かがみに私の気持ちを見破られてから早一週間が過ぎようとしている。
それ以降、彼に対するアプローチが始まったのだが、それが功を奏しているのかは未だ分からない。
やっぱり彼は鈍感なのだと、そしてその分攻略が難しいのだと改めて思い知らされた。
アピールしすぎるとかがみ以外にも私の気持ちが悟られそうで怖いのだが、かがみにすれば「そんなもの付き合っちゃえば同じ」らしいので、今までより積極的になっている。
けど、どちらかと言うと張り切っているのはかがみの方なんだけどね。
「こなたって料理が得意なのか?」
放課後今日は古泉くんが所用で遅れるというので、私が彼のオセロの相手をしていると彼が尋ねた。
「うーん。家ではほぼ私がやってるからネ。人並み以上には出来るヨ。」
「へぇ、意外だな。親は料理を作らないのか?」
「お母さんは亡くなっちゃったからネ」
そう答えると彼は少し野球の試合でノーヒットだった打者に「お前ヒット何本打ったんだ?」と聞いてしまって答えられた時のような顔をした。
「野暮な事聞いて悪かった」
「私は余り気にしてないからいいヨ。それより、そんなの誰に聞いたの?」
「ああ、かがみに聞いたんだよ。聞いたというよりは聞こえたの方が正しいかな」
そう言われかがみの方を見るとかがみは本を読むのを止めこちらを見て一度だけニヤリと笑い再び読書へと向った。あんた、確信犯ですか。
「ま、そう言うことだヨ。一回食べてみるかい?」
少し冗談のつもりで言った。
「是非食ってみたいな」
「……え?」
「いや、食べてみたいな、と」
「あ、うん。仕方ないなぁ。明日持ってくるネ」
「よろしく頼む。お礼はまたいつかするよ」
そう言って彼はオセロの白い駒を置く。
まさか彼が肯定をするなんて思わなかったよ。少しずつだけど、アプローチが成功しているのかな。そうだと嬉しいのだけど。あとかがみ、こっち向いてニヤニヤしすぎだよ。
暫く勝負が続き最後に彼がもう勝敗の付いているオセロに駒を置き、「俺の勝ちだな」といってオセロを片し始める。
流石に彼は強かったよ。毎日古泉くんとやっているだけの事はあるね。
彼が片付けている最中にドアがガチャリと開き彼の本来のゲーム相手が入ってきた。
「遅れてしまって申し訳ありません」
そう言って古泉くんは部室を見わたす。そして、私と彼がオセロをやっているのに気づき、
「どちらが勝ったのですか?」
「俺だよ」
「どうです、彼は強いでしょう?」
古泉くんは私のほうを見て爽やかスマイルを放ちながらそう言った。
「お前よりは数倍強いぞ。やってみるか?」
彼はそう言って席を古泉くんに譲った。
「よろしいのですか?では、よろしくお願いします」
彼の譲った席に腰をかけ、私と古泉くんの戦いが始まった。
戦いとは大袈裟だったのかもしれない。古泉くんは毎日オセロをやっている実力とは思えないほど弱かった。
結果としてはオセロ盤の三分の二ほどが黒で埋められている。
「いやはや、お見事です」
古泉くんは笑顔を崩さず盤から駒を取り除いていく。
「僕では、実力不足のようですね。どうです、もう一度お互いやられては」
「ああ、そうするよ」
彼は再び私と向いになる。
と、その時古泉くんがポケットから震えている携帯電話を取り出した。
恐らくメールなのだろう。その内容を見終わった後、
「急遽バイトが入ったので失礼します」
と言ってそそくさと帰っていった。
「……どうしたんだ?ハルヒの奴」
彼はそうハルにゃんに聞こえない程度に呟くと同時に古泉くんが出て行ったドアのほうを見つめていた。古泉くんのバイトとハルにゃんが何の関係があるんだろう?
