日常的登校風景

◆ugIb3.rlZc氏の作品です。


梅雨――というより、もはや夏だ。なんなんだこの暑さは?
地球よ、秋には秋らしさをすっとばして急に寒くなったかと思えば、今度は梅雨どこ
ろか適度に暑さを体感させていかずに灼熱か?
どうした?何があったんだ?
月にでもフラれてストライキか?
こっちとしては、たまったもんじゃないぞ?
それとも、人間がお前を痛めつけるから憤りを感じているのか?
だとしたらごめんなさいだ。人類を代表して謝罪する。
だから適切に段階を踏んでいってくれ。頼むから。

「あっついなほんと…」

雲一つ無い空に、本当に嫌になる…
♪この長い長い下り坂を、君を自転車の後ろに乗せて、ブレーキいっぱい握り締めて、
ゆっくりゆっくり降ってく~
と、こんな歌詞が似合いそうな学校前の坂にも鬱蒼とした気分だ。
後ろに乗せる様な相手は居ないが。
学校に辿り着く頃には、着替えが必要なぐらいにシャツが湿っていることだろうな…
脳内で一通り愚痴り終え、燦々の太陽を睨みつけて一言いってやる。

「勘弁してくれ…」
「何を死にそうな顔でボヤいてんだ?」

ポンっと左肩を叩かれ、後ろを首だけ回して振り向く。
指で頬をつつくなんて古典的なトラップに引っかかったが、それは置いておこうか。
にやにやした顔でつついた指をそのまま頬にグリグリとする人物に、面倒くささを押
し殺して返事をしてやる。

「なんだ、日下部か」
「もちっとリアクションしてくれよー」

悪いが、今は笑ってやる事も怒ってやる事も出来ないのだ。
気力ゼロ宣言だ。
というより、この無駄に頑張っている太陽の下で、よくそんなテンションを出せるも
んだな。

「こんくらいの暑さにへばってちゃ、真夏には死んじまうなっ」
「そうかい…」

笑顔で嫌な事を言わないでくれ。
想像しただけで汗が噴き出す…
隣でヘラヘラしている日下部に対して、若干鬱気味になっている俺の後ろから、また
もや聞き慣れた声がしてきやがった。

「やふー、キョンキョン」
「ほんと、本当に勘弁して下さい」

今度は後ろを振り向く事もなく、全力で面倒を避けてやる。
今の俺は挨拶すら億劫なんだ。

「むぉ!朝の挨拶をしたのに、その態度はなんなのさ!」

ちょあー、と何ともマヌケな掛け声と共に腰に打撃が入る。
だが徹底的に反応はしない。
既に気力ゼロ宣言はしてあるのだ。

「あれー、ちょっと泣きそうですヨ?こんちくしょい!」

もう2、3発腰にチョップを喰らいながらも、俺は黙々と頂上の学校を目指す。
隣の日下部までもが頭にチョップを繰り出してくるが、俺は徹底的にリアクションはし
てやらない。
リアクションゼロ宣言だ。

「むぅ、こうなったら…とう!」

再びマヌケな掛け声が聞こえたかと思えば、何を思ったか小さな両手で俺の腰をがっ
ちりホールドしてきやがった。
流石に驚き、足を止めて不測の事態の対処に回る。
横に居た日下部の「おぉっ」という感嘆めいた謎の声は放置だがな。

「お前は何をしてるんだ…」
「やっと会話のキャッチボールが出来そうだねキョンキョン?」

目を細くした、したり顔の青い髪の小人が意地悪い声で言う。

「逆に面倒な事になりそうだったので、俺は観念してその珍生物とコミュニケーション
を、嫌々ながら取る事にした」
「ちょ、本心だだ漏れだよキョンキョン!?そんなに嫌かネ!?」

