告白

小泉の人◆FLUci82hb氏の作品です。


さて、僕は手紙というものを初めて書くようなきがします。
確か時候の挨拶を最初に書かなければならないような決まりがあったように思いますが、なにせ初心者なので大目に見てください。
まず、お詫びを言うべきなのかもしれません。
しかしそれと共に僕は言い訳も言いたい気持ちが多分にあるのです。
なので、直接話す事を避けてこんな手紙という形であなたに話す事になったことをまず謝らせてください。
ごめんなさい。
どこから話せばいいのか僕自身にもわかりません。
もしかするとあの夢のような高校生活を最初から語るべきかもしれませんが、そんな長く文章を書くことに慣れていません。
なので僕の思い出したことや書くべきことをつらつらと書かせてもらいます。
高校以前の生活については僕よりも、僕の主観を取り除いた極めて客観的な資料がおそらく存在するので書く必要も無いでしょう。
今のうちに書きますが、僕はいわゆる学校生活というものにあこがれていました。
そして出会った彼は、僕にとってかけがえのない友人でした。
無論のことながら彼以外にも友人といえる人もいるにはいましたが、それは僕の上辺だけでしか付き合えない友人ばかりでした。
僕の、超能力者であることを打ち明けても変な顔をせずに、そのまま付き合ってくれた友人は生涯彼ひとりでした。
しかし、あなた方の事を軽視してるわけでもありません。
あの生活から引き上げてくれたのはあなた方で、感謝してもしきれませんし同じ境遇の仲間もいました。
しかしあくまで対等な友人は彼ひとりでした。
僕は彼に惹かれていたのかもしれません。
上辺の仮面をなかなか外そうとしなかったのは、彼に嫌われることを極端に恐れていたのだろうと今では思います。
友人というものがこんなにも愛おしく、大切な存在だと初めて知った僕でしたから。
それからの三年はとても大切なもので、なににも変えることのできない僕の輝かしい宝石のような日々でした。
友人というものを知っていた彼からすればおそらくなんでもなかった日常も僕には忘れられない楽しい日々でした。
こんな世界を守るためならいくらでも僕はこの力を奮うだろうと思えるような心地でした。
実際そうだったのですが、今はそんなことを言える立場でもないのかもしれませんね。
僕は日記をつけるという習慣がないので正確な日付を覚えてはいませんが、確か三年次の春のことでしたでしょう。
凉宮さんは彼に告白しました。
おそらく貴方はこの部分は蛇足にしか見えないでしょう。
しかし、手紙の内にこの部分が蛇足ではないことだけは書き記そうと決めています。
なのでもう少しこの手紙を破り捨てる前にその部分まで読んで欲しいのです。
ただの馬鹿としか認識されないより、どんな馬鹿であったかを知られる方がまだ気が楽なのですから。
この手紙は懺悔であり、そして言い訳を綴っただけの紙屑以下の価値しかないのでそのあとは破り

捨ててほしいと思うのは傲慢ですが。
そして結果といえば貴方のご存じのように成功しました。
僕たちは諸手を挙げて喜びました。
すべてはハッピーエンドに向かっているのだとあの頃は恥ずかしげもなく思っていました。
おそらく彼に知られれば唾を吐きかけられるような、彼の周囲の女子たちへの工作も、このときばかりはようやく実を結んだのだと満足さえしてました。
彼は女子の間での噂というものに無頓着でしたが、彼のそばの谷口さんは恐らく僕を見下していたのでしょう。
僕は女の子をとっかえひっかえしている……しかも自分の友人の友達に狙いを絞って。
そういう噂を耳にしていた筈ですから。
もちろん貴方がたはそれが事実だと知っていたでしょう。
世界と僕の醜聞とではどちらが重いかなどとは考える必要もありません。
しかし僕は彼女らに申し訳ないと思う気持ちはひとときも忘れたことはありませんでした。
特に、彼を慕っていた筈の女性を口説き落としてそのくせ僕が振ったのは今さらながらもうすこしマシな方法は無かったのかと後悔することもあります。
泉さんやかがみさん、そして高良さん等々。
おそらく死ねば地獄以外には行けないような外道としか彼女らには映らなかったでしょう。
しかし、例外が一人いたのです。

