立ち話もなんなので屋敷に入った
電気をつける。
時計は午前一時を回っていた。
「うわっ! なによ、窓ガラス全壊してるじゃない」
「仕方ないだろ、谷口に襲われて必死だったんだよ」
「あ、そうだったわね。じゃあこなたを呼び出すまで、やっぱり一人でアイツとやり合ってたの?」
「やりあってなんかない。ただ一方的にやられただけだ」
「とりあえず酷い怪我もなさそうね」
そう言い、かがみは割れた窓ガラスまで歩いていく。
「?」
かがみはガラスの破片を手に取ると、ほんの少しだけまじまじと観察し―――
「――――Minuten vor Schweien」
ぷつり、と指先を切って、窓ガラスに血を零した。
「!?」
驚いた
粉々に砕けていた窓ガラスはひとりでに組み合わさり、数秒とかからず元通りになってしまった。
「かがみ、今の――――」
「ちょっとしたデモンストレーションよ。本当に使えるのか知りたかったし」
当たり前のように言う。
が、言うまでもなく、俺の理解の外だった。
Fate/unlucky night~二日目③
「で、何を使ったんだ」
「?、魔術でしょ」
「――――はあ?」
さらっとなんかとんでもない言いやがった
「あ、キョンってFate知らなかったっけ」
忘れてた、という感じで額に手をあてるかがみ
「ならばまずは今の状況を僕がご説明いたしましょう」
説明好きの古泉が喋り始めた
「もうお気付きかと思いますがこの地域周辺の空間が書き換えられています、閉鎖空間の一種のようなものです」
はぁ、ここ最近ご無沙汰だったのにまた巻き込まれるとは
「一応確認するが、またハルヒ関係なのか」
「僕がこの力を使えるということは、おそらく」
古泉はてに赤い玉をだした
「そしてこの世界はFateと言う作品の影響を強く受けているようです」
「Fateってなんだ」
「それに付きましては泉さん、お願いいたします」
「まかせたまへーー」
ここで、こなたの出番のようだ
こなたは熱意溢れる説明し始めた
長いのでまとめるとつまり、こう言うことである
この世界では、魔術というものが実在して、それを使う人を魔術師と言うらしい
この話の中心は『聖杯戦争』と呼ばれるもので
サーヴァントというどこかに存在していた英雄の霊とそれを召喚したマスターによる
聖杯、“望みを叶える聖なる杯”を手に入れるために
七人のマスターが七人のサーヴァントを用いて繰り広げる戦争
サーヴァントのクラスは七種、セイバー、アーチャー、ランサー、バーサーカー、キャスター、アサシン、ライダー
自分以外のサーヴァントを撤去するのが目的だが、マスターを倒せばサーヴァントも消えるので
実際は他のマスターを一人残らず倒すまで終わらない、魔術師同士の殺し合いだそうだ
そして、俺らはその登場人物の位置にいるのでその能力を使えるようになっている
他にも登場人物の位置に配置されている奴らもいるが完全に役になりきっているみたいだ
「なんだ、ようするに最後まで勝ち残って聖杯だかを手に入れれば元の世界に戻れるのか?」
「残念だけど、たしか聖杯自体が狂っているはずだから願いが歪んだ形で叶えられるはずよ」
「歪んだ形?どんな風にだ」
「例えば巨万の富を望んだとしたら、周りの金持ちを殺してその富を手に入れるとか」
「……もしそれで世界を元に戻すって叶えたら」
「…悲惨なことになるわね」
暫しの沈黙
「じゃあこれからどうするんだ?」
「とりあえずは、話しの流れに沿って行動しようと思っています。幸いにも物語の流れを知っている人がいるのですから」
「まあ、そうするしかないか」
「さて。話がまとまったところでそろそろ行きましょうか」
かがみはいきなり、ワケの分らないコトを言いだした。
「? 行くって何処へ?」
「隣町の教会よ」
深夜一時過ぎ、外に出ている人影は皆無だ。
家々の明かりも消えて、今は街灯だけが寝静まった町を照らしている。
見知らぬ町なのだがこの世界の影響なのか道がわかる
「なあかがみ。つかぬ事を訊くけど、歩いて隣町まで行く気なのか」
「そうよ? だって電車もバスも終わってるでしょ。いいんじゃない、たまには夜の散歩っていうのも」
「そうか。一応訊くけど、隣町までどのくらいかかるんだ?」
「えっと、歩いてだと一時間ぐらいだったっけ」
「で、教会に何か用事があるのか」
「特にないけど、話しの流れ沿うと行くからよ」
「そういえばそうだったな」
ふと右手を見ると手の甲に赤い刺青のようなものがある
「手の甲のこれってなんだ」
「手の甲って……ああ、令呪よ」
「令呪?」
「手の甲とか腕とか、個人差はあるけど三つの令呪が刻まれるの。それがマスターとしての証よ」
