28 - 2nd 新たな一日

朝、目を覚ますとリビングの床だった
ソファーを見るとハルヒが寝ている
服は昨日の時のままだ
ハルヒを起こさないようにして俺は立ち上がり、自分の部屋に行った
俺も服は昨日のままだ、とりあえず着替えるとするか
着替える途中、時計を見るとまだ6時だった
「時間あるな…」
とりあえず外に出ることにした
俺達の家は都内某所にある普通のマンションの4階だ
家賃は高いが、共働きしているからこそ住める家だ
俺だけじゃとてもじゃないが、住めやしない
さて、そんなどうでもいい家宅情報は置いといて俺は徒歩5分のところにあるコンビニに向かった
「いらっしゃいませー」
眠そうな店員の掛け声を聞きながら店内を見渡す
店内にはこれからお勤めと思われるサラリーマンと、それとは対照的にもうお勤め終わりにサラリーマンと、そして…
「あ、キョンくん」
誰かと思ったらつかさだった
「よ、よう、どうした?こんなところで?」
「えへへ、朝ごはん買いに来たんだよ~」
そういや、古泉とつかさはここからそんなに遠くない場所に引っ越したと古泉が言っていたな
「今日は寝坊しちゃって…」
寝坊!?ひゃー、6時で寝坊なら、俺は毎日寝坊だね
「それで買いに来たの」
「そっか、古泉は?」
「まだ寝ているよ~、昨日はキョンくんとすっごく飲んでたからね」
「ハハッ、そうだったな…」
「そういえば、ハルちゃんは?」
「ハルヒもぐっすり夢の中さ、昨日も長門と張り合ってたしな」
「ふふっ、ハルちゃんらしいね
ということはキョンくんも朝ごはん買いに来たの?」
「あー…いや、散歩がてらにな
二日酔いだから新鮮な空気を吸いつつ、ブラブラしてたんだ」
「そっか~、ついでだから朝ごはん買っていこうよ
ハルちゃんだってお腹空かせてるよ」
「あー…そうだな」
こうして俺とつかさはコンビニ物色を始めた
「これ美味しそうだよ」
「どれどれ…ハルヒが好きそうだな…
お、つかさ、それは古泉用だな」
「ふええ、どうして分かったの!?」
「古泉の好物だしな…それにそれを取った時のつかさの顔がそう言ってたのさ」
「キョンく~ん、恥ずかしいよぉ…」
「ははっ…」
15分ほど品定めして俺とつかさはレジへかごを持っていった
「いらっしゃいませ」
店員は2人で食べるには明らかに量の多いおにぎりやサンドイッチを軽快にさばいていく
この店員には俺とつかさが夫婦に見えるのか…ふとそう思った
ふと、な
支払いを済ませ、俺とつかさはコンビニを出る
「じゃあね、キョンくん」
「ああ、古泉にもよろしくな」
重そうな袋を頑張って持っていくつかさを見送りながら俺も歩き出す
時間はまだあるが、少し気を引き締めないと会社に遅刻しちまう
俺は少し駆け足になった


家に戻るとハルヒが起きてた
「ちょっと、どこに行ってたのよ!」
朝からうるさい奴だ
「朝飯買いに行ってたんだよ、…ほら」
俺は袋を持ち上げる
「あ、あら…だったらそう言いなさいよ」
ハルヒは表情を一転させる
「気持ちよく寝てたからな…ほら、食おうぜ」
「そうね、いっただきまーす
あら…なかなかのセンスね、キョン1人で選んだの?」
昔っからこいつは鋭いな…ったく
「いや、つかさに会ってな、一緒に選んだんだ
と言っても、殆どつかさが選んだだようなもんだ」
「つかさに?そういえば引っ越したって言って、まだ行ってなかったわね…
そうだ!今夜、行ってみましょうよ!」
ハルヒはツナマヨおにぎりを持ちながら提案した
「おい、本気か?」
俺はハムサンドを食いながら切り返す
「本気に決まってるじゃない」
「せめて古泉の今夜のスケジュールを聞いたほうがいいんじゃないか?」
「…それもそうね、昔と違って、そう簡単には行けないわね…」
ハルヒは少し寂しそうな顔をしたが、すぐにいつもの顔を取り戻し、電話の所へ行った
「もしもし…あら、つかさ?今日なんだけどね…」
さて…ハルヒは俺が今、2週間連続で残業をしている事実を忘れたのかね…
せめて今日だけは残業回避して欲しいものだが…
俺は朝から溜息をついた

