泉こなたの奮闘― 幕間・その三 ―

― 幕間・その三 ―

校門から駅前に続く長い下り坂、一組の男女が帰宅の途中にあった。それだけなら、ほほえましい青春のひと時に見えるのだが。
「いいの? 追いかけなくて」
かがみの問いかけに、キョンは不機嫌そうな口調で聞き返した。
「何をだよ」
「決まってるじゃない、涼宮さんよ。いつもよくわかんない活動に情熱燃やしてるくせに、今日は速攻で帰っちゃうなんて」
手持ちの鞄を肩に引っ掛け、ぶらぶらと歩いていたキョンは、かなり気だるげな様子だ。
「あいつだってたまには、コタツでのんびりみかんでも食ってたい日があるんだろうさ」
かがみは眉を吊り上げた。
「キョン君!」
「あ、いや、スマン」
反射的に謝罪の言葉が出てしまったようだ。怒っている女性には逆らえないのが彼の本能か。
「いまの、だれになにを謝ったの」
そっぽを向いてかがみが聞く。
「ううむ。おまえに対して俺のふがいなさを、かな」
は、と軽くため息で返すかがみ。
「そんなのあたしに言われたってね。相手が違うんじゃない、もう遅いだろうけど」
キョンは宙を見上げて少しうなった。
「あいつにはもう何度も…いや、よく考えたら、まだ一言もスマンとは言ってないな」
かがみの足が止まる。キョンは振り向いた。
「あのねえ。あんたたちのいきさつは、こなたからだいたい聞いた。どっちもどっちよ、私から見たら。だけど、もうそんな経緯は問題じゃないの、わかってる?」
このいきなりの詰問に、キョンはわずかに身を引いた。
「そりゃあ、もう『スマン』の一言じゃあいつの機嫌が直りそうにない、ぐらいはわかるさ。でも何がそんなに気に食わないのか…」

これを聞いて、かがみは何度かまたたいた。そしてじっとキョンの顔を見る。
「ん、なんだよ」
なだめるような口調でかがみは語りかけた。
「ちょっと気になることがあるから、確認させて。どうして涼宮さんは、あんな不思議な同好会を作ったんだと思う?」
真剣な瞳で見つめられ、キョンはわずかに視線をそらした。
「おまえ知らないのか。なんでも宇宙人やら未来人やらを…」
かがみの眉がぴくりと動く。
「聞きかたが悪かったみたいね。じゃあ、どうしてあの子はいつも、常識じゃ考えつかないような思いつきで、あんたを振り回してるの」
キョンはこの質問の意図がまるでつかめなかったようだ。は? とでも言いたげな顔になる。
「知らん。俺ならどんな命令でも聞くと思ってんじゃないか」
ぐっとこぶしを握りしめ、かがみは詰め寄った。
「んなわけないでしょ。見ててわかんないの? あんたの気を引きたくて、相手してもらいたくて、それでワガママばっかり言ってるんじゃない」
キョンは面食らった。
「俺にかまってほしくてやってた、ってのか。そんな馬鹿な」
かがみは大きく息を吸い込んだ。
「馬鹿なのは…」
そしてうなだれる。
「はあ…馬鹿なのは、私か。ケンカしてるなら割り込むチャンスかも、なんて。それ以前の問題じゃない」
突然うつむいて何かつぶやいているかがみに、キョンはいったいどうしたと声をかけようとした。
かがみは顔を上げ、目の前の男をビシッと指差した。
「キョン君、いや、キョン! 明日になったら、あやまんなくていいから、あんたからハルヒに話しかけなさい。話題はなんでもいい」
毅然として言い放つかがみ。キョンはいきなりの指令に困惑している。
「なんでそんなの、おまえに指図されないと…」
「もっと女心を知りなさいってこと。その上で、選んでちょうだい」
かがみは顔を横に向け、キョンを追い越して歩きはじめた。
「私だって、努力してみせるから。それでもかなわないっていうんなら、諦めもつくし」
よくわからない要求の連続に、キョンは唖然としている。
「あ。おいっ、なんだって。言ってることがさっぱりなんだが」
「もう。じゃ、また明日ね」
そう言ってかがみはひらひらと手を振った。彼女の横顔が真っ赤に染まっているのは、夕日のせいか、それとも別の原因か。

泉こなたの奮闘― 第四幕 ―

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年10月06日 00:46
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。