「えと、同じく転校してきた泉こなたです。よろしくです~」
軽く頭を下げる。うう、なんだかんだ言っても、やっぱり緊張するもんだね。なんかこう、クラスのみんなの生暖かいような視線が、
心にクるよ。先に自己紹介終わったゆー君も、陵桜に転校してきたころはこんな気持ちだったんだろーね。
て、陵桜ってなんだっけ?一瞬呆けた私だったけど、拍手が鳴り響いた拍子に思い出した。そうだそうだのソーダ水。私が「現実」
の世界で通っていた、高校の名前。いろんなことがありすぎて、思考回路はショート寸前♪なのかな。ま、いっか。
にしても小鳥谷って苗字、今考えれば珍しいよね。私なんか最初「ことりだに」って読んじゃって、随分とメルヘンな苗字だなぁ
なんて思って、恥掻きましたよ。黒板に書かれた私たちの名前、片方の苗字にふりがなで「こずや」とあるのを横目でちら見しながら、
勉強不足を痛感したね。ま、私の記憶容量は愛すべき趣味のためにあるんだからしょうがないよネ。
「というわけだ、お前ら仲良くしろよ?」
担任の岡部先生が、クラスを見渡して一言。うむ、確かに若くて熱血漢って感じの先生だね。設定どうりだよ。教壇の前に立つ私も、
この教室を見渡してみた。
あ、あれが谷口かな。なるほど、確かに知的な顔には見えないね。口を半開きにして、こっちをみて喜んでるような顔してるよ。
私の美的ランクでも格付け中かな?あとで聞いてみよう。阪中さんはどれだろ。あの髪の短い娘さんかな。あれは多分成崎さんで、
そして…いたいた。
窓際の後ろの方。なんだかめんどくさそうな視線を、私とゆー君に交互に向けている。多分私たちの事、警戒してるんじゃないかなー?
ながもんやイッチーや朝比奈さんのカミングアウトを受けたし、夏休みは15498回繰り返すし、朝倉っちにNice boat.されそうになるし。
そりゃ目つきも厳しくなるよネ。こうみるとそれなりに男前だけど、仕草のせいかだいぶ老けて見える。いい男が台無しだよキョンキョン。
そしてその後ろには、やっぱり。ハルにゃんだ!
ハルにゃんこと、涼宮ハルヒは私たちの方を向いて、強気の笑みを浮かべている。髪型も、リボンの色も、アニメで見たのとおんなじだ。
なるほど、こりゃ確かに美人さんだね。言い寄る男が鈴なりなのも納得だよ。しかしこれで、私の周りにはツンデレが二人、いや三人かな?
もしかしたら4人かも。ハルにゃんとかがみんは言うに及ばず、キョンキョンも立派なツンデレだよねえ。永森さんも、もしかしたらクールな
ツンデレかもしれないし。
「…ん?どうした泉」
「えっ、あっ、ああすみません。何の話でしたっけ?」
ふいに岡部センセに話振られて、思わずテンパっちゃった。ううむ、二次元世界に入り込んだ興奮からか、どうやらちょっとトリップしてた
かな?自重自重。
「ははは。緊張でもしてるか。君達の席の話だよ」
そういって教室の後ろを指差した。その先には、主のいない机が二つ並んでいる。
「とりあえずは小鳥谷はそっち、泉はその隣だ。明日席替えするから、それまで我慢してくれ」
席替え、の単語で、クラスがざわめき立つ。席替えが重要なサブイベントなのは、どこも一緒なんだね。促された私とゆー君は、みんなの間
を通って、席につく。みんなの視線が、やっぱりこそばゆい。
「おし、じゃあ連絡事項だぞ──」
こうして、ホームルームが再開された。まあこれが終わるまでは、なんの変哲も無い普通の一日だったんだけどね。
今、ホームルームが始まったところです。担任の先生が二人を伴って教室に入ってきたとき、明らかに教室の空気が変質したのを感じて、
僕は思わず苦笑いを浮かべそうになりましたよ。
このクラスは男子の比率が高いのですが、その多数を占める男衆が、ごくんと喉を鳴らしたような、そんな雰囲気です。まあ、仕方ありません。
このお二方は、確かに周囲の目を引くほどに、眉目麗しいのですから。
転校生の紹介があります、先生にと促され、二人は黒板の前に並びました。