「キョーン、遅刻するわよー」
「ああ、待てって」
「あんた、いい加減ネクタイくらいすぐに結びなさいよ」
「悪かったな、苦手なんだよ」
ゆったりと飯を食ってたのがまずかった
気がつくともう8時、会社に遅刻してしまう
俺とハルヒは急いで準備を始めた
男の俺より早いってどういうことなのかね、ハルヒは
そんな疑問を思い浮かべながらもそそくさと着替えた
ベージュのシンプルなスーツに白いショルダーバッグ姿のハルヒ
あの印象的だったカチューシャは大学に入った頃からすでにしていない
ハルヒいわく「子供っぽいから」と言っていたが、真相は分からないままだ
カツカツとヒールの音を奏でながら俺の腕を引っ張る
「ほら、早くしないと電車に乗り遅れるわよ!」
「分かった、分かったから引っ張るな」
さえない黒スーツに身を包み、一回り小さい女の人に引っ張られる俺を周りの痛い視線が見つめる
屈辱だぜ…

急いだ結果、会社には5分前という所で着いた
「ふうー…危なかったな」
「キョンが遅いからよ!」
「仕方ないだろ」
「ならもっと努力しなさいよ!」
「朝から熱いね、お二人さん」
誰かと思ってみると、同じ部署の同僚だった
「最近ただでさえ暑いんだから、痴話げんかなら家でやってくれよ」
そういう同僚の顔はニヤニヤしてる
「うるせえ」
「そ、そうよ!」
「はいはい、分かったよ、ほら、もう行かないと」
上手く言いくるめられて言い返す言葉もない
俺とハルヒは急いで自分の場所へと向かった


俺とハルヒは偶然にも同じ部署に配属されている
席こそ少し離れているものの、それが同僚達にからかわれる要因にもなっている
仕事の成績はやはりハルヒがいい
社内でもなかなかの実力者として上司からも一目置かれている
一方の俺は…まあ、可もなく不可もなく、いたって平凡だ
ただ、比較対象が『妻』であるハルヒなせいか、低く見られてしまう
この時ばかりはハルヒの存在が恨めしい

ここ2週間、ずっと残業続きだったのにも関わらず、今日は7時ごろに切り上げることが出来た
「今日は早く終わったわね
さて、古泉君の家に行きましょ!」
ハルヒが嬉しそうに言った
朝、ハルヒが電話したところによると、古泉は今日は予定もなく、早く帰れるそうだ
引っ越し祝いに行くのが目的なので手ぶらで行くわけにもいかない
そういや、2人には子供がいたな…お菓子が喜ばれるか?
「これにしましょう」
古泉の家に向かう途中に立ち寄ったデパートに俺達はいた
ハルヒが手に取ったのはクッキーの缶詰だった
「それがいいな、値段も手ごろだし」
「じゃ、決まりね」
店員さんに頼んでギフト用にラッピングもしてもらった
「さて、それじゃ行こっか」
ハルヒは今朝同様に俺の手を引っ張って歩き出した

古泉の家は俺達の家よりもランクが3段階ぐらい違うように感じた
「凄いわねー…良いなあ…」
ハルヒが感嘆を漏らす
おい、それはなかなか給料の上がらない俺に対するあてつけにも聞こえるぞ
「確か…ここの12階だったわよね」
「ああ、そうだったな」
俺とハルヒは部屋番号を確かめつつ、インターホンで呼び出した
「はい」
聞こえてきたのはつかさの声だった
「やっほー、つかさ、団長様が来たわよ
もちろん、キョンも一緒よ」
「あ、いらっしゃ~い、待ってて、今開けるから」
するとまもなくドアが開いた
そういや、昔長門のマンションへは姑息な手段で入ったものだよな…
何故か不意にそんなことを思い出した
「ほら、キョン行くわよ」
「あ、ああ」
見るとハルヒはもうエレベーターに乗ろうとしていた
俺は急いでハルヒのところに駆け寄った


