――――見た事もない景色だった。
頭上には炎の空。
周りには無数の古泉。
………しかも全裸
世界は限りなく古泉で、他には誰もいない。
灰を含んだ風が駆け抜ける。
古泉は樹木のように乱立し、その数は異様だった。
だんだん近づいてきてるような気が……
本能が訴える「掘られる」と
俺は逃げようとする
だが、時すでに遅し
無限の古泉に完全に囲まれていた
「キョンたーーん!!」シャウトする
そして、一斉に俺に飛び付こうと――――――
Fate/unlucky night~三日目
「うわぁぁぁぁ!!!」
目を覚ますと見知らぬ天井があった
そういえば、俺の家が日本家屋になっていたんだったな
日が昇って随分と時間が経ったのだろう、確かな陽射しが伝わってきた。
「――――――夢、か」
見ていた夢を思い起こす。
無限の古泉に襲わそうに……
トラウマになりそうだ、気分がとんでもなく悪くなった。
ドタドタと足音が聞こえてくる
「ちょっと、どうしたの!?」
慌てた様子で襖を開けて現れたのはかがみであった
はて?なんでかがみが家にいるのやら
そう考えている間に事件は起きた
「あっ」
布団の端を踏み、足を滑らせ倒れるかがみ
そして、俺の上に倒れんだしまった
……互いにとても気まずい
「えと、その…」
そこに、運が悪いことに
「やふーー、どしたのキョンキョン?」
こなたが部屋にやってきた
傍から見れば、かがみが俺を押し倒しているようにも見えなくもない体勢なわけで
「うぉっ?!かがみん、大胆!!」
要らん誤解を招いたようだ
「ち、違うわよ!!ちょっと転んだだけよ」
顔を真っ赤にして抗議するかがみ
「だからこうなっている、と。でも、二人ともいつまでそうしてるの?」
「そ、そういえばっ!」
スッと立ち上がるかがみ
「…ご、ごめん…その…わざとじゃない…よ?」
「あ、ああ…その…スマン」
「なんで謝ってんのよっ!べ、別に…嫌……じゃ…なかった…し…」
「最後のほうが聞き取れなかったんだが」
「な、なんでもないわよ」
「かがみんも素直じゃないね。じゃ、なるべく早く居間に来てよね。先にいってるよ」
そう言い残し立ち去るこなた
まあ、居間へ向かうとするか
「よっと」
体を起こすと目眩がした。
思わず倒れそうになって、なんとか壁に手を突いた
「ちょっと、大丈夫!?」
「少し貧血気味のようだ」
よたよたと壁づたいに部屋を出る。
「無理しないで、ほら肩貸してあげる」
かがみの肩を貸りなんとか居間に到着。
居間にはこなたと古泉がいた
「おや、もう体調はよろしいのですか?」
「誰かさんのせいで、あまり良くないんだが」
「どうもすいません。ですが、話しの流れ上はそうするしかなかったのです」
「……どういうことだ」
「簡単なことだよキョンキョン、あの場から逃れられる方法は二つしか無いんだよ」
「で、これがその方法の一つかよ。もう一つはどんなのなんだ?」
「バーサーカーに腹を引き裂かれて…」
「いや、死ぬだろそれ」
「だいじょぶ、そんなことで主人公は死なないよ」
「ちょっと待て、主人公って俺のことか?」
「そだよ」
はぁ、どうしてこうも中心人物にされなきゃならんのだ
脇役程度でかまわんのに
「ちなみにそいつはどんなやつなんだ」
「主夫で便利屋で自分より他人が大事で夢は『正義の味方』って人だよ」
「かなり滅茶苦茶なやつだな」
「はいはい、その辺にしときなさい。今の現状を確認するわよ」
その後、どこまで進んだやらルートがどうだのと話しをして
気が付けば夕方になっていた
かがみは家から必要な物を取ってくると言い、荷物持ちとして古泉を連れて行った
そして俺は強制的にこなたと夕飯の準備をするはめになった
「俺は料理なんて出来ないんだが」
「まあまあ、そう言わずにさ」
渋々と台所に立った。そして驚いた
無意識レベルで体が動き、みるみるうちに食材が料理になっていく
「おぉ、やっぱり料理できるみたいだね」
「これが俺が得た登場人物の能力かよ」
どうせ手に入れるならテレポーテーションとかサイコキネシスのほうがよかったがな
そして、料理は完成したのであった
玄関の方で、何か重い荷物が落ちる音がした
どうやらかがみと古泉が戻って来たようである
とりあえず確認しに玄関へ向かう
そこには、おっきなボストンバッグを足下においたかがみと古泉の姿があった
「……何が入ってるんだ」
「何って、家に戻って必要な物取ってきたんじゃない。今日からこの家に住むんだから当然でしょ」
「これも、話しの流れなのか?」
「そうよ」
話しの流れと言われると抗議できん、やれやれ
四人分の食器を用意して、出来上がった夕飯を盆にのせる
その居間に移動して、テーブルに盆を置いた
メニューは無難にカレーとサラダ
何事も無く夕食をすませた
その後の後片付けも終わり
夕食の最中に後で部屋に来るようにと言われたのを思い出し
かがみが陣取った部屋へとむかった
「やっと来たわね」
「で、何の用だ」
「キョンが魔術を使えるようするのよ」
「そういえば俺も魔術が使えるんだったな」
「そうよ、でもちゃんとした方法で使わないと危険なのよ」
「だからその方法を教えるってか」
「そういう事、魔術を使うって事は、魔術師ってものを知るって事だから。
はい、キョンはそこに座って。大事な話だからちゃんと腰を落ち着かせて聞くこと」
「ここでいいのか? ……よし、始めてくれ」
ぐっ、気合いをいれてかがみの目を見る。
こっちの真剣ぶりが伝わったのか、かがみは満足げに頷いた。
「じゃあ簡単な話から入るけど。魔術を使うのに必要なものが魔力だって事は知ってるわよね?