その後すぐに私と彼の第二回戦が始まったのだがまたしても私はあっさりと負けてしまった。
そうしている内に時間は過ぎ、恐らくどの電波時計よりも正確な体内時計を携えているながもんが本を閉じる音を聞いて私たちは帰路に着くこととなった。
今日はいつも以上に静かだったような気がする。ながもんはいつもの事だけど、ハルにゃんもずっと黙りっきりでパソコンとにらめっこしていたからね。
とりあえずは、明日は精一杯料理を作らないといけないね。
次の日。
私は普段より早く目が覚めた。こういうのってやっぱあるんだね。
そしていつも通り……いや、いつも以上に張り切り弁当を二つ分作り始める。彼のお弁当箱は私のお弁当箱では小さいのでお父さんのを借りることにした。もちろん無断で。
仮に「明日彼の分のお弁当作るから弁当箱貸して」と尋ねたらお父さんは発狂するだろう。そんな父親なのだ。
あらかじめアラームで予約しておいた炊飯器からご飯を取り、ボールに移し、おにぎりへとする。
三つ作るうち、一つはおかか、残りの二つは昆布にした。私の方はおかか一個昆布一個となっている。
問題は上段。お弁当の定番、卵焼きは欠かせないとして彼の好みが分からないため他にどんな物を盛り付けていいのか分からない。
とりあえずは卵焼きを作りながら考えよう、そう思い卵焼きを焼いていると階段から足音が聞こえる。
「あれ?こなた、珍しく早いな。どうしたんだ?」
お父さんが起きてきた。まずい、非常にまずい。お父さんのお弁当箱にご飯を盛り付けるているのを見られるのは。先程も言ったが、発狂する。
「い、いや~。早く起きちゃったからサ。お弁当作っとこうと思って」
そう言ってその場をやりきる。お父さんは「そうか」とだけ言って外へ出て行った。恐らく新聞を取りに行ったのだろう。
なるべくばれないようにしながらお弁当を作らないといけない。どうしたものか……。
思案しているとすぐにお父さんは戻ってきた。居間のソファに座り新聞を読んでいる。
この分だと暫くは台所には寄ってこないだろう。お父さんが新聞を読んでいるうちに作り終えなければ。
私は焼き終わった卵焼きを弁当箱の端の方に詰め、次は副菜やらなんやらを盛り付けて、最後にメインを作ることとなった。
さて、なににしたらいいものか……。
「男は皆、唐揚げが好きなんだぞ。こなた」
ふと居間の方から声がした。お父さんだった。
「え?」
突然の言葉にこんな腑抜けた返事しか出来なかった。というより、何で男って言ったの?
「そんなの見なくても分かるさ。俺の弁当箱が入っていた食器棚の戸が開いてるからな。それに、俺のを使うって事は男相手に作るんだろ?」
そこまで見抜くとは……初めてお父さんが凄いと思ったよ。
私の予想では既に発狂しててもおかしくないはずだけど、お父さんはいたって冷静にいる。
「もう付き合ってるのか?」
「違うヨ。まだ片思い」
話題が尽き、暫く静寂が続く。
「お父さんは反対してる?」
「そりゃ、娘に好きな人が出来たら父親としては複雑さ。小学校のころに『お父さんと一緒にお風呂に入りたくない』って言われた時ぐらいな。
けど、本当にこなたが好きになったのならお父さんは反対はしない。例えその相手がお父さんたちのように社会からは異端とされているような存在でもな」
お父さんはそう言いながら新聞を読んでいてこちらの方を向こうとはしない。ピラ、と新聞の捲れる音だけが部屋のBGMとなっている。
「大丈夫だよ。私が好きになった人はお父さんや私とは違って、社会からは異端とされてないから」
まぁSOS団もある意味異端な存在でしかないのだけれど。
「そうか。それなら尚、いいんだがな」とお父さんは言って再び新聞を捲る。その背中はどことなく父としての威厳を持っていた。ように思う。
「ありがとう」
私はそう言って冷蔵庫から鶏肉を取り出し唐揚げ粉をつけ揚げ始める。
揚げ終えた唐揚げをお弁当に盛り付け、お弁当が完成した。
お父さんがずっと冷静でいれたって事は、もう覚悟をしてたのかもしれない。流石に私も花の女子高生だし、こんなルックスでも恋の一つや二つはするという現実を渋々受け入れたのかな。娘離れは出来なさそうだけど。
さて、次はお父さんと私の分の朝ごはんでも作りますか。
オーブントースターでパンを二枚焼き、バターを塗る。さらに別の皿に目玉焼きとハムを二枚ほど乗せ、それらを食卓に並べる。これが我が家でのいつもの朝食風景なのだ。
ご飯が出来た事をお父さんに告げ冷蔵庫から牛乳を取り出しそれをコップへと注ぐ。
お父さんも新聞を読み終えたのか、それとも途中でやめたのかは知らないが新聞紙を閉じ食卓へとやってきた。
「それにしても」
私はパンを二つにちぎりながら言った。
「男は皆唐揚げが好きって偏見じゃない?」
「偏見じゃないさ。実際に俺は好きなんだからな」
半熟になっている黄身をパンの上に乗せながらお父さんは言った。
そんな調査対象たった一人の結果でそんなことを言われても説得力に欠けるよ。さっきはその場で納得してしまって作っちゃったけど、もし鶏肉が駄目だったらどうしよう。
「そんな奴はいない!父さんが断言する」
そう言ってコップに入った牛乳を一気に飲む。
「それじゃぁ、もし嫌いだったら今度新しいパソコン買ってよネ」
「そ、それは困るなぁ……」
さっきの父の威厳はどこへやら、すっかりいつものお父さんっぽくなってしまった。ま、私としてはこっちの方がいいんだけどね。
その後はいつものようにテレビでニュースを見ていた。天気は今週はずっと晴れ、良好なり。
そして、星座占いも一位だった。良い時しか信じない都合のいい自分だけど、今日という日が一位で良かった。
「ふたご座のあなた。今日一日は良い事だらけでしょうが、ふとした拍子に悪い方向へ行かないように注意して。今日のラッキーアイテムは『童話』です」
ふとした拍子に悪い方向へ……ですか。もしかしたら本当に唐揚げが嫌いだったりしてね。それにラッキーアイテムが『童話』ってどういうことですか。赤ずきん?それともシンデレラ?
