「あれ?」
気が付くと、とんでもない場所にいた。
一面の荒野に果てはなく、地平の向こうはどうあっても見渡せない。
絶え間なく吹く風は黄砂を運んで目に痛い。
「――――――――」
そのただ中にいて、ぼんやりと立ちつくした。
別に慌てる必要もない。
この風景は知っている。
なにしろ以前、夢で見た覚えがある。
前回は全裸の古泉がいたがな
ならこれも夢なのだろうと納得して、目が覚めるのを待つことにした。
「――――?」
不意に、腕に違和感が走った。
かちん、という鉄の音。
なんだ、と袖をめくると、そこには 剣そのものになった、自分の片腕があった。
「っ!!!!!」
目が覚めた
ここが自分の部屋だと認識するより速く、まず右腕を確認した。
「あ――――え?」
……大丈夫だ。
右腕はちゃんと右腕をしている。
硬い感触でもなければ、剣になっている訳でもない。
だが左腕の感覚が鈍い
「…………ん」
こなたサン、なんで左腕を枕にして人の布団で寝てやがりマスカ
Fate/unlucky night ~四日目
「――――夢、だよな」
軽く現実逃避
だが左腕の痺れが現実だと物語っている
とりあえずこなたを起こすとしよう
「おい、起きろこなた」
「ん~~~、もうお腹一杯で食べれないよ」
「ええい、ベタなこと言ってないでさっさと起きろ」
「ふぁ~、おはよキョンキョン」
「ああ、おはよう……じゃなくってだな。何で俺の布団で寝てるんだ」
「ギャルゲーでよくあるシチュじゃん、一回やってみたかったんだよね」
やれやれ、ツッコミどころ満載だが面倒なので放置しておく
時刻は六時前。
今日は、情報収集を兼ねて学校に行くことになっている
四人分の朝食の支度にかかるには、ちょうどいいぐらいだろう。
物音を立てないよう居間に向かう。
?、台所に誰か居るようだ
かがみか?まさかの古泉か?
「あ、おはようキョン君」
台所にいたのはつかさであった
そういえば昨日こなたが言ってたな
一年半くらい前から主人公の家に毎朝通っている後輩がいるから
その役の人が朝から家に来るかもしれないと
で、それがつかさだっていうことか
その後、黒井先生が朝食に乱入したりなどのいざこざがあったが無事に
学校へとたどりつくことができた
こなたと古泉は家で留守番をしている
必要があれば令呪だかを使ってどちらかその場に呼び出して
もう片方が駆けつけるという作戦だ
「っ!?」
校門を越えた途端になんとも言えない違和感を感じた
甘ったるいとかそんな感じの
「なあ、かがみ」
「ええ、学校に結界が張ってあるみたいね」
学校に結界……?
「待て。学校に結界って、それはまさか」
「まさかも何も、他のマスターが張った結界ね
かなり広範囲に仕組まれた結界で、発動すれば学校の敷地をほぼ包み込むわ
種別は結界内にいる人間から血肉を奪うタイプ」
「――――――――」
なんとも言えない違和感を感じたが、アレがそうだっていうのか?
