吊り橋 -18-


部室には朝比奈さんとハルヒがいた。
朝比奈さんは……泣いてる?
ハルヒはパソコンの前に座り、憮然としている。どういう状況だ?
俺達3人が扉を開けたまま呆然としているとハルヒが声をかけてきた。高良さんに。
「あら、ちょうどいいわ。みゆきちゃん、ちょっとこっちに来なさい。それと…キョンとみくるちゃんは出ていって」
はぁ?何でまたそんなことをせにゃならん?
まずは状況を説明しろ。
と言おうと口を開いた時には既に部室を出ていた。
朝比奈さんが俺の手を取り、外に出していたからだ。
「朝…比奈さん……?」
よく見ると朝比奈さんは制服姿をしている。部室ではいつもメイド服なお人にしてはかなり珍しい。
いったいどういうことだろうか?そして、何故泣いているのか?
それを考え出した瞬間、部室内から黄色い悲鳴が聞こえた。
……これは高良さんの声か?何だ?何の目に遭っている?
……朝比奈さんの前例からしてバニーでも着せられてるのか?
俺の頭の中がそろそろ?マークで満たされた時、朝比奈さんが言った。
「あの…キョンくん、今から長門さんの家に行きませんか?」
「……長門ん家ですか?ええ、まあ良いですけど…何故ですか?」
当然な疑問が思い浮かぶ。
「理由は…今は聞かないでください」
朝比奈さんは深刻そうな顔で答える。
「…私のことについての話なんです。もちろん、涼宮さんも関係があるんですけど…」
話していくうちに朝比奈さんは涙声になっていく。
「うっ…ぐすっ…」
とうとう泣き出してしまった。
「わ、分かりました。朝比奈さん、今から行きましょう」
「…ありがとう、キョンくん」
朝比奈さんはやっと泣きやむ。
「とりあえず、ハルヒには何か話をでっち上げてすぐに帰れるようにしないといけませんね。」
「…そのことですが、キョンくん、あたしのことはいいので、キョンくんだけ理由を付けてもらえませんか?」
「……?」
「あの、要するに…あたしは別に理由をつけなくても帰れるんです。それも後でお話します」
話がよく見えないが、ハルヒにはもう帰るよう言ってあるのか?


気にはなったものの、ここは朝比奈さんの言うとおりにしよう。
「ええ、分かりました。朝比奈さんがそう言うなら、そうしますよ」
「ありがとう」
本日2回目のお礼だ。俺は後何回言われるんだ。
そんなことを考えていると部室内から
「もう入って良いわよー」
とハルヒの声がした。
よし、こうなったらすぐ話を切り出すか。そう思い、俺は部室の扉を開けた。
「おい、ハル…」
と開きかけた俺の口開けっ放しとなった。
なぜならそこには高良さんがいたからだ。ただし、格好は朝比奈さんと同じメイド服を着ていて。
「どう?キョン」
ハルヒが感想を聞いてるが、いや、どうって言われてもな…。
「なかなか似合うと思うじゃない?やっぱりみゆきちゃんは歩く萌え要素よね」
高良さんはすごく恥ずかしそうにしている。
……まあ、正直な話、かなり似合っている。朝比奈さんとはまた違う愛らしさがそこにある。だが、今はそう言ってられない。
「ああ、なかなか似合ってるな」
と感想は端的に述べておいた。そしてハルヒの反応を待たずに言葉を続けた。
「それとハルヒ、今日はもう帰っていいか?」
「あら、どうして?まさか、みくるちゃんとかどっか行くとか?」
鋭いな、こいつは。
「違う違う、実はシャミセンがまた病気でな。病院に連れていかないといけないんだ」
お得意の嘘をつく。いつもシャミセンは被害者だな。
「また?シャミセンって意外に病弱ね」
そりゃ嘘だからな。「でも、そういうことなら仕方ないわ。その代わり、明日は絶対休まないこと!」
意外にも簡単に許可が下りた。
「ああ、分かったよ。それじゃな」
その時、やっと高良さんが顔を上げた。
「…あ、さよなら」
「またね、キョンキョン」
2人の挨拶を受けて部室を出る。
朝比奈さんは廊下の先にいた。
「お待たせしました、朝比奈さん。それでは行きましょうか」
「あ、はい…あの、涼宮さんには何て言ったんですか?」
「シャミセンが病気と言っておきました」
「そうですか…後で猫さんには謝らないといけませんね」
そんな気遣いなぞあいつにはいらんとは思うがね。
そう思いながら、俺と朝比奈さんは長門のマンションに向かった。


そういえば、朝比奈さんとは前にも2人で長門のマンションに向かったな。あの時は未来から来た『みちる』だったが…。
思い出を懐古しながら歩いているうちにマンションに着いた。
今回は珍しく朝比奈さんがインターホンを押した。
「あの…長門さんですか?あたしです。朝比奈みくるです」
言い終わらないうちに扉が開いた。
そして俺と朝比奈さんは長門の部屋へとたどり着いた。
コンコン
軽快な音のノックをすると、ドアが少しだけ開き、長門が顔を出した。
「………………入って」
長門に促され、俺達は部屋に入った。

長門の部屋は相変わらずの殺風景だった。
まあ、だからといって、部屋がゴテゴテのピンクで飾られていたら、それはそれで問題だが。
長門が「お客さんには出さないといけない」と言ってお茶を準備している間に古泉もやってきた。
何しに来たんだとでも言おうと思ったが、逆に考えると、それほど大事な用ともいえる。全く、次から次へと問題が起きやがって…これもハルヒのなせる技か。俺はやれやれと呟く代わりに軽い溜め息を一つついた。

全員が一つのテーブルを囲み、お茶が行き渡ったところで俺は口を開いた。
「さて…こうして集まった理由を…聞かせてもらいましょうか、朝比奈さん」
「あ、はい…実は…涼宮さんに退団を命じられたんです」
「タイダン…話し合いですか?」
「あ、いえ、そっちの対談じゃなくて…退散の『退』に団員の『団』…要するにSOS団を抜けろって、涼宮さんが…」
「ハルヒが!?」
俺は仰天どころか軽い雷を受けたようだった。
まさかハルヒが朝比奈さんをSOS団を除籍させるとは…何かの間違いではないだろうか。
「やはりそうでしたか…」
古泉がいつものように一言感想を述べる。が、その顔は滅多に見せない真面目な顔だった。
「おい、古泉、『やはり』ってどういうことだ。お前はこうなることを予想していたのか?」
「ええ。といっても数ある仮説の内の一つです」
「数ある仮説?」
「まあ、それは今はおいときましょう。朝比奈さん、その退団について詳しく教えてくれませんか?」
古泉の奴、いつの間に主導権を握ってるんだ。だが、詳しく知りたいのは俺もだから黙っとくことにした。
「あ、はい…あれは…と言っても今日のことなんですけど…」
朝比奈さんは記憶を振り返るようにしながら話し始めた。


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最終更新:2008年03月12日 09:15
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