甘い短篇3

キョン「先生、ちょっといいですか?」

ななこ「なんやキョン?」

キョン「・・・あだ名で呼ぶの、やめてもらえます?」

ななこ「ええやん別に。お約束やお約束」

キョン「はあ・・・。えーと、さっきの授業でわからないところがあったんですけど」

ななこ「世界史なのにわからんとこぉ?」

キョン「はい、ここんとこなんですけど・・・」

ななこ「ああ、こんなんわからんでもええ。暗記や暗記」

キョン(確かにそうなんだろうが、専任教師がこれでいいんだろうか・・・)

ななこ「ん。なんや不服か」

キョン「いえ、そういうわけじゃ」

ななこ「なんやはっきりせんやっちゃな」

キョン「暗記ってのには間違いないんでしょうけど・・・その、コツみたいなものがあるかなーなんて」

ななこ「はは、そんなんあったら苦労せんわ」

キョン「ですよね・・・」

ななこ「あーでも、そうやな、条件次第ってこともあるな」

キョン「条件、ですか」

ななこ「そうや、あのな」

キョン「はい」

ななこ「今夜、ウチに来ることや」

 

 

キョン「・・・・・・は?」

 

 


キョン(来るには来てみたが・・・)

ピンポーン

ななこ『お、来たな。入り』

キョン「お邪魔します・・・」

ななこ「おー、いらっしゃい」

キョン(何も聞かないうちに上がりこんでしまったが・・・

    というか、一人暮らしの割には結構かたづいてるな。ま、一応社会人だしな

    まてまて、その前に一体何の用なんだ?)

ななこ「でな、条件ちゅうのは」

キョン「その前に先生、質問があります」

ななこ「なんや」

キョン「なんで先生は、キャミにスパッツだけなんですか」

ななこ「ん、脱いだほうがええか?」

キョン「いやいやいや、そうじゃなくて!」

ななこ「コスプレでもしろと?」

キョン「俺だって健全な青少年だと言いたいんです!」

ななこ「あはは。洒落のわからんやっちゃなあ」

キョン「・・・生徒をからかうもんじゃありませんよ・・・」

ななこ「まあええやん。じぶんちでくらい、リラックスさせてえな」

キョン「・・・まあ、そうですね」

キョン(俺はまったくリラックスできんがな)

ななこ「でな、今日話したことなんやけど」

キョン「はい」

ななこ「ちょっと、婚約者になってほしいんや」

 

 

キョン「・・・・・・は?」

 

 

キョン「・・・先生のおっしゃっていることが、いまいちよく理解できないんですが」

ななこ「そのまんまや。婚約者になってほしい」

キョン「俺はまだ17です。結婚なんてできませんよ」

ななこ「やから、婚約な」

キョン「そういう問題じゃなくて!」

ななこ「まあ形だけでいいんや。別に本当に結婚するわけやないし」

キョン「・・・はあ?」

ななこ「実はな、今夜親がうちに来るんや。見合いの話もってな」

キョン「はあ」

ななこ「で、ほら、うちもまだまだ遊びたい年頃やんか。見合いなんてこれっぽっちも考えてない」

キョン(いや、そうも言ってられない気が・・・)「はあ・・・」

ななこ「そこでや!いつもお世話になって、先生に恩返ししたがっとるキョン君に、偽婚約者をしてもらおうと!」

キョン「・・・・・・」

ななこ「ん。なんや不服そうやな」

キョン「先生の親御さんが信じてくれるかどうか、はなはだ疑問です」

ななこ「それにはぬかりない。親が尋ねてきたとき、まさにベッドの上で最中だったr」

キョン「そんな信じられ方は嫌です!」

ななこ「贅沢やなあ。うちじゃ嫌なんか?」

キョン「・・・いや、だから、そうじゃなくてですねえ・・・」

ななこ「ははは。冗談やって。うちも、まだリアル高校教師にはなりたくないしな」

キョン「それは一部の世代にしかわからないネタです」

ななこ「そうか?いちおうリメイクもあったみたいやけど」

キョン「ともかく!偽婚約者はいいとして、もっと建設的な案を練りましょう」

ななこ「お、やる気やな?よっしゃ、ボーダーラインは18歳推奨くらいか・・・」

キョン「いい加減そのへんから離れてください」

 

こうして、俺たちは小一時間、偽婚約者作戦を練っていた

もちろんその時は、世界史のコツを教わりたかっただけだった

と、思う

 


ななこ「ふむ・・・大学卒業後、就職まで考えてのプロポーズってわけやな」

キョン「具体的に言い過ぎるとかえって印象悪いでしょうから、やや理想的くらいですね」

ななこ「まあ、所詮は17のガキやからなー」

キョン「そのガキを婚約者に仕立てようとしてる人が言いますか」

ななこ「だめだめキョン君、小さいことにこだわとったらあかんでー」

キョン「いますぐ帰ってもいいんですが」

ななこ「あ。いまのは冗談や冗談」

キョン「いちおうイニシアチブは俺が持ってると思うんですがね」

キョン(世界史のこと出されたらひっくりかえるがな)

