カラータイツが流行っていると聞いた。
情報源は私が姉と慕うみゆきさん。ああ見えて流行に敏感な人なので間違いはないだろう。
それで、流行っている、ということは、
「……ウケがいい」
今まで流行りモノのファッションに手を出したことはなかった。
誰かに「イメージと違う」とか「無理しすぎ」とか言われるのが怖かったから。
でも、カラータイツなら。
私は普段からタイツを履いているし、マイナーチェンジしたぐらいの違和感しか生まないはず。
「これなら、いける」
ところで。
いけるのはいいとして、何色にすればいいのだろう。
せっかくの機会だし、自分の殻を破る勢いで派手な感じに――
「赤、とか」
情熱の色、いい女の色、ヒーローの色。最後のあまり関係ない。
私服のストックにも少ない色だから、「変わる」という意志表示にはぴったりだ。
けど私が赤というのはおこがましいだろうか……ちょっと、赤っぽくなった私をイメージしてみよう。
『キョンの物はあたしの物、あたしの物はあたしの物! キョンのくせに生意気よっ!』
やめておこう。
オリジナルが強すぎて、勝てる気がしない。
「青にしようかな」
対極の色に走ってみる。今度は、知的でクールな色……って、戦隊ヒーローのノリだ。
考え方としては間違えてないかも。男の人が色でまず連想するのって、それだろうし。
私自身にも「クール」というレッテルが貼られているようなので、似合わないってことはない、はず。
でも、同時に孤高のイメージがある色だし……。
『くっくっく、色付きの肌着に欲情とは、君にも変わった趣味があったものだね』
さっきの後を引いているのか、モデルまで対極に。
「……緑」
素直に、自分が好きな色に戻ってみた。ゲンを担いで物を買うとき、だいたいはこの色だ。
アクセサリー、合格のお守り、勝負ぱ――げふん、とにかく、今までのパターンからも筋は通っている。
俗に「癒し系」とも言われる色だし、マイナスポイントはない、はず。
でも……変わった、という気はあまりしない。
まず外れではないだろうこれは保留にしておいて、他の可能性を模索してみよう。
「明るい黄色」
……正直、ないと思う。
私のような無口女が黄色をまとったら歪になること請け合いだ。
どことなく幼い感じだし、私の背がもっと小さかったら似合っていたかもなあ。
『だってヴぁ!』
……えーと。
せ、精神的に幼い場合も似合うってことで……ああああ日下部先輩ごめんなさい。
どっちにしろ、私には無理のある色だ。
「オレンジの方がいいかな」
黄色よりは幾分か落ち着いているし、こっちの方が暖かみがあるかもしれない。だってストーブの色。
いや……オレンジは、みゆきさんが好きな色だ。情報を頂いただけに、かぶったら申し訳ない。
同じ理由で、みゆきさんのイメージカラーであるピンクもアウト。
……ゆたかは桜色が好きって言ってたから、ピンクが使えないのはちょっと残念かも。
そうだ、ゆたかといえば。
「いっそ白で」
我が友人の性格面でのイメージカラー、ピュアさの象徴である純白。
なんとなく、長門先輩っぽくもある。
でも……白タイツって、どこかで……いやそれどころか割と頻繁に見ているような。
あ。
バカ殿。
「……」
い、いやいやいや、もっと他にも王子様とか、バレエダンサーとか、そういう人も白タイツだし。
だ……ダメだ、ファーストインプレッションが……消えないっ。
もう真顔で白タイツを履ける自信がなくなったので、なし。ごめんなさい……。
「紫……かな」
普通に考えたら白の反対は黒だけど、それはいつも履いているので除外。
純真さの反対は妖しさということで、オトナの女っぽく紫を。
何気に一番人気の色みたい。みんな、大人らしさに憧れるものなんだろうか。
だけど、私はもとがこんなナリだし……近寄りがたい感じになってしまわないだろうか。
