なんてったって☆憂鬱:その11

  まあ、私が間違っていたのは認めるわ。

気付いたらハルヒの世界。こなたの妄想…実際は妄想じゃなくて現実だったけど…を聞かされたときは、
そんなマンガみたいな話あるわけないでしょと思ってたんだけど、私は実際に彼らに会ってしまった。
そして、自分の間違いに気付いた。人間っていうのはつい数時間前まで「ありえない」って否定していたことでも、
それを覆せるだけの出来事があれば、案外すんなり受け入れられるものなのね。
ま、ここまで来てまだ「これは夢よ」と現実を見つめられないほど、私は愚かじゃないつもりだけど。
とにかく、私が間違っていた。それは認める。でもまだ、分からないことはある。

「ねえこなた、さっきのは結局なんだったのよ?」

登校の時は、うんざりするくらいの長い上り坂。だけど今は、長い長い下り坂。太陽は西へ傾きかけて、夕暮れが近いことを教えている。
私達は「用事が出来た」という永森さんと校門で別れ、それぞれの家路をあるいているところ。こなたが教室で言い逃げした
「街を見て周る」なんてのはもちろん嘘。そんな約束、これっぽっちもしてないもの。

「んー?さっきのって?」
途中のコンビニで購入したアイス(ガリ○リ君ソーダ)をちまちま食べながら、隣を歩くこなたは呑気に口を開いた。

「教室の話よ。突然叫びだすわ、嘘ついて逃げてくるわで全く訳分からないんだけど」
はあ、とこれ見よがしに息を吐いて、アイスに齧りつくこなた。な、何か言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ…。

「…かがみんってさ、賭け事に向いてないよね。トランプとかもすごく弱そう」
う、ま、まあ否定はできないけど…

「そういえば、この間いのりお姉ちゃん達と大富豪で遊んだときも、お姉ちゃんそんなに勝ってなかったよね」
後ろでみゆき、ゆうご君と歩いていたつかさが、何の気なしに口を開く。あ、あんまり余計なこと言わなくていいの!

「かがみんと今度、透け透けトランプでポーカー勝負してみようかなあ。いいカモになりそうだネ」
くっくっくと、不敵な笑いを浮かべるこなたを横目に、一瞬どす黒い感情が浮かんだけど、あえて触れずに私は先を促した。

「で、なんで叫んで私の話を遮って逃げてきたわけ?」
アイスを全部食べきって、残った木製のバーを見ながら「ハズレかぁ」と残念そうに一言呟いて、こなたは私の方を向いた。

「ジョーカーだよ、かがみん」
「は?」

訳が分からない。ジョーカーって、トランプのアレよね。ババともいう、あのカード。それとなんの関係が──

「この世界は、涼宮ハルヒの作品世界。それはかがみんも納得してるよね?」
ここまで来れば、納得せざるを得ないでしょ。

「そして私達は、涼宮ハルヒの世界で起こった数々の出来事を知っているんだよ。これから起こるはずの、未来の出来事も含めてね。
例えば、ゆきりんの暴走とか、世界改変とか、映画撮影とかね」

こいつの言いたいことが、だんだん分かってきたわ。

「…つまり、そのような事を言外に匂わせれば、涼宮さんとその周りの方たちを揺さぶることが出来るかもしれない。そうすれば
私たちの立場を優位にすることが出来る可能性がある。そういう事ですか、泉さん」

「さっすがみゆきさん。私が言いたいことはそーいうコトなのサ」
腰に手を当て、鼻高々なこなた。

「超能力集団やら宇宙人やら未来人に対する、俺たちの唯一のアドバンテージってことか…」
ゆうご君が、納得したように呟く。

「その最大の切り札が自分の手元にありますよーって、かがみんバラす気満々なんだもん。全く困ったもんだ、やれやれ」
こなたの指摘に顔が熱くなるのが、嫌というほど分かってしまう。わ、悪かったわねっ!どうせ私はそこまで頭の回らない女よ。