いつまでも腰に張り付いている青髪ちんまりっ娘。
すごく……目立ちます……

「なぁ、そろそろ暑いから離れてくれないか?」
「おんやぁ?美少女に抱きつかれて体温上昇中ですかな?」
「バカを言うな。誰が美少女だ」
「そこを否定するの!?」

ようやくイソギンチャクならぬ腰ギンチャクをやめた青ギンチャクは、俺の右隣を並
んで歩き始めた。
因みに日下部は俺の左側で欠伸をしながら歩を進めている。
眠気が抜けてないなら、俺にちょっかいを出さず大人しく山頂を目指していてほしかっ
たものだ。
朝から元気と陽気だけで形成されている様な2人に絡まれたせいで、まだ坂を半分も
登っちゃいないのが憂鬱でならない。
ふぅ…と軽い溜め息をつくと、またまた後ろから声が掛かる。

「朝からどんよりしてるわね、キョン君?」
「おはよー、キョンくん」
「ああ、おはようさん」

次に現れたのは比較的大人しい柊姉妹だった。
ようやくまともな人材が来てくれたのはありがたい。
それぞれ挨拶を交わし、会話を弾ませながら歩を進める。
このまま騒がしい2人を引き継いでくれたら助かったんだが、そうはいかないのが俺
の周りにいる女の子達です。

さっきまで楽しそうに話してたかと思えば、こなたとかがみが急に立ち止まって口喧
嘩を始めやがった。
内容のくだらなさに、放置して先に学校を目指そうかとも思ったが、そうもいかんだ
ろうな。
いい加減この天然日焼けサロンから逃れたいんだが…
雲よ、少しでいいから体を張ってくれないか?

「――だから、何で寝ちゃうのよ!いつもゲームして夜中まで起きてるんでしょ!?」
「ノートや教科書見てたら睡魔がね…眠気には逆らえませんヨ」
「珍しく朝早くから来てるかと思えば、私のノートを写す為なんて…情けない」
「よろしくお願いします」
「出てる宿題が違うんだから写せないでしょうが!」
「アチャー」
「アチャー、じゃないでしょ!」

ふむ、かがみと日下部は俺と同じクラスだが、こなたとつかさは別クラスだからな。
出る宿題の内容が違うのは当然だ。
口論している2人の後ろでつかさがしょんぼりしてるのは、最初からこなたに戦力外
と見なされているのと、実質自分自身も宿題をやっていないからだそうな。
その横で居心地悪そうな日下部も、宿題を忘れてた為に、かがみに頼もうと家を早く出
たからだと。
揃いも揃って、この勉強嫌い軍団は…

「とにかく、だ」

いつまでも終わらないかがみの説教に割り込み、一旦強制的に終了させる。

「こんな所で時間を浪費するより、とっとと教室で宿題を済まさせたらどうだ?」
「そりゃそうだけど…」
「因みに、俺も宿題を終わらせてないんだ。かがみ大明神に頼もうと思ってたから丁度
良いな」
「えっ、キョン君も?」

まぁ、これはブラフだ。
『赤信号、皆で渡れば怖くない』とは違うが、これだけ頼る奴がいりゃ、かがみも了解
せざる得ないだろ。

「…もう、仕方ないわねっ」
「あれあれー?キョンキョンには説教無しですか」
「うるさい!早く学校に行くわよ!」
「ひいきだひいきー」
「だまれ!」

俺の思惑が功を湊したのか、かがみも全員を急かす。
結局のところ、こいつは友達想いの良い奴なのだ。
こなた、日下部。元凶であるお前らも、茶化してないで早く行け。

…と、ようやく道が開けたかと思えば、またもや面倒な奴が現れやがった。

「よう、キョン。両手どころか周りに花だな」

言うまでもなく谷口のバカだ。
こいつは完全に無視しても問題無いのだが、とりあえず一発入れて物理的に黙らせる。
これ以上時間を無駄にしたくないんでな。

谷口が倒れた場所から少し進むと、ピンクの髪を揺らして、のんびり歩くみゆきさん
の後ろ姿を捉えた。
流石みゆきさん。俺達よりも早く学校に向かっていた様だ。
早速こなたがみゆきさんに声を掛ける。

