ここは某都立病院―
私は荷物を抱えなおすと病院の中に入った
「はい、口を開けてください…やっぱり喉が腫れていますね
お薬を出しておきます」
「やっぱり?どうりで最近声が出づらかったんだよねー」
「泉さんの商売道具なんですから、大事にしないといけませんよ」
「みゆきさんの言うとおりだね……それより、今日時間ある?」
みゆきさんはチラッと時計を見る
「はい、大丈夫と思います」
「よし、じゃあちょっと飲みに行こうか」
「でも喉を痛めて……」
「大丈夫
仕事はしばらくないから」
「……分かりました
では、やり残した仕事があるので外で待っててもらえませんか?」
「うっけー」
「では、また後ほど
お薬は貰っといてくださいね」
みゆきさんは微笑むと席を立った
7時を回った頃、私とみゆきさんはある居酒屋に着いた
安くて美味しくて、私のような貧乏声優にうってつけの店だ
「みゆきさんには貧相かもしれないけど…」
「いえ、そんなことありません
私もこういう店は大好きです」
「じゃあ入ろうか、先客もいるよ」
ガラガラー
「おーい、こなた、ここ」
「…………」
「やっほーい、かがみ、長門っち」
「こんばんは、かがみさん、長門さん」
「久しぶり、みゆき」
「…………久しぶり」
私とみゆきさんは挨拶を交わし、席に座る
「あれ?みくるちゃんは?」
「朝比奈さんなら遅れるって言ってたわよ」
「そっか…じゃあとりあえず乾杯しようか」
と言って私と皆はグラスを持ち上げる
「かんぱーい!」
「皆さん、お久しぶりですね」
「そうねえ…ハルヒに集められた同窓会ぶりだから…」
「……102日と23時間48分19秒になる」
「さすが有希ね…でも、もうそんなになるのかあ…ハルヒは何にも連絡してこないし、どういうつもりかしら?」
「まあまあ、ハルにゃんもなんだかんだで忙しいんだよ」
「そうですね、このメンバーで集まることも殆どありませんものね」
「皆、忙しいものね
私も裁判抱えてるし…」
そうやって私達がしばらくの間、近況報告などをしているとみくるちゃんがやってきた
「遅くなってすみません」
「ヤッホーイ、ここ、ここ」
「久しぶりです、皆さんお元気そうですね」
「忙しいけどね」
かがみが肩をすくめる
「朝比奈さん、何を飲まれますか?」
「それじゃあ……カルピスチューハイを」
「分かりました」
そう言ってみゆきさんは店員を呼んで注文ををする
しばらくして飲み物が運ばれてくる
「それじゃ~みくるちゃんも来たので改めてかんぱ~い!」
「カンパーイ!」
「朝比奈さん、元気だった?」
「ええ、高校時代のあなた達も元気でしたよ」
「高校時代か~、懐かしいわね」
「そうですね、あの頃は充実していましたね」
「なんていうか……輝きがあったよね」
「今はどっぷりと社会の枠組みに入ってるからこんなこと言ってるけど
高校生の頃ははやく大人になりたいなんて思ってたわね」
「昨日の監視した時は、ちょうどかがみさんがそうぼやいてましたよ」
朝比奈さんはフフッと笑う
「えっ?マジ?」
「急に言われて焦るかがみん萌え」
「だーっ!うるさい、こなた!」
そんなこんなで私達5人は宴会を楽しんだ
「あら…もうこんな時間
終電がなくなっちゃう」
かがみのこの一言により、宴会はお開きとなった
「それじゃ、またねこなた、みゆき」
「………………また」
「泉さん、高良さん、また会いましょう」
「うん、じゃあに~」
「皆さん、さようなら」
かがみ達と別れ、私とみゆきさんは駅に向かって歩き出す
「今日は楽しかったねえ」
「そうですね、皆さんお元気そうでしたし」
「ハルにゃんとか誘えばよかったかなあ」
「そうですね、にぎやかな方が楽しいですし、今度からはそうしましょうか」
「よし、じゃあ次はハルにゃんとかも呼ぶか……あ、そういえばここは……みゆきさん、終電まで時間ある?」
「え?えーと……」
みゆきさんは手帳を取り出して調べる
「1時間くらいはあります」
「じゃあ行こう!」
「どこへですか?」
「すぐ近くだよ、ついて来て」
そう言って私はみゆきさんの手を引っ張る
私とみゆきさんはあるマンションに着いた
「ここは……」
「そう、あの2人の愛の巣だよ」
「でも、こんな時間からは迷惑では……?」
「電気はついているようだし、キョンキョンなら大丈夫、さ、行こう」
私は勢いよくロビーにあるインターホンを押した
「はーい」
元気がないような、あるような気の抜けた返事が聞こえた
「こんばんは、泉です」
私はわざとかしこまって返事をする
「泉……さん?」
素で度忘れしているのか、誰なのか思い出しながら答えているようだ
「後、高良さんもいます」
「高良……ああ、こなたとみゆきちゃんね、どうしたの急に?」
やっと思い出したようだ