ななこ「あーん、もうキョン君いじわるなんやなあ。もうちょっと協力してえな。何でもいうこと聞くから」

キョン「・・・・・・何でも?」

ななこ「おう、18禁でも22禁でも、どんとこいや!」

キョン「・・・。えーと、じゃあ・・・」

ななこ「ん」

キョン「別に変なことじゃあないんですが・・・」

ななこ「何やはよ言い」

 

キョン「先生が髪とめてるところ、もう少し上げてもらえます?」

 

ななこ「んー?・・・こんなんで、いいんか?」

キョン「ええと、もう少し上で・・・」

ななこ「なんやポニーテールかいな」

キョン「まあ、その、そうです」

ななこ「これ以外と面倒なんやで。ん・・・と、これでええか?」

キョン「・・・・・・完璧です」

ななこ「?・・・変な奴やな」

 

 

黒井先生ポニテverで、俺のやる気ゲージが月をも貫きソーラーアクエリオンの無限パンチのごとくどこまでも昇っていったのは、言うまでもない

 


結果から報告すると、作戦は見事に失敗した

黒井先生(ポニテver継続中)と親御さん、偽婚約者の俺の四者面談は、のっけから親御さんの怒号によって混迷を極めた

先生も先生で、実に説得力のない釈明を続け、混迷の促進にひと役かっていた

ただ一人、俺だけが現実味を帯びた主張を続けていたが、「所詮は17のガキ」の言い分だった

教師という職業上、急には婚談を進められないという着地点をなんとか見つけ、両者痛みわけ

激闘2時間40分の末に、親御さんはしぶしぶ帰っていかれた

 

さすがの俺も、ちょっと死んだ

 

ななこ「なんとか帰ってったなあ・・・」

キョン「殴られなかったのが不思議なくらいですよ」

ななこ「まあ、そんだけキョン君を信じてたってことやろ」

キョン「先生のほうは、まったく信用がなかったみたいですけどね」

ななこ「うはは。昔から嘘はすぐばれとったからなあ・・・」

キョン「だったらもう少し、説得力のある人間を仕立てたほうがよかったんじゃないですか」

ななこ「そうか?うちはキョン君にやってもらってよかった思てるけど」

キョン「・・・17歳のガキに?」

ななこ「『ななこさんのことを本当に考えているんです!愛してるんです!』ってあれ、よかったなあ」

キョン「まさにガキだから言えたセリフですね」

 

ななこ「本当に、うれしかったんよ?」

 

冗談のようにいつもくりくりしている先生の目が、ちょっと細くなった

 

キョン「・・・先生?」

ななこ「嘘でも愛してるなんて言われて、うれしかったんよ?」

 

ポニテのせいだと思う

こんなにも先生に動揺してしまうのは

 

 


先生の顔がどんどん近づいてくる

いや、近づいているのは俺のほう?

酒も飲んでないのにぐわんぐわん鳴る頭を押さえつけながら、

しかし、どうしようもなく先生は近づいていた

 

ななこ「キョン君・・・」

キョン「・・・先生」

 

鼻と鼻の距離が曖昧3センチくらいになったとき、

いきなり横っつらをはたかれた

 

ななこ「あはははははは!キョン君まじになっとるー」

キョン「何度も言ってますが、生徒をからかうのはやめてください・・・」

ななこ「なんやチューでもしてもらえると思たか?あわよくば18禁な展開なんて考えたんやないやろなー?」

キョン「酒も入ってないのに、どうしてそんなテンションになれるか疑問です」

ななこ「まああれや、元気が一番ちゅーことやな!!!」

 

少しでもマジになってしまった自分が恥ずかしい

ハルヒの時といい、ちょっと俺は、状況に流されやすいのかもしれない

 

ななこ「ああ、そういえば報酬の世界史のコツやけど」

キョン(ああ、本当にそういえばだ・・・)

ななこ「実はな」

キョン「はい」

ななこ「そんなもんはない」

 

 

 

あんた学校でもそういったじゃん!!!!!!!!

 


ななこ「でもな」

キョン「は?」

 

ふ、と先生のポニーテールが翻った

かと思うと右頬のあたりに、マシュマロみたいな何かが軽く当たった

ハチドリが羽ばたいたかと勘違いするくらい軽かった

が、とても柔らかかった

 

いま、このひとは何をした?

 

ななこ「年号覚えるたびに、これしてやるわ」

キョン「・・・はあ」

ななこ「これなら世界史なんて簡単やろ?」

キョン「・・・そうですね」

ななこ「次のテスト楽しみやなあ。満点とる気でいかなあかんよ?」

キョン「そうですね」

ななこ「がんばりいや、キョン君♪」

キョン「そうですね」

 

いつどうやっていとまを告げたのかわからないが、俺は帰り道にいる

夜空には、嘘のように円い月が浮かんでいた

手には、出掛けに持っていった世界史Aの教科書がある

もちろん目は、教科書の目次から重箱の隅をつつくように熟読している

 

帰巣本能に従って我が家に着いたころ、ふと考え直してみる

 

少しは、状況に流されるのもいいんじゃないだろうかと

特に、年上のひとには

 

終わり

 

 

タグ:

甘い 短編
+ タグ編集
  • タグ:
  • 甘い
  • 短編
最終更新:2008年07月28日 18:01
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。