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HEART

雪茶◆yukichanHA氏の作品です。


一冊の本を手に取る。
人があまり踏み込まないムズカシイジャンルの本が飾られた本棚の間。
人が通らないから静かで良い。
世界に私しかいないという感覚。
孤独であり、心地良い空間。
放課後となれば尚更。
未読の分厚い本を立ったまま開く。
目次という目次は無く、一文字のタイトルが刻まれただけの一枚目。
一文字だけのページ。
今の私のような雰囲気。
真っ暗な暗闇で手を伸ばす。何も掴めない無常さ。
そんなのだろうか。
ページを捲っていっても紙には手垢も傷んだ跡もない。
"可哀想"な本。
私が惹かれるのは同情なのだろう。
一枚一枚ページを左から右へ流していく。
「……痛っ」
小さく声が漏れた。
右手の人差し指の腹に一筋入ってる。
紙で切ったようだ。
指を伝う血が一滴、木製の床に落ちた。
上靴で擦り伸ばす。
"赤"が伸びる。
舌を少しだけ出して舐める。
鉄の味がする。
私の体を循環する物質。
私の体は鉄で、無機質な"ロボット"で出来ているのだろうか。
だから暴走する、彼に迷惑掛ける、観察者として儘成らない
だから私は―――

図書室の扉が開いた。
「あれ、誰かいる。こんにちわー」
横から声がした。
反射的にそっちを見ると、私と同じくらいの身長の女の子が立っている。
「……こんにちは」
こくりと会釈する。
「もしかして、ここらへんの本全部読んでます?」
私の近くまで寄って来る。
「…全部までとは言わないが大体は」
「…あなただったんですね、私の先に読んでた人って!」
勝手に目を輝かせてはしゃぎ始める。
意味が解らない。ここらへんの本は誰も読んでない筈。
「いや、最近手出したんですけど面白いですね。ここの本。
   誰かが読んだ形跡はあっても貸し出しカードには名前が書かれてないから誰か気になってたんですよ」
「…私は大体ここで読んでるから」
ぴちょん、と血で出来た小さな溜まりに血が重なる。
気付けば人差し指は紅く染まっている。
「へっ、ってちょっ!血!血出てますよ」
「問題ない」
淡々とそう答えて指をまた舐める。
「問題ない訳ないですよっ、えっとちょっと待って下さい…あ、あった!」
彼女はポケットから絆創膏を取り出す。
「ほら、指出して下さい」
「大丈夫、じき治る」
舐めた血を唾液と一緒に喉を通す。
しかし、彼女は私の手を取って、無理矢理貼って来る。
「だから大丈夫じゃないって!いい?こういうのは空気感染が一番危険で……」
それは知ってる。
けど、人間じゃない私はすぐに皮膚細胞が引っ付き、血管も修復される。
故に「問題ない」のだったのだが。
指先に一周貼られた絆創膏を眺める。
「…綺麗に貼られてる」
ぽそっと呟くと彼女は薀蓄雑じりの説教を止める。
「え、ああ。ウチの妹も怪我し易いから…。だから持ってたんですけど」
照れ臭そうに答える。
私はその顔を見てから、開きっ放しの本を閉じる。
「あ、それ、私も読んでないやつ」
彼女は本のカバーとタイトルを見て、すぐさまそう言う。
「…読む?」
私は本を彼女につきつける。
「え、でも、あなたが読んでたんじゃ」
「いい。まだ読んでない本はある。それに――」
そう言いながら、私は指についた絆創膏を見せる。
「―お礼」
「…それじゃ、先に読ませて頂きますね。…えっと…」
嬉しそうに笑いながら、頬を掻く。
言語化されてないセリフを理解し、私はアンサーを告げる。
「長門有希」
「ナガトユキ…って同学年の人じゃない」
「そう、だから敬語は使わなくて構わない」
「あら、そう? あ、私はかがみよ。柊かがみ」
彼女は右手を前に出して。
「それじゃ、ヨロシクね。有希?」
「…よろしく」
絆創膏のついた右手を出して、彼女―かがみの手を握った。
夕陽の斜光が本棚の隙間を抜けて私達を照らす。
「あ、もう下校時間じゃないっ。んじゃ、帰ろっか」
彼女は手を握り続けて、私を引っ張って外に出た。
外は眩しかった。

 

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最終更新:2008年05月11日 20:00
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