魔術さえ発動させられるなら、それらは全て魔力と言い換えても差し支えはないわ。
魔力の種類は千差万別。
自分だけの精神力をもって魔術を使用する者もいれば、 自分以外の代価をもって魔術を使用する者もいる。
マナとオド。マナが自然、世界に満ちてる魔力。オドが個人が生成できる魔力のことね
じゃあそのマナを用いた魔術から順に説明するわ
自身の力だけでは足りないから、代価を用意して取り引きする、という魔術形式。
これなら術者の魔力が希薄でも魔術は作用する。なにしろ使用する魔力は自分からではなく他所から借り受けるものだから、術者はただ儀式を行うだけでいい
……けどまあ、こういうのは知識がないと出来ないからね。キョンには無理だし、そもそもこういう血生臭いのよね
「……だな。俺も鶏の生け贄とか、魔法陣を敷いて一晩中祈るとか、そういうのはやりたくない」
「でしょ。
じゃあこれは置いておいて、次はオド、つまり魔術師個人の力で行う魔術の事。
もう言うまでもないと思うけど、これがわたしや貴方の基本的な魔術行使よ。
他者の力を借りないでする、自身の魔術回路だけを頼りにした魔術」
どうやら話が本題に入ったようだ。
「その、自分だけの魔力を生成する機能―――“魔術回路”っていうのは、魔術師が体内に持つ擬似神経のことで
マナを汲み上げて人間に使えるようにする変換機みたいなものなの。
一度魔術回路を開いてしまえばスイッチの切り替えでオンオフできるようになるんだけど、キョンには
そのスイッチが無いの。だから、使わせなかったのよ」
まあ、ぶつかるまで止まらないブレーキの無い車みたいなもんだしな
「さて、一通り説明も済んだことだし」
かがみは荷物から缶のような物を取り出した。
その、外国の子供が愛用していそうな、色とりどりのドロップが入った缶だ。
日本でも類似品をよく見かける。
何種類かのあめ玉が入っていて、白色をしたドロップはハッカ味っていうアレだ。
「キョン、手、出して」
「?」
とりあえず手を出す。
かがみは缶をふって、赤っぽいドロップを出した。
「はい、それ飲んで」
「???」
とりあえず、言われた通りに口に運ぶ。
「……甘くない」
いや、むしろ味なんてない。
それにこの舌触り、飴っていうより石なんじゃないだろうか。
「……ん……」
ごくん、と無理やり飲み込む。
「うわ、いたっ。食道がヒリヒリするのだが、今のはなんだ」
「なにって宝石に決まってるじゃない。見て判らなかった?」
しれっと。
とんでもないコトを口にする。
「な、宝石って、なんで……!?」
「仕方ないでしょ。薬も用意してきたんだけど、矯正するにはそんな物じゃ効かないの。だから一番強いのでスイッチを開くしかないなって」
「いや、そういうコトじゃなくてだな……なんだって宝石なんか飲ますんだ、そんなもの消化できるか!」
「……あのね。不安がるならもっと別のコトを不安がりなさい、ただの宝石じゃないんだから。
今のは、強制的に判らせる為の強制装置。そろそろ溶け始める頃だから、気合い入れてないと気絶するわよ」
「気絶するわよ、ってなにさわやかに物騒なコ―――」
そう言いかけた矢先、
その異状はやってきた。
「――――――――!?」
体が熱い。
手足の感覚が麻痺していく。
背中には痛みとしか思えない熱さがかたまっている。
意識を眉間に集めて、ぎゅっと絞っていなければ立っていられない。
「大丈夫、苦しいでしょうけど今の状態を維持していれば少しずつ楽になるわ」
……なんか言い返してやりたいのだが、そんな余裕はない。
今はただ、体が倒れないように全力でバランスを整えるしかできない。
「一度でも魔術回路を体内に作ってしまえば、あとは切り替えるだけでいい。
スイッチを押して、自分の中でオンとオフを切り替えるだけで魔力は成るわ」
……呼吸を落ち着ける。
自分を抑えてさえいれば、状態が悪化する事はないようだ。
「いい、今の宝石はね、そのスイッチを強制的にオンにするものよ。もとの状態に戻りたかったら、自分の力でオフにするしかない。
それが出来たのなら、あとは宝石の助けなんていらないわ。以後は比較的簡単な精神の作用で、魔術回路を操れるようになる」
「っ……それは、判った、けど」
この体の熱さは、なんとかならないものか。
それにスイッチのオフだなんて言われても、そんなものどうしろっていうのか。