などとどうでもいい事を考えながら制服へ着替え、勉強道具の入っていない鞄を肩に掛けながら家を出た。
しばらく一人で歩いているとかがみとつかさに出会った。
かがみは私を見つけるなり、昨日のように笑みを浮かべこちらに近寄ってくる。
「ちゃんと作ってきたの?」
「うん。それはもうばっちし」
「なら安心ね。あんたは料理上手なんだし、自信持ちなさい」
おお、かがみが私を褒めてくれた。しかし私はそれに反抗するように、
「まっ、かがみんは料理下手だしネ」
「うっ、うるさい!」
かがみは顔を赤らめた。カワイイ奴よの。
本当に、あの時の出来事が演技でよかったと思う。あれがもしかがみの本心なら、私はかがみに勝てるはずがないから。いや、それ以上のライバルがいるけどね。
ハルにゃん――涼宮ハルヒ。
恐らくハルにゃんも彼の事が好きなのだろう。表面上には出さないけど、それはハルにゃんがかがみ以上のツンデレ体質であるが故である、と私は思っている。
確証は無いけど、自信はあるのだ。
けど、そう考えたら彼って結構もてるのね。尤も、古泉くんの方が後援会が発足するぐらいもてそうだけど。
「作ったって何を?」
つかさが疑問そうにそう尋ねた。
「お弁当よ」
かがみが代弁する。
「あっ、昨日言ってた事?こなちゃん料理上手だからキョン君もきっと喜ぶよ」
ありがとう。あなたには劣りますが。
その後はしばらく当たり障りの無い話をしていたのだが、かがみがふと思い出したようにポケットをまさぐる。中から出てきたのはヘアゴムだ。
「こなた、ちょっと後ろ向いてなさい。髪結ってあげる」
「髪?結ってどうするの?」
そういいながら私はかがみに対し背を向ける。
「キョン君はね、確かポニーテールが好きなのよ」
かがみは私の髪に手を回し、ポニーテールへと結っていく。
それにしても、彼がポニーテール萌えだとは初耳だよ。っていうより、
「何でかがみ知ってるの?」
「この前聞いたのよ。きっかけはなんだったかしら……まぁいいじゃない」
ポニーテールが完成し、かがみが私の髪から手を離す。
「うん。中々の出来ね」
「おぉ、流石こなちゃん。似合ってるね」
かがみがどうやって彼の好みを聞いたのかは分からないけど、まぁこの際はいいとしとこう。
私は一つに纏まった長い髪の毛を左右に揺らし校門をくぐった。
教室へ入ると彼は自分の席で後ろにいるハルにゃんと会話をしていた。
自分の机に鞄を引っ掛け、一時間目の準備をしていると、ハルにゃんとの会話を終えたのか彼がこっちへとやってきた。
「こなた、どうしたんだその髪?」
彼はこのポニーテールを気にしてるらしい。かがみの言う事は正しかったようだね。
「いやぁ、気分だよ気分。昔のハルにゃんみたいにネ」
ハルにゃんは入学当初はサラサラロングヘアーで曜日ごとに髪形を変えていたのだ。ある日を境にばっさり切ってしまい、今のような髪型になっている。けどまぁロングもショートも似合ってるんだけどね。彼曰く「俺にも少しは責任がある」らしい。何があったんだろう。
「そうか。それにしても、よく似合ってるな」
「ふふん。そりゃだてに長髪をやってませんヨ」
珍しく彼が褒めてくれた。ありがとう、かがみ。感謝するよ。
「なんだそれ」
そんな会話をしていたら廊下の方から古泉くんの声が聞こえた。
どうやら、彼に用があるらしく、彼は古泉くんの元へと駆け寄っていく。
声は聞こえないけど、表情を見る限り余り楽しい内容ではないらしい。しばらくして、彼が戻ってきた。
「なんて言ってたの?」
「いや、気分が優れないから今日は早退する、とさ。それをハルヒに伝えておいてくれって事らしい」
昨日急にバイトが入ったから疲れたのかな。古泉くんも大変だね。
そんなことを思っていると、彼は目線を私から少し下げ考えるようにポツリと呟いた。
「全く、今度は何が原因なんだ?」
「原因?何のこと?」
そう尋ねると彼は目線を私に戻し、
「気にしないでくれ」
そうは言われても、昨日といい今日といいやたら考え込んでいると気にならない方がおかしい。
更に追求しようかと思ったけど、流石に深追いはいけないと思い、踏みとどまる事にした。
その後も普通の会話をしていたのだが、チャイムが鳴ったため彼は自分の席へと戻っていった。
