雪茶◆yukichanHA氏の作品です。
終業式。
体育館での長々しい校長の謎の例え話も聞き終えて、教室に戻る。
体育会系の体付きの担任が、クラスの生徒に通知表を一言添えて渡して行く。
私は貰ってから隣の席の友達と少し慰めあったり、休みの話をする。
「ではこれで、このクラス最後の授業を終わる」
少し体育会系の担任が私達に「お疲れ様」と付け加えて、挨拶した。
廊下で、友達に手を振って別れを告げる。
他のクラスの様子を見てみたけど、まだ何処も終わってないみたい。
待つにしても廊下で喋ってる人が多い。
仕方なく1人で元文芸部室に行くことにした。前みたく人波に飲まれたくはないし。
まだ何処も部活やってないみたいで、静かだった。
私の足音だけが部室棟に響く。
時期が時期なだけに、誰もいないこの空間は寒い。
部室にはストーブがある。
小走りで部室に向かう。
少し傷んだ木製扉を押して部室に入ると、微弱な熱気が顔に当たった。
扉を閉めて、中央にある大きなテーブルに鞄を置く。
中には誰もいなかった。朝比奈さんも。
微かにファンが回っている音が聞こえる。
ストーブの方を見てみれば、案の上ストーブが点いていた。
誰もいないのに…。
「不用心だなぁ」
小さく溜め息を吐く。まぁ寒くなかったからいいけど。
イスに座って、ペットボトルのお茶を飲む。
キャップを閉めて、胸に溜まった息を吐き出す。
暇だし、宿題でもしよう。
鞄を開けて、貰いたてのワークブックを取り出す。
ページを開いて、筆箱から出したシャーペンをノックする。
羅列された文字を1つ1つ読んで、問題に取り掛かる。
「……疲れた」
30分はやったんじゃないか、と思ったけどまだ10分くらいだった。
前フリの長い文章題はややこしい。
図も描いていく度に滅茶苦茶になって、描き直すのも億劫になった。
目蓋が次第に落ちていく。
そういや、昨日は借りた漫画を読んでてあまり寝てないんだっけ。
少し寝ようかな…、というかみんな遅いな。
まぁいいや。多分起こしてくれるだろう。
ノートは畳み、筆記具は筆箱に仕舞って、机に腕を重ねて枕にして頭を置く。
ストーブが発する熱気が足先から耳朶まで温もりを与えてくれるのが解る。
目蓋を下ろして、意識を途絶えさせた。
―――…さ…
意識だけが起きてる感覚が伝わる。
―――起き…
誰かが肩を揺する。
待って。あと5分…5分あれば身体も動かせるから…
―――何言ってんだ。早く起きろ?もう昼飯時だ
あれ、男の人の声?
「おーい? 起きろよー家じゃないぞー」
やっと頭が理解した。
目の前にはキョンくんがいた。
額にはアイマスクを付けてる。
「……おはよう」
彼は横のイスに座って、アイマスクを机に置く。
「おはようじゃない、何でいるんだ」
「…何で、って?」
「早速質問を質問で返すな。……忘れてんのか」
「何が?」
彼は一度溜め息を吐いて「やっぱりか」と小さく言う。
そして、一度咳き込んでから、
「……『明日は私忙しいから部活無し!』って団長様が言ったのを」
と言う。
私は暫く昨日を振り返る。
「…あっ」
「忘れてたのか…」
「じゃあ、なんでキョンくんは?」
「最近睡眠不足でな、ゆっくり寝たかったんだ。
部室は今日使わないからな。家だと妹がやかましくて困る
気のせいかと思ってそのまま寝入ってたが、気のせいじゃなかったのかよ…」
――ということは、キョンくんが先に来てストーブを点けてたのか。
「何処にいたの?」
「朝比奈さんの衣装掛けの影。隅っこで暗い所で寝るのが楽でな」
指さした所を見ると、ちょうど本棚と壁の間が1.5人分くらいのスペースがある。
ポケットに入れた携帯を見ると、着信履歴が1件、メールが1件。
そういやマナーモードにしてたっけ。
メールの宛先は"柊かがみ"
「えっと…『友達と遊ぶのはいいけど、早く帰って来てね』、か」
もしかして遊びに行ってると思ってるのかな。
「メール?」
首を鳴らしながら聞かれる。
「あ、うん」
『もうすぐ帰るよ』とだけ送って携帯をポケットに入れる。
「そうか …で、帰るのか?」
キョンくんはイスから立ち上がり、ストーブを切る。
「そだね」
部室の電気を消して、廊下に出ると生徒の姿が見えなかった。
「誰もいないな…少しはいるか、とも思ってたが」
「あはは、2人きりだね」
…って、えええ!2人きり!?
「だな」
彼は軽く笑う。
いや、ちょっとは照れ臭そうに…ってそんなのもおかしいか。
彼の横を並行しながら、少し体を寄せる。
「…どした?」
平淡な表情で問い掛けてくる。
「寒くて…」
「ストーブ結構かけてたからな。すまん」
「あ、いや、キョンくんが悪いんじゃ」
キョンくんは私が少し触れてた右腕を回して、私の右肩に回す。
「へっ?」
「こうすりゃちょっとは温いかなって。――つかさの方が温いぞ?」
「そ、そうかな…」
そりゃ急にそんなコトされたら……。
「耳も紅くなってるしな」
思わず右手で耳に触れる。…本当だ…。
「誰もいないし、このまま学校出ていいか?…温かいし」
「え、あ、うん……へ?」
「どっちだ」
「え、や……いい…よ」
「そうか」
そのまま廊下を渡り、階段を下る。
彼の太い腕から温かい柔らかさが伝わる。
――これ程ずっと続いて欲しい時間はないだろうな…
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最終更新:2008年03月23日 22:16