「スイッチそのものは、今の状態を落ち着けよう、早く楽になろうって体の方で勝手にオフにしてくれるから。
あとはそのスピードを自分の意志で速くするだけ。ね、簡単でしょ?」
「……いや……だから、全然判らない。
スイッチだなんて言われても実感湧かないぞ、俺」
「今はそうだけど、そのうち明確にイメージできるようになるわ。頭の中にぽんってボタンが浮かぶようになるから。あとはそれを切り替えるだけで、とりあえず魔術回路は簡単に開けるようになるわよ」
「………だといいけどな。いまは、ともかく気持ち悪い……」
「でしょうね。ずっと魔術回路が開いている状態だもの。いつでも全力疾走しているようなものだから、苦しいのは当たり前よ」
「…………う」
「それじゃ強化をしてみて」
ちょっと、待て。
まだ体が全然動かないっていうのに、おい。
「今は魔力のコントロールもできないだろうけど、その状態に馴れてもらわないとね。
大丈夫、ランプは山ほど持ってきたし。何十回失敗するか判らないけど、強化が成功するまで休ませてなんてあげないから」
にっこりと笑って、ろくに動けない俺にランプを手渡してくる。
「…………う」
それは四十度の熱がある男に、長い長い綱渡りをしろと言っているのと大差ないのだが……
「……まいったわ。まさか、こっちが先に根を上げる事になるなんてね」
「………………いや。面目ない」
「わたしの見通しが甘かった。まさか三十個全部壊されるなんて思いもしなかったから。
……やっぱり強化は成功率悪いわね」
「……う」
いや、俺だって努力はしたぞ。
こんな、釜茹されて煮上がったような体で頑張った。
頑張ったが、結局、一回も強化が成功しなかっただけではないか。
「……あのさ。ガラスが割れただけなら、直せるだろ。以前に窓ガラスを直してただろ」
「無理。アレは普通に破損したものでしょ。こっちは魔力に耐えきれなくなって割れたものだもの。他人の魔力を帯びた物に干渉するのは難しいって、覚えておいて」
「そうなのか」
「そうよ。……いいから、キョンは休んでいいわ。今日はスイッチを呼び起こしただけでよしとしましょう。
コントロールできるようになったら、この続きを教えるから」
「……ふう。休んでいいのは有り難いが。この続きって、何を教えてくれるんだ?」
「投影の魔術よ」
「……? 投影ってなんだっけ、覚えはあるんだけど」
「物を複製するって魔術よ。
強化みたいに、もとからある物に手を加える魔術じゃないわ。
基本的には無から、一から十を全て自分の魔力で構成するものだから、難易度的には最高ね
投影で作り上げた物はすぐに消えてしまうのよ。
十の魔力を使って作り上げた投影の剣と、一の魔力で強化させた剣とでは、強化の剣の方が強くなる。
強化は手を加えるだけでいいから効率がいいってわけ。
その点、投影は魔力を使いすぎるからメジャーに使われる魔術じゃない
でもキョンの場合は特殊な例だから、投影の方が使い易いの」
「だから投影を練習するってか」
「そういう事。さ、質問が済んだのなら終わりにしましょう。……足下もおぼつかないようだし、部屋の前までぐらいは送っていってあげるから」
部屋の前まで送ってもらう。
さんきゅ、と頷きだけで答えて、とりあえず部屋へ移動する。
……そうして、気が付けば夜空を見上げていた。
今夜教えられた事と、まだ熱いままの体を持て余して、こうして夜風を浴びているだけだった。
「……しかし。スイッチとやらが本当に使いこなせるようになったら、あとは手順の問題だ。
あんなに失敗するようじゃ、先が思いやられるな……」
呟きながら、土蔵から持ち出した角材に魔力を込める。
ぱきん、という音。
やはり強化はうまくいかず、角材には罅が入っただけだった。
「……中の構造まで把握してるのに。どうして、こう魔力の制御ができないかね」
そういえば俺は投影のほうが使い易いんだっけ
やってみるか
「――――投影開始」
魔術回路に魔力が流れる
想像するのは、学校で古泉が使っていた白と黒の双剣
「――――投影終了」
両手に重みを感じる、成功のようだ
見た目はそっくりだが、なんというか中身がない
使うのには問題がなさそうだが
根本的に何かが足りない。考えてもわからない。
「明日、かがみにでも聞けばいいか」
そう思い、布団に潜り込んだ
最終更新:2008年04月10日 19:01