みっしょんin七夕バースデイ

◆ugIb3.rlZc氏の作品です。


「…そういえば、そろそろ七夕よね」

ボソッと、そう呟いたのは誰であろう、我が団の団長様である。
『団長』と書かれたポップの置いてあるハルヒ専用TUKUEに肘を着き、その肘を着けて
いる手で頬を支えているハルヒ。
表情はボケーッとしてる様な、アンニュイに満ちたものだ。
視線が明後日の方向を向いているところを見ると、特定の誰かに宛てた発言ではなく、
無意識に出た独り言だろうな。
軽くメランコリックになっている理由を、『七夕』というキーワードで探ってみる。
……まぁ、深く考える程でもないな。
俺の目の前で薄い笑みを浮かべている古泉も、恐らく同じ考えに至ったのだろう。
不気味にも目配せをしているからな。
俺はとっとと古泉とのアイコンタクトを切り上げ、他の団員の様子を窺う事にした。

朝比奈さんは、お茶を淹れる場所でハルヒと俺に視線を交互に移動させ、少し逡巡した
後ハルヒの机にお茶を置いた。
長門は……まぁ、特にリアクションはせず、黙々と読書を続けている。想像に容易いの
もどうかと思うがな。

7月7日、七夕――と言えば、ハルヒは勿論、俺達団員にとっても思う処のあるイベン
トだ。
この部室に居る奴らの、此処に居る理由とも言える、起源となる出来事が起こった日。
ハルヒは四年前の七夕に、ジョン・スミスこと俺との出逢い。
古泉はその同日に超能力者として目覚め、朝比奈さんは、その日に起こった大規模な時
空震がハルヒの起こしたものだという事で、未来から調査に来ている。
長門は、ハルヒの力は人類の進化の可能性だとか何とか、俺には未だに意味の分からん
理由でハルヒの観察を始めた。
俺は……何だろうな?
…とまぁ、それぞれに何かしらの影響を及ぼした日なのだ。
かと言って、感慨に浸っても今現在は単なるイベントだ。
天の川に橋が架かり、彦星と織姫が一年に一度出逢う日、というだけの事。

考えを巡らしている間、宙を漂わせていた視線をハルヒに向ける。
左腕は肘を机に着けたまま、右手の人差し指で机をトントン叩いている。
机に穴を空けたいのかハルヒ?何をイラついているんだ?
さっきまで退屈そうな顔をしていたハルヒだが、気付けば険しい表情に変わっていた。
感情の起伏が激しいなオイ。

そのまま、こちらから話し掛けたりはせず、ハルヒの様子を見守る。
イライラが頂上付近に達してきたのか、机を叩く指のスピードが上がっていく。
おいおい、爪が割れちまうぞ?
そう心の中で突っ込んだ筈なのに、ハルヒはいきなり俺をキッと睨むと、勢い良く立
ち上がり、溜めに溜めたイライラをぶちまけた。

「ちょっとキョン!今日は何かあった気がするのよ!何があったっけ!?」

いや、そんな唐突に言われてもな。
と言うか、例の出来事を思い出してたんじゃなかったのかよ。
実際に口には出さないが、呆れ顔で応える。
感慨に浸っていたのは俺達だけかよ…と。
ハルヒは机の向こう側でウロウロ歩き、何かを必死に思い出そうとしている様だ。
落ち着け。もう少し具体的に何を思い出したいのか言ってみろ。

「それが分からないから聞いたんじゃないバカキョン!」

…お前が分からないなら俺達にも一生分からんだろうよ。
俺の発言で更にボルテージを上げたハルヒが手を浸けてなかったお茶をグイッと飲み
干す。
良い飲みっぷりだ。
まぁ、俺も真面目に考えてやるか。

七夕…七夕……七夕?
…ふっふ、たった一つのキーワードで俺は答えに辿り着いてやったぜ!
これだと確信した俺は、ハルヒに向かって自信満々に答えてやる。

「――ポニーテールの日だ!! 7月7日、七夕はポニーテールの日だろう!?」

瞬間、ハルヒの冷ややかな視線が俺に突き刺さった。
そ、そんな目で見るな!俺は真剣に考えたんだぞ!?