だが、という事は――――
「つまり―――学校に、マスターがいる……?」
「そう、確実に敵が潜んでいるってわけ。分かったキョン」
いつ敵に襲われてもおかしくないってことか
「いい? この結界はね、発動したら最後、結界内の人間を一人残らず溶解して吸収する代物よ
わたしたちは生き物の胃の中にいるようなものなの
……ううん、魔力で自分自身を守っているわたしたちには効果はないだろうけど、魔力を持たない人間なら訳も分からないうちに衰弱死しかねない
この結界が起動したら、学校中の人間は皆殺しにされるのよ。分かる? そういうふざけた結界を準備させるヤツが、この学校にいるの」
「―――――――――」
一瞬だけ視界が歪んだ
言葉を出来るだけ明確にイメージしようとして、一度だけ深呼吸をする
不出来なイメージながらも最悪の状況というものを想像し、それを胸に刻みつけて、自分の置かれた立場を受け入れる
「話は解った。それで、その結界とやらは壊せないのか」
「この学校に潜んでるマスターを倒すしかない。けど捜すのは難しいでしょうね。この結界を張られた時点でそいつの勝ちみたいなものだもの
あとは黙ってても結界は発動するんだから、その時まで表には出てこない。だから、チャンスがあるとしたら」
「……表に出てくる、その時だけって事か」
「え――――?」
その目眩は、唐突に
吐き気をともなって、全身を打ちのめした
胃が蠕動する
感覚が逆しまになる
眼球に血が染み込んだかの如く、見るもの全てが赤色に反転した
気温は何も変わっていないというのに、体だけが異様に熱い
校舎のまわりは、一面の赤だった
この学校だけがポッカリと切り取られたように、赤い世界に覆われている。校舎は、赤い天蓋に仕舞われた祭壇だった
思わずかがみと顔を見合わせた
「かがみ、今のは」
「結界が発動したようね」
即座に駆けだす
「待ってったら! 一人で先走ったら危ないわよ!」
「そんな場合か!」
「わかってるわよ! だから危ないって言ってるんじゃない、ばか!」
ふらつく足を、理性だけで抑えつけて教室に入る
机に座っている生徒は一人もいない
生徒はみな床に倒れ床に伏している ―――まだ息はある
誰もが救いを求めるように痙攣している
まだ死者はいないようだ
冷静に対応、倒れている生徒たちを観察する
息が苦しい、といっても呼吸ができない訳じゃない
体が衰弱しているだけなら、急げばまだ助けられる
そうして身近な生徒の顔を確認した矢先、カチン、と頭の奥で音が鳴った
「―――肌、が」
溶けている
全員という訳ではない
個人差があるのだろう。衰弱が激しい生徒は、肌が溶け始めていた
どろり、と ケロイドのように爛れた腕と、死んだ、魚のような眼
左腕が疼く
手の甲に刻まれた令呪が、すぐ近くに敵がいるのだと知らせてくる
「は、あ…………!」
乱れた呼吸のまま走った
「やあキョン。君もマスターだったんだね」
廊下の先
C組の教室の前に、国木田は立っていた
腕が疼く
あそこで立っている男が元凶だと、令呪が訴えかけてくる
「――――これはおまえの仕業か、国木田」
満足に呼吸もできず、立ち止まって睨んだ
「だったらどうすると言うんだいキョン」
「―――――止めろ」
吐き気はとうに収まっている。
はっきりと国木田を見据えて、それだけを口にした。
「止めろ? 何をだい? まさかこの結界を止めろ、だなんて言ってるんじゃないよね? 一度起こしたものを止めるなんて、そんな勿体ないコトできないな、僕は」
「止めろ。おまえ、自分が何をしてるのか分かってるのか」
完全に切り替わった
ガギン、と
頭の中で撃鉄が落ちて、完全に、体の中身が入れ替わった
「――――最後だ。結界を止めろ、国木田」
「分からないヤツだね。これは戦争なんだよ。そんなに気にくわないんなら力ずくでやりなよ、キョン」
「―――そうか。なら、話は簡単だ」
つまり。
この結界を止める前に、おまえ自身を止めてやる。
体が弾けた。
体は火のように熱い。
国木田までの距離は二十メートルもない。
今の自分ならそれこそ一瞬だ。
体には、魔術回路を通した時とは比較にならない程の活力が漲っている――――
