雪綺晶

七誌◆7SHIicilOU氏の作品です。


 さて、クリスマス。バレンタインと並んで厄介な外来イベントであることは
まぁ異論を挟む余地の無いことだとは思うのだが。ここしばらくは特にイベント事に
対して素直に楽しめない出来事が間々あり、その傾向が個人的に非常に強まっているため、
冬季の長期休暇とは名ばかりの微妙な長さの休みに対する関心など、期末の結果
と並んでこのイベントの所為でほとんど憂鬱のみが支配している現状。
それでも俺が全て、万事に向かって銜えた匙を投げずにいる理由があるならば、
簡単に単純に純粋に一つ、これは、うん、考えるまでもなく予想がつきそうであるが、
ヒントを一応出しておくとするならば、俺は谷口に対し休暇中の予定の一つとして
それをあげた際に奇声とともに頬を張られたということだろうか?
 当然理不尽な暴力に対しては正当防衛の名の下に正拳をお見舞いするにしても、
その後クリスマスという年に一回のイベントを当然のように部室で暴れ過ごそうとしていた
団長以下複数の団員にも当日予定が入っておりパーティー日時をずらすか辞退したいと
言った時には、谷口となにやら似たような反応を見せられ、特に暴走特急殿には
『殺すわよ』との殺戮予告を頂くまでに不況を買った訳で。
 とにかく色々あって、部室の使用許可等ど終了式に行われた大勢のミニスカサンタが
参加したパーティーを恙無くこなして本日、イブとは名ばかりの内実本番である24日。
俺は新調したジャケットのポケットに入れたプレゼントを触りながら
待ち合わせ場所についてから計五度目の時計の確認をした。



「……ちと早かったな」

 待ち合わせに一時間早く来るような真似は流石に野外団活動以外ではしないが、
それでも遅れはしたくないと早めに行動し、待ち合わせの予定時刻の十五分前に
つくつもりで家をでたのだが。いやはや、心境変化の賜物か普段は自転車で
二十五分の道程を倍以上の速度(なんと驚き十分で到着してしまった俺)で猛進、
最終的に三十分も早く来てしまうという結果に収まってしまった。
 そうして時間をもてあますとついつい色々と気にしてしまうのが人の常。
服装は変じゃないかとか、プレゼントの中身についてどうたらこうたら、
財