「……俺ってマスターなのか?」
「やっぱ、あんまりわかっていないみたいだね。キョンキョンは私のマスターだよ」
「そうなのか、じゃあ何のサーヴァントなんだ?」
「セイバーのサーヴァントだよ。私はキョンキョンに剣を捧げたんだよ、私とキョンキョンは剣と鞘なのだよ!!」
「ちょっ、ななな何言ってんのよ!!こなた!」
「あれ~かがみん、もしかしてやきもち?」
「ちちち違うわよ!!あーもう話を戻すわよ。令呪は絶対命令権なの。サーヴァントには自由意思があるけど、それをねじ曲げて絶対に言いつけを守らせる呪文がその刻印。
発動に呪文は必要なくて、貴方が令呪を使用するって思えば発動するから。ただし一回使う度に一つずつ減っていくから、使うのなら二回だけにね」
「なるほど、でも令呪は三つあるのになんで二回までなんだ?」
「令呪を使い切るとマスターとサーヴァントの繋がりが切れちゃうの、サーヴァントってのは英雄の霊を無理やり魔力で呼び出しているようなものだから
維持するのにマスターからの魔力の供給が必要なのよ。特殊な場合を除くと繋がりが切れちゃうとサーヴァントは数時間で消えちゃうわ」
「そうなのか、そういえば俺も何か魔術が使えるのか」
「解析、強化、そして投影だね」
たぶんさっきポスターの材質とかを調べたのが解析で鉄のようにしたのが強化だろう
「投影ってなんだ?」
「実在する美術品とか名剣とか、そういった物を自身の魔力でイメージとして再現するっていう魔術だよ」
「便利そうだな、どうやって使うんだ」
「あ~、キョンキョンはまだ使わないほうがいいよ」
「どうしてだ」
「使えないっていうか物語の進行度的にね」
「そうかい。まあ仕方ないか」
ちょっと期待していたので少し悲しかった
広い公園に入ると橋が見えてきた
あの橋を渡って、隣町へ行くのだが―――
夜の公園、という場所のせいだろうか少々気味が悪い
橋の横の歩道にさえ辿り着けば、隣町まで一直線のようだ
歩道橋に人影はない
橋を渡ると、かがみは郊外へ案内しだした
なだらかに続く坂道と、海を望む高台
坂道を上っていく程に建物の棟は減っていき、丘の斜面に建てられた外人墓地が目に入ってくる
かがみは先だって坂を上がっていく。
……見上げれば、坂の上には建物らしき影が見えた。
高台の教会。
今まで寄りつきもしなかった神の家に、こんな目的で足を運ぶ事になろうとは。
「うわ―――すごいな、これ」
教会はとんでもない豪勢さだった。
高台のほとんどを敷地にしているのか、坂を上がりきった途端、まったいらな広場が出迎えてくれる。
その奥に建てられた教会は、そう大きくはないというのに、聳えるように来た者を威圧していた。
「キョンキョン、私はここに残るよ」
「え? なんで残るんだ?」
「話しの流れ上だよ」
「それでは、僕も残ったほうがよろしいですね」
「分かった。それじゃ行ってくる」
広い、荘厳な礼拝堂だった。
これだけの席があるという事は、日中に訪れる人も多いという事だろう。
これほどの教会を任されているのだから、ここの神父はよほどの人格者と見える。
かつん、かつん、と足音をたてて祭壇へと歩いていくかがみ
神父さんがいないというのにお邪魔するのもなんだが、そもそもこんな夜更けなのだ。
礼拝堂にいる訳もなし、訪ねるのなら奥にあるであろう私室だろう。
かつん、という足音。
俺たちが来た事に気が付いていたのか、その人物は祭壇の裏側からゆっくりと現れた。
「おや、こんな時間に何のようだい」
誰だ?まったくわからない
「なあ、あれは誰なんだ」
小声でかがみに聞いてみる
「どうやら、こなたのお父さんみたいね」
確かに雰囲気が似ている、そっち系のオーラを感じた
「……ふむ、彼が七人目という訳かい」
「そうよ」
「名前はなんていうんだい」
「禁則事項(本名)だ、みんなキョンって呼ぶがな」
「そうか、では始めよう。キョン、君はセイバーのマスターで間違いはないか?」
「ああ、そうだ」
「ならば、ここに聖杯戦争の開始を宣言しよう、マスター代表キョン、これを読むんだ」
メモのようなものを渡されたので読んでみる
「宣誓、我々一同はスキンシップを大切にし……ってなんの宣誓だ」
「娘を愛する父親としてのだな―(中略)―宣誓だ」
知ったこっちゃねーや、帰ろう
神父?の言葉を振り払って、出口へと歩き出す。
「ノリが悪いな、さらばだキョン。最後の忠告になるが、帰り道には気をつけたまえ。
これより君の世界は一変する。君は殺し、殺される側の人間になった。その身は既にマスターなのだからな」
こうして教会を後にした
最終更新:2008年03月27日 00:00