七誌◆7SHIicilOU氏の作品です。
「と、言うことで一周年だそうですねキョンさにゃ」
青髪少女がへらへらと笑みを浮かべて俺の肩を叩く
「エヌが一個足りないぞ馬鹿め」
俺は白い椅子に座ったまま手の甲で少女の頭を叩き返す
「へっへー、一年とは長いようで短いようですなぁ」
下品な笑い方をさらにあげて悪人顔をする少女
「まったくだ、一年目から二年目にかけてが一番別れ易い時期だ気をつけろ」
俺は白い机に乗った白いハードカバーの本を開く、中身は白紙
「原点回帰で書くそうね」
どこからか紫のツインテールをした少女が現れて言う
「原点も何もない気がするがな」
俺は白紙のページを一枚一枚吟味して捲る
「始まりに回帰するのは終わりの時と相場は決まってるんだけどね、懐古って感じ?」
肩越しに俺の手元を覗き込みながら青い少女が言う
「で、これもいつまで続けるの?」
ツインテールは腰に手を当てて語気を強めて言う
「そうだな、この空間はいまいち退屈だ」
覗きこむ少女の鼻をはさむ勢いで本を閉じて俺は呟く
「それじゃ第四回共通お題『とぅいんくるまいはー』どうぞー!」
青い少女が言うと同時に白い本の表紙に絵が描かれた―
「あの、ちょっと、前の人や、黒板が見えないんでちっとどいちゃくれませんかね?」
板書合間を使ってノートの端に落書きを連ねていると
ペンの後ろで背中を叩かれながら声をかけられ、振り向く
誰だっけこいつと眉を顰めて、とりあえず言われた意味を考えて少し体を捻る
髪のずいぶん長い少女、しかも特徴的な青い髪をしている
どんな風に脱色すればこうなるのだろうかと単純に疑問である
「あぁ、悪いね。すぐ書き終わるからさ…」
カリカリと言う擬音とともにノートに文字が書かれていく
この少女は少々ばかし字の書き方が乱雑だとお見受けするね
…それに、俺は髪型に一言申す人間だが最初に髪の毛に目がいったが
しかし黒板が見えないと言うだけあってどうにも全長が短めである
「ん…、っとこれでおっけだね。サンクス!」
「いや構わないが、…名前なんだっけ?」
聞く、わからないものは聞くのが一番楽だ
聞くは一時の恥とか言う、くそみたいな文言は嫌いだが
しかしこの場合は、まぁ聞く以外の手立てが無かろうて
「…ひっでぇ、この人リアルでひでぇぜ」
どうやら選択肢のチョイスを間違えたようである
少女は顔を歪めて俺を”え~? なにぃ?” みたいな目で見てくる
そんなにまずったか? 確かに新学期始まって既に三ヶ月目に入ってるけど
「泉こなたですよ、前の人」
「こなた…ね」
ん、聞き覚えがある気がする…って自己紹介があるので当然だが
というか、俺も前の人という呼ばれ方をされてるのだがそれは失礼ではないのか?
「オラそこ! くだらんこと喋るな! そんなに喋りたきゃ廊下いっとれ!」
「うぃ~す」
黒井担任に怒鳴られて本当に教室をでようとするこなた
…あれ? デジャブ感が激しいな、なんかこんなことがあった気がする
唐突に
世
界
が反転する
「どうも、あんたがキョン君ね?」
「あんたが巫女さんのかがみさんか」
紫色の、こなたに負けず劣らず特徴的な髪をツインテールにした柊
隣のクラスのこなたの友達で、同じクラスのつかさの双子の姉だそうだ
「ちょっとこなた! なんて紹介のしかたしてんのよ!?」
「事実じゃ~ん」
後ろで見物してたこなたがかがみに追いかけられ
二人で笑いながら中庭を走っている
風が穏やかに吹き、夏の居心地のいい日差しと木漏れ日が周囲を支配する
まったくおしとやかさに欠ける女子達である
「こけるなよ~?」
走る二人に言って、頭に鋭痛が走る
こんなことが前にもあった気がして…
世
界
は 二
転 転
三
と様相を変えていく
「我々SOS団で映画を作るわよ!」
ハルヒが日本一と書かれた扇子を振りかざして叫ぶ
部室に居る団員は種々様々な反応をのんびりと見せる
動揺してるのは朝比奈さんとつかさぐらいのものだ
俺は古泉とみゆきとダイヤモンドゲームをやる手を止めることなく聞く
「映画ってどういうことだ?」
「とうぜん私達で演出、撮影、演技等隅から隅まで私達が作るのよ」
これが台本と各人が演じる役よ、と台本と配役の紙を渡される
俺は…撮影、演出、音声、荷物もち、その他雑用――
「ちょっと待て、もっと誠実な役割分担のしかたを提言するぞ」
「却下」
一瞬で、一蹴された
俺は朝比奈さんが入れてくれたお茶を流し込んでため息をつく
「勝手にしてくれよもう」
早 送 り と
し 戻 き ま
を同時に行うように