つかさはみゆきさんと会話を、彼と会話を終えた後のハルにゃんは窓から外を眺めた後、机とお友達になっていた。最近、ハルにゃんの声を聞かないな。
そういえば、お弁当を食べる場所決めてなかった。
二時間目と三時間目の間の休み時間。対戦相手不明の延長戦を始めた夏の暑さに耐えながら体育を終えた後、女子が着替え終わるのを待っている彼の元へと行った。
「キョンキョン。こっちに来て」
彼はいつもの三人組で会話をしている。
「何でだ?こっちじゃ駄目なのか?」
そんな「お弁当食べる場所どこにする?」なんて谷口くんや国木田くんの前で言ったら誤解されるに決まってる。別に誤解されてもいいのだけれどそれ以前に恥ずかしい。私にだって、恥じらいの一つや二つはある。
「いいから、こっち来てヨ」
私の呼びかけに渋々了承した彼を引っ張り、なるべく人目の付かない所へ行く。
「で、何のようなんだ?」
「お弁当の事だヨ」
すると彼は思い出したように、
「ああ、弁当か。……いや、忘れてたわけじゃないぞ?」
「もしかして、自分の弁当持ってきてるんじゃないの?」
「そんなことないぞ、決して」
そうですか、そうだといいのですけど。
「で、どこで食べる?」
「どこでって、教室じゃ駄目なのか?」
教室って、あんたは恥じらいというものが無いのですか。違う、ただ鈍感なだけだ。女子と一緒にご飯を食べる事に何のためらいも無い程の。
「嫌だよ。恥ずかしい」
「そうか。なら、部室でいいだろ」
部室の付属品(ながもんの事らしい)がいるけど、席を立つように言ったら出て行ってくれるだろう。と続けざまに言った。
なるほど、部室なら二人きりになれるね。
「んじゃ、昼休み部室に来てヨ」
「わかったよ」
彼が了解をした後、私は彼を置いて別の場所へと向かった。六組、ながもんとかがみがいる教室だ。
ドアを開けかがみとながもんを呼びよせて、
「今日キョンキョンと部室でご飯食べるから、部室には来ないでね」
とだけ言って即行で教室へと戻った。かがみはまたニヤニヤしている。最近、かがみはずっとニヤニヤしっぱなしだ。
その後の三時間目と四時間目の授業はまともに聞けず(普段から聞いていないけど)、ずっと上の空状態だった。
「泉ぃ!」
と黒井先生に怒られて頭を殴られるまでは。
四時間目の終了を告げるチャイムがなると同時に私は鞄を持ち早急に教室を出る。
部室へ入り、いつもの席に腰をかけ彼を待つ。ながもんも返事はしなかったがちゃんと話は聞いていたらしく、部室には訪れていない。
ガチャリ、とドアが開き彼が入ってくる。鞄を持ってきている。部室に入り私を見るなり、
「一緒に部室に行けばよかったじゃないか」
「まっ、いいじゃんいいじゃん。ほら、座ってよ」
私はそう言って隣のイスを下げる。彼は私に促されるがままにその席へと座った。彼が座った後、自分の鞄からお弁当箱を二つ取り出し、それらを机の上に並べる。
「この弁当箱は誰のなんだ?」
「お父さんのだヨ」
彼はそうか、と言いお弁当箱を包んでいるハンカチ?(それともナプキン?)を取り除く。そして二層に区切られているお弁当箱を分離させる。
「ほぉ、凄いじゃないか」
「まっ、精一杯作ったからネ」
私も、自分のお弁当を広げる。大きさは彼の半分ほどのお弁当箱である。女の子はこれぐらいの大きさがちょうどいいのだ。
彼は箸を使い、卵焼きを一つ掴み、口へと運んでいく。私はそれを料理番組で自分が作った料理を審査員が食べている時の如く彼を注視していた。
漫画でいう「ゴクリ……」という表現が当てはまるのかもしれない。彼は噛んだ卵焼きを飲み込むと、
「上手い」
とだけいった。この一言と彼の表情を見て、この言葉は演技では無いなと思えたことが嬉しかった。
「本当に上手いな。俺のお袋の卵焼きより美味しいぞ」
彼はその後もおにぎりやその他の副菜も食べては、美味しいと褒めてくれるのだった。最終的に、彼は唐揚げ以外のものを全部食べ終えてしまった。逆にから揚げだけは一度も箸が触れていない。私は不安になり、
「唐揚げ嫌いだったりする?」
と尋ねた。すると彼は「いや」と即答した。
「俺は好きなものは最後に食べる主義なんでね。最後まで残しておいたわけさ」
そう言って彼は唐揚げにも箸を伸ばす。四つ入っていた唐揚げを一つずつ噛み締めるように味わっている。
