七誌◆7SHIicilOU氏の作品です。
「俺達、付き合ってるんだよな?」
俺がふと、机に頬杖をついてぼそっと呟く
次いでバンと強く本が閉じられる音が聞こえる
雲は一定の速度で形を流々と変えながら風に乗っている
「交際って意味ならそうなんでしょうね」
硬いハードカバーの本の背表紙を一旦指でなぞってから
ポンと俺の頭を叩くかがみ
「あんたもくだらないこと言ってないで、情緒豊かになる本の一冊でも読みなさいよ」
くだらないことと一蹴され一笑に付されてしまったが
しかしまぁ一応肯定だけはしてもらったので俺は静かに本を受け取る
かがみは俺の額に人差し指を突きつけつつ、絶対に読みなさい、と念を押してから
ちょっと出かけてくる、と部屋を出て行ってしまった
残ったのは俺と風に揺らめくレースのカーテン
風に外の雨露に濡れた若葉の匂いが香ってくる
「…さて、では少し賢くなった錯覚でも起こしながら本を読むかね」
適当に、硬い表紙を開いてレトロな感じの少し黄ばんだ紙を捲り
つらつらと文学の世界に思考を持ち行く
そして数ページを斜めに構えて読んでいくと
ふと更に進んだところに一枚
小さい花柄の栞が挟まっているのに気がついた
俺は興味半意程度でそのページをシュルという紙の音を伴い開く
『君は永久に美しくありたいと願うか?』
『全てに忌避されて、知り行くもの皆朽ちていく中、それでも永久を願うか』
訥々と、小難しいようで多種多様の人が当然のように一度は巡らす
永遠の命、不老不死
そのまるで玉手箱を貰うことのできなかった浦島太郎のような世界
俺はなんとなしに眺め、流し読むと一箇所に傍線が引いてある
決して元からあったものではない、ボールペンで書き込まれた少し歪んだ線
そしてフリーハンドで行われた訂正
『僕は世界が例え僕だけになろうと、僕にどんな災悪が降りかかろうと
それでもひたすらに彼女を愛し続けるのだ』
僕に線が引かれ私、彼女に線が引かれあなたに帰られた言葉
そして風に揺れてすべり落ちる花柄の栞のその裏
『その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも
富めるときも、貧しいときも、私を愛し、私を敬い、私を慰め、私を助け
その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか? Y/N』
細くはっきりと書かれた誓いの言葉、その改編形
俺は迷わず胸ポケットに入れてあるペンでYを丸で囲む
「本当に?」
直後かけられる声、いつの間にかかがみが窓の外に寄りかかるように立っていて
俺の手を、手の先を、眺めていた
「あぁ、当然だろ?」
クスクスと青い空と緑の木々とを背景に笑うかがみを見て
俺は断言し、かがみの返事を待つ
一息、強く息を吸ってからかがみは
「…その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも
富めるときも、貧しいときも、あなたを愛し、あなたを敬い、あなたを慰め、あなたを助け
その命ある限り、真心を尽くすことを誓います」
そうきっぱり言い切った
俺は椅子から立ち上がり持っていた本を机に置いて、窓に近づく
「指輪はないからさ」
そういってかがみの額に自分のそれをあて、至近距離でかがみの瞳を見つめる
「誓いのキスね」
「…そうだ」
そよ風に乗って、ふわっと微かに甘い香りがした
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