六月が水無月と呼ばれる理由をご存知だろうか
旧暦での六月は梅雨が明け、夏真っ盛りの暑さのため、水も無くなるほどの暑さといった意味で『水無月』というらしい
だが、現在の暦上の六月は旧暦とは真逆で梅雨真っ盛りである
「今日の夜から明日にかけて台風十二号は四国、本州を直撃すると思われており、既に九州地方では……」
テレビの天気予報でもあるが、今は台風が接近しようかという状況だ
もう小雨もぱらぱらと降っており、俺としてはこの梅雨のジメったい中を外出する気はないのだが
「今日は緊急で団活をするから、お昼過ぎに来るように」
との団長さんが仰るので俺は仕方なくこの雨の中、出かける事になってしまった
「おっそーい。罰金!」
団長の怒号が飛ぶ
けど今回は俺に非はないはずだ。お前は俺に明確な時間を言っていないんだからな
「お昼過ぎって言ったら一時ぐらいって相場が決まってんのよ。とりあえず、罰金だからね」
やれやれ、と辺りを見回すといつもより人数が少ない事に気づく
「高良と古泉と朝比奈さんがいないじゃないか」
「みゆきは電車が人身事故で動かないからよ」
自転車で急いできたため傘をしておらず、濡れていた俺にそっと傘をかけながらかがみは言った
「それで、古泉くんはバイトの事で何かあるとか。朝比奈さんは……連絡が無かったらしいわ」
朝比奈さんから連絡なし、か
未来にでも帰っているのだろうか?
「みくるちゃん。私を無視するなんて良い度胸してるわね。いいわ、今度みくるちゃんにはスクール水着を着せてあげる」
「おお、みくるんのスク水かい!」
こら、泉変なところに敏感になるな。それと、目が輝きすぎだ
「いやぁ~。だってみくるんのスク水だヨ?興奮しない方がおかしいでしょ」
お前は親父か。俺だって少しぐらいは興味が……いやなんでもない
「団長!写真はとって良いんでしょーか?」
泉はびしっと手を天に高々と上げ、ハルヒに質問する
いや、流石にそれは駄目だろう
「オッケーよ。その代わり、営利目的で使ったら駄目だから」
おい、お前もそれを許可するな
「みくるちゃんが悪いのよ。メールすらも返してこないみくるちゃんが」
「そりゃ朝比奈さんも不在の時ぐらいあるだろう。それに、今回は急な事だったんだし仕方が無いだろ」
するとハルヒはムッと膨れ上がりこちらを睨みつける
俺もすこし目を合わせるが、すぐに耐え切れず目を背けてしまった
「とりあえず、店に入らない?小雨とはいえ雨は降ってるんだしさ」
かがみが俺とハルヒをなだめるように言う
「……へっきし!」
とつかさがかわいらしいくしゃみをし、このままではみんなが風邪を引くとハルヒも察したのか、俺を睨みつけるのをやめ喫茶店へと入り込んだ
「朝比奈さんが何故音信不通か、知ってるか?」
「……朝比奈みくるは今この世界に存在していない。恐らく、未来に帰っていると思われる」
現状の報告にでも行ったのだろうか、今日は本来休みと聞いていたしそれも帰っていても仕方が無いだろう
「で、どうするの?六人だと、二人一組の方が良いんじゃない?」
「そうやってかがみんはすぐキョンキョンと二人きりに……」
「だーっ、そういう意味じゃないわよ!」
泉の言葉がいまいちよく聞こえなかったが、かがみが怒ってるって事は相当な事を言ったのだろう
人をからかうのも、ほどほどにしとけよ
「分かってるってー」
「そうね。とりあえず、かがみの言うとおり二人一組にしましょう」
そう言ってハルヒは爪楊枝を六本取り出し、二つを先端を赤に塗り、二つを折り、残りの二つはそのままでくじを作った
結果
俺はかがみとペア、ハルヒは長門と、泉とつかさというペアになった
「私たちは北側、あんた達は南側でこなたたちは東側を調べなさい。それじゃ、いったん解散」
ハルヒはそう言うと長門を引き連れて北の方向へと進んでいった
「じゃーねーかがみん。頑張りなヨ?」
「雨降ってるから風邪引かないようにね~」
こなたとつかさもそう言って去って行った
ところで、頑張るって何を頑張るんだかがみ
「……さ、さぁね。私たちも行きましょう?」
待て、かがみ。俺を置いていくな
とっさの事に入り込んださっきとは違う喫茶店
俺は窓越しに外の景色を見ながら落胆の溜息を一息つく
はぁ、だからこういう日の外出は嫌だったんだ
そう思いながら先程注文をしたコーヒーを飲む
「こりゃ当分止みそうに無いわね」
かがみも俺と同じように土砂降りとなっている外を眺めながら呟く
ふと、俺の携帯が震え始める
着信源を見るとハルヒかららしい
「何だ?」
「あんた達、濡れてない?」
「ああ、濡れてないよ。ギリギリで建物の中に逃げ込んだからな」
