二学期もそろそろ終わりを告げようとしている。
巷ではそろそろクリスマスだとか、正月だとか言っているが、その前に学校では一大イベントが行われる。
期末考査だ。
こんなもの、生徒諸君にとっても先生方にとっても何のメリットもなく、点数の良し悪しだけで一喜一憂するだけと言ったどうしようもなくしょーもないイベントである。
ちなみに大多数の人の一喜一憂に含まれる一喜は学年順位の一桁台だとか、点数が満点だとかかもしれないが、俺の中の一喜は赤点を免れる事である。
無論、今回も期末もそうなるのだろうが、かといって格別やる気が出るわけもなくただこのテスト一週間前にも関わらず行われる活動に顔を出すのであった。
流石に、テスト一週間前にもなると少し部室の空気が重いくピリピリしてるような気がする。
古泉に朝比奈さんやかがみ、高良は数学のワークやらなんやらをやっていてとても話しかけられる雰囲気ではない。
長門も相変わらず読書に耽っているし、つかさも勉強しようとノートを机に出したのはいいが、結局集中力が続かずノートに落書きをしている始末だ。
ハルヒはネットに夢中になっている。
では問題だ。俺の今のモノローグで出てきてない人物は誰だろうか?
「私だヨ」
正解は俺のモノローグを読んでいたかのように発言した泉こなたである。
「いや、しっかりと聞こえてるよ?」
何とモノローグが言葉に出てしまっていたらしい。恥ずかしい限りだ。
「そんなことより、何で私がモノローグに出てこなかったのさ」
膨れっ面をし、俺に解釈を求める。
この泉こなた、本来の学力なら俺やつかさに引けをとらない悪さなのだが、なぜか一夜漬けだけは上手でそれだけでテストを乗り切っているのである。
そのため、今現在も泉は携帯ゲーム機を起動させゲームに興じている。
「いや、お前も俺も勉強してない組だからな」
「なんで?ハルにゃんもしてないじゃん」
そう言ってハルヒのほうを指差す泉。
「あいつは勉強しなくても根っから頭がいいんだよ」
天才とはまさにあいつの事を指すのかもしれない。博学で運動神経がよく、その上ルックスが良い。
しかし人間とは全てを総合したらプラスマイナスゼロになると言うのは本当か否かは分からないが、あいつの奇抜で横暴な性格方がハルヒの良い点を全て無にしてしまっている。寧ろマイナスにいっているのかも知れない。
非常に勿体無い。
「だったらつかさは?」
「はうっ」
落書きしている所を泉に指摘されたつかさはとっさにノートを隠す。残念だが、落書きの内容は全部見えてたぞ。
それにつかさは勉強しようと言う意欲はあるからまだマシだ。俺や泉は勉強しようとする意欲すらないんだからな。
「意欲ねぇ……。頑張った分の見返りがあるなら私も頑張れるのになぁ」
泉は溜息混じりにそう答えた。
「頑張った分点数が上がるじゃない。それで充分よ」
かがみが泉に返答をする。
「そんなんじゃなくってサ。何かこう……順位が何番以内だったら何か買ってくれる、見たいなさ」
「あんたはバイトしてるんだからそのお金で買いなさいよ」
「いやー、バイトの金ってあんまり使いたくないんだよネ。それに、そういう目標があったら人間何かしらやる気が出るじゃん?」
かがみはそう答える泉を見て「駄目だな、コイツ」といわんばかりに肩を落とし勉強へと戻っていった。
「そうだ!」
かがみとの問答を終了した後、泉はいきなり大声を上げて目を輝かせながらこっちを向いた。
嫌な予感がするのは何でだろうね。
「キョンキョン」
「何だ?」
「もし私が今回のテスト良かったら何でもするって約束して!」
何を言ってるんだこいつは。勉強してないくせに勉強ノイローゼにでもかかったのか?
「違うヨ。さっき言ったじゃん。人間何かしら目標があったほうがやる気が出るって。だから、キョンキョンにお願いを聞いてもらう事を目標にするのだヨ」
なるほど、そう言う事か。だが何で俺なんだ?そんなものお前の親父さんにでも何か買ってもらったりするほうがいいんじゃないのか?