はぁっ…と盛大に溜め息を吐かれ、部室の隅で体操座りにでも移行しようかと思った
処で、部室の扉が見慣れた人物の手によって開け放たれた。

「やふー、皆さんこーんにーちはー!!」

陽気な挨拶で勢い良く扉を開き、既に部室の隅に歩き始めていた俺の足に思い切り扉
を命中させた人物の名前を呼んでやる。

「こなた……ノックぐらいしないか?」
「ああ、キョンキョン居たの?」

青髪で、小学生並の身長と元気を備えたこの泉こなたは、俺に扉と接触事故を起こさ
せた事に悪びれもせず、ズカズカ部室に入ってきやがった。
不機嫌な眼をこなたにも向けるハルヒ。
それに一切動じず、こなたは部室内を一瞥すると、まず、こう切り出した。

「3日後が何の日か覚えているかネ?」

――で、俺は今非常にグッタリしている訳だ。
俺の視界には、店内をあっちこっち移動しているハルヒが映っており、俺はその光景
をただジッと眺めている事しか出来ない。
ハルヒは、何かしら良い品を見つけてきては俺に見せ、

「これはどう?喜ぶかしら?」
「あー…良いんじゃないか?」
「ちゃんと考えて物を言いなさいバカキョン!」

俺を罵り、また品定めを開始するという行動を繰り返している。
ハルヒが選んで勝手に持ってくるのなら、俺が疲れる道理は無いだと?
それは違うな。
上記と同じ出来事を繰り広げるのは、もうこれで三店舗目なのだ。
じっくりと物品を眺め、良い物が見つからなければ次の店舗へ移る。
街中を連れ廻されて、俺の膝がケタケタ笑い始めたのは、もう一時間は前からだ。
因みに、ハルヒと駅前で合流してから早四時間は経っている。
女性は買い物に時間を費やすのが得意とは言え、些かやりすぎではないだろうか?
だが、俺は文句を口に出したりはしない。
何故ならこのハルヒの行動は、俺にとっても喜ぶべきものだから――

「――誕生日?」

部室に突入してきたこなたが、勿体つけるように七夕にあるイベントを言った処で、
俺が聞き返す。
こなたはうんうん頷き、部室に掛けてあるカレンダーを指差して、

「七夕には、柊姉妹誕生祭があるのだよ!」

ふふん、と、特に衝撃的でもない事を大袈裟に発表した。
俺は、そういやそうだったなと柊姉妹の顔を思い出し、それからハルヒの方を振り返
って、覚えてたか?と問おうとしたが、一気に晴れやかな表情になっている奴にビクッ
と身をよじる。

「そうよ、誕生日よ!ポニーテールの日だとかジョン・スミスなんかじゃないわっ!!
かがみ達の誕生日じゃない!!」

…ああ、アレは一応思い出してたんだな?
急に嬉々とした顔をしているハルヒに確認をとる。

「お前が苦虫噛んだ如き顔してたのはその事なのか?」
「そ!去年は事後に知ったから今年こそはと思っていたのよ!」

…泣かせてくれるじゃないか。お前の成長ぶりに父さん感涙ものだよ。
ちょっと前まで、友達なんてクソ喰らえオラオラな態度だったのになぁ…
俺がホロリとハンカチで涙を拭く真似をすると、ハルヒにつっこまれた。

「あんた何か失礼な事考えてない?」

――とまぁ、これが昨日の出来事の続きだ。

既に理解した事ではあろうが、念の為に言っておく。
ハルヒが探しているのは柊姉妹の誕生日のプレゼントだ。
友人の為に駆けずり回っているあいつに、誰が文句を言えるだろうか?
言える筈がないだろ?
郵便ポストに、何でお前は赤いんだ?なんて聞く様なものだ。
ただ、これだけ時を費やし、慎重と真剣を掛け合わせた如く動いたんだ。
そろそろ終わらせてくれてもいいだろうよ。

「キョンー。次行くわよー」

何時の間にか店の出入り口に移動したハルヒが、地獄はこれからだと言わんばかりに
付いてくるよう促している。
店の隅の壁に寄りかかっていた俺は、額を手で押さえ首を振る。