そこまでの有難みはあるかな、と思いつつとりあえずはお父さんに感謝の思いを心の中で述べた。今度肩たたきでもしてあげよう。
噛み締めるように味わっていても四つなのですぐに無くなってしまった。私もお弁当を食べ終え、彼は空になったお弁当箱を直し私へと手渡す。
「ありがとう。中々美味しかったぞ」
そう言った後、彼は「戻るか」と言い席を立ち、部室から出て行こうとする。
「ちょっと待って」
私は彼を呼び止める。無意識のうちに出た言葉だった。彼ともう少し二人きりで居たいが為に。
「どうした?戻らないのか?」
「もうちょっとさ、ここで話して行こうよ」
彼をここに留まらせようとする。彼も了承してくれて再び先程の席へと座り込んだ。
その後はいろいろと普通の話をしていた。学校生活のこと、SOS団のこと……etc。そんな会話でも十分に楽しかった。彼と一緒にいるだけで。
どれぐらい話しただろうか。授業開始十分前ほどになると、不意にドアが開いた。入ってこようとしたのはながもんではなく、ハルにゃんだった。
「あ……」
私と彼はハルにゃんを見つめたままあんぐりとなっている。ハルにゃんも無言で、物悲しそうな、辛そうでそれでいて若干怒りがこもった目で私と彼を交互に見わたした後、最後まで無言を押し通したまま部室を出て行った。
その時私には見えた。彼女の腕にヘアバンドが付いていた事を。
五時間目、六時間目の授業にハルにゃんは出席しなかった。そりゃショックを受けて当然だと思う。好きな人が別の女性と一緒にいるのを見ると、私だって泣くほどショックだ。この前、そんな夢を見たんだしね。
彼も終始黙りっぱなしだった。ハルにゃんに出くわした時「やっちまった」的な表情を浮かべ、ハルにゃんが去った後、彼の携帯のバイブル音が部室へと響き渡った。
彼は携帯のメール内容を見るなり溜息を一つし、一言愚痴を零すように言った。
「俺には、人並みの人生を送ることは出来ないのかね」
結局その日の部活動にもハルにゃんは来なかった。古泉くんも早退して来ていないのでメンバーは七人なのだが、二人減るだけでこれほどまでに部室が広く感じるとは。いや、古泉くんのそして何よりハルにゃんの存在感がそれほど大きかったって事なのかな。
かがみも、どことなく重い部室の空気を読んだのか、私に何も質問を投げかけずただラノベを読んでいるだけだった。
私とハルにゃん。「恋人にするならどっち?」と言う選択を迫られたら十中八九の確立で男性はハルにゃんを選ぶだろう。ハルにゃんは性格こそ滅茶苦茶ではあるが、スタイルも抜群、そして美少女で頭も良く運動神経も抜群なのだから。
当の私は背は低く、スタイルも良くなければ頭も悪い。運動神経だけはハルにゃんに引けを取らないけど、それ以外に関しては五回十点差コールド負けである。
私は昨日同様対戦相手不在の彼の相手をしていた。彼は将棋がしたかったらしいけど私はルールを知らないので仕方なくオセロとなった。見事惨敗だった。
今日はいつもより早くながもんが本を閉じた。本を閉じ、鞄へそれを入れた後ながもんは彼に歩み寄り一言囁いた。
「気をつけて」
聞こえにくかったけど、多分こういったのだと思う。その言葉を聞いた彼は再び溜息を一つついた。
溜息つきすぎると幸せが逃げるよ。と一応忠告しておいた。
「ん……」
夜中、眠っていたのがふと目が覚めた。寝ぼけているのだろうか、天井がやけに広いような……。
「ってええ!?」
天井が広いんじゃない。無いのだ。私は驚いて体を起こし、あたりを見回した。
そこは学校だった。
これは夢なのだろうか。真夜中でよく見えないが曇っているのだろうか、空は灰色と化している。けど天気予報では今週はずっと晴れだったはずだけど。
そしてなぜか私は制服を着ていた。確か寝巻きを着ていたはずなのに。
上ばかり見ていて気がつかなかったのだが、下を見ると彼が寝ていた。彼もまた制服。
「キョンキョン。起きろ~」
彼を揺する。彼はしばらくしてから目を覚ます。彼はムクリと立ち上がりあたり一面を見渡し本日私が知る限りで三度目の溜息をついた。
意外なことにも、彼は余り驚いていない。それでいて更に校門の方へと歩いていく。グニョン、とそんな擬音が似合いそうなスライム状の物が彼の行く手を阻んでいる。って、出られないって事?
