なんでもない日常2

「あ゛~ぁぁぁぁぁ~~~~~~」

夏。
夏は暑い。
暑くない夏はそれはもう夏ではないだろう。
まぁそんなことはどうでもいいのだが。
どうでもいいついでだが、俺の部屋にはクーラーなどという金食い虫は設置されていない。
半分以上、年代物の様相を見せている電動風車があるのみである。
俺の夏は窓を開け放し、このボロい扇風機をフル回転させてどうにか涼をとるという、とても庶民感あふれるものなのだ。
いや、庶民でもクーラーはあるかもしれないのでそれ以下かもしれないのだ。
ろくに涼しさが手に入らない室内で汗だくになりながら窓の外を見る。
アルミサッシ越しに聞こえるセミの輪唱。
白々とした立派な入道雲。
風は吹いていないのか、窓の両脇のカーテンは全く動かずに日の光を浴びているのみだ。
(こんな日にはプールや海がいいな…山の木陰も虫が寄らなければ気持ちいだろうに)
そんな事を考えてはみたが、ハルヒあたりが強引にでも誘わないと行きはしないだろう。
自分で行動を起こそうにも気力もなければ金もない。
例年通りにこの狭く暑っ苦しい室内で回る扇風機の音を聞くだけ。
……だったんだがな。今日の昼までは。

「わ゛れ゛わ゛れ゛わ゛う゛ぢゅう゛じんだぁ゛~~~~~~~~~」
「いい加減そこをどけ」

この劣悪な環境でけなげに頑張っている電動風車君。
その前に居座り、俺への送風を邪魔しているのは誰であろう、泉こなたである。
長い青い髪が風に流れ、その様相が涼しげな小川を連想させる。
しかしそんな涼しげな様子も、実際の涼をコイツが奪っているのでむしろ腹立たしい。
「わ゛れ゛わ゛れ゛わ゛た゛ん゛こ゛と゛し゛て゛~~」
「少しは持ち主に風を送ろうという考えはないのか?」
「も゛ち゛ろ゛ん゛あ゛る゛よ゛~~~~~?」
だが実行はしないと。なるほど。
確かに昨日の落雷で停電した上に、クーラーがうんともスンとも言わなくなったお前の境遇は同情しよう。
しかしだからと言って俺の涼を奪う理由にはならんぞ。
いきなり家に来て「クーラー壊れたから涼みにきたヨ」とか言ってきたのも許せる寛大な俺でも、だ。
居間ならクーラーも効いてるのにわざわざここに来てまで嫌がらせがしたいかそうか。
正直に言うなら暑さのせいで布団は汗でぐしゃぐしゃ。
そして思考も全くまとまらん。ああもうこの髪に手を入れたら冷たそうで気持ちよさそうだな。
この扇風機を独占してる少女の目的は一体なんなのやら。
ベッドから上半身を降ろし、ただ冷たさを求めてその冷ややかそうな髪に手を伸ばす。
「うわひゃぁ!!??」
「……あ」
「いきなり何すんのさ!?」
「いや、気持ちよさそうだったんでつい…」
「……キョンキョンって意外と変態だよね」
失礼な。
確かにこなたはポニーにした方が可愛く……ってそんな話じゃない。
「いいからそろそろ風をよこせ」
「がめつい男は嫌われちゃうよ?」
「うっさい」
風は吹かないし気温は上昇するばかり。
人口密度がわずかに上がった今、扇風機の独占権は生死にかかわるのだ。
よってその場所をどけ、と言葉に出せないあたり俺の優しさ(へたれでは決してない)が見えるだろう。



「キョンキョン、ジュース…」
「少しは遠慮を覚えろ」
だが麦茶を持ってきてしまうあたり、俺は甘いのだろう。
夏の昼下がりはこうして過ぎていく。

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最終更新:2008年06月24日 19:10
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