「もぐもぐ」
「……」
「妹ちゃんそれとって~」
「はい、こなちゃん」
「……」
「キョン君このハンバーグおいしーよ!」
「そだね、これが手作りの愛情の味だねキョンキョン」
「そりゃ……どうも」
「私も結構料理はするほうなんだけどね~」
「こんどこなちゃんの料理も食べたいな!」
「ん~いいよ」
「やったぁ!」
「…………」
「キョン君こなちゃんおやすみ~」
「おやすみ妹ちゃん、キョンキョンもそろそろ部屋に戻ろうよ」
「ん、…あぁ」
「いんやぁ~、机からでてきて押入れで寝るってのもなかなかない体験だね~」
「…………」
「最初はどうかなとも思ったけど結構寝心地も悪くないしね、真っ暗だけど」
「…………」
「キョンキョン、さっきからどうしたの? やけに静かだけど」
「…いや、いやいやいやいや。おかしいだろこの状況」
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泉こなたというミニマム少女が机からでてきてから、まだ翌日である。なの
に、この俺の生活空間への進入度は凄まじいものだ。既に俺の部屋の押入れに
は自分の生活空間を別途確立してすらいる、二十四時間でだ。妹とはずいぶん
と仲良くなった様子だし、気がつけばこいつがこの家を支配する日も遠くない
のではないか。
「ん? キョンキョンは何がご不満かな?」
「なにもかもだ、突っ込みどころが多すぎてどこから突っ込めばいいのやら…」
「達人同士の戦いで隙が多すぎるとむしろ攻撃できないのと同じだね」
「よし、そこの馬鹿、とりあえずその押入れから頭を下にして落ちてみろ」
「いや…痛いっしょ」
しかしこなたはニッと笑って、乗り出していた上半身をぐっと下げて貞子の
ような状態になり、よいしょと押入れから落下した。頭がつく寸前に両手で床
をついて、でんぐり返しの要領で俺に向かって転がってきた。
「何点?」
「0点」
「ロボコンだね~」
俺の返答に頷きながらしみじみと呟くこなた、こいつさっきの失敗したら下
手すれば首を挫傷するところだったのをキチンの理解してるのだろうか? 多
分できちゃいないんだろうな。
「で、さっきから気になっていたことの一つに呼び方があるわけだ」
俺はとりあえず無視して別の方向に話を逸らす、というか本筋から離れない
ように先んじて戻した。
「呼び方? キョンキョン?」
「それだ、なぜ初対面から二日目でそこまで馴れ馴れしく出来るのか甚だ疑問だ」
「いやぁ私の希望の呼び方ッスよ、でも了解なんてとろうとしても即座に却下ジャン?」
「当然だ」
「だから事後承諾的に先に広める感じでヨロ」
「お前の希望は俺の絶望に繋がるわけだが」
これ以上変なネーミングを広められれば、たかがあだ名と馬鹿に出来ない影
響を俺のスクールライフ等に与える結果になろう。ただでさえキョンという動
物の名前(まぁそれは名づけの理由には関わってないだろうが)一つで中途半
端に変な扱いを同輩達から受けている。
「よく言うじゃん、幸せの総和は零で誰かが幸せになれば誰かが不幸になるって」
「またずいぶんと至近距離で帳尻を合わせようとしたもんだな?
アホの谷口あたりでもそんな迷惑なもんくれてやればいいのに…」
「おやおや、キョンキョンはお友達を売るのですね?」
「だからやめろっての」
「へいへい、おやすみ~キョンキョン」
…寝よう、果報は寝て待てだ。
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『NEXT DAYだよ byこなた
なぜ素直に翌日という言い方が出来ん! byキョン』
朝っぱらから猛ダッシュ末、点呼直前に教室内に文字通り滑り込んだ俺は机
にへばり付き額に感じる汗に不快指数をあらわすゲージをチマチマと上昇させ
ていた。廊下側の席の特権である窓の開閉の自由権を行使して全開にした窓か
らゆっくりと流れる風も大した効果をあげず、むしろたまに吹く強い風がカー
テンをはためかせ、俺の顔をぺたぺたと叩いて来るのがまた不快だ。この状態
になるとなにからなにまでが自分を不快にさせるために試行錯誤してるのでは
ないかと疑いたくなる。
「あんた、今日はいつにもましてスレスレね。
成績的にも時間的にももっと余裕と計画性を持ちなさいよね」
「昨日から面倒ごとが相次いでな、寝るのが遅くなっていかん」
クラス委員長という己の職務を全うするに当たって、一番近い障害である俺
に釘を刺しにきたのだろう、正反対双子姉妹の姉こと柊かがみ(説明口調)腰
に両手を当てて俺に詰め寄るようにする姿はまったく様になってる。素敵。
「面倒事って何よ? 適当に言い逃れしようとすんじゃないわよ?」
「えぇい疑い深い奴め、将来禿げるぞ?」
「残念私は白髪の家系だし、そもそも私は女です。ご愁傷様」
「女だってごちゃごちゃ頭使ってたら禿げる時は禿げるんだよ。
よかったな、お前の家系初の禿はなんと女性だ」
「へぇ、頭使うと禿げるんだ? ならあんたの髪の毛は一生安泰ね。おめでとう。」
「ありがとさん。俺が老衰で床に伏すときは長い前髪をかき分けて死ぬさ」
「あんたみたいなか弱い女の子に暴言吐く人の風上にも置けない人間に
死に際を見取ってくれる人が居るといいわね~」
「いやぁまったく、風下でカツラを抑えるお前の壁になれないのは残念至極だが、
お前こそ髪の毛が全部抜け落ちる前にどっかの男をむりくりとっ捕まえたほうがいいんじゃないか?