「とりあえずは部室へ行こう」
彼はそう言って部室へと歩き出す。職員室から鍵を取り、部室の鍵を開ける。当然だけど、誰にも出会わなかった。
彼は部室へ付くなりポットからお湯を出し、お茶を作っている。ほんと、何でこの人はこんな状況なのにこんなに余裕なんだろうね。
お茶を二つ分作り、その一つを「美味くないが」と言って私へと渡す。飲んでは見たけど、やっぱりみくるんの作ったお茶には敵わないね。まぁ全部飲むけど。
「何でキョンキョンは驚かないの?」
お茶を飲みながら疑問に思っていたことを述べた。彼はというとお茶を飲み終えた後すっと立ち上がり、窓の方へと歩き出す。
「まぁ、一度こんな経験があるからな」
彼が窓の手すりに手を置き、外を眺めていると小さな赤い光が灯った。やがてそれは人の形へと変わっていった。
その姿は、古泉くんにそっくりだった。
「どうも、今朝方振りです」
声も古泉君だった。
「どうなってるんだ?またハルヒの仕業か」
「ええ。私たちのいる空間ではあなた達の存在は消えてしまっています。もちろん、涼宮さんもね。それと、ここ最近は本当に忙しかったんですよ。朝から晩までずっと神人狩りですから。これも誰のせいだと思いますか?」
「俺のせいだって言いたいんだろ」
「いえ、確かにあなたのせいもありますが、主な原因は泉さんです」
え?私?と言うより、全く話の内容が分からないんですけど。
「涼宮さんは嫉妬しているわけですよ。この前と同じ状況ですね」
「うるさい」
古泉くんの言葉を一蹴する。
「すみません。今回も前と同様にしてくれれば戻ってこれると思います。ですが、くれぐれも過ちを犯さないように。一つ間違えれば戻って来れませんから」
古泉くんの姿をしていた赤い発光体は元の赤玉へと変わっていく。
「僕の力はこれまでです。僕としてはやはりあなた達に戻ってきてほしいと思っているのは変わりませんので。ああ、長門さんから伝言です。『パソコンをつけるように』だそうです。では」
赤い球体はだんだんと小さくなり消えてなくなってしまった。彼は赤玉が無くなるのを確認するや否やパソコンの電源をつける。私もその内容を確認するために彼の後ろへと回った。
「ねぇ、さっきのって古泉くん?それに神人とか存在が消えてるとかどういうこと?」
「それらの説明は後だ」
彼はそうとだけ述べてパソコンをただ見つめている。
パソコンは起動する気配は無かったのだがやがて、
YUKI.N>見えてる?
と言う言葉が真っ黒だったパソコンに表示される。その言葉に返すように、彼がキーボードを叩く。
『見えてるさ』
YUKI.N>>そちらの世界とこちらの世界が隔絶されるのも時間の問題。そうなれば終わり
『やっぱり、前みたいにしないといけないのか?』
YUKI.N>>恐らくは。しかし、あなたには正しい選択と判断が必要。間違えれば、時間に関わらず世界の隔絶が開始される。もしくは
普段余り喋らないながもんもパソコン越しだとこんなに喋るのね。って能天気な事をいってる場合じゃない。
『もしくは?』
YUKI.N>>世界は戻ることが出来ても、完全には戻ることは出来ない場合がある。多少の損傷が生まれる
『多少な損傷って何だ?』
YUKI.N>>例を出すと、一部分だけがそちらの世界に取り残されてしまう場合がある。その一部分とは、人。あなたかもしれないし、泉こなたかもしれない。そうなれば戻ることは不可能
戻れないってどういうこと?夢から一生覚めれないって事?それって一種の植物人間状態だよね。
『今、ハルヒはどこにいる?』
YUKI.N>>涼宮ハルヒは屋上にいる。急いでいくべき
パソコンの字が少し薄れていく。
YUKI.N>>私という個体も、あなた達に戻ってきてほしいと思っている
文字が完全に消えかかろうとしていた。最後にながもんは、
YUKI.N>>sleeping beauty again
この言葉を残してパソコンは完全な黒となった。
スリーピングビューティアゲイン。直訳すると、眠れる美少女再び、と言った所かな。再びと言う事は一度あったことなのかもしれない。多分、彼が言っていた事だろう。
彼と私は部室を後にして屋上へと駆けて行く。本来なら鍵のかかっているはずの屋上はドアが開いていて、そこには空を眺めているハルにゃんがいた。ハルにゃんは私と彼を見つけるなり、
「ちょっと!これどういうことよ!何とかしなさい!」
と彼に文句を言っている。こんなの、彼がどうこう出来る問題ではないと思うけど。
「知るか。俺だって聞きたいぐらいだ」
彼がそう呟くと、突然校庭が光りだした。今回は赤ではなく、青だった。やがてその青い光は人型へと姿をかえていく。
人の形と言っても、先程の古泉くんの様に具体的なものではなく、とりあえず人の形を保っていると言った抽象的な形だった。そして、半端なくデカイ。校舎ほどの高さはある。
「また出た!」
ハルにゃんはクリスマス目が覚めるとベッドの隣にプレゼントが置かれていた子供のように目を輝かせている。ハルにゃんにとっては普通じゃないものは嬉しい限りだもんね。私は普通万歳だけど。
「ハルヒ!」
彼は青い人型に目を奪われているハルにゃんを呼ぶ。ハルにゃんは振り向き「何よ」と言っている。
「そしてこなた」
今度は私の名前を呼んだ、私とハルにゃんは一緒にして彼を見ている。そしてそれを確認した後、彼は言った。
「ハルヒ。俺はな、一度こんな感じの夢を見たことがある」
「あら、奇遇ね。私もよ」
「そのときのオチは最悪なものだったんだ」
「そう。それは災難だったわね」
「今回も、そんなことをしなければいけないような気がする」
「へぇ、私は別に元の世界に戻りたいとは思わないけどね」
「お前にとってはそうかも知れん。だがな、俺やそこにいるこなたはみんながいる場所に戻りたがっているんだよ」
え?これって夢じゃないの?現実だったの?とは思ったけど、どうやら今は私が口出しする雰囲気ではないらしく、黙り込んで二人の会話を聞いていた。
「だがないくら戻る方法だからって、俺は好きな奴の目の前で別の奴にキスする気にはならない」
そう言うと彼は目線をハルにゃんから私に変える。
「さっき気が付いた。俺にとってハルヒは大切な存在だ。SOS団という非常識な団体を作り上げ、その中でも退屈をせずに俺は今までを過ごしてきた」
「私は退屈だったわ」
ハルにゃんは彼から視線を逸らし、青いスライム人形へと視線を戻す。
「お前にとってはそうかも知れん。だが俺たちにとっては毎日が楽しいかった。ハルヒや朝比奈さん。長門に古泉、かがみ、つかさ、高良。それに、こなたと一緒に入れることがな」
彼は足を動かし私のほうへと歩いてくる。
「さっき俺にとってハルヒは大切な存在だと言った。けど、こなたはハルヒ以上に俺にとっては大切な存在だ」
彼は私の一、二メートル前まで来ると足を止め、再びハルにゃんのほうを向いた。ハルにゃんも視線を彼に、いや、私に向けている。
「俺はさっき気づいた。泉こなたのことが好きなんだと。この好きはお前や長門たちに抱いている『Like』の感情ではない。『Love』の感情だ」
彼は更に足を進め私の目の前まで来た。それより、さっき好きって言ったよね。『Love』って言ったよね?