「フッ、本当にバカだねキョン――――!」
影が蠢く
廊下の隅に沈殿していた影が、カタチをもって蠢き出す
黒一色で出来た刃
近づく物を斬り伏せる、断頭台のような物
それがどんな魔術によるものかは知らない
沸き立った影の数は三つ
ブン、と風を切って迫ってくる三つの刃
「――――、バカはあんたよ国木田……!」
「な……!?」
折り重なる三つの影はかき消された
どうやらかがみが追いついてきたようだ
なら問題はない
「国木田――――!」
踏み込む。
あと数歩、三メートルも踏み込めばそれで―――
「っ、やめろ、来るな……!」
逃げる国木田
その背中に腕を伸ばした刹那
「――――!」
全身に悪寒を感じて、咄嗟に腕を引っ込めた
空を切る軌跡
さっきまで俺がいた空間を断つ、黒い刃物
「っ……!」
足が止まる。
何処から現れたのか、目の前には、
この毒々しい赤色さえ薄れるほど、禍々しい黒色の女性がいた
「あ――――」
それは、鞭を持った女王様のような服でアイマスクみたいなものをしている高良みゆきであった
「え……みゆき!?」
親友が敵だということに動揺するかがみ
先ほどの影なんて比較にもならないほど、圧倒的な死の気配を持っていた
「い、いいよライダー……! 遠慮いらないよ、そいつは殺っちゃっていい……!」
高良の姿が霞む
咄嗟に後退する。
まずは態勢を立て直して、その後に結界を止めさせなければ――――
「がっ……!?」
何が起きたのかさえ理解できず、ただ必死に後退する
それでも、判らないまま必死に腕をあげて、首筋だけを庇いきった
「ずっ……!」
腕に刃物が突き刺さる
骨を削るギチ、という鈍い音が、次は殺すと告げていた
「は、く――――っ!」
かがみは驚きの余り放心状態で援護は期待できない
両手で急所だけを庇って、必死に後ろへ後ろへと逃げていく
「ひ―――ぎ…………!!!!!」
耳障りな音をたてて、刃物が体中を切り裂いていく
視界は、自分の体から巻き起こる血煙で塞がれていた
その合間に
視認さえ出来ぬ速さで迫ってくる
「ぎっ…………!」
斬りつけられる度に、自分とは思えない声がこぼれる。
それでも懸命に、何十回と死に至る一撃から命を拾って、必死に後ろへと逃げ続けた。
「は――――はあ、はあ、あ――――!」
自分が何をしているのか判らない。
短刀を受けているのはいつの間にか投影した白と黒の双剣
服はやぶれ、肉はとうにズタズタになっている
首、眉間、心臓へと放たれる一撃を必死に受ける
そこに自分の意志などありえない。
体は死にたくない一心で、必死に反応する。
「あ――――あ、は――――」
とうに息はあがっている
いずれ力尽き、追いつかれて死ぬだけだ
「ぐ――――あ、っ――――!」
今は一刻も早く国木田を捕まえて、このくそったれな結界を解かせなくちゃいけないっていうのに、なにを――――!
「なにしてるんだライダー。
もういいだろ、さっさと斬り殺しちゃえよ。どうせ何もできないんだからさ、そいつは」
勝ち誇った声
それに頷いて、高良は一際大きく短刀を振り上げた
―――確実に脳天を狙った一撃
避ける事などできない
俺にできる精一杯の事は、せめて急所を外す程度だ
「っ…………!」
肩口―――鎖骨の下に、短刀が突き刺さる
一際高い金属音と、チィ、という舌打ち
「え……?」
なんだ……? 高良の短刀の先が、ボロボロと刃こぼれしている―――
「……驚きました。私の刃物では殺せないようですね」
動きが止まる。
その、ただ一つ生じた隙をどう生かすかと思考した刹那。
「――――なら、落ちて死んでいただきます」
ハンマーで叩かれたような衝撃を受けて、窓から外にたたき出された。
「が――――」
腹に一撃、回し蹴りを食らっただけ。
それだけで体は大きく弾けて、窓を突き破って空中へと投げ出された。
「キョン!!」
かがみの叫び声……
地上三階
もう放っておいても出血多量で死ぬだろうに、この高さからたたき落とされたらトドメになる
いや、すでに人間を数十メートル吹っ飛ばす一撃を受けた時点で、通常なら死に至ろう
「ぁ――――あ」
