CPI-17は、分子量17kDaのタンパク質である。
平滑筋の弛緩・収縮はミオシン軽鎖(
MLC)のリン酸化に依存し,リン酸化は
MLCキナーゼ,脱リン酸化は
MLCホスファターゼ(MLCP)によって調節されている。MLCP活性を制御するタンパク質に,CPI-17がある。CPI-17のThr38が
PKC(プロテインキナーゼC)によってリン酸化されると,この部位がMLCPの触媒反応部位に直接結合する。CPI-17のMLCP阻害能はThr38のリン酸化によって非リン酸化型の~103倍になる。またCPI-17はPP1(プロテインフォスファターゼ1)に結合することから,様々な細胞内シグナル伝達に関与するとみられている。最近では,小脳プルキンエ細胞においてもCPI-17の局在が確認され,CPI-17はある種の記憶機構LTD(long-term depression)にも関与することが報告されている。このような多彩なCPI-17の機能を原子分解能で解明するための第一歩として,分子スイッチが"OFF"の状態である非リン酸化型CPI-17の立体構造をNMR法で決定した(Ohki et al., J. Mol. Biol. 2003, 326, 1539-1547)。CPI-17の立体構造はリン酸化部位を含む長いループとそれに続く4本のαへリックス(A, B, C, D)から成る。A,DヘリックスとB,Cヘリックスが逆平行の対となり,これら2対のヘリックスペアがV字型に束ねられた独特の立体構造を持つ。シグナル伝達の中心的な役割を担うThr38は最もN末端側のループ領域に存在し,このループは4本ヘリックスバンドル構造に寄り添うように位置していた。また,Thr38側鎖は溶媒と接触しないタンパク質の内側を向いていることが明らかとなった。このループの位置ならびにThr38側鎖の向きがシグナル伝達における分子スイッチの"OFF"の状態として機能するために重要である。
最終更新:2007年09月29日 12:23