そうも口も性格も悪ければ早々見つからないだろうがな」
「あんた喧嘩売ってんの?」
「お前こそ」
売り言葉に買い言葉だった。っていうかこの時点で既に口喧嘩だ。実に見る
に耐えない。というか聞くに堪えない。むしろ両方。
「まったく成績不振の上に素行不良なんて、それこそ最悪。この時期に退学にならないといいわね」
「その素行不良な一男子学生と口論して優秀なクラス委員長の立場を壊さないように気をつけろよ?
というか本性がばれない様にと言った方が正確かな」
「お生憎様、私はあんたと違って立ち振る舞いに気を使ってるの。先生達にも評判いいのよ」
「はっ、つまりただ単に面の皮が厚い猫かぶりだろ? 猫かぶるなら可愛く男を立ててみたらどうだ?」
「私そういう前時代的な風潮って大嫌いなのよね、別に男女平等なんていうつもりは無いけど
だからって男に媚びるつもりも毛頭無いわ。特にあんたみたいなダメ男なんかには絶対嫌」
「ま、俺も概ね同意するな。デートでは男が奢りなんてあってたまるか、
まったく…驕った女に奢るなんてなんの言葉遊びだろうな?」
「さぁね、私には皆目見当がつかないのだけれど。それでも言わせてもらうなら
あんたにそんな心配は徹頭徹尾ご無用と言う事だけね」
「その言葉お前にもそのまま返させてもらおうか」
「私は見てくれがいいからいいの。高校に入ってからラブレターどれくらい貰ったか教えてあげようか?」
「け、俺はお前なんかに大きな勇気を振り絞った男子生徒に心底同情するぜ」
「なら私はあんたなんかに同情された彼らに同情するわ」
机にぶっ倒れていた俺は起き上がり。かがみは片腕を腰からはずし俺に鋭く
指を向け、最初にあった数歩分の距離を詰め。ふと周囲に気を巡らせればクラ
スの連中は大方が席につき、数学の眼鏡教師が呆然とキスできそうな至近距離
で言い合う俺達を眺めていた。
「……よぉ委員長」
「あによ」
「よくお前それでうまく立ち回ってると言えるな」
「は? ………あちゃ~」
俺に向けていた腕で頭をかいてつめてた距離を離しながらかがみは困ったよ
うに苦笑いを浮かべた。俺はそれを尻目に中腰になっていた体制を整え、椅子
に座りなおして。
「いつまで立ってるんですか。委員長さん?」
―――
『世界のためにお前を一人を失おうとも
お前のために俺は俺の世界を失いたくは無い byキョン
はっきり言ってお互い様よね byかがみ』
「で、あんたの面倒事って実際何なのよ?」
もぐもぐと弁当のおかずを箸でつまみながら後ろからかがみは俺に質問の形
をした詰問を口にする。食べ物を口にしながら言葉を口にするとは、行儀が悪
いこのこの上ないでござる。の巻き。
「いや、昨日から家に居候ができてな」
俺は背中合わせに感じるかがみの体温を感じつつ自分のおにぎりのラッピン
グを1→3→2の順番で剥がす。海苔の端が千切れる。許せんぞツナマヨ。
「居候? ………ふーん、どんな?」
「いや、それが変な奴でよ。まだ二日しかたってないのに完全に馴染んでやがるんだよ」
「あんたが変な奴って言うんだから相当よね」
「言ってろ」
さぁ、と風が俺達の居る中庭の人工でない芝を揺らして流れる。かがみは弁
当に砂が入らないように蓋をして、風がやんでから食べ始める。
「んで、今はなぜか知らんが俺の部屋の押入れに自分の生活空間を確立していやがる」
「なに? 青い狸な訳? それはびっくり玉手箱ね」
「ひっくり返すな。……まぁ確かに青くはあるが外見は普通の女の子だ」
「女の子があんたの部屋に住んでる……?」
しまった、薮蛇だった。
「ん、まぁ、あれだ、子供だよ。女の子だ、まさに女"の子"だ。邪推するな」
「それはそれで問題よね」
「なんで?」
「ロリコン」
どちらにしても人間性を疑われてしまった。口は災いの元。
「あんたがどんな子と寝起きをともにしてようが勝手だけど
警察沙汰はやめてよね、私のところに事情聴取とかで警察がきたら迷惑もいいとろろよ」
「とろろは美味しいよな」
「絞めるわよ?」
「もぐもぐ」
あっ、辛子明太子を買ったつもりが焼き明太だった。不覚。
「まぁいいわ、口からでまかせだったら困るし。どうせ暇でしょ?
今日放課後あんたの家寄ってくからね」
「…了解」
…まぁ、こなたの外見年齢は本当に"子"だから大丈夫だろ。