「やれやれ…」

――結局、ハルヒとの地獄巡り…もといショッピングが終了の鐘を鳴らしたのは、日
が暮れ始めた頃だった。
ハルヒは悩みに悩んだ末に選んだ物に満足したのか、スキップにも似た軽快な足取り
で、俺を放置して帰っていった。
俺もさっさと帰路に着こうと思ったが、そうもいかない。
俺のプレゼントは買ってないのだから。

「傍若無人にも程があるぞハルヒ…」


次の日、七夕の前日に俺は泉家のチャイムを鳴らしていた。
ピンポーンとありがちな音が鳴り、少しの間の後、玄関から直接こなたが顔を出した。

「おぅ、いぇあ!うぇるかむキョンキョーン!」
「他の皆はもう来てるか?」

こなたの挨拶にリアクションはせず、とっとと中に侵入する。
玄関先で漫才などしてられんからな。

「ちょっとちょっと!そこはキョンキョンも欧米風に挨拶を返すとこでしょー。ホッペ
にキスしたり」

いや、あれは実際にキスをしてるのではなく、頬と頬を寄せて唇でチュッと音を出し
てるだけ……なんてのはどうでもいい。
本題に入る為にもとっとと部屋に案内しろ。
こなたはブーと頬を膨らませ、渋々といった感じで自室に向かって歩き出す。
そこで渋る意味が分かりかねるな。

階段を上り、こなたの部屋の前まで行くと、騒がしい声が聞こえてくる。
玄関の靴の数からして大人数だと分かってはいたが……何人来てるんだ?
こなたが部屋の扉を開け、徐々に見知った顔が目に入っていく。
見事に女子ばかりだな。
…が、それ以上に気になる物が目につく。

「よし、何してるのか言ってみようか?」

女子共は輪を描く様に互いに顔を見合わせれる形で座っているのだが、問題はその輪
の中心にある物だ。
先の俺の問い掛けに、奥に座っていたハルヒが答える。

「何ってお菓子食べてるのよ。見て分からないの?」
「お前らは何しに来たんだ?宴会か?どんだけ菓子と飲み物を持ち寄ってるんだ」

確かに人数は多いが、明らかに食べきれる量ではない。なのに全ての菓子を開けちま
っている。
パーティータイムと言わんばかりに、スナック系の袋は全開。クッキーやチョコは、
わざわざ皿に移してある程だ。
呆れて首を横に振っていると、扉のすぐ近くに座っていた八重歯が床を叩いて、

「ほら、キョンも座れよっ」

と、俺にも宴会に参席するよう促す。
まぁ、何時までも突っ立っていても仕方ないしな。
みさおが叩いていた床の辺りに俺も座って、改めて皆の顔を見る。
俺の座った場所から時計回りに、みさお、峰岸、みゆきさん、ハルヒ、何故かハルヒ
に捕まって膝に座らされているゆたかちゃん、長門が足を崩して寛いでいる。
そしてこなたが俺の右隣に座り、合計8人のサークルの完成した。

「で、本来の目的を忘れてないだろうな?」

この散らかった部屋の中で行動開始などしたくないぞ?
菓子の山を見つめて溜め息を吐くと、俺の確認にこなたが応える。

「じょぶじょぶ。ベッドの上に用意があるヨー」

そうだな。用意が無けりゃ始まらないよな。
だが俺が聞いてるのはそこじゃないんだよ。分かるか?
俺は菓子に手を伸ばしてクッキーを1つ摘んで口に放り込み、ゆっくりと咀嚼をし、
そして呟く。

「…まずは片付けだ」

――勿体ない事に菓子の大半は焼却炉行きになったが、これでとりあえず準備の為の
準備はOKだ。
全く、本番は明日だってのに、今お前らだけでパーティーを始めてどうするのかと。
一先ず、ベッドに置いてある小さいダンボールからブツを取り出し、各々の分担を決
め、作業に取り掛かった。
まぁ、こういった共同作業をする中で、一人二人はふざける輩がでるものだ。
事前に注意を促すのも保護者の勤め…