ピンポーン
軽快なインターホンの音が鳴る
ガチャとドアが開いたその視線の先には…だれもいない
不思議に思ったが、その謎はコンマ3秒で解けた
ドアを開けたのは古泉の子供だった
「あ、ハルヒおばさんだ~」
「コラ、おばさんじゃなくてお姉さんでしょ
久しぶり、真司君」
ハルヒは口ではそう言いながら笑顔で対応する
「よお」
俺も挨拶をしたが舌を出された
全く、これだからガキは
「お邪魔しま~す」
ハルヒは真司君を抱いてどかどかと入っていく
「本当に邪魔しに来てるんだからもう一度言っておけ」
「うるさいわねキョン」
抱かれてる真司君もそれを聞いて
「うるさいわねキョン」
真似すんじゃねえ
「2人ともようこそ」
「ハルちゃん、キョンくんいらっしゃい」
居間では古泉とつかさがすでに待っていた
「久しぶり…じゃないか、今朝会ったばかりだな」
「あはは、そうだよキョンくん」
「わざわざすいません」
「いいっていいって、古泉君
私も子供の顔も見たかったし、新居も見たかったしね」
「ハルちゃん達は子供作らないの?」
「うーん…子供は欲しいけど、今は仕事が大変だから…もっとキョンがしっかりすればいいんだけど」
「へいへい、妻より出来なくてすみませんね」
「…フフッ、本当に仲がいいですね」
茶化すんじゃねえよ、古泉
「お母さん、お腹すいたー」
真司君の言葉でつかさは思い出したように立ち上がった
「あ、はいはい、じゃあ夕飯にしようか
ハルちゃん達も食べていく?」
「もっちろん!」
「お前…最初からそのつもりだったな…」
「私は食べてもらえるのが嬉しいから歓迎だよ~」
「悪いな、古泉、つかさ」
「いえいえ、食事は大勢の方が美味しいし、盛り上がりますから」
「はーやーくー」
真司君が責め立てる
「はいはい」
真司君をなだめると、つかさは立ち上がった


つかさが作ったビーフシチューは絶品だった
さすが元調理師だけあってメチャクチャ美味い
ハルヒも料理は上手い方だが、働いてることもあって殆ど料理をしない
手料理というのも久しぶりだ
こんなに美味い手料理を毎日食べてる古泉は羨ましいぜ
「今日は張り切って作ったからね~どんどん食べて」
「つかさ、おかわり頂戴」
「は~い」
「ハルヒ、自分で注げよ」
「いいじゃない別に」
「キョンくん、気にしないで
ハルちゃんもキョンくんもお客さんだから」
「そうですよ、遠慮なさらずにあなたもおっしゃったらどうですか?
さっきからおかわりしたくてたまらない顔をしていますよ」
「そ、そうか…つかさー俺にも頼む」
「あはは、じゃあ待ってて」
つかさはハルヒと俺の皿を持っていった
「調子はどうだ?古泉
昨日も聞いたとは思うんだが」
「相変わらず忙しいですよ」
「忙しさで言ったら俺達もか」
「確かにやってられないわね、いくら残業代が出るからって毎日残業なんて、少しは働く身のことを考えて欲しいわ」
「典型的な日本企業ですが、忙しさもまた仕事の充実ですよ
お二人なら蓄えも相当あるでしょうし」
「3年前の結婚式と車や家のローンですっからかんだよ」
「それは…また大変ですね」
古泉が苦笑する
「は~い、おまたせ」
つかさがビーフシチューを持ってきた
「お、サンキュ」
俺とハルヒは食事を再開し、再びとりとめのない話の花を咲かせた

夕食が終わり、持ってきたお土産もその場で開けて(俺とハルヒで半分以上食ってしまった)一段落した時だった
俺と古泉はベランダで涼んでいた
「それにしても古泉、お前は幸福者だな」
「どうしたんです?」
「器量も良くてしっかりと家事をこなせる妻を持って…俺の妻を見てみろよ」
俺は真司君と一緒にテレビを見て笑ってるハルヒをあごで指した
「なかなか魅力的な人だと思いますが
あなたもそう思ったから結婚なさったのでは?
今頃後悔しているんですか?」
「いや、後悔とはちょっと違うが…つかさのような妻も良いなと思ってさ」
「…人は人を羨むものです…隣の芝生は青いというでしょう」
「ああ…やっぱりそうなのか…」
「…大人になりましたね、もっと反論するかと思いましたが」
「…もう俺も28なんでな、いつまでも高校生気分でもないさ」
「子供は作られないんですか?」
「……俺もハルヒも子供どころじゃないんだ」
俺は再びハルヒを見た
真司君と楽しそうにテレビを見るハルヒの姿は一段と輝いていた

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最終更新:2008年07月30日 22:08
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