世界は回る
「先輩、なにしてるんですか?」
俺が廊下で窓から身を乗り出して涼んでいると
みなみがプリントを大量に抱え、脇から顔を出して話しかけてくる
そんなに紙を抱えて、持ってるだけでも大変だろうに
他人に対する気遣いというものを持っている
俺の周囲の人間では稀有なタイプである
「ツバメと会話してた」
たまたま窓の外を飛んでいるのが視界に入り
少し後輩に対しふざけて返してみると
人が良すぎるみなみはそれを真に受けて、書類の重さもなんのその
テケテケと俺に近づいて窓から顔をだし周囲を見渡す
「あの…ツバメさん~?」
まったく可愛い後輩である、ゆたかや妹が懐いてるのがよくわかる
俺は窓から風が吹いて外に飛ばされないうちに書類を勝手にみなみから受け取る
どうせ先生に運ぶように頼まれて、拒否できなかったのだろう
「あの、先輩悪いですから」
「いいからさ、どこに運べばいいんだ?」
顔を伏せて少し頬を朱に染めて礼を言うみなみ
可愛いと思いつつ、同時に頭痛が響く
世界が動きをとめた
「うわっ!」
舞台裏のマットから起き上がりながら俺は声をあげる
体育館特有のあの臭いが漂っている
「…寝ちまってたのか?」
最近はずっと遅くまで練習続きで寝不足続いてたからな…
俺は脇のエレキベースがマットから落ちかかってるのを見て自分に引き寄せる
腕時計の表記は三月の九日、卒業式。俺達の、卒業式
最後の最後でSOS団で演奏することになったこの日俺は高校生を卒業する
「あんたなにやってんのよ!? そろそろ出番よ?」
「まったく、卒業証書もらう瞬間まで忙しないな俺達は」
ベースを肩に担いで眠気の残る眼を擦り欠伸をする
「まぁ、それも僕達らしいじゃあないですか」
チェロを重そうに抱える古泉がひょっこり現れて言う
あぁその通りだと思う、結局最初から最後まで俺達はなにも変わっちゃ居ないなと
「ハルちゃん? キョンキョンは居たかい?」
「早く早く! なんかみんなに声かけてやってよね、峰岸もつかさも緊張しちゃってまったく…
ってキョン、あんた寝てたでしょ!?」
こなたと柊が喧々と現れる、本当に騒がしい連中だが
それも今日でしばしの別れ、そう思うとまったく切ないものだ
赤い幕のしまった体育館の壇上、総勢14人のメンバー
持ち場について幕が開いて高校最後の見せ場の時を待ち
落ち着き無く引きつった笑みを浮かべている
俺はそんな連中の前に立って、数分のうちに見た思い出を回想する
「夢をみたんだよ」
みんなが俺を見る。誰かの前で演説なんてのは、やっぱり俺の柄じゃない
「昔の、一年の頃からの思いでを、順番に夢に見た」
始めましての日から今日まで、徹頭徹尾変わらずに騒がしくそして笑ってた
「俺達がであってから、なにも変わってない、これからも変わらない」
大体こういうのはハルヒの役割だ、ベースを中心に持ってくるな
「卒業しても変わらない」
よな? 心の中で問いかけてみる
果たしてそれは答えが帰ってくること無く、幕が開いて俺はみんなから眼下の生徒達に眼を向ける
答えなんて聞くまでも無いこと、そんなものがこの世には確実に存在するんだと理解していたから
「やれやれ」
Back To The ――
「というお話だったのさ、終わりって事で一つ」
青い髪の少女が後数ページ残った本を強制的に閉じる
「なにをするんだよ、まだ終わってないんだぞ?」
気分を害された俺は、しかしまた開くことは無く本を机に置く
「物語には引き際があるんだよ、何事もね、今回は特にそれを鑑みるべき」
青髪少女は椅子の背に座って俺を背中を合わせる
「原点とそれから始まった事柄を線で結んでいく、それだけならただの折れ線グラフ」
青髪少女はカタカタと足を揺らす
「でも終わりの瞬間を始点と同じところで迎えれば、線はつながり何かを囲む」
囲みの中は、その者達が得た歴史、思い出
「原点たる場所に回帰するということは、なにかを囲み、新たな円を作り出すこと」
ならばこの本の世界の俺達はなにかを囲み、そしてまた先に進むのだろうか?
「さぁね、それはこれからのことだよ。これで終局を迎えるかもしれない」
全てがわかるのは死すべきとき、と?
「それもみんな、あなたを含めた向こうの人たちが決めることだよ?」
青髪少女はそういってこの空間から掻き消えた
「…俺もそろそろ次の世界に行きますか」
たくさんの白い、そして描かれていく本の中身、その一つに俺は姿を消した
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