腕を伸ばす
まだ落下していないのか、それとも死の間際の錯覚なのか
体は、未だ空に留まっている
空は赤く
校舎はどくどくと脈打ち、生き物の胃のようだ
助けを求める
空と地上の狭間、時が止まったかのような思考の海で、左手の刻印に望みをかける
―――落下まであと一秒
常識の秤では逃れられぬ死を必ず覆してくれると信じ
「っ―――頼む、来てくれこなた……!」
渾身の力を込めて呼んだ
令呪が消えていく
同時に出現する、空間のうねり
空間に現れた波紋をぶち破るように、銀の甲冑に身を包んだこなたが飛び出してきた
「キョンキョン!?」
銀の甲冑が駆け抜ける
突如校庭に現れたこなたは、この事態に驚くより早く落下する俺を認め、
「っ、ふ……!」
地面に叩き付けられる直前で、俺の体を受け止めてくれた
「ぁ……ぐ……すまん、助かっ、た」
血まみれのまま、なんとか地面に降りる
落下を免れたとは言え、切り刻まれた体はとっくに限界を迎えている
「は――――、あ―――、っ……!」
だが倒れてなどいられない
感覚のない手足に鞭をうって、無事と見せる為に胸を張った
「―――説明している暇はない。状況は判るな」
「待って。それは判るけど、その前に――――」
「頼む。アイツは、おまえでしか倒せない」
「だめだよ、治療が先。このままじゃ死んじゃうよ」
「―――それは違う。先にやるべき事があるだろう」
俺の事なんかより、今は一秒でも早く結界を解除する
それ以外に優先すべき事なんてない
嫌がるのなら、二つ目の令呪を使うだけだ
「っ…………」
こちらの決意が伝わったのか
仕方なげに言葉を飲んでくれた
階段を駆け上がる
国木田がいるのは三階だ
三階に留まっているのは令呪の反応で判る
三階の廊下に金属音が響いている
「古泉か……!?」
二人がかりなら後れを取る事はないだろう
「任せた……! だが深追いはするな、国木田を止めればそれで終わる……!」
脇をすり抜けて走る。
廊下を走る
視線の先にはうろたえる国木田の姿
「……さすがに手ぶらじゃ不利か――――!」
武器になるとしたら長柄のモノ、ならば
「――――投影開始」
走りながら魔力を通す
雑念が無い為か、それとも余分な事をするだけの体力がないのか
まるで息をするような自然さで、剣を投影する
影が沸き立つ
あれほど傷つけられたというのに、体に鈍さは感じない
加えて、今は武器すらある
ならば、襲いかかってきた影をすべて叩き切る
剣はそれで折れたが、急造の武器では仕方ないだろう
それに、ここまでくればそんな物も必要ない―――!
「国木田――――!」
真っ正面から殴りつけた。
ズタズタに裂かれた腕は、それだけで失神しかねない痛みを生んだ
腹を殴って、そのまま壁に押しつける
「く、この……!」
俺の腕を振り解こうと手を伸ばしてくる
その腕を、ノータイムで蹴り飛ばした
……まずい
気を抜けばこっちが意識を失いそうだ
まだ手足が動くうちに、早く――――
「うっ……!」
髪をつかみ、そのまま壁に押しつける。
「―――悲鳴は後だ。いますぐ結界を止めろ」
「ふ―――ふざ、ふざけるな、誰がおまえなんか、の」
残った腕で国木田の喉を掴む。
「なら結界の前におまえの息の根を止めるだけだ。どっちでもいいぞ、俺は。早く決めろ」
喉を握った腕に力を込める。
―――体内に巡った魔力のおかげだろう。
この程度の首なら、なんとか折るぐらいは出来そうだ。
「は―――デタラメだ。そんなコトできるもんか。そ、それに僕はまだ誰も殺してない。ただみんなから少しだけ命を分けてもらっただけ――――」
「―――わかった。じゃあな」
腕に力を込める
躊躇いはしない
だが、わずかだけ同情があった。
「ま――――待て! 待ってくれ、わかった、僕の負けだ……! 結界はすぐに止める、止めるから……!」
「………………」
喉に込めた力を緩める。
「っ―――はぁ、はぁ、はぁ……。ライダー! ブラッドフォートを止めろ!」
遠く離れた高良へ叫ぶ国木田
「――――――――」
返事はない
ただ、今の言葉で高良は一歩引いている
短刀を下げ、かすかに唇を動かす