それにしてもハルヒが人の心配をすることは珍しいな。と口にでも出したいが、出せばあいつは怒るに決まっている
「そう、それならよかったわ。もう雨はやみそうに無いから今日は各自解散だから。以上」
「お、おい待て」
と反論したが時既に遅し、もう電話は通じなくなっていた
「ハルヒは何て?」
「ああ、今日はもう解散だそうだ」
「解散って……無責任ね。どうする?まだ雨宿りしていった方がいいかしら?」
どうだろうな、これ以上酷くなるかもしれないし、弱くなるかもしれないしな
「とりあえずは、コーヒーを飲み終わってからにしましょう」
それもそうだな、そう言いながら俺とかがみは一緒にコーヒーカップを口へと近づけた
少しコーヒーを飲んでから周りの目に気がつく
周りからみたら俺たちはカップルのように見えるのだろうか
「今思ったんだが」
「何よ?」
コーヒーカップを持ちながら俺の方を見るかがみ
「俺たち、周りから見たらカップルのように見えるのかな」
「はぁ!?ちょ、何言ってんのよ」
相当動揺しているようらしく、コーヒーを一気に口へと運んで行った
「そう思われるのが嫌なら、すぐにでも帰るか?」
空になったコーヒーカップを置き俯きだした
心なしか、顔が赤くなっているように見える
「べ、別に嫌じゃないけど……むしろそう思ってくれることは嬉しいと言うか……」
もう一度言ってくれ。嫌じゃない、の後が聞き取れなかった
「言わないわよ」
そう言ってかがみは顔を上げ顔をあさっての方向へと向けた
ここに居座り始めてから早三十分ぐらいが経っただろうか
まだ雨は止まず、寧ろ強くなりそうな気配がする
「つかさのやつ、もう帰ったみたい」
携帯の画面を見ながらかがみは言った
「そうか。どうする?一向に止む気配もないし俺たちも帰るか?」
かがみは暫く考えた後
「んーそうね。もうちょっと居たかったけど、これ以上居たら店にも迷惑ね」
と答えたので店を出ることとした
お勘定は俺が一人で払うといったのだが、かがみがしつこく断るので仕方が無く割り勘という形になった
正直、今月は出費が続いていたので見栄を張っていた俺にとってはとても助かった
けどまたいつか、お礼はしないとな
「さて、自転車を取りに行かないとな」
そう、俺は自転車を集合場所の近くの自転車置き場に置いてきたままなのだ
しかし俺は傘を持っていない。なんせ出かけ始めた頃は小雨だったからな
「すまん、コンビニによって良いか?傘を買いたいんだが」
そう尋ねるとかがみは少し恥ずかしそうに答えた
「だったら、この傘に入れば良いじゃない。傘買うの勿体無いでしょ?」
「いや、それだとお前にも迷惑が……」
「いいのいいの。ほら、さっさと行くわよ」
そう言ってかがみは俺の横へとくっつき世間一般で言う相合傘の状態で歩き始めた
自転車置き場にたどり着く
途中人々の目線が痛く感じられたが次第に慣れてきたので別に何も思うまい
さて、これからどうしたものか
俺は自転車、かがみは徒歩
俺も一緒に歩いて帰るのが妥当なのだろうが、そんなのんびり歩いているといつ雨が強くなるかわからないからな
と、俺はある考えを思いつく
「二人乗りするか」
「えっ?」
俺の考えはこうだ
俺はいつもどおりに自転車に乗る
そのあと、かがみが後ろに乗り、二人乗りの状態になる
かがみがかたほうで俺の肩を持ち、もう片方で傘を持つと言った完璧な作戦だ
「良いわね、それ」
そう言ってかがみは二人乗りの準備を始める
少し、雨が強くなってきたため俺とかがみは急いで帰ることとした
かがみの家、神社へと着いた
かがみを降ろし、俺も急いで帰ろうとするとかがみが俺に傘を差し出した
「はい。このままだとあんたも濡れるでしょ?」
俺は良いよ。傘まで借りたら悪いしな
「いいのよ、また明日でも返してくれれば。それに送ってくれたお礼」
そうか、それならありがたく借りるよ。ありがとうな
「こちらこそ。こんな雨の日に良い想い出が作れて嬉しかったわ」
良い思い出?そんなに良いことでもあったか?
「……あんたと一緒にいろいろ出来たからね」
かがみ、お前所々小声で話す癖をやめといた方が良いぞ
相手が聞き取れないからな
「聞き取れないように言ってるの。まっ、その内わかるわよ」
「そうか、それなら良いんだがな」
俺は自転車にまたがり白色の傘を広げ自転車を漕ぐ準備を始める
「また、明日ね」
「ああ」
そういって俺は自転車を漕ぐ
「たまには、雨の日の外出も良いな」
そんなことを呟きながら雨の中、白い傘を差し自転車を漕いでいく
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最終更新:2008年10月11日 20:40