ドカン、と破壊音がする。いきなりあの青い人型は動き出し学校を破壊し始めたのだ。まだ別校舎なので問題はないが、その内こっちにも来てしまう。
「この判断が正しいのかは分からない。だが、俺は自分の選んだ道に反省はするが後悔はしない。それは、俺がお前に話しかけてしまった時から今まで、そしてこれからもそうすると決心したんだ」
彼は私の両肩に両手を置く。そして、目線を下に降ろし私と目を合わせる。その時、私の顔は真っ赤だったに違いない。ハルにゃんは黙ったまま私たちを見ている。
「こなた。お前が作ってくれた唐揚げはとても美味しかった、また今度作ってくれ。それと、今日のポニーテール。とても似合ってたぞ」
そういって彼の顔が私の顔に近づく。そして――。
その瞬間、目を瞑っていたのでよく分からないが、外が明るくなっていくのが分かった。それも並みの明るさではない。買いたての蛍光灯が空に何億個とあると思わせるほどの明るさだった。目を瞑っていても眩しい。
その時にようやく、いや惜しむべきではあるが彼の口が私の口から離れていった。
そしてこの時、私は初めてラッキーアイテムの『童話』の意味を理解した。
ゴンッ、と鈍い音が室内に響き渡る。
頭を抑えながら上体を起こすと、どうやらベッドに落ちてしまったらしい。と言う事はさっきまでのはやっぱり夢だったんだね。
夢を思い出しながら顔が真っ赤になるのが分かった。夢とはいえ、ファーストキスをしたのだから。
時計を見る。まだ三時ちょっと過ぎ。私は再びベッドに上がり、寝ようとした。結局、夢の内容を思い出しては恥ずかしくなるの繰り返しで、一睡も出来なかったのだけど。
朝。一睡もしなかったため早めに下に降り再び弁当を作った。昨日よりは見劣りするけど、まぁ仕方が無いか。眠たいんだもん。
学校へいこうと思い、玄関で靴を履いている最中にふと思い出し洗面所へと向かう。そこで私は昨日かがみから借りていたヘアゴムを腕に装着し、自分が持っているヘアゴムで髪を結った。
学校へ行く途中やはりかがみとつかさに出会った。
「あ、かがみ。これ返すよ」
私は腕に着けていたヘアゴムを外し、かがみへと返す。
「そう。それと、昨日はどうだったの?」
かがみは興味津々に聞いてくる。
「まっ、まぁまぁかな。それにしても今日は眠くってさ」
「こなちゃんどうしたの?」
「いやぁ、夢のせいで起きちゃって、それから寝られなかったんだヨ。前の夢よりは遥かにマシだったけどね」
前見た夢。彼と黒井先生が付き合ってる夢。あれは今までみた私の嫌な夢ベスト三に入るよ。
つかさは「そっかぁ」とだけ言って、
「こなちゃん、今日もポニーテールだね」
「うん。今日は気分でやってみたんだ」
「早速私が仕入れた情報を有効利用してるわけね」
かがみはまたニヤニヤしている。もう、ここ最近で何回目ですか。
「いいじゃんかヨ。使えるものは利用しないとネ」
そんな会話をしながら学校へと登校した。
「おっはよ~」
「おはようございます。泉さん、つかささん」
既に来ていたみゆきさんと挨拶を交わす。そして、鞄を机の上に置き私は机に突っ伏して眠っているハルにゃんに近寄った。
「どうしたの?眠たそうにして」
そう尋ねると、ハルにゃんは顔を上げ、
「あら、こなた。おはよう。今日は悪い夢を見たのよ」
「夢?私も見たよ。私のはまぁまぁいい夢だったけどね」
「それとこの前あんたに『恋愛感情は精神的な病の一種』って言ったわよね。あれは、やっぱり本当だわ。恋なんてするもんじゃないわ」
そういいながらハルにゃんは顔を外へ向け、
「好きな人が目の前で違う人にキスなんかしたら、そんな恋も冷めるものよ」
と小さく呟いたのを私は聞き逃さなかった。どうやら、私と同じ夢を見ていたらしい。としたら、あれは現実なのだろうか。
しばらくして、彼が谷口くんと一緒に入ってきた。彼は私を見るなり少し恥ずかしそうな顔をしながらも私のポニーテールを見ながら、こう言った。
「とてもよく似合ってるぞ。こなた」
その日の放課後、私はハルにゃんのいない部室でいろいろなことを聞かされた。