「……これでいいんだろう。この結界は特殊らしくてね、一度張った場所にはそう簡単に張り直せないらしい。
……もうここに結界を張る事はないんだから、その手を離してよ」
「そうはいかん。勝った以上はこっちの言い分に従ってもらう。令呪を捨てろ。そうすれば二度と争う事もない」
「そんな真似ができるもんか! 令呪がなくなったらライダーを従えられない。そうなったら、僕は」
「令呪を捨てないのなら、その腕を切り落とす。それでマスターの資格はなくなるそうだからな」
「は……? 腕を切り落とす……?」
国木田は心底不思議そうに首を傾げる
それは芝居なんかじゃなく、本当に俺の言っているコトが判らないようだった
「いや、だから――――」
「離れて……!」
こなたの声
国木田から手を放して後ろに跳ぶ
同時に、俺がいた場所に短剣が振るわれる
「ラ、ライダー……!?」
「―――下がりなさいマスター。この場から離脱します」
「下がって……! 結界維持に使っていた魔力を全て解放するつもりだよ……!」
「……!? 魔力を解放する……!?」
見れば、確かに様子はおかしい。
対峙していた筈の彼女が突如ここに現れた事といい、全身から放たれる冷気といい、今までとは威圧感が段違いだ。
「ラ、ライダー……!? なに考えてんの、キョンのサーヴァントにさえ勝てないクセに勝手なコトしてんじゃない……!」
「はい。確かに私では勝てません。
ですがご安心を。私の宝具は他のサーヴァントを凌駕しています。たとえ相手が何者であろうと、妨げるコトはできないでしょう」
短刀が上がる
「な――――」
驚きで声を漏らした
あろうことか、自らの首筋に短刀を押し当て――――
それを、一気に切り裂いた
……飛び散る鮮血
黒い装束に身を包んだ高良の白い首筋から、夥しい量の血が噴き出していく
「な――――なに、を」
マスターである国木田でさえ、高良の行動に息を呑んでいた
サーヴァントが人並み外れていると言っても、アレでは致命傷だ
大量の血を失い、自ら消滅するだけではないのか
「っ……!?」
だが、それは知らぬ者だけの杞憂
まき散らされた血液は空中に留まり、ゆっくりと陣を描く
それは、血で描かれた魔法陣だった
見たこともない紋様
たとえようもなく禍々しい、生き物のような図形、強大な魔力の塊
さきほどの結界など、この魔法陣に比べれば子供騙しとさえ思える
「な……!? か、体が押し戻され、る――――」
あまりに強大な魔力が漏れているのか
強い風に押されるように、体がじりじりと下がっていく。
「キョン、離れて……! 宝具を使う気だよ、そこにじゃ巻き込まれる……!」
言って、こなたは俺を強引に引っ張った。
こなたは俺を庇いながら、高良の魔法陣と対峙する。
「逃げるつもり」
「……ふふ。マスターを守るのがサーヴァントの役割ですよ。私はマスターを連れて逃げるだけですよ
それが気にくわないのなら追ってきなさい」
「もっとも―――これを見た後でも、貴方に戦う気迫が残っていればの話ですが」
―――鼓動が聞こえる
ぎちり、と肉をこじ開けるような音と共に、高良の髪が舞い上がり――
轟音と閃光
回避できない……
「熾天覆う七つの円《ロー・アイアス》冠――――!」
古泉の声
激突する光と盾
暴風と高熱を巻き散らす光
何処かより出現した七枚の花弁は対抗する
「あまり長くは保ちません、早く退避を」
とっさに教室へと飛び込んだ
吹き荒れる烈風に目を閉じる
だが、目を閉じていようと否応なしに感じさせられた
通り過ぎていった白い何か
巨大な光の矢じみたものが、とてつもないスピードで廊下を駆け抜けていったのだと――――
顔をあげると、そこにあるのは無惨な破壊の跡だった
国木田と高良の姿はない
……今の光は俺たちを狙ったものではなく、あくまでここから離脱する為だけの物だったらしい
「っ―――」
傷が痛む
カチン、と頭の中で打ち付けられていた撃鉄が戻っていく
体を奔らせていた熱が、急速に冷めていく
「キョン……?」
問いかけも、もう聞こえない
最近こんなのばっかりだな
意識は、そのまま白い闇に落ちていった
最終更新:2008年04月13日 16:03