今日もいつもどおりの日々だった
いつものように登校し、いつものように授業を受けいつものように一日を過ごした
ただ一つ違うのはSOS団団長様がいなかった事ぐらいだ
「今日はハルにゃんどうしたんだろうネ」
俺が机に顔を突っ伏せている隣で携帯ゲーム機をしている泉が聞いてきた
まだ部室には俺と泉しかいない
「さぁな。あいつだって風邪ぐらい引くだろ」
泉のゲームの音だけが部屋中に響き渡る
「だあーっ、また負けた」
そういうと泉はゲームを机の上に置き俺と同じように机に突っ伏した
「もういいやい。不貞寝してやる」
「そうかい、なら俺も寝るとするかね」
「ん……」
顔を上げ外を見ると微かに夕暮れが近づいてきている
寝すぎたらしい。そろそろ帰らねば
それにしても、こんなに窓は大きかったか?
いや、でかいのは窓だけではないようだ
辺りを見回すと机、イス、朝比奈さんの衣装までもがでかくなっている
……これ、俺たちが小さくなったのか?
横を見ると、泉も小さくなっているのが見える
「ふぁ~ぁ、よく寝た」
どうやら泉も起きたらしい
「あっ、キョンキョンも起きてたんだネ……って、えぇ!?」
やっぱり驚いてるな
流石に自分が小さくなったら驚くのも無理はないだろう
何故俺は驚いてないかって?俺は普段からこれ以上に驚くような出来事を味わってるからさ
「キョンキョン、これはどういうこと?」
「さぁな、夢じゃないのか?」
とりあえずは平静を装う
それにしても、これは誰が原因なんだ?ハルヒか?
本当に夢ならいいのだが
先程の俺の言葉を聞いて泉は自分のほっぺをつねった
「いたっ。夢じゃないヨ」
「そりゃ災難だな」
「何でキョンキョンはそんな冷静なのサ?」
「慌てたって無駄だからな」
それにしても、もう一つ気になることがある
俺と泉が寝ている間に誰も部室に来なかったのだろうか
今日は活動中止とは誰にも伝えていないはずだが
ポケットに手を突っ込む
どうやら常備しているものも同じく小さくなっているらしい
携帯を手に取り、電話をかける
相手は長門だ
「……」
「俺だ」
「……状況は把握している」
「そうなのか?だったら今すぐ来てくれ」
「行けない。部室に何らかの力が発生している。……その為、私は干渉する事が出来ない」
どうりで誰もはいってこないわけだ
それにしても何らかの力?やっぱりハルヒか?
「……涼宮ハルヒではない。恐らく、この力の発生源は泉こなた」
その言葉を聞いた後俺は泉の方を向く
泉は相変わらずうろたえており、どうもこの空間は泉が作ったようには思えない
「それは本当か?」
「恐らく」
「だったらどうやったら元の大きさに戻れるんだ?」
「それもよく分からない。ただ言えることはある」
言える事?
「その空間は閉鎖空間にとても似ている。もしかしたら、古泉一樹が現れる可能性もある」
閉鎖空間……なお更ハルヒが出てくるな
けど、電話が通じるあたりは閉鎖空間とは違うのか?
「とりあえずは、古泉が来るまで待つことにする」
「わかった。私も原因が詳しく分かり次第、あなたに教える」
そう聞いた後電話を切る
「誰に電話してたの?」
「長門だ」
「なんでながもん?」
適当にごまかすか
「まぁ誰でもよかったんだがな。電話が通じるか試してただけだ」
「ふ~ん。それにしては長い電話だったよネ」
「そんなことはどうでもいい。とりあえず、元の大きさに戻れる方法を探そう」
「そうだネ」
そう言って泉はドアのあるほうへと向っていった
俺は反対方向、窓のあるほうへと向っていく
方法を探すとは言ったものの俺らのこの大きさだと机か下りたら一発であの世逝きになってしまう
机の上での範囲内で何かを探さねば……
泉とは反対方向に向かい奴の登場をひたすらと待つ
「こんにちは」
頭の上から赤い球体が降りてくる
「ようやく来たか」
「ええ、流石に苦労しましたよ」
「古泉がこれるという事はここは閉鎖空間だという事でいいんだな?」
「はい。詳しくは長門さんから聞いてると思いますがこの閉鎖空間は泉さんによるものです」
「それにしても、何で泉が閉鎖空間を発生させられるんだ?」
閉鎖空間を発生させれるのは神の力を持つハルヒだけであり、一般人である泉は普通発生させられるはずがない
「泉もハルヒと同じ能力を手に入れたのか?」
「近いですが、少し違います。以前、彼女は涼宮さんのモノマネをしていましたよね」
