その日まではそれはただの不思議な一件でしかなかったのだ。
それが今日打ち崩された。
普段被っている冷静な仮面を捨て去って叫び出し、その犯人を殴って解決してしまいたかった。
…今日の、昼休みの事だった。
その日は確かいつもより生徒が騒々しかったのを覚えている。
こちらはどこかの馬鹿のおかげで頭を悩ませたりしているというのに。
しかし俺はその騒ぎの原因を調べようともせずにいる。
もし、その騒ぎのが生徒会まで伝わるならば、そこで始めて生徒会が動くべきだろう。それが俺の考えだ。
楽観視…いや、そもそもそれを問題とすら見ていなかった。
しかし問題としていたからと言って……何が出来たのかと言う類の問題ではあったが。
昼休みの放送が急に途切れた。
「……?」
購買で買ったパンをかじりながら、携帯と電子辞書の計算機を使ってどれほど金を浮かせられるか計算してた手を止める。
先ほどまで流れていたカノンは止み、生徒達は何が起こったのかとざわざわしていた。
そして沈黙していたスピーカーからブツッ、とスイッチを入れたような音がした。
緊急の放送なら木琴の音を挟んでから教師なりなんなりが話す筈だがこれは──?
『どうも…Kです…』
ノイズ混じりに聞き取りづらい声だったが確かに今…Kと名乗った。
ざわざわと大きくなり始めたざわめきを無視して席を立った。
…数日前に目安箱に入れてあった手紙にも"K"と言う奴が関わっていた。
今放送室にはどんな形であれKに関わる人物が居る筈だ。
どうやら同時に多発した事件の黒幕はコイツらしい。これ以上俺の統治下で好き勝手させねぇぞ馬鹿。
俺は放送室へと走った。
俺が着くとすでに教師が放送室の前に居て、扉を開けようとしていた。
その中の一人がこちらに気づいたが無視。
「あ、君は生徒会長の─」
「弁償します」
教師が何か言ったような気もしたが俺は走ってついた慣性ごと扉に向かって蹴りを放つ。
「キャアッ!!??」
意外とそれほど大きく蹴りの音は響かなかった。
ドアの蝶番はひしゃげ、亀裂の入った材木の向こうに二人の女生徒の姿が見えた。
再び蹴りを放つと扉は開いた。
「………」
茫然としている教師を除けて放送室に入ると一人は縮こまり。一人は気絶していた。
「…ごめんなさい…………ごめんなさいっ…!」
「君がやったのかね?」
ごめんなさい、をただ呟くその女生徒を見下ろして聞いた。
その女生徒は指の血が止まるほど白く、手で警棒のような物を握りしめていた。
「…ごめんなさい……!」
「…大丈夫か?」
後ろから無能な教師が声を掛ける。少しは自分で確認したらどうだ。
「どうやら混乱状態にあるようです」
「おや、喜緑君」
気づけばいつの間にか喜緑君がそこにいた。
彼女は女生徒へ近づくと優しく手を握り、警棒を握りしめる指を一つ一つ剥がした。
「ごめんなさい、…ごめんなさいっ………!」
ぼろぼろ、と涙まで流し始めた女生徒の対応に困る教師。
それも喜緑君が対処してくれた。
「先生。どうやら落ち着くまで私達に任せていただけませんか?」
「い、いやしかし…」
無能な上に臆病ででしゃばりとはどういう教師だ?
「先生、私からもそれが最善だと思います。今何を聞いても無駄です」
「そうか?なら任せるが…」
自分の責任では無いとでも言いたいのだろう。
喜緑君が女生徒の肩を持ち、たどたどしい足取りながら歩き始めたのを確認すると教師は道を開けた。
俺もその後に続く…前にテープを回収する。
走っていたら放送が全く耳に残らなかった。手がかりとしても有力だろう。
テープをポケットに入れると喜緑君の後を追って生徒会室へと向かった。
最終更新:2008年03月06日 14:13