T-note 第十話

まず、ゲームというものをするにあたって何をまず初めにするだろうか?
他人が何をするかなんて俺には興味がないが、まず軽く説明書ぐらいは読むだろう。
何故か?それはどのように動けばいいかを確認するためだ。
ゲームで肝心なのはどう動かせる・動けるかだ。
ゲームそのものの目的というやつは二の次で、まず何ができるかを確認するのだ。
「…もしもし、古泉か?」
携帯の向こう側の相手を確認しながら廊下を歩く。
生徒会室の帰り道、俺は脳内を整理しながら歩く。
手に何も持ってはいないが、収穫は十二分にあった。
「一つ聞きたいんだが、"機関"を使ってのこの事件の解決はしないのか?」
ゲームでのルールの確認。
それがまずゲームを始めるにあたっての最優先事項だろう?
例えば、ゲームで主人公を動かす場合において地面があって、壁があって、空があるとしよう。
その場合において主人公はきっと地面を歩くだろう。
だが、もしかしたら主人公は空を飛べるかもしれないし壁を歩けるかもしれない。
しかしすべての主人公が空を飛び、壁を歩くというわけでもない。
空を飛べないのに空に飛び出したら落ちて死ぬ。
「何故かって?そりゃ何の情報も手に入らんから少し情報を横流ししてくれればハルヒに怒られずにすむからだ」
ゲームにリセットはあるが、現実にはリセットは無い。
まずは何ができて、何ができなくて、何をしてはいけないのか。
それを丁寧に。慎重に。しかし可能な限り迅速に。そして正確に、調べる。
このゲームはまだルールが明確ではない。
一人遊びしていただけなら好き勝手に遊んでいられたが対戦相手が出てきたらそれはもう遊びでは無い。
「あくまでSOS団での解決……だがあの資料は機関で集めたんじゃないのか?」
そう、遊びでは無い。
真剣勝負だ。
自分の尽くせる限りを尽くし、相手を貶める。
……ただし、正々堂々と正面から切って落とす事。それが条件だ。
「ハハッ」
『あの資料は……おや、そちらでは何かおもしろいことでも?』
「あ、いや、思い出し笑いってやつだ。気にしないでくれ。それであの資料はどうやって手に入れたんだ?」
『事件を起こした人は普通に記録されていましたので、そのなかから…』
正々堂々?
いやいや、俺が一番使ってはいけない言葉だろう?
頭にそんな言葉が浮かんだものだからつい吹いちまった。
陰から人を操り、脅す、この俺が正々堂々と正面にでたらそれだけでゲームオーバーだろ。
馬鹿か俺は。
古泉の話に耳を傾けながら脳内の情報を整理していく。
まだゲームは始まったばかりだ。



「喜緑さん」
と、俺は切り出した。
「はい」
と、彼女は答えた。
「喜緑さん達は参加してるのですか?」
どうとでもとれる発言をした。
「おっしゃる意味がわかりかねます」
それはそうだろうと思った。
「喜緑さんらは、後押しするのですか?」
少し明確に聞いた。
「勿論、SOS団の後押しはさせていただきます」
それは俺の聞きたい答えでは無い。
「生徒会はバックアップに回っているのはわかります」
「それ以上の答えは必要ですか?」
「いえ。でも、喜緑さん達までバックアップに回っているのですか?」
「一応、生徒会員ですから」
「そうですか」
ここまで淡々ろ会話してみたが、少し困った。
俺がここに来た理由はTFEIの能力を使うのかどうかという事の確認の為だったのだが。
細かいニュアンスの違いを含めてみてさりげなく聞き出したかったのだが、あまり望めなさそうだな。
「それで、私に聞きたいこととは以上ですか?」
長門とは違い、表情がまだ豊富な喜緑さんから見えるのはもう切り上げてもいいのか?といった意思。
やはり言葉の裏を読んでくれ、というのは些か希望に満ちた俺の利己心だったろうか。
しかし、このまま切り上げられてもただの無駄足にしかならない。
ならばどうするか?と考える時間も無い。
直感的に俺は選択した。
「ええ」
聞き出すのを諦める。
「そうでしたか」
しかし、聞き出すのを諦めるということは腹を探ることをあきらめたこととは直結しない。
席を引いて立ち上がろうとした喜緑さんだったが、俺の会話がそれを止める。
「それでですね」
中途半端な体勢で止まった喜緑さんに構わずに俺は続ける。
「ハルヒはあんな性格でしょう?たとえば推理小説を読み進めている最中に犯人を教えられたら激怒するでしょう」
喜緑さんは黙ってイスに座り直し、そのまま俺の話を聞き置いた。
「だから、」
「犯人が分かっても黙っていてほしい、と」
そして俺の言葉を遮り、欲する所を理解してくれた。
「付け加えるなら手も出さないでほしい、ですね」
喜緑さんはくすり、と笑うと今度こそ立ち上がり俺の顔を見据え
「手を出したらむしろ私たちが危ないですからね」
と、言った。



「……わかったっての」
『いいですか?凉宮さんが望むのは好奇心の満足とあなたの活躍です。ですから、』
「だからわかったっての。簡単に事件を解決させてもいけないってんだろ?」
『そうです』
「地道に聞き込みでもしてろって話なんだな…ハァ」
『胸中お察しいたします』
プッ、と携帯の通話を切る。
先ほどの生徒会室での一件。
今の携帯での会話でわかった事。
殆どのルールはわかってきた。
そして、対戦相手は誰か。
「SOS団、TFEI・機関は使わず。主な情報の出所は教師と生徒。プレイヤーは古泉」
TFEIを制限できた理由は喜緑さんへ釘を刺したことでおそらく十分。
そして。
「生徒会、TFEI・機関、使わず。主な情報の出所は同じく教師と生徒。
しかし、SOS団が教師の資料を盗み見るのに対し、こちらは教師本人・犯行を犯した本人にも聞き込みができる。
だが表立っての行動を制限され、犯人への手だしもできない。プレイヤーは生徒会長」
それでも、あの会長の性格なら犯人(俺)を躊躇なく手を出すだろう。
理由は放送室のテープ。
この三日でSOS団室を捜しまわったが、どうしても見つからなかった。
あれほど大々的な行動を起こした犯人へつながるかもしれないという重要な物件を、本当にSOS団に捕まえさせたいなら渡さないわけがないだろう。
まぁ、会長の性格を考慮して、というのもあるが。
それにしても今回は機関はそれほど動いていないらしいな。
どんな些細なことでも報告してそうな古泉だが、実際はそこまででも無かったのかもしれない。
もしくは、この長く続いた平和でボケてしまったのか?会長のたくらみにもおそらく気づいてないだろう。
「さて、そろそろ状況を動かすか…」
今あるこの、"T-note"だけではどうしても限界があるだろう。
現時点でSOS団より情報収集能力に長けている生徒会の動向も掴みたい。
ならば次に打つ手は何だろう。
携帯を手の中で弄びながら考える。
王手を遠ざけるか、攻めに転じるか。
どちらが最善の選択肢なのかを考える。
ゲームを楽しむにはどちらがより良い選択なのかを。

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最終更新:2008年06月24日 19:16
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