「確かに、あいつの声はハルヒそのものだったな」
「その声でこの空間で何らかの歪みが起きたのではないかと思われます。つまり、一時的に泉さんにも涼宮さんと同じ能力がついてしまったのです」
中々ややこしいな。
「俺はどうしたらいいんだ?」
「閉鎖空間は理想が叶わない時に募るフラストレーションが原因です。彼女の不満を聞いて、そして叶えてあげてください」
「俺で叶えられる範囲なのか?」
「あなたが叶えられない不満なら、あなたはここにいませんよ。おっと、そろそろ時間です」
そう言うと、赤い球体がだんだんと小さくなっていく
「ああそうそう。長門さんからの伝言です。『Nickname』だそうです」
赤い球体が完全に消えていった
『Nickname』?あだ名という事か……
あだ名といえば俺にはキョンという忌々しいあだ名があるがその事だろうか
「泉、どうだ?なんかあったか?」
俺は泉の方へと戻り、尋ねた
「いんや、なんもないヨ。どうしたらいいんだろうネ」
先程よりは落ち着いてるが、逆に今度は哀しげな表情となっている
「とりあえず、誰かが部室に来るのを待とう。それまで、ゆっくり雑談でもしようじゃないか」
「そだね、果報は寝て待てって言うしネ」
それは少し違うと思うぞ
それにしても、切り替えの早いやつだ
さて、『Nickname』について聞き出さないと
「ところで泉」
「なに?キョンキョン」
「その、何で俺のことキョンキョンって言うんだ?」
「別にいいじゃん。嫌なの?」
いつもの糸目が少し見開いている
「いや、構わんが、その……理由が気になってな」
「まぁ、これといって理由は無いけどネ」
俺のあだ名の事は違うのか?
だったらなんだ
「理由は無いんだけど、ただこっちの呼び方を変えたら、そっちも変わるかなって……」
「変わる?どういうことだ?」
すると泉は目を元の糸目に戻し頬を膨らました
「モー、鈍いなぁ。私はキョンキョンに泉以外の呼び方で呼んで欲しいんだヨ」
泉以外の呼び方?
「つかさみたいにこなちゃんとか?」
「それは嫌だヨ。というより、キョンキョンがそんな呼びかたした私は引くヨ」
ですよねー
「だったら、こなこな?」
「それは私のネトゲでの名前だヨ。リアルの世界ではリアルでいさせてヨ」
だったら……なんだ?
「素直に、下の名前があるじゃんかヨ」
「そんなんでいいのか?」
「呼んで欲しいから言ってるんだヨ。いい加減気づこうよ」
先程までしぼんでいた風船が再び膨らみだした
「わかった……じゃぁ、こなたでいいんだな。こなた」
「そっ」
泉が俺の呼び方に満足したのか笑みをこぼした
「うおっ」
「わっ」
その瞬間、部屋全体が光に包み込まれ、俺の視界も遮られた
「……ン君……キョン君!」
「うわっ」
いきなり誰かに呼びかけられ飛び起きる
声のほうを向くとかがみが立っていた
「ふぁ……かがみか」
「もう、いつまで寝てるの?それにほらこなたも」
隣を見るとすやすやと寝息を立てている泉……いや、こなたがいた
「こなちゃん。もう時間だよ~」
つかさは中々起きないこなたに戸惑っているらしい
それにしても、こなたのやつ嬉しそうな満足そうな寝顔を浮かべてやがる
「こら、おきなさい!」
「は、はいっ!」
こなたも俺と同じように飛び起きる
「2人ともおはよー」
つかさは相変わらずのんびりしてるな
「あんたたち、ずっと眠ってたのよ?朝比奈さんと古泉くん、有希ももう帰っちゃったわよ」
「なんだぁ、やっぱり夢だったのか……それにしてもリアルな夢だったナ」
やはりこなたは夢だと勘違いしているらしい
「じゃっ、先に下に行ってるから。早く降りてきなさいよ」
かがみとつかさは部室から出て行った
俺たちも支度をして部室を出る
「今日、変な夢を見ちゃったヨ」
帰り際こなたが哀しげな表情で言った
「どんな夢だ?」
「うーん。言わないでおくヨ」
その言葉を聞いた後、俺はニヤッと笑った
「そうか、ならまた今度聞くよ。こなた」
「うん、またいつかね……って、え?」
こなたは驚いた表情でこちらを見ている
そしてその驚きの表情は数秒にして喜びの表情へと変わっていく
「じゃあな、こなた」
「うん。バイバイ、キョンキョン」
俺とこなたしか知らない、摩訶不思議な出来事だった
その出来事のおかげで俺は彼女が俺の名前を言う理由もわかったし、いいとするか