いや、自分のことを大人びていると思っているつもりはないけど。
「模様……」
妖しさの路線でいけば、何か複雑な模様があったりするのもアリかも。カラーじゃないけど。
あの、パンストとかによく描かれてる、唐草模様が更に進化したような、えーと。
なかなか出てこなかったのでみゆきさんに電話して聞いてみる。
『ペイズリーです』
なぜか卑猥に聞こえてしまった。
やめにした。別に、自分の体形からくるコンプレックスが原因ではない。決して。
「しましまなら……」
せっかくなので、もう少し模様の線でいってみる。
前にニーソックスで見た柄。ちょっとマンガっぽいけど、結構人気はあるみたいだった。
これくらい奇抜なデザインの方が、思い切ったイメチェンにちょうどいいのかも。
そう、タイツも見せられて脚の長さも活かせるホットパンツなんか履いたりして。
タイツとほぼセットにされているブーツなんか履いたりして。
すっかり手に入れたつもりで、ファッションを組みたてつつカタログを漁ってみると、
「……売ってない」
ここにきてこんな根本的な問題にぶち当たるとは。いったいどうすれば……。
「そうだ、聞いてみよう」
いざ変わろうってときに誰かを頼るのも情けないけど、決められないのだから仕方ない。
さて、誰に聞こう?
「……キョン、先輩……」
私が「変わろう」と思ったきっかけの人。
いきなり「私に似合うカラータイツは何色?」なんて訊くのは不躾すぎる。
ここは先輩の好きな色を尋ねるのが、自然かつモアベターだろう。
……あなた色に染めて、とか。
「違う違う違う違う」
恥ずかしい妄想を頭の隅に追いやって、ケータイに番号を打ち込む。
決死の覚悟で入手したアドレスだけれども、お世話になることは滅多にない。
用がないのに電話する、なんて私には無理な芸当だし、第一先輩に迷惑がかかるといけない。
……好きな色を聞くだけって、用と言えるのか?
ふと「やってしまった」と思ったが、すでに電話は通じてしまった。
『俺だけど。どうした?』
「先輩の好きな色は何ですか?」
やってしまった。
単刀直入すぎるだろ私。もっとこう、落語で言う枕みたいな……。
それでも日々の積み重ねのおかげか、人間のできているキョン先輩は律儀に答えてくれた。
『だけど、何でまたそんなことを?』
いえ何でもないです……と言いそうになるのをぐっと堪えた。
「何かある」ときの定番のセリフだ。それを突っ込まれたらもっと面倒なことになる。
――そうだ、ここは正直に話して、それで――
腹をきめて尋ねる。「先輩、カラータイツってご存じですか?」
『ああ、知ってる』
説明する手間が省けて、良かったのか悪かったのか。もう少し先延ばしにしたかったかも。
さあ何て言おう。もし良かったら私に似合いそうなカラータイツを一緒に選んでくれませんか、とか言っちゃって
『あれ流行ってるらしいけど、どこがいいんだろうな?』
そのあとの「ですよねー」という相槌は、今までに出したことがない声だった。
先輩も私の急激なテンションの変化に少し驚いていたけど、深くは聞かないでいてくれた。
「……」
通話を切ったあと、ベッドの上を転がりまわった。
「どうしようどうしようどうしようどうしよう」
カラータイツに興味がないふりを装ったけど、先輩は妙に勘の鋭いときがあるので感づかれたかもしれない。
というか「色を聞く」「カラータイツを話題に出す」という無駄のない話の流れ……口べたな自分が恨めしい。
でも、収穫はあった。
『いや、特に何が好きってわけじゃないが……今は、黒っぽい色かな』
バレてようがなかろうが、開き直ってキョン先輩好みにイメージチェンジして、一気に目的を果たすのも手だ。
でも……黒はいつも履いている。そして、カラータイツはダメ。
こうなったら網タイツか。