「作業の途中で遊びだしたりするなよ?こなたにみさお」
「何で私達だけなのさー」
「みんなに言えよなー」

子供染みた事をするのは精神年齢の低いお前らだけだからな…


「――なぁ、お前らは言った傍から何をしてんだ?」

部屋の飾り付け様に買っていた風船でハシャいでいる、俺の記憶が確かならば俺と同
年齢であるはずの少女達。
手で弾かれ、足で蹴られ、最後には無惨にも弾けて消えた風船。
そしてパンッと風船が割れた音に驚き、持っていたノリを思い切り握り締めてしまっ
たみゆきさん。
かくて、俺の目に移った光景は悲惨なものだった。

「たった数分でグダグダだな。いや、部屋に入った瞬間からグダグダだったか」

笑顔を引きつらせて、全力で土下座モードに入っている二人に説教する。
二人?いやいや、もう一人知らんぷりしている奴が居るな。
我関せず的なオーラで黙々と作業をしている人物にも説教だコラ。

「ハルヒ、何か言う事があるだろ?」
「べっ、別に何も無いわよ?ほら、あんたも早く飾り作りなさいよ」

あくまでも知らぬ存ぜぬか。俺は見ていたぞ?お前の所業を。
ただ単に風船を叩いただけじゃ割れん。何か鋭利な物で刺さない限りな。
そう、その元凶のハサミを今まさにハルヒが使っているのだ。
俺はハルヒの背後に回り、肩を叩いて、

「ノリでベタベタになった折り紙の代わりを買ってこような」

――結局、全ての作業が終わったのは、星が出る頃だった。
こなたの部屋で作った飾りは、綺麗にリビングへ飾り付けた。
その出来映えを見た俺の感想は、

「…幼稚園のお遊戯会?」
「…それを言っちゃあオシマイだよキョンキョン」

何とも派手さに欠けるが、まぁ俺達は精一杯やれるだけやったさ。
後は祝う気持ちでカバーだ!

皆で飾りの最終確認をしている処でふと気付いた。
ここに来た時から感じていた違和感…
こなたの肩をつつき、違和感の解消を計る。

「こなた、おじさんはどうしたんだ?」
「ん?お父さんならたまにある取材だヨ」
「取材?」
「そ、明後日までは帰ってこないよ。だから邪魔されずに騒げるって訳」

そうか、それでこなたの家で誕生会をする事になったのか。
と言うか話せよ。

――特にする事も無くなり、俺達はこなたの家からおいとまする事にした。
と言っても、帰るのは峰岸とみゆきさんと俺だけだ。
ハツラツ三人衆と長門はそのまま泊まり、前夜祭を開催するそうな…
ゆたかちゃんに害が無ければ良いがね。
ってか、当の柊姉妹は何も知らずにいるのに、本人と無関係なところで祭ってどうする
んだ…?
そして、明日は学校が休みではない。確認。

翌日、教室で眠そうな顔をしたハルヒと、実際に寝扱けているみさおを視認する事に
なったが、それは置いておく。
峰岸とかがみが談笑しているところへ静かに近付き、峰岸とアイコンタクトをとる。
次に俺はハルヒの席に向かい、計画の最終確認をし、そのまま教室を出た。休み時間
内に終わらせないとな。

こなた達の教室の出入り口で、中から視認されない様に、近くにいた白石に頼んで寝
ているこなた……ではなくみゆきさんを呼んでもらう。
みゆきさんと会話を果たした後、心優しい後輩達にも最終確認をし、これでようやく
放課後のサプライズの全行程が終了した。

――放課後、俺とハルヒ、みさおに峰岸は素早く教室を脱出し、既に教室の外で待機
していたこなたと長門に、親指をビッと突き出して互いの健闘を祈る。
途中でゆたかちゃんと親友の岩崎を拾い、学校からそのまま泉家へ向かう。
後はこなた達が上手くやってくれるだろう。