「いや~ちょっと近くまで来たんで
今大丈夫?」
「あたしは全然OKよ、さ、あがって」
というハルにゃんの声の後、目の前の自動ドアが開く
「さ、行こう」
「え、ええ」
「やっほ~い、ハルにゃん」
「こ、こんばんは」
「ど、どうしたの?こんな時間に?」
ハルにゃんは改めて私に当然な質問をする
「だから近くまで来たんで~ハルにゃんの顔も見たかったし」
「すいません、こんな夜分遅くに」
「ま、まあ、あたしはいいんだけどね
さあ上がって」
「おじゃまします」
「おじゃま~」
私とみゆきさんは家の中に入る
居間ではキョンキョンがTシャツに短パンとなんともラフな格好でテレビを見ていた
「こんばんは、キョンさん」
「やっほい、キョンキョン」
「おわっ!?泉!?それに高良!?」
突然の来訪客に驚くキョンキョン
この分だと、ハルにゃんは誰が来たのか言ってなかったようだね
「遊びに来たよ~」
「遊びにってお前…」
「突然、おじゃましてすみません」
「ああ、いいんですよ
どうせ、泉に振り回されたんでしょう」
「連れないなぁ~キョンキョンは~」
そう言って私は抱きついた……というよりアタック攻撃を仕掛けた
「い、泉さん」
「おい、こら、泉、止めろ……離れろ」
「や~だもん」
私は離れない
「だから離れろって……」
もう一度、否定の言葉を言おうとした時、氷の視線が身体を貫いた
恐る恐る後ろを振り返ると、にっこりと笑ったハルにゃんがいた
「……何してるの?」
「いや、泉の奴が急に抱きついてきて……」
「あ、いや、これはスキンシップというか……」
私が言い訳できたのはそこまでだった
次の瞬間、私の視界はぐるっと回った……
未だ遠慮がちなみゆきさんを引っ張りながら私はエレベーターに乗った
「ご迷惑おかけしました……」
後頭部にできたこぶをさすりながら謝る私
ハルにゃんに見事な背負い投げを決められたのだ
「本当に迷惑かけてくれたよ……」
キョンキョンも拳骨かグーパンか決められたらしく、顔を押さえている
「あの……2人とも大丈夫ですか?」
みゆきさんが優しい言葉をかけてくれる
「いいのよ、悪いのは2人なんだから」
「俺は被害者だぞ」
「女に抱きつかれて被害者なんてよく言えるわね」
「事実だろ」
ハルにゃんから嫉妬を感じた
「はい、お茶」
全員に紅茶が配られる
「どうせお酒飲んできたんでしょ、これでも飲んで酔いでも覚ましなさい」
「ありがとうございます」
「ありがとさーん」
みくるちゃんから習ったのだろうか、紅茶はすばらしく美味しかった
「これは……ファーストフラッシュですね」
「さすがみゆきちゃん!」
ファーストフラッシュだと!?なんて高いものを買ってるんだ、ハルにゃんは
「ハルヒの奴、朝比奈さんから教わってからすっかり紅茶にはまってな」
「まあ、いいじゃない」
うん、確かに
付け合せのクッキーも美味しかった
本当になんでもそつなくこなすね、ハルにゃんは
「そういや、2人は子供を作らないの?」
ふと思って私は聞いてみた
2人はしばらく顔を見合わせる
「うーん……別にいらないわけじゃないんだけどねえ」
「ああ、今は2人揃って忙しいしな、子供を育てる余裕などありゃせん
「そうね、それにキョンみたいな子供が出来たら苦労が倍に増えるじゃない」
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」
と2人は互いに性格だけは似て欲しくないと擦り付けていた
その時、私は気づいた
ハルにゃんがわずかに寂しそうな顔をしていたことに
「泉さん、そろそろ時間です」
「あ、そうなの?じゃあ、これで私達は帰るよ」
「あら、そうなの?」
「今度はゆっくり飲もうよ」
「そうね、下まで送るわ……キョンが」
「お前も来い」
「仕方ないわね」
そんなこんなで、私達4人はマンションの下まで降りてきた
「それじゃまたね」
「おやすみなさい」
「2人で大丈夫か?駅まで送るか?」
「ううん、大丈夫だよ、近いし」
「そっか……またな」
「何言ってんのよ、行ってあげなさいよ」
「しかし……」
「いいわよ別に
アレさえ言わなければ」
「ああ、分かったよ……2人とも行こうか」
「お手数かけます」
「悪いね」
「なあに、男の役目だ」
そして私達3人は歩き出した
「ねえ、キョンキョン」
「なんだ?」
「アレって何?」
ハルニャンが見えなくなった頃を見計らって、私は当然のように聞く
「すまんな、教えられないんだ」
それっきり、キョンキョンは黙ってしまった
駅に着くと、ちょうど終電が来る時間だった
「じゃあ……またな」
キョンキョンは片手を挙げる
「うん、またね」
「さようなら」
キョンキョンは見えなくなるまで見送ってくれた
その表情は寂しく、切なく笑っていた