柊つかさ。
彼女は僕のずっと好きだという言葉を信じたのです。
おそらくそれは、他人や冷徹な社会というものから見れば愚鈍ともつかない、決して美徳とはいえない彼女の特性でしょう。
それでも僕はそんな彼女を言葉という刃で再び彼女を傷つけることをためらってしまったのです。
この繊細な彼女は再び倒れたらもう起き上がれない。
そんなことを思わせたのです。
僕は彼氏として彼女を傷つけるか、他人として彼女を傷つけるかの二択しかありませんでした。
やるべきことのある僕は、他人として彼女を突き放したほうが傷は浅いと知っていた筈なのです。
それなのに、彼女に彼とはまた違った人としての魅力を見つけ出してしまった僕は彼女を迎え入れてしまったのです。
おそらく何度となく彼女は泣いたはずです。
それでも僕は世界のために。凉宮さんのためにという大義名分をむりやり自分にいいきかせてずっと仕事をこなしていました。
そして彼と凉宮さんは無事、うまく付き合いながら卒業しました。
これでようやく肩の荷がひと段落したのだと思っていました。
隣の、僕の彼女ももう泣かせる必要はなくなったのだと。
SOS団もほぼ解散状態になり、風の噂で彼と凉宮さん達の付き合いもうまくいってるのだと聞きました。
僕の初めての、唯一の友人である彼との疎遠は悲しいものでしたが、隣の彼女との生活がそれを補ってあまりある恵みをくれたのです。
麻薬におぼれるように、僕はその生活におぼれて彼女から離れることはできなくなっていました。
彼女もまた、僕と居ることを幸福と受け取っていてくれてまさしく僕らは最も幸せな付き合いをしていたと宣言できます。
始まりは歪であったとはいえ、川底を転がる石が角を取るように僕らの付き合いは円熟になっていきました。
幸せの絶頂に常にいたといっても過言ではありませんでした。
そんなときに彼が僕のもとに訪れました。
それは普通に友人を尋ねにきた態度であり、なにも問題はなかったように思えました。
成人していた僕たちでしたから、思い返せば初めて彼と二人でお酒を酌み交わしました。
二人とも長く付き合っている彼女がいれば当然、そのことにも話が及びました。
彼の口から語られる凉宮さんは一層、あのころよりも魅力にあふれて彼を包んでるように思いました。
僕が彼女の事をどう話したかはあまりにも恥知らずな行為だったのでここで書くのはためらいました。
なので割愛させてもらいます。
日付が変わって終電も無くなったころです。
彼は酔いが回りきったその顔で真剣に僕に聞くのです。
もしも僕が凉宮さんに惚れていたら俺はどうするべきだ? と。
もちろんそんな事はありませんが、僕は少し考える仕草をしてから最初から考え付いていた答えを口にしました。
僕を殴り飛ばし、お前の彼女を泣かせて何が楽しいんだ?
そうするべきだと答えました。
僕は過去の自分の行為を棚に上げてそう答えたのです。
そのときは僕はそうやって、心から思っていたのは嘘偽りないことです。
彼はその答えを聞くと満足したようにうなずき
「俺は馬鹿だな」
と言いました。
その馬鹿という言葉がそぐわないようには聞こえていたのに僕は心地よい酔いに身を任せてそうですね、と答えてしまったのです。
もう一度彼は言いました。
「本当に俺は馬鹿だな」
かみしめるように言ったその言葉はなぜか僕の耳を素通りしていて、何も答えずに僕はグラスの中身を飲み干していました。
そのまま何時間が経過していたのでしょうか。
酔いつぶれた僕たちはタクシーで帰ることにしたのですが彼は雑司ヶ谷に行かないといけないと言って聞き入れないのです。
僕の部屋に泊まればいいじゃないですかと言っても聞き入れませんでした。
そこに何があるのかと聞けばただ行かなければならない、と言うなかりです。
仕方なく僕は彼をそこに降ろし、僕は彼女の居る部屋へともどったのです。
それが一昨日のことでした。
おそらく貴方はもう気づいてるでしょう。
あの問いは僕の事を聞いたのではなく、自分のことを鏡に映して聞いたということを。
最初に書いたとおり、これは言い訳と謝罪の手紙です。
凉宮さんが心の平穏を手に入れたあの日から、数年も機関の仕事を離れていたとはいえこれは僕が招いたミスです。
凉宮さんは今、取り乱して彼の行方を捜していることでしょう。
僕が付き合った彼女はどうしているのでしょうか。
もしも、あの告白があと一か月遅ければ、などといまさら考えましたが僕はそれを改定する手段はありません。
そしてそれを改定するということは、残された僕の幸せを完膚なきまでに破壊することと同義なのです。
彼があの物語の友人であるならば、僕は何に殉じて死ねばいいのか考えました。
そしてこれを丁度書き上げている最中にあの懐かしい感覚が甦ってきました。
世界を救うためにやってきたことが、世界を滅ぼすためのきっかけになるんだとあの頃の僕に聞かせたらどういう顔をするのでしょうね。
成程、先生はこんな心持ちだったのでしょうか?
それにしても彼は雑司ヶ谷、などとよく覚えていたものですね。
丁度おあつらえむきに彼はKですし。
あの神人に立ち向かうのは僕の世界を救うことで贖罪しようとする気持ちからでた行動です。
もう時間がありませんね。
どうしましょうか。
あの頃から数えて何年のブランクでしょうか。
おそらく僕は死ぬでしょうね。
でもそれがあの物語に沿った結末でしょう。
なにがいいたいのかももうわかりませんし、手の震えも止まらないのです。
遺書を書いている最中に死んだような気持ちになる、と聞いたことはありますが嘘ですね。
僕は怖くてたまりません。
彼女を残して死ぬことが、彼女を不幸にするのだと思うと死にたくない気持ちがあるのです。
しかし彼を、自分で友人を死に至らしめたこともまた大きく僕を責めるのです。

死ぬ事でこの苦しみから楽になろうとする僕をどうか、地獄に落ちるように祈っていてください。
僕はただ馬鹿でした。






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最終更新:2008年05月20日 05:57
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