泉家に到着し、ゆたかちゃんの合い鍵で中に侵入。
そのままこなたの部屋へ向かい、予め置いていた各々のプレゼントを手に取り、リビ
ングへ。
俺は携帯を取り出し、こなたへ準備完了のメールを送って、冷蔵庫から白い箱を引っ
張り出してテーブルへ置く。
他の皆も冷蔵庫から次々に前日に作った料理を出してテーブルに並べていき、泉家に
着いてから数分で豪勢な食卓が完成したのだった。
準備に余念無く取り掛かった賜物だな。

「――よし、後は主役の到着を待つだけだ」

俺達がリビングで待機してから十数分。
懐の携帯が鳴り、メールの着信を知らせた。
こなたからのメールの内容は、もうすぐ近くまで来ている事の報告だった。
皆に内容を伝え、クラッカーを握りしめて玄関に向かう。
大量のクラッカーで盛大に出迎えた時の二人の顔を思い浮かべる。
……つかさは素直に喜ぶだろうが、何故かかがみは呆れた表情を先に見せる様な気がし
てならん。
コソコソと何やってんのよ、ってな。
一人で推測し、密かに苦笑していると、主役の到着を知らせる鐘が鳴った。
玄関が開き、外の光が灯りを消した玄関に射し込む。
複数の話し声とシルエットを認識し、待機組全員が一斉にクラッカーの紐を引いた――

『誕生日、おめでとう!!』

大量の乾いた音と共に、家の中と外から祝いの言葉を響かせる。
同時に玄関のライトも点けてやると、呆けた双子の顔が拝めた。
俺はかがみとつかさの顔を交互に見て、不敵な笑みで訊ねてやる。

「それなりのサプライズだったと思うが、御感想は?」

俺の問いに数秒思考を凝らせた後、かがみが肺から空気を吐き出し一言。

「あんたらも暇ね…」

その後、顔を綻ばして礼を言うつかさと、苦笑に変わったかがみを連れて全員でリビ
ングに集合する。
テーブルに置いていた箱からケーキを取り出し、電気を消して早速世間一般的な祝い
の歌を合唱する事にした。
どこから持ってきたのか知らんが、ハルヒがタクトを手に持ち、ハルヒ指揮の下皆で
歌う。

「さん、はい!」
「ハッピバースデイトゥーユー」
「もっと声出してー」
「ハッピバースデイトゥーユー」
「はい、気持ち込めてー」
「ハッピバースデイディアかがみとつかさー」
「さぁ〆よ!」
「ハッピバースデイトゥーユー」

あー…所々でいらん指示が入ったが、主役の二人が満足してるなら充分だな。
歌が終わったと同時に二人が一緒にローソクの火を消し、こなたが電気を点け、一斉
に拍手。
と、ようやくここでかがみの満面の笑みを拝めた事を知らせておこう。

「さぁさぁ、パーティーの始まりじゃぞ皆の衆~!乾・杯!!」

こなたの乾杯の音頭で全員が持っていたコップをかち合わせる。
こいつはこういった場面を盛り上げるには最適の人種だな。

全員で団欒を楽しみながら料理を次々に口に運んでいる(特にみさお)中、ハルヒが
ふと思い出した様に、箸を口に加えたまま席を立つ。
こら、行儀が悪いぞ。
ハルヒはリビングの隅に置いてあるプレゼントの前に立ち、

「ねぇ!ご飯も良いけどプレゼントも渡しましょ!」

そう言って全員を手で招いた。
ケーキを食べた後で申し出ようと思ってたんだがなぁ…
俺の思惑も虚しく、みんなしてプレゼントにわらわら群がる。
…この言い方だと虫みたいだな。
俺も唐揚げを一つ飲み込んだところでプレゼントに向かい、自分の分を手に取る。
まずハルヒが柊姉妹の前に出て、散々俺を悩ませてくれた綺麗な包装紙に包まれた品
を二人に渡した。
ふふん、と鼻で笑い、プレゼントを開ける様に指示。
かがみが渡された品を包装紙から取り出すと、透明な薄いプラスチックの蓋から覗い
たのは、色鮮やかなリボン。

