(金) 19:46:56.13 ID:LqBOitnS0
「私よりも、和ちゃんの方がそうなんじゃないのー?」
私に視線を合わせながら、唯は言った。
「そんなことないわよ。毎日、生徒会生徒会……忙しいったらありゃしない」
そこで、はあっとため息をつく。今は思い出したくないことだ。
最近、生徒会活動が活発になってきたせいか、生徒会室の雰囲気が少し
居心地の悪いものになっている。
会長なんて、瑣末なミスで役員を思いっきり叱りつけていたし。
そんな空気が嫌になっていた時に、唯に誘われたのだ。
「和ちゃーん。屋上行かない?」と。
860 :あとがき:2009/08/07(金) 19:49:14.99 ID:LqBOitnS0
(……まさかそこでゴロゴロ寝転がる羽目になるとは)
最初、私は寝転がることに反対だった。
制服が汚れてしまうし、高校生にもなってすることではないような気がした。
「和ちゃん、きもちいいよー。一緒に寝転がろうよー」
ゴロゴロととても楽しそうに転がりながら唯が言うので
「……やってみるかな」
のってしまった、というわけだ。
多分、最近のストレスがそのような行為に駆り立てたのだろう。
861 :あとがき:2009/08/07(金) 19:53:29.43 ID:LqBOitnS0
役員同士の軋轢、会長に対する不満――
そういったもの全てによって、だ。
「……唯のマイペースっぷりが羨ましいわ」
切実にそう思った。
軽音部に入ってからの唯は、とてもいきいきとしている。
そんな彼女と私は――
「和ちゃんだって、まいぺーすだよ」
しかし。きっぱりと唯は言ってのけた。
「……え?」
「だって、そうじゃなきゃ私とゴロゴロ寝転がったりなんてしないでしょー?」
笑顔で、彼女はそう告げたのだ。
865 :あとがき:2009/08/07(金) 19:59:43.86 ID:LqBOitnS0
「大丈夫だよ、和ちゃん。和ちゃんは、大丈夫だから」
おかしなセリフだなあ、と私は思う。
しかし、そのいつも通りのまったりとした声を聞いた時。
(……ああ)
気持ちが楽になるのを実感した。
唯はこういう子なのだ。だから、私は長年もの間、親友でいられるのだ。
その笑顔。その声。その台詞……そのすべてが、限りなく安心させてくれるから。
周りの人々を笑顔にしてくれる――そんな子、あまりいないのではないか。
――キーンコーンカーンコーン
「あっ、お昼休み終わりだ! 和ちゃん、かえろ!」
ガバッと起き上がり、私に手を差し伸べてくれる唯。
そんな彼女の手を掴みながら――
「……唯」
「なーに?」
「これからも、よろしくね。いつもありがとう」
「……こちらこそ」
869 :あとがき:2009/08/07(金) 20:15:58.91 ID:LqBOitnS0
起き上がった私と唯は、しばらくの間手をつないでいた。
そうして、友情を確かめたかった。私と彼女の、だ。
屋上から出る際に、雲の合間から太陽がぽっかりと顔を出し……
「あったかいねー、和ちゃん」
「ふふっ、そうね」
私たちの気分を、さらに晴れやかなものにしてくれた――。
FriendShip is beautiful……
最終更新:2009年08月13日 11:39