夏もようやく冬との勝負に根負けし、勢力を弱めていったと思った最中、今度は冬が一気に勢力を拡大してきている。
俺としては、秋や春といった暖かみのある季節が好きなのだが、如何せん今年は夏から冬への切り替わりが早すぎて、ついこの前まで夏服だったかと思えばもう既に冬服へとコスチュームチェンジを果たしている。
……コスチュームチェンジとか言ってしまう辺り、俺は泉に侵食されてきているのかもしれない。
この時期といったら学校は文化祭という行事で盛り上っているわけで、かといって俺たちSOS団は何をするのかというのはまだ具体的にハルヒの口によって知らされてはいない。
あいつが発する言葉の殆どが俺たちにとって無利益かつ被害を被るもののため、余り文化祭ではややこしい事はしてもらいたくないもんだ。
余談だがハルヒはつい先月ほどに行われた体育大会では五組は女子の部のリレーでは最下位だったにも関わらず、一気に全クラスを抜きその流れでリレーを優勝するといった異例の事を成し遂げた。ハルヒの後に続いた高良や泉の見事に首位をキープしたせいでもあるわけだが。
「文化祭では映画をやるわよっ!」
いつもの放課後、文化祭当日に二週間ほど迫ったある日、ハルヒは団長席を不意に立ち上がり、そう叫んだ。
「映画って……どんな映画にするんですか?」
俺の代わりに高良が質問をしてくれた。
「決まってるじゃない。みくるちゃんを主人公にした映画よ」
「ひえぇ、わ、私ですか?」
朝比奈さんはトレイを持ったまま少し震えている。朝比奈さんが主人公の映画、一体どんな物になるのだろうか。アクション?推理?それとも恋愛?何でもいいとしても最後のは何としてでも食い止めなければならんな。その相手役が俺なら話は別だが。
「ズバリ、超SFスーパーアクション恋愛映画よ!」
「ひえっ」
ハルヒの叫び声を聞いて朝比奈さんは体を小さくする。と言うより、いろいろ混ぜすぎだろう。
それにしても今さら映画って、あと文化祭まで二週間しかないのに撮影とかはどうするつもりだ。
「それは今から撮影しに行くのよ。ちょっと前からスポンサー探しててちゃんと見つかったし。ほら、ちゃんとカメラもあるわよ」
そう言って鞄からカメラを取り出す。ハルヒの奴、近頃部室に来ないと思ってたらスポンサーなんか探してたのか。
「それと、主演男優は古泉君。敵役のボスが有希で、手下がかがみとこなたにみゆきぐらいでいいかしら。あと、つかさとキョンは雑用ね」
「ハルヒはどうなるんだよ」
「あたしは監督よ監督!決まっているじゃないの。ほら、行くわよ」
ハルヒは朝比奈さんの腕を掴み、朝比奈さんは強制連行されていった。続いて俺たちもその後に付いていく事となった。
撮影は思ったとおり順調には進まなかった。
途中、ハルヒの願望で朝比奈さんの目からビームが出たり、咲くはずのない季節はずれの桜が咲いたりと、ろくな事がなかった。
結局グダグダな感じで映画撮影も終了し、長門の力を借りて編集を行い、何とか人様に見せられるレベルになった。とはいっても、小学生が撮った映像を先生がうまく纏めているような程度でしかないのだが。
一週間で撮影は終わり、残りの一週間、そして文化祭当日はする事がなく文化祭を楽しむことが出来そうだ。
ちなみに俺たちのクラスはアンケートを取るらしい。何のアンケートなのか、そんなものを取って誰が得をするのかは知らないが、取る事になったのだから仕方がない。
よって、俺たち五組は文化祭当日は暇なのだ。
「文化祭当日にも何かしましょう」
前言撤回、暇じゃなくなる。絶対にな。
「何かって何だよ」
そう返事をするとハルヒはしばらく黙り込み朝比奈さんを向く。畏縮する朝比奈さんを数秒見つめたと思ったらすぐに閃いたような顔をし、