「二人とも日頃からリボン着けてるでしょ?バレッタやヘアピンも考えたんだけど、あ
んた達にはこっちの方が似合うと思ったのよ」

なるほど、小物類のコーナーでそれを悩んでたのか。
最初に足を運んだ店にも似た様なのがあった気もするが、今となってはどうでもいい。

ハルヒを皮切りに次々に手渡されていく贈り物の数々。
ぬいぐるみ、アクセサリー、ニーソ、洒落たカップ、ニーソ、コスメセット、そして
ニーソ…

「こなた、どんだけニーソを用意してんだ」
「ながもんと一緒に選んだんだゼ!」
「……だゼ」
「まるっきり悪ふざけにしか思えんのだが」
「魅力をアップ!女の子へのプレゼントは着飾れる物が一番だヨ~」
「着眼点は間違ってない。だがお前達は間違い探しで間違いじゃない所の方が少ない位
間違いだらけだぞ」

おかしなプレゼントとも含め、既に二人の両腕はいっぱいいっぱいだ。
それだけ想われてるって事だな。
幸せそうな二人の顔を見て、俺達は満足したよ。
…っと、俺の分がまだだったな。

最後に俺の祝いの品を二人に渡すと、渡された二人はキョトンとした顔で俺を見つめ
る。まぁ当然か。
俺が二人に渡したのは、七夕に必要不可欠な短冊。
頬を掻いて、俺の申し訳タイムの開始だ。

「あー、すまん…結局プレゼントが決まらなくてだな…」

言った瞬間ハルヒにはたかれた。あんた何してんのよ的な目で睨むオマケ付きでな。
だが思い出してほしい。
俺の相談役が、自己満足してとっとと帰っちまったあの場面を!
…まぁ、これを言ったところで言い訳に変わりないんだがな。
女の子はどんなプレゼントを喜ぶのか。どのプレゼントなら他の奴等と被らないか。
色々思考を巡らせた結果がこの短冊なのだ。
俺は現在進行形でクエスチョンマークを頭の上に乱立させている二人に、この短冊の
真意を伝える。

「そこで、二人に欲しい物、して欲しい事を、その短冊に書いてもらいたい。七夕には
うってつけだろ?」

後方から何やらキザ、逃げ、馬鹿等の言葉の暴力を投げられているが気にしない。
何もしないよりはマシだろ?
俺の提案に二人は沈黙し、何やら考えているご様子。
気長に待とうじゃないか。

それから暫くし、短冊を見つめていたつかさの質問で沈黙が破られた。

「な、何でも良いのかな…?」
「出来る範囲でならな」
「そっか……そっか」
「願いを短冊に書いたら俺に渡してくれ。近日中に叶える」

そう付け加えると、二人はこなたの部屋を借りて、願いを書き記しに行った。
罰ゲーム的な願いではない事を祈るのみだな。

――それから部屋から出てきた二人から短冊は渡されないまま時間が過ぎ、誕生会は
お開きになった。
時間も時間なので主役である二人を家まで送り届ける事になった俺は、内心戦々恐々
としていた。
どんな無茶が飛び出すのか、とな。
自分で撒いた種とは言え、少し俺は愉快な行動を取り過ぎたかもしれん。
道中、黙ったままの二人に短冊の事を聞いたが、全く応えてくれない。
この沈黙が正直…怖いです……

結局、家に着くまで黙りだった二人。
ああ言った手前、短冊を貰わんと帰れないんだがなぁ…

「ふぅ…」

と、どうしたものかと手を拱いていると、二枚の短冊を制服の胸ポケットに押し込ま
れた――

「そ、それじゃ、また明日ねキョン君!」
「おやすみキョンくんっ」

急な事に固まっている俺に、彼女たちは揃って別れを告げると、走って家に帰ってし
まった。
…何故俺の周りには唐突に行動を取る人間が多いのだろうか?
類は友を呼ぶ…ってか?
まぁいい。俺も家に帰って望みを果たす算段を始めないとな。
えっと、まず内容の確認を……

『デート』×2

…二枚共、簡潔で何よりな内容でございました。
夜空に輝く天の川を見仰ぎ、一息吐いて苦笑する。

「…次の休みも、あの姉妹の為に使う事になったな」

―fin―




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最終更新:2008年07月15日 20:56
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