警察には届け出されるほどではないが明らかな犯罪行為。
それらが急増したのはおそらくここ一か月以内で、たぶん露見していない事も多数存在しているだろう。
その実行犯達を裏で操っている"K"という人物。
周りでは二転、三転と人間関係が回っていて、友人を疑ったりしてその友人を失った者も多い。
そのKという人物はどうしてか人の弱みなどを知っており、それにつけ込んで脅すらしい。
らしい、というのは私もまた聞きなのではっきりした確証がないのだ。
なんでもこの一週間で三度にわたり暴力行為や、器物破損をした女生徒だけどそれもKに脅されてのことだとか。
おそらく、脅されて実行したのはそれだけではないだろう。
たぶんこのKとかいう奴は犯罪ギリギリの事を行わせて、さらにそれを元に脅すのが目的だと思う。
しかもそれに付き合った人をさらに手駒として使い、どんどん増やしていくつもり……とは断言できないけど。
ふぅ、と息を吐いて最近のめまぐるしい事態の整理を一段落。
…正直やってられるか!と大声で叫びだしたい気分である。
どうやら被害者(Kに脅された人、という意味で)は携帯からメールが来る、というので持たないことを主張する人もいる。
そういう集団ができて、Kを探そうとするのは別にいいのだが人にまで強制しないでほしいものだ。
何が「携帯を手放さないならKの仲間だな」だ。
自分にやましい事がなければどうどうと携帯を操作するのは当たり前ではないだろうか。
それにそういう集団こそがきな臭い。
"そういう集団"にKがいた場合は動きが筒抜けになるばかりでなく、その集団に属する人が真っ先に潰されるだろう。
できるだけ危険は少ないほうがいい。
事件はあくまで野次馬として見ている分にはいいが、首を突っ込むならそれ相応の覚悟や犠牲が必要になる。
もちろんそんな考えは無いしできれば関わりたくない。
学生にはテストや部活(所属してないけど)があってただでさえ忙しいのだ。
と、携帯をいじりながら結論づけた。
「何見てるの?」
「んー?アニメイトだよー」
ほい、と携帯の画面をかがみんに見せる。
「こなた…また行くつもり?この前さんざんお金使ったばかりなのに」
「うーあー…言われなくてもわかってるってば……まるで婿養子になった気分だよ」
「どういう意味よ」
たとえ周りは騒がしくても、近づかなければ害は無い。
嵐がたとえ起ころうとも巻き込まれなければ静かなものなのだ。
「さて、ご飯をたべますか」
午前中の授業をそつなく過ごし、昼休み。
いつも通りに鞄の中のコロネを取り出し、つかさ達と机を囲む。
授業が少し長引いたのか、かがみんは五分ほど遅れてからの登場だった。
そして、最近増えたもう一人もそれと同時にやってきた。
「ハルにゃんとかがみん遅かったねー」
「あの数学教師が頼んでもいない公式をたらたら説明してたのよ…全く、これだから」
「まぁまぁ…一応善意で向こうはやってるんだし」
そういうと二人はまるで事前に打ち合わせをしたかのように同時に席を引き、同じタイミングで座った。
「……」
「なんでそんな見てるのよ?」
「私の顔に何かついてる?」
と、まぁまた似たような反応を返してくれたのです。
「たぶんお二方が似た行動をしたのでそれが眼を引いたのだと」
みゆきさんナイスアシスト。
二人はその言葉に互いの顔を見合わせると
「「なにが同じなの?」」
今度は同じどころかハモっていた。
「あっははははは!!!」
「お姉ちゃんと凉宮さんって気が合うね~」
「あらあら…」
二人は気恥ずかしいのか、顔をほのかに赤らめて互いの目を見つめあっている。
「ちょっと!かがみ!」
「なによハルヒ!」
その怒りの矛先がどこにも向けようがないのでお互いに向いたのか。
とりあえずその様子がおかしかったのでさらに笑った挙句、
「いやあ夫婦喧嘩はそこまでにしておいてごはん食べようヨ」
「「だれが夫婦よ!!」」
とまたハモった。
また爆笑させてもらったことは言うまでも無いだろう。
こんな日常が良かった。
こんな日常でよかった。
でも、そんな私の意思とは関係なく全ては進んでいく。
prrrrrrrr
「あれ?マナーモードにするの忘れてたのかな……」
昼休みがあと五分、というところで着信音が私の携帯にあった。
授業が始まる前に鳴ったのでそこだけは救いだろう。
授業中に鳴っていたら問答無用で取り上げられることは間違いない。
携帯を開き、画面を見るとメールが一件だけあった。
誰からの着信かと開いてみたが、登録していない人からのメールなのかメールアドレスがそのまま記入してあるだけで差出人は不明。
特に注意もせず開いたが
「何これ……」
自分の口からか細いつぶやきが漏れた。
自分でも意図しなかったほど自然に出てきた言葉だった。
それだけ、自分の眼に映ったものが信じられなかった。
一体自分で自分が何をすればいいのかわからなくなり、周りの誰かに相談しようかと顔をあげる。
しかし誰もがうつむいてそれぞれの手元、いや手に持っていた携帯に視線を落としていた。
ぞくり、と背筋が凍った。
ひどく嫌な予感が体の中で駆け回る。
全員が全員、携帯から視線を外した後に私を見た。
全員の眼が私を見ていた。
私はそのときどんな顔をしていたのか知るすべは無いが、形容するなら絶望した顔とでも表現できたのかもしれない。
おそらく私を含めた全員が同じメールを受け取っていたに違いない。
『泉こなたは共犯者』
静かさとは現場から遠く離れた場所だけでなく、中心にも存在する。
私の居た平穏はきっと嵐の中心だったのだ。