「そうだ。喫茶店よ喫茶店!」
「き、喫茶店なら私たちのクラスでやりますよ?」
畏縮した状態で俺の席にお茶を置きながら朝比奈さんは言った。ついでに俺はその焼きそば喫茶の割引券を先日貰ったばっかりだ。俺はそれを丁寧に折りたたみ、ブレザーの内ポケットの中に入れている。
「喫茶店にもいろんな種類があるわ。そうね、私たちはメイド喫茶をすればいいのよ」
「おぉ、メイド喫茶ですか」
何故その言葉を聴いて泉はテンションが上がるんだ。いや、聞くだけ無駄か。
「いいじゃん。見てみたいと思わない?かがみんやみゆきさんのメイド姿」
泉はニヤリと笑う。メイド姿ねぇ。朝比奈さんのメイド姿は嫌というほど見たのだが(全然嫌ではなくむしろ嬉しいのは言うまでもない)、他のメンバーのメイド姿などは考えたことがなかったな。いや、恐らく見ることも不可能だろうが。
「大体、これだけの人数のメイド服なんかどうやって用意するつもりなんだ?」
そう、ただでさえ部活と認められていないこの団体は生徒会から活動費を受け取る事ができないため、喫茶店で使うメイド服等も自前でないといけない。
「その事に関しては心配要らないわ。あたしが何とかしておくから」
そう言うとハルヒは立ち上がり鞄を持ち、
「んじゃ今から仕入れてくるから。あんたたちはどんな感じにするか決めておきなさい」
といって出て行ってしまった。全く自分勝手な奴だ。
「んー、どんな感じにするか、ねぇ」
泉は糸目の状態のまま考え込む。
俺としては普通の喫茶店でいいと思うのだが。それに、メイド喫茶なら俺と古泉は関係のない話だ。接客とか、料理を運んだりするのは女性達の役目で俺たちは料理でも作っていればいいだろう。
「さぁ、どうなるでしょう?」
含み笑いをしてこちらを見る古泉。何が言いたい。
「いえ、思ったことを述べただけです」
古泉は街中でしたら通り過ぎる女性が四人のうち三人は振り向くような笑顔でこっちを見る。なに、いくら考えが大分人の斜め下をいってるハルヒでも俺や古泉にメイド服を着せるなんて馬鹿なマネはしないさ。
「そうだね。それより、つかさに料理運ばせたらドジ踏んでこぼしちゃうかもヨ?」
「そ、そんなことないよこなちゃん」
「いや、つかさならやりかねないわね」
おい泉、かがみ、よってたかってつかさをいじめるなよ。ドジ踏みそうなのは否定できないが。
「キョン君までひどいよ」
つかさは少し気を落とす。すこし遊びすぎたか?
「冗談だよ冗談。つかさは料理の方が得意なんだし、そっちに言った方がいいんじゃないかな?」
泉がそうフォローを入れる。確かに以前つかさの料理を食べた時があるがあれは確かに美味しかったな。
「そ、そう?また今度作ってあげるね。キョン君」
さっきまでの落ち込みようは何処へやら。つかさはすっかり元気を取り戻したようだった。
「まっ、接客は私とかがみとみゆきさんにながもん、それにみくるんとハルにゃんでやればいいんじゃない?残りの三人は厨房行きだね」
今思い出したが、泉はコスプレ喫茶でバイトしてたんだっけか。経験者なんだし、ここは泉に任せるべきなのだろう。
「あのう」
朝比奈さんが力のない声と力のない挙手をする。
「私、クラスのほうの喫茶店があるのであまり来れないんですけど」
と言えば、今度はかがみが間髪入れず、
「あ、それなら私と有希もクラスで占いをやるから、たまにしかこっちに顔を出せないわよ?」
それが普通だろうな。俺たちのクラスは出し物が出し物なだけに文化祭当日は暇だから、喫茶店の方にずっと居れることになるが。
「すいませんが、僕も劇がありますので。ですが劇は一日に二回しかないので結構こちらに来れる事は多いと思います」
とどのつまり、五組の連中でどうにかするしかないようだな。まず無い事だが客が多すぎたらつかさにも接客を任せてしまう事になるかもしれんな。まず無いがな。