「おはよー、みゆきさん」
「あら、皆さんお揃いで。おはようございます」

みゆきさんの柔らかい微笑みを見て、俺は電球を頭の上に輝かせる。

「こなたとつかさはみゆきさんに宿題を見せて貰えば良いじゃないか」

俺の発言を受けて、こなたとつかさも電球を頭の上に光らせた。
最初から気付いてたら無駄に時間を喰う事もなかったんだよな。
それからみゆきさんに事情を説明し、了解を得てから談笑をしながら歩を進める。
みゆきさんが居れば、2人も大丈夫だろ。

――気付けば、かなり大所帯になったもんだ。
俺も暑さを忘れて会話を楽し…めたら良かったんだが、明らかに坂を登る前より気温
が上がっている。どういうこった?
いや、まぁ……こんだけ人に囲まれてりゃ、俺の周りだけ温度が上がってもおかしくな
いか。

額の汗に不快感を感じ始めたのと同時に、我が学舎を確認する。
その校門の前の人物の姿も……

「おお、ハルにゃんジャマイカ」

こら!こなた!しっ!目を合わせちゃいけません!
そんな意味を込めて口を塞ごうとしたが、時既にお寿司。
我が団の団長様が、振り向くと同時にジトーっとした目で俺を睨みつける。
そのまま校門をくぐれば良いものを、呼び止められた場所に仁王立ちしながら…な。

「良いご身分ね、キョン?女の子をはべらせて登校?」

いや、はべらせてはいない…と思うぞ。
というより、お前に睨みつけられる筋合いは無いだろ?

「ふーん…教室に着いたら下敷きで扇ぎなさいよね。暑くてしょうがないもの」

俺が扇いで欲しいくらいです団長様。
当然でしょ?と言う目で一睨みし、ハルヒはそのまま校舎に入っていった。
俺はハルヒの奴隷じゃねぇっつーの!
某ガキ大将のセリフを心の中で叫び、肩を落とす。

「キョンキョン、愛されてるなぁ」
「あいつのどこをどう見たら好意を持った行動をしてると思えるんだ…?」

最後の最後で気が重くなったが、ようやく校舎に辿り着けた。
まるで長い旅でもしてきたかの様な気分だっぜ。

「まるでギャルゲの主人公の登校風景みたいだネ」
「お前は何を言ってるのかネ?」

「――…俺の殴られた意味は?」

昇降口で靴から上履きに履き替えていると、何ともトーンの低い声が後方からした。
そこに居るであろう人物に対し、俺は澄まし顔で振り返ってやる。

「おぉ、生きてたか谷口」
「他人事の様に言うんじゃねぇ!」

俺にとって、お前の位置関係ならこんな感じの対処で大丈夫だと思ってたんだがな。
やれやれ、面倒だが弁明はしておくか。

「まぁ、なんだ。簡単に言えば単なる八つ当たりだな」
「弁明になってねぇ!?そしてあの素敵空間に包まれて、どこに八つ当たりする理由が
あるんだよ!?」

あー…こいつが何を言ってるのか誰か教えてくれないか?
あのクソ暑い屋外のどこが素敵空間なんだ。

「この八方美人!!フラグ一級建築士!!お前なんか友達じゃねぇ!!」

ちきしょーっ、という鳴き声……もとい泣き声を上げて走り去っていく谷口。
あいつには、いつか良い医者を紹介したいと思う。

「さて、俺も教室に急ぐか」

少しばかり不機嫌な顔をした団長様と、子供染みた友人に手を焼いている巫女さんの
待つ、見慣れた日常へ…な。


「何キレイにまとめようとしてんだ」
「なんだ、まだ居たのか谷口」

ーおわりー



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最終更新:2008年07月08日 22:14
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