ながもんが宇宙人である事、みくるんが未来から来た未来人である事、古泉くんがエスパー少年である事。そして、ハルにゃんが神様である事。
最初は他の三人は、特にかがみはそんなファンタジックな事が現実にはあるはずがないと言って信じないでいた。けど、私にはなぜかそれが本当のようにしか聞こえなかった。昨日、あんな出来事があったからだろう。
昨日の事は私だけでなく、彼も、古泉くんも、ながもんも、そしてハルにゃんも覚えているのだと言う。
あれは夢ではなく、現実に起こっていたことであって、あの空間は『閉鎖空間』と呼ばれるハルにゃんのストレスによって作られた物だということを知った。ちなみに、あの青い人形が神人らしい。
古泉くんは私以外の三人とながもん、みくるんを外へやり、昨日のことを話し始めた。
「涼宮さんは何でも自分の思い通りにすることが可能です。ですので、彼を振り向かせることも容易なのですが、涼宮さんとしては自分の力で振り向かせたい。と思ったのでしょう。昨日の閉鎖空間はあなたと彼が最近仲睦まじくいることに嫉妬したことで生まれたものです。
それで、例の空間にあなたと彼を呼び出し、彼の真意を確かめようとしたのです。結果はあなたの勝ちです。本来の涼宮さんなら、そのことに腹を立て世界が終わっていたのかもしれません。ですが涼宮さんはそのようなことをしませんでした。何故だと思いますか?」
「わかんない」
そう答えると古泉くんは輝かしいほどの笑顔を放ち、
「そう言うと思いました。涼宮さんとしては、ある程度諦めの気持ちがついていたわけです。それで、彼の本心を知ることができて完全に諦める事ができたのでしょう。もし逆に、彼があそこで涼宮さんを選んでいたら世界はどうなっていたのか。今では考えることも出来ませんが」
ハルにゃんが諦めるって、ハルにゃんらしくないね。
「ええ、その通りです。涼宮さんは本来一度決めたことにはどんな障害があろうとも突っ走る性格なのですが。そこは何故なのか、僕にも分かりかねます」
「多分」
私の隣で古泉くんの言葉を聴いていた彼が呟いた。
「相手がこなただったからじゃないか?」
「私だから?」
「ああ。ハルヒとしてはSOS団内で争いをしたくなかったのだろうな。ハルヒは普段は破天荒な奴だがそれほどSOS団のことが好きだって事だよ」
「とりあえずは今日からあなた達は晴れてカップルとなるわけです。それも、涼宮さん公認のね」
「夢の中でだけどな」
「付き合うことになった。と言えば了解してくれるでしょう」
そう言うと古泉くんは思い出したように言った。
「言い忘れてました。お二人とも、おめでとうございます」
話を終えた古泉くんは外で待っていた五人を呼び戻した。かがみたちは先程とは打って変わってこの三人の非科学的な存在を認めている。ながもんに何か見せてもらったのだろうか。
そして、五人に私と彼が付き合うと言う事を報告すると、
「おめでとう、こなちゃん」とつかさ、「おめでとうございます」とみゆきさん、「おめでとうございます。泉さん」とみくるん、「……」とながもん。なんか言ってくれたっていいじゃん。そして、
「おめでとう、こなた。あんたならやると思ってたわ」とかがみが私に言った。本当にありがとう、かがみのおかげで私はここまで来れたんだよ。
掃除当番で遅れてきたハルにゃんには彼から言ってくれた。彼にそのことを聞かされるとしばらく黙った後ハルにゃんは「おめでとう。ちゃんとこなたを大事にしなさいよ!」とだけ言ってそれ以上は何も言わなかった。
ありがとう、ハルにゃん。私もSOS団が大好きだよ。
「なぁこなた」
放課後、活動の帰り道かがみが気を利かせてくれ、二人きりで帰ってると彼が呼んだ。
「何?」
「弁当のお礼、どんなのがいい?」
私はしばらく悩んだ後、
「キョンキョンとずっと一緒に入れる事、でいいよ」
そう言うと彼はやさしく笑い、言った。
「お安いご用さ」
作品の感想はこちらにどうぞ
最終更新:2008年11月14日 00:00