翌日、ホームルーム終了と同時に教室を駆け出して行くハルヒを追う形で、泉たちと一緒に部室へと行ってみると、部室には昨日まで無かった多数のメイド服となにやら黒いスーツらしき物が掛けられてあった。
その立て掛けられた服たちの真ん中でハルヒは一人そのメイド服たちを見ていて、長門は相変わらずそのメイド服に目もくれず本を読んでいる。
ハルヒは俺たちが入ってきたことに気づくと目を輝かせ、
「どう?完璧でしょう。全部みくるちゃんのと同じモデルよ!」
そういえば改めてよく見ると朝比奈さんのと同じで可愛らしいメイド服である。何処で仕入れてきたんだか。それよりも気になるのは奥の方にある二つの黒服なわけで。
「あの服は何だ?」
「あんたと古泉君の分よ。もちろん、あんたたちにも接客はやってもらうんだからね」
「男のメイド……、つまり執事だねハルにゃん」
「まっ、そんなところよ」
おいおい、全員接客にまわすつもりか?喫茶店って何をするところか分かっているのだろうか。
「それを考えるのはあんたたちの仕事でしょう。昨日ちゃんと考えたわけ?」
俺は昨日話し合った内容を一言一句漏らさずに言ったのだが、こいつには俺たちの考えを言ったところでその意見を聞くわけも無く、結局はハルヒの独裁政治となるのだった。意見を聞かないくせに、意見を求めるのはどうかと思うね。
「いい?私は宣伝に回るから。一日中いろいろなところ行ってチラシを配るわ」
なんだ、お前はメイド服を着ないってか。ずるい奴だな。
「何言ってるのよ。私も着るわよ。着ないでどうやってメイド喫茶の事宣伝するつもりよ。それに映画の宣伝も兼ねないとね」
といっているのでどうやら着るらしい。ハルヒのメイド姿があまり見れないのは見れないで少し残念だな。
つかさ、高良は物珍しそうにメイド服を見ている。朝比奈さんので見慣れているだろうが、いざ自分が着るとなると抵抗が生まれるのは仕方が無い。
「ハッハーン。私はそんな事無いのだヨ」
コスプレ常習者である泉を除いてな。
「常習者ってひどくない?」
泉の発言はさておき、その後古泉、かがみ、朝比奈さんが揃った所でハルヒが一度全員で着てみようということになった。
女子が中で着替えるため、俺たちは追い出される形になったのだが流石に廊下で着替える自信も無く、隣のコンピ研の連中の部室を借りて着替える事にした。少し視線が冷たいのはやっぱりといったところか。
古泉は生まれながらのルックスとその持ち前の爽やかスマイルのおかげもあってかやけに似合っている。こんな執事が居たらお嬢様としては嬉しい限りだろうね。
「ありがとうございます。あなたも中々お似合いですよ?」
何を言ってやがる。こんな中世ヨーロッパの貴族が着るような姿俺には似合わないんだよ。
「そんなことありませんよ。さて、そろそろ部室へと戻りましょうか」
コンピ研の部員に部室を借りたお礼と俺たちのやる喫茶店には来ないように伝えておきコンピ研部室を後にする。部室へ戻るとまだ着替えが終わってないらしく外で待たされいると、しばらくしてドアの鍵が開いた。
「入っていいわよー」
とかがみが声を上げる。ドアを開けるとそこは本当にどこかの中世ヨーロッパの屋敷のように七人ものメイドが並んでいた。
正直、物凄い風景である。谷口がいたら喜びそうだ。
「どうよ?皆似合ってるでしょ?」
ハルヒは胸を張りそういった。確かに皆似合っているわけなのだが、
「どうして泉はポニーテールなんだ?」
「いやぁ、この服だと纏めてないと鬱陶しくてサ。それにメイドって清潔感が大事でしょ?だから纏めておいたのさっ」
最後の口調が鶴屋さんになったのはともかく、メイドプラスポニーテールとは俺にとっては嬉しい限りだということは黙っておこう。
「そちらもお似合いですよ」
高良が俺と古泉の服装を見て褒める。俺はともかく、古泉はお似合いだろうな。
「いえいえ、あなたも充分似合ってますよ?」
ありがとう。お世辞でも嬉しいね。
「んじゃ、当日はこれを着て仕事をするように。因みに、喫茶店はこの部室だと狭いからどこか適当に場所を探しておくわ」
まだ場所も決めてなかったのかよ。というより、服装以外何も決まって無いがな。
その後、俺たちはハルヒにメイドとしての心得を聞かされた。客に対しては常に敬語で、客より上には立ってはいけない。とかいろいろ言われたのだがあまり覚えていない。
結局、この日一日は全員そのままの姿で過ごす事となり、着替える時に再びコンピ研の部室を借りようとしたのだが既にコンピ研は帰っており、仕方なく廊下で着替える事となってしまった。
文化祭当日。
なんとか教室の確保とメニューを決めた俺たちは今フル稼働で動いている。思った以上に人が来ているのだ。
今、この場にいるのは宣伝に行ったハルヒを除く五組のメンバーだけで、これだけの人数相手には猫の手を借りたいほど忙しい状態となっている。
「いやー、思った以上に大変だネ」
「うるさい。そんな事言う暇があるなら早くメニューを聞いて来い」
「ほーい」
そう言って泉は客の所へと駆け寄る。泉は慣れているからいいのだが、つかさと高良は客が来たときに言う「お帰りなさいませ、ご主人様」の言葉をまだまともに言えていない。
なので、新しい客の先導、メニューを聞くのが泉で、メニューを持っていくのがつかさ。会計が高良となっている。
俺としてはこんな喫茶店、閑古鳥が鳴くようなものかと思っていたのだが、谷口曰く「SOS団の女子のレベルは全員Aランクを超えている」と言ったのは正しいらしく、来ている客の九割が男性客である。
となると残りの一割は女性になるわけで。古泉目当てで来ているのだろう。あいつも格好はいいからな。そんな古泉は女性客に「お帰りなさいませ、お嬢様」と言っている最中だ。
古泉がいなくなれば俺があんな事をしなければいけないのか。虫唾が走るな。
俺はというと一人で簡易厨房でせっせと注文の品を作っている。女性客は少ないし、今は古泉一人に任せておけばいい。俺だって一人前に料理はできるのさ。
朝比奈さんのクラスがやっている焼きそば喫茶にも行きたかったがこの様子ではどうやら行けそうにない。
すいません、朝比奈さん。せっかくの割引券を無駄にしてしまって何と詫びればいいか。
しばらくしてかがみと長門がやってきてメイド服に着替え、接客を始めた。
かがみがつかさのポジションに入り、つかさと長門が料理をして、俺が会計に入り、高良がかがみと一緒にメニューを持っていく役割と変更した。我ながらいいバランスを保っていると思う。
そんな良好サイクルも束の間、二人が来たかと思うと今度は古泉がいなくなり俺が古泉の役割に回らなければならなくなった。そして、例の言葉を言わざるを得なくなった。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
くそっ、自分で言っておいて鳥肌が立つ。というより、古泉はいないわけだし、ここに来る意味はないだろう。
しかしそんな文句を言っても仕方が無いと腹をくくり、次の客を案内する。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「うおっ、キョンじゃねーの?」
「それはそうよみさちゃん。ここはSOS団の店なんだから」
そこにいたのはかがみと長門のクラスメートである日下部みさおと峰岸あやのだった。俺とは何回か話した程度である。何でお前らがここにいるんだ?
「いやー、ちょっと柊をからかいに来たんだよ」
そして辺りを見渡してかがみを見つけると、
「うはっ、柊メイド服着てる。似合わねー」
と言ってかがみの方を見て爆笑している。かがみも二人の存在に気づき、笑っている日下部を見て怒りバロメーターはマックスに達したのだろうが、状況が状況だけにどうやら耐えたらしい。あとが怖いぞ。
「来た理由はそれだけなのか?」
未だに腹を抱えて笑っている日下部とその日下部をあやす峰岸に尋ねる。
「おい、キョン」
「何だ?」
「私たちはお客さんなんだぞ。そんな対応はねぇんじゃねぇのか?」
くっ、痛いところを突きやがる。
「なんでございましょうか、お嬢様」
ハルヒに教えられたマニュアル通りの返事をする。日下部は再び笑いそうになっているのを必死にこらえているし、峰岸までもが少し苦笑している。今ならかがみの気持ちがよく分かる。
「そうだなー。紅茶持ってきてくれよ、執事」
「あっ、私もお願い」
日下部の見下した態度が気に入らんが、執事と言う役柄である以上ここは逆らうのを我慢する。
「かしこまりました、お嬢様」
そう言って厨房のほうへと逃げるように歩いていく。
「紅茶二つ」
「はーい」
可憐な天使が紅茶をコップへと注ぐ。って朝比奈さんいつの間に来てたんですか。
「さっき来たばかりですよ。クラスのほうも落ち着いてきたので、鶴屋さんに許可を貰って来ました」
朝比奈さんが来たとなれば俺のこの精神的、肉体的疲労も一気に回復を果たすってものだ。
「はい、紅茶できましたよ」
「ありがとうございます」
トレイに紅茶を二つ乗せ、日下部たちの場所へ行く。
朝比奈さんの淹れた特上の紅茶を日下部たちに渡すと、日下部たちはそれを飲み「美味しい」と賞賛し、再びメイド姿で働いている同級生を散々見て笑ったあと、会計を済ませ帰ったのであった。
本当に冷やかしに来ただけだったのかよ。
ピークを過ぎ人足も疎らになった頃、再びかがみと長門、朝比奈さんがそれぞれ自分の持ち場へと帰って行った。
五組連中だけでも人手が余る状況となっている時、古泉が劇の衣装のまま戻ってきた。
「今、取って置きの情報が入りました。涼宮さんが、体育館で何か行うようです」
古泉は俺たちにそう告げ、体育館に行くように促す。かといってこの店を開ける訳にはいかない、と言ったわけでもなくちょうどいいタイミングで人がきっぱりいなくなったので一時閉店し、体育館へ行く事となった。
体育館へ向かうと都合よくどこかのバンドが演奏を終えたのか、新しいバンドが機材の準備をしていた。その準備している人たちの中にいたのが、ハルヒと長門だ。
ハルヒはメイド服を、長門は占いと映画撮影に使っている黒い衣装を身に纏っていた。
見たところハルヒはマイクを、長門はギターを持っている。あいつらが何でバンドに参加しているんだ?
「ハルヒが請合ったのよ」
唖然としている俺の隣に現れたかがみがそう答えた。
「請合った?」
「そ。あのバンドのメンバーが怪我か何かで出られなくなったらしいのよ。でもあの人たちのバンド全員三年生らしいから、出れなくなったら今まで練習してきた事が無駄になるから意地でも出る、って言い張ってたらしいのよ。
でもその本人たちはとても演奏したり出来る状況じゃなかったわけ。だからとりあえず無事な人たちでもバンドをさせてあげたいって事で、ハルヒが引き受けたのよ」
なぜかがみがそんなことを知っている?
「有希の所へ来てギター出来る?って聞いてきたのよ。有希は出来るって言っただけで後は何も追及しなかったから私が代わりに追及したの。そしたらそんな理由があったってわけよ」
何でハルヒは長門にギター出来るかと尋ねたのだろうか。
「そう、そこよ。何で有希に頼んだのかしら。まさか有希がギター出来るなんて思わないでしょ?それにまさか出来るなんて意外だったわ。この前の体育祭でもかなり足が速かったし、有希は一体何者なのかしら」
考え込んでいるかがみに対し、宇宙人だからなんでも出来るのさ、とは言えない。かがみたちにも知る時が来るその時までは言わないでおこう。
そんな会話をしているうちにハルヒたちの演奏が始まった。すまないが演奏の描写は割愛させてもらう。俺もなんて言ったらいいのか分からないからな。
一言言うなら、ハルヒの歌唱力と長戸のギターには終始驚かされっぱなしだった。以上。
演奏が終わった後、俺たちは再び店に戻り営業を再開したがもう午後のお昼時もとっくに過ぎているため、人は来なかった。
これが本来の姿なのだろう。さっきまでが多過ぎただけなのさ。
ただ、午前からハルヒのドッキリ体育館ライブまでの間は沢山人が来てくれたおかげで、なんと黒字となっている。「そりゃ美女があんなにに居れば来たくなるわな」とは谷口の後日の弁だ。
俺も朝比奈さんの喫茶店に行きたかった。
結局その後は人が来ないまま文化祭は終了を告げ、清掃を始める。
ハルヒはまだ来ていないので、それ以外の一年生で清掃をしていると、朝比奈さんがやってきた。
「私も手伝いますね」
と、あまりこちらの店には出てきていないのにも関わらず手伝ってくれた。それにしても、ハルヒは何をしているんだ。お前も朝比奈さんを見習って早く来て掃除を手伝え。
清掃が終わった直後にハルヒがやってきて全員で部室で打ち上げパーティをやることとなった。
相変わらずハルヒや泉はテンション最高潮で暴走し、つかさたちは女の子らしく談笑をしていて、長門はお菓子を食べていたかと思えばすぐに読書へと戻っていった。
俺は古泉といつも通り、オセロをやっていた。
「写真を撮るわよ」
ハルヒはいきなり声を上げる。
「写真?」
「そうよ。どうせ撮るなら、記念として皆メイド服に着替えましょう」
そういいながらハルヒはカメラを出す。俺としてはもうあれは二度と着たくなかったのだが、ハルヒに何を言っても無駄なので仕方なく外で着替える事となった。
タイマー式にカメラをセットしたメイド服ハルヒがど真ん中に移動した後、シャッターが押された。
打ち上げパーティも終了し、ごみを片付け部室を出ようとする。
時間はまだ六時少し過ぎたばかりなのだが、季節が季節なだけに外は暗闇に包まれている。
「キョン君」
天使のようなか細い声で俺の名前を呼んだのは朝比奈さんだった。
他の皆は既に部室を出ており、俺の後ろには朝比奈さんだけが残っていた。
「これ、私が作った焼きそばです。お店の方忙しくてこれなかったんでしょ?だから、これはその代わりです」
そう言って俺に焼きそばの入ったパックを差し出す。俺はそれをありがたく受けとり、代金を払おうとポケットからお金を出そうとすると、
「あ、お金はいいです。もう冷めちゃっててあまり美味しくないかもしれませんから」
と、ポケットに突っ込んだ俺の手をお金を出させないように掴み、上目遣いでこちらを見る。
そんな頼まれ方をしても、まだ払おうとする奴がいるなら俺のところへ来い。俺がぶん殴ってやる。
と言うわけで俺はその願いを了承し手に握っていたお金を再びポケットの中へ落とす。ポケットの中から何も持っていない手を見せると、朝比奈さんは極上スマイルでこっちを見て、
「それでいいんです。また今度、味の感想教えて下さいね」
と言って俺に背を向け小走りで部室を出て行った。朝比奈さんの作った焼きそばなら冷めてようが美味しいに決まってるのさ。
俺は焼きそばをこぼさないように鞄に入れ、部室を後にした。
次の日からはいつも通りの部活が戻った。
前と違う所は朝比奈さんの衣装ケースにかかってある多数のメイド服と少数の執事服、それに団長席の端に新しく写真が置かれてあるとこぐらいか。
作品の感想はこちらにどうぞ
最終更新:2008年11月28日 19:17