「柊かがみです。転校してきたばかりで右も左も分かりませんが、よろしくお願いします」
そういって、軽く頭を下げる柊かがみと名乗った少女。頭の両脇で結んだ髪が揺れます。確か、ツインテールといいましたか。目つきは少し、
きついかもしれません。キツ目の美人、というやつですね。
「え、えと、柊つかさです。よろしく、お、おながいします」
声がだいぶ、震えてますね。おっとりとした印象を受けます。こちらは美人というより、かわいいという感じですか。短く切った髪と、特徴的な
リボンと相成って、少し幼い雰囲気ですね。
「二人に、何か聞きたいことがありますか?ただし失礼な質問はしないように」
どうやら先生は、二人への質問時間をとってくださるようです。助かります。一瞬クラスが静まり返り、誰もが何かを逡巡しているスキに、僕は
自然に手を上げました。先手必勝です。指名されて、僕は立ち上がりました。
「古泉君」
「はい。ああ、初めまして。古泉一樹です。よろしく。同じ苗字ということは、お二人は姉妹か何かでしょうか?」
本当は機関からの報告は受けているのですが、確認のため質問します。情報が間違っていないとも限りませんから。
「あ、はい、双子です。私が姉で、つかさが妹」
「失礼ですが、その割には、はっきりと違いが出ていますね」
「え?ああ、私たち、二卵性なんで…」
「なるほど、ありがとうございます」
そういって僕は着席します。なるほど、双子でしたか。姉妹という情報はありましたが、まさかこんな展開になるとは、ね。彼女が虚偽の答えを
僕に教えたわけではないのは分かりました。こう見えても、見抜くのは得意なんでね。
にしても気になるのが──二人はなぜ、こちらを時々見ては気にしているのでしょうか?特に、つかささん、でしたか。気づかれないようにして
いるつもりのようですが、あからさまですよ。
普通なら、僕が気になっている?と自惚れのひとつでも立ち上げたいところでしょうが、生憎知ってしまいましたから。このお二人が、普通の人間
ではないことを。どうやら僕のことを、多少なりともご存知のようですね。これは是非とも、お話を伺いたいところです。もちろん、返答如何に
よっては、多少は荒っぽいことになるかもしれません。そうならないように、願っていますがね。
クラスメートの「神岸あかりと何か関係ありますか」という意味の分からない質問を聞き流しながら、長門さんと彼との
打ち合わせを、僕は思い出していました。
決戦は放課後、ですね。
まさか、こんなことになるなんて思わなかった。
よりによって、私と似た存在と同じクラスなんて。
私と高良みゆきは、一通りの自己紹介を終え、用意された席に座っている。私の隣には高良みゆき。そして、その向こうには。
おそらく、私が展開した不可視性防衛フィールドを解除して、会議室での私たちを調査していた張本人。私と同じ、というわけでは
ないが、この惑星外の存在によって生み出されたもの。地球人類とは明らかに構成組織が異なっている。
だけど、これ以上は分からない。
私の<母船>は、この世界、この次元には存在しない。そして、<母船>の支援機能を使用できない私は、限定的な能力しか解放
できない。これは、明らかに危機的状況。
あの存在は私たちのことを危険視している。理由は詳しくは分からない。泉こなたが言っていた「涼宮ハルヒの世界」となにか関係
がある可能性は高い。
気づくと、あの存在が、こちらをじっと見つめていた。私のことを走査しているのか。隠匿フィールドを展開するが、おそらく無駄だ。
あの存在、インターフェースというべきなのか。個体で比較しても、彼女の能力は私のそれを上回るだろう。
それでも、私は守らなければならない。彼女達を。そして、私が全てを託した「彼」を。それに、この<体>も、無意識下で強く願っている。
皆を助けて。皆を守って。と。
だから私は、やらなければならない。
最終更新:2008年03月12日 09:09