Fate > unlucky night ~一日目

目が覚めた、いつもの文芸部部室だった外はとっくに日が落ちていた
 どうやら珍しく一番最初に部室に来て待っている間に寝てしまったようだ
 「ったく、誰か起こしてくれてもいいだろう」
 俺はまだこの時気付いていなかった何が起きたのか
 
 Fate/unlucky night ~一日目
 
 
 門限が過ぎ、人気の絶えた学校には物音一つしなかった
「…………?」
 何か、いま。
 物音が、聞こえたような。
「―――確かに聞こえる、広場の方か……?」
 音が気になった俺は、その場所へと向かってみた
「…………人か?」
 初め、遠くから見た時はそうとしか見えなかった
 暗い夜、明かりのない闇の中だ
 それ以上の事を知りたければ、近づくしかない
 音は大きく、より勢いを増して聞こえてきた
 これは鉄と鉄がぶつかり合う音
 となれば、あそこでは誰かが刃物で斬り合っている、という事だろう。
「……馬鹿馬鹿しい。なに考えてるんだ」
 頭の中に浮かんだイメージを否定して、さらに足を進めていく
 ―――この時。
 本能が危険を察知していたのか、隠れながら進んでいた事が、ついていたのかそうでないのか
 ともかく身を隠せる程度の木によりそって、より近くから音の発信源を見――――
 そこで、意識が完全に凍り付いた。

「――――――――な」
 よく見知った奴らがいた
 古泉と谷口であった
 古泉は白と黒の双剣、谷口は赤い槍、もはや冗談とすら思えないほど物々しい武装して本当に斬り合っていた
 理解できない。
 あまりにも異常なことに、脳が正常に働かない。
 ただ凶器の弾けあう音だけが、あの二人は殺し合っているのだと、否応なしに知らせてくる。
「――――――――」
 ただ、見た瞬間に判った。
 変に関わらない方が良いと、心より先に体の方が理解していた。 
 だというのに体はピクリとも動かず、呼吸をする事もできない。
 音が止まった。
 距離をとって向かい合ったまま立ち止まる。
 それで殺し合いが終わったのかと安堵した瞬間、いっそう強い殺気が伝わってきた。
 「誰だ――――!」
 谷口が、じろりと、隠れている俺を凝視した。
「………っっ!!」
 谷口の体が沈む。
 それだけで、谷口の標的は俺に切り替わったと理解できた。
「あ――――あ…………!」
 足が勝手に走り出す。
 体の全てを、逃走する事に注ぎ込んだ。
 どこをどう走ったのか、気が付けば校舎の中に逃げ込んでいた。
「しまった」
 はあはあと喘ぎながら、自分の行動に舌打ちする。
 逃げるなら町中だ。
 こんな、自分から人気のない場所に逃げるなんてどうかしてる。
 それも学校。同じ隠れるのでも、もっと隠れやすい場所があるんじゃないのか。
 そもそもなんだって俺はまたクラスメイトに殺されそうになってるんだ
「ハァ――――ハァ、ハァ、ハ――――ァ」
 限界以上に走りづめだった心臓が軋む。
 振り向けば、追いかけてくる気配はない。
 響く足音は自分だけの物だ。
「ァ――――ハァ、ハァ、ハァ」
 なら、これでようやく止まれる。
 もう一歩だって動かない足を止めた。
「……ハァ……ぁ……なんだったんだ、今の……」
 乱れた呼吸を整えながら、先ほどの光景を思い返す。
 とにかく、見てはいけないモノだったのは確かな事だ。


 夜の校庭でよく知った二人が争っていた。
 思い返せるのはそれだけだ。
 ただ、もう一つ視界の隅にあったのは、
「……もう一人、誰かいた気がするが……」
 それがどんな姿をしていたかまでは思い出せない。
 正直、あの二人以外に意識をさいている余裕などなかった。
「けど、これでともかく――――」
「wawawa忘れ物~~」
 その声は、目の前から、した。
「よぅ。わりと遠くまで走ったな、なんだキョンかよ」
 そいつは、親しげに、そんな言葉を口にした。
「――――」
 息ができない。
 思考が止まり、何も考えられないというのに。
 ――――漠然と、これで死ぬのだ、と実感した。
 無造作に槍が持ち上げられ、そのまま。
「悪いなキョン、見られたからには死んでくれ」
 容赦も情緒もなく、谷口の槍は、俺の心臓を貫いた。
 よける間などなかった。
「ぁ――――ぁ」
 世界が歪む。
 体が冷めていく。
 指先、末端から感覚が消えていく。
「こ――――ふ」
 一度だけ、口から血を吐き出した。本来ならなお零れるはずの吐血は、ただ一度きりだった。
 よく見えないし、感覚がない。痛みすらとうに感じない。
 世界は白く、自分だけが黒い。
 だから自分が死んだというより、まわりの全てがなくなったような感じだ
「死人に口なしってな。弱いヤツがくたばるのは当然と言えば当然だ―――」
 意識が視力にいかない
「―――まったく嫌な仕事をさせるぜ」
 ただ、声だけが聞こえてくる
「解っている、文句はないさ。大人しく戻ってやるよ」

 苛立ちを含んだ声。
 唐突に声は消えた。
 窓から飛び降りたのだろう。
 その後にやってきた足音が止まった。
 その、奇妙な間。
 ……また足音。
 もう、よく聞き取れ、ない。
「追って、古泉君。マスターの所に戻るはず。せめて相手の顔ぐらい把握しないと」
 ……これは誰の声だ?
 かすんでいく意識を総動員して思い出そうとしたが、やはり、何も考えつかない
 覗き込まれている気配。
「……なんだって、キョンが」
 ぎり、と。
 悔しげに歯を噛む音が聞こえた途端、そいつは、ためらう事なく、血に濡れた俺に触れてきた。
「……本当に出来るのかあやしいけど……」
 苦しげな声。
 それを境に、薄れていくだけの意識がピタリと止まった。
「――――――――」
 体に感覚が戻ってくる。
 ゆっくりと、少しずつ、葉についた水滴が零《こぼ》れるぐらいゆっくりと、体の機能が戻っていく。
「――――――――」
 何をしているんだ?
 寄り添ったそいつは一心不乱に、俺の胸に手を当てている。
「――――――――」
 気が付けば、手のひらを置かれた箇所が酷く熱い。
「――――――――ふぅ」
 大きく息を吐いて座り込む気配。
「っかれたぁ……」
 カラン、と何かが落ちる音、それが最後。
 そうして、意識が途切れた。


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最終更新:2008年03月22日 11:42
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