何か心地の悪い夢から覚めた後、俺は最初目を疑った。夢の中で夢を見ているのだろうか、それとも歴とした現実なのだろうか。
ただ言える事は一つ、『感無量』だ。
その日はいつも通りの一日だった。普通の授業を受け、普通の放課後を迎え、普通に部室に来た後、普通に長門以外誰もいなくて、普通にみんなを待っているうちに眠りについていたら起きた時にこうなっていた。
どうなっているのかって?それはだな、みんなの髪型がポニーテールになっていた事だ。
たかがそれぐらいで、と思うかもしれない。しかし、これは結構驚くものだ。仮に、自分の周りの奴がいきなり全員眼鏡を掛け出したりしたら驚くと思う。要はそれの髪型バージョンであって、多少個人差があるとはいえいきなり皆が同じ髪型にしたら普通は驚くだろう。
俺が起きた事にも古泉以外は目にもくれず、ただいつも通りのときを過ごしていた。髪型以外は。
「おや、ようやく起きましたか。どうです?」
オセロの盤を手に持ち俺にゲームを勧める。俺はそれに了承しオセロを開始する。
ちなみに、古泉の髪型はポニーテールではない。もしこいつがポニーテールにしていたなら俺は全国ポニーテール協会にいって古泉をつれて土下座しに行ってやる。「ポニーテールを馬鹿にしてすいませんでした」ってな。
それほどまでにポニーテールに対する執着が強い、といったら変だがポニーテール萌えであるのは確かだ。以前、そのおかげで世界を救ったのだし、そのことに関しては誰も俺に対して文句は言えまい。
あんな事は、二度と思い出したくないがな。
そんな俺であるため、この状況は非常に嬉しい限りなのだが場所が場所なだけに、SOS団部室もとい文芸部部室であるがために、中々嫌な予感がしてならない。
「おい、古泉」
オセロの黒丸を何処に置くべきかと思案している古泉に質問を投げかけた。
「はい、なんでしょうか」
「何であいつらは皆ポニーテールなんだ?」
そう言うと古泉は含み笑いをし、
「そうですね。あなたのせい、とでも言っておきましょう」
といって再び思案に戻っていった。そんなに考え込んでもお前の負けは変わらんぞ。既に盤の三分の二は雪原のごとく真っ白なんだからな。
「そのようですね、参りました」
古泉はオセロの駒を片し始める。それにしても、俺のせいってどういうことだ?俺はさっきにも言ったとおり普通に過ごしていただけで、そんな事仄めかせた覚えもない。
とりあえず、古泉に聞いても碌な情報を得られないと察した俺は質問対象を古泉から泉へと変更することにした。
「泉」
「ん?なんだいキョンキョン」
部室に来ても相変わらず携帯ゲームしかしない泉は糸目の状態でゲームを一時中断し俺の方を向く。てか、ゲームするだけだったら部室に来る意味無いんじゃないのか?俺が言えた口ではないのだが。
「なんでお前らはポニーテールなんだ?」
単刀直入に質問した。それでも泉は何一つ顔を崩さず、
「やっと気づいたかね。相変わらず鈍いネ」
いや、起きた時から気づいていたが。
「ところでキョンキョンはどう思う?」
「何がだ」
「誰のポニテ姿が一番似合ってると思う?」
泉がそう尋ねた瞬間、ハルヒと長門を除く全ての視線が俺に集まった。長門は読書を、ハルヒはネットに夢中で、その言葉などどうでもいいらしい。
ついでに、長門もポニーテールなわけだが、こいつのポニーテールはいかにも勝手にやられました感が漂っており、少し雑になっている。どうせ泉ぐらいがやったのだろう。
「一番……ねぇ」
そういいながら一人ひとりのポニーテール姿を見渡す。髪の長い泉やかがみは流石に似合っているな。泉は俺の方を糸目の状態で見ながら返事を待っているようだし、かがみはなぜか顔を赤らめながらもこっちを見ている。何故赤い?
つかさもハルヒのように短いながらも頑張ってまとめた後ろ髪を俺の方に見せながら笑っている。朝比奈さんも物凄く似合っている。
何というか、俺にとって朝比奈さんのポニーテール姿はまさに鬼に金棒である。多分、いや絶対、朝比奈さんにはどんな髪形をさせても似合うと思う。
高良も朝比奈さんと同じように似合っている。高良の場合、髪をポニテにすると何処と無く雰囲気が変わっているような気がするが、気のせいだろうか。
皆が皆、甲乙付け難いほど似合っており、皆物凄く期待した目でこっちを見てくる。この場合、どうしたらいいのだろうか。
古泉に目配せをすると、古泉は肩をすくめちらりとハルヒのほうを見た。ハルヒを選んでくれとの合図なのだろう。
だが、俺としてはハルヒ一人を褒めるのには気が引けるわけで、かといってどんな返事をしたら良いのかと迷っているわけで、
「さぁ、早く選び給え」
と泉が急かすので俺は仕方なく答えることとした。
「皆似合ってるぞ。誰か一人なんて選べやしないさ。泉やかがみは髪が長いから似合ってるし、つかさや長門だって短いけれど可愛らしいからな。朝比奈さんや高良だってそうだ。それに、ハルヒもな」
一応、古泉の応えに報いるためにもハルヒの名前を呼ぶだけ少し強調したのだが、それが皆にどう聞こえたかは知る由も無い。
俺の答えに対し、泉はなぜか納得したような表情を浮かべる。
「そうかいそうかい。やっぱりキョンキョンはそうでないとネ」
団活が終わった後、俺はさっきの事を尋ねに長門に話しかけた。
「長門、ちょっといいか?」
「……いい」
相変わらず純度百パーセントの目をしていらっしゃる。ちなみに、まだポニーテールを継続している。
「何でお前らは急にポニーテールにしだしたんだ?」
「あなたが原因」
やっぱり俺なのか。けど俺としては心当たりが無いんだが。
「あなたは今日、部室で睡眠を取っていた。その際にあなたは寝言を発していた」
「なんて言ってたんだ?」
「『俺はポニーテール萌えなんだ』と。それを聞いていた泉こなたと柊かがみが発端でああいう形となった」
俺はその言葉を聴いたとき自分の中の体内温度が一気に上昇していくのが分かった。顔も真っ赤になっているだろう。瞬きも一度もせず表情も全く変えない長門が今ほど羨ましいと思ったことはない。というより、泉はともかくなんでかがみまで参加してるんだよ。
俺は一体どんな夢を見ていたのだろうか。恐らく、いや絶対にあの事件の事なのだろう。あんな思い出したくも無いことを夢の中で思い出してしまっていたのか。どうりで目覚めが悪いわけだ。
俺は夢の記憶が無い事がせめてもの幸いだ。一体ハルヒはその言葉をどんな気持ちで聞いてたんだろうな。
まあ、俺としては皆のポニーテール姿を見れたからいいわけだが。
その後もしばらくはみんなポニーテールをやめなかったのは俺としては嬉しい事か悲しい事か。ポニーテールをしてる限りは俺の寝言を覚えてるって事なんだろうからな。
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最終更新:2008年11月18日 18:49