「ですが、泉さん。もしあの方達、例えば長門さんや古泉さんが実力行使に出られたら、その切り札も…」
「ゆきちゃん、実力行使って…」
つかさが不安そうに、みゆきに問いかける。無理もないわね。みゆきの少し低くなった真剣な声に、私も気圧されそうになっているもの…。

「…その時はその時だね。ハルにゃんに全部バラしてでも反抗するよ。好きな作品をめちゃくちゃにしたくはないけど、無抵抗で
やられるのは、私の主義じゃないからね」

ハルにゃん、つまり涼宮ハルヒにバラす。それはこの「涼宮ハルヒの世界」の、最大の禁忌。古泉君や長門さん達と対立する状況になっても、
容易に涼宮さんと接触できるとは思えないけど、私は何も言えなかった。いつものようにのほほんとしたこなたの表情だけど、
その目には、私が見たこともないような何かが宿っていたから。こんな真剣な眼差しは、コミケの時でさえ見たことがなかった。

…が、それもあっけなく崩れた。いつものように目を細め、呑気な口調で。
「ま、そーいうことにはならないと思うけどネ。古泉君達も話し合いを求めてたしさ」

こなたの言葉に、つかさははっきりと分かるくらいに安心していた。みゆきもさっきの張り詰めた表情も影を潜めている。
ほんと、いい意味でも悪い意味でもムードメーカーね、こなたは。一言でここまで空気が変わるんだから。私もこなたの言葉に安堵を覚えていた。
認めるのもなんか癪だけど。

「と、言うわけで。朝も言ったけど、とりあえずこの世界の予習をしないと。みゆきさん、かがみからラノベは借りたんだよね?」
みゆきはこくりと頷く。
「あ、はい。かがみさん、では少しお借りしますね」
「うん。私はもう読んじゃってるし、返すのはいつでもいいから」

「つかさは…かがみから借りて読んだりしてる?」
問いかけられた本人は、あたふたしていた。

「え、えっと、うーんと」
「この子は活字読むと眠くなるタイプなのよ。ね?」
「え?えーと、あはは…」
困ったように笑うつかさに、こなたは自分のバッグを漁って、中から1冊の漫画本を取り出して手渡した。

「んじゃあつかさは漫画でお勉強だね、はい」
ありがとう、と受け取るつかさ。それもいいけど、明日から授業始まるんだから、それも忘れないようにね。

「ゆー君は貸したDVD、全部見たんだよね」
「え、ああ。全部見たよ。結構おもしろかったよ」
「ぬふふー。ゆー君も結構オタク色に染まってきたみたいだネ」
あんた、ゆうご君までそっちに引き込むんじゃないわよ…。

「朱に交われば赤くなる。私やかがみんと過ごしていれば、そうなるのは必然なのだよ」
ちょっと待て。なんで私が出てくるの。私は関係ないでしょ!
「見苦しいよかがみん。なんだかんだでいろんなネタ知ってるし、ねえ?」
「私は普通よ!でしょ!?」
こなたと私がゆうご君に向き直る。空気読みなさいよ、ゆうご君…

「え、えーと。そ、そうだ。こなたさん、借りたDVDどうすればいい?」
ちょっと!なんで目を逸らすのよっ!男の子なんだから、女の子をフォローしなさいよね!今のちょっと、傷ついたわよ…。
ゆうご君、私のことオタクだと思ってるのかなぁ。ううっ。
私の肩をぽんぽんと叩き、悟った表情で、こなたが口を開いた。

「まあまあ、オタク同士で相性もバッチリだし。めげるなめげるな」
あ、相性ってどーいう意味よ!っていうか私はオタクじゃないっ!

とんでもない事に巻き込まれていても、やっぱりいつもの私たち。こなたに私が突っ込みを入れて、みゆきとつかさが笑っている。
役割分担がおかしいような気もするけど、これがいつもの私たち。最近はそれにゆうご君も加わって、ますます賑やかになって。

しかし賑やかすぎるのも考え物ね。
SOS団入団希望者に仕立て上げられていた事について、こなたに問いただそうと思っていたのに。
それを思い出したのはうちの神社の鳥居が見えてからだった。
しょうがない、あとで電話でもしよう。

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最終更新:2008年05月19日 21:59
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