「イインダヨ。とにかく、約束だから、ね?」
泉は顔を近づけこちらをじっと見つめる。ここまで威圧されると俺にも願いを拒否する気も失せ、渋々了解した。
「こ、こなちゃんだけずるいよ」
今のやり取りを聞いていたつかさが泉に反論をする。
「何でずるいんだ?」
そう尋ねるとつかさは顔を赤らめモジモジしだした。
「そ、それは……と、兎に角っ!私にも約束して」
だからなんで俺なのかとか、それよりさっきの質問に答えてくれとか言いたい所だが、どうせ聞いても無駄だろうから聞かない事にして、了承の返事をする。
その後、続けざまにかがみ、高良に古泉と同じような事を聞いてきたのだがこいつらは元から頭が良い訳ため、その願いは断っておいた。
それより、何で古泉まで俺に願うんだよ。それとかがみ、高良、いくらなんでも落胆しすぎだ。
次の日からはより一層部室の空気がピリピリし始めた。
泉とハルヒまでもが勉強をし始め、この部室に居るメンバーの中で勉強をしていないのは俺と長門だけになってしまった。
長門は思わないだろうが、俺は非常にこの空気に居たたまれない気持ちになり、数学のワークを開き、問題に取り組む事にした。
見たところ、つかさも落書きせずに真面目に勉強をやっているあたり、昨日の事が相当効いているのだろうか。
泉もつかさも積極的にかがみや高良に質問をしているし、どうやら俺に願いを聞いてもらいたい気持ちは本物なのだろう。
さて、どんな願いなんだろうね。罰ゲーム的なことをされないといいのだが。
それにしても、ここの空気は重すぎる。このままだと圧死してしまいそうだ。
こんなのが後いつか近く続くのか。はてさて、耐えられるかどうか。
何とか圧死されずに済み、期末考査当日を迎えた。
あの苦しい空気の中、必死に耐え抜き勉強した俺も今回のテストには中々の自信がある。
少なくとも、赤点を免れる自信があるね。
そして当の本人達はと、テストを終わった後の泉とつかさの顔を見ると自信ありげな顔をしていらっしゃる。
あの顔は赤点を免れて喜んでいる顔ではなく、約束の順位より上である自信がある顔なのだろう。
テストが終了し、返却される。
俺も自信の通り赤点を免れる事ができ、国木田からは「今回は頑張ったね」と褒められ、谷口からは「お前、裏切ったな」などと結んでもない同盟を破られたような言いがかりをしてきた。
一方の泉とつかさも大変順位が上がったらしく、かがみからも、黒井先生からも驚愕されるほどとなっている。
さて、テストが全て返却された日の放課後、いつものように部室へいくと泉とつかさだけが既に来ていた。
長門が居ないのは珍しいな。
「じゃ、私たちの願いを聞いてもらわないとネ」
ちょっと待て、お前らが約束の順位を取れたと決まったわけじゃないぞ。
「この点数を見てもそんなことがいえるのかな?」
泉とつかさは俺に全てのテストを見せる。無論、それは全て平均点以上を保っており、恐らく約束は果たせたのだろう。
仕方がないと腹を括る。
「わかった。お前らの願いはなんなんだ?」
「十二月二十四日を空けとくように!」
と泉に言われ、
「私は十二月二十五日だよ」
とつかさに言われた。
クリスマスとクリスマスイヴに何かするのか?
「それはそのときに伝えるよ。絶対破っちゃ駄目だからね?」
言われなくても、俺はクリスマスとイヴの日に一緒に遊びに行く相手もいないためいたって暇なのだから破るはずがないだろう。
「はい」
とつかさは小指を差し出す。もしかしてこれは指きりげんまんをしろというのか?
「そうだよ。破らないように、ね?」
俺も小指を差し出し指きりげんまんを唱える。それを見ていた泉とも同じ事をして二人は面向かって笑いあい、その後はいつものように戻っていった。
多分クリスマスとイヴには何かを買わされるのだろう。それまでに頑張って貯金をしなければ。
「恋の力って凄いわね」
読書をしていたかがみがふと俺に呟く。
「何でだ?」
「いや、アンタ気づいてないってわけじゃないでしょ?」
「気づくってなににだ?」
かがみは溜息を一つつく。
「何かこなたたちがかわいそうになってきたわ」
はて、どうかわいそうなのか。テストの順位も良かったわけだし、充分幸せだとは思うがな。
「やっぱりかわいそうだわ」
そうかがみは言っている。だが実際かわいそうなのは俺だろう。
キリストの誕生日とその前日に買い物に突き合わされるであろう俺の方がな。
クリスマスとイヴの日にもまたいろいろとあったのだが、またそれは別の話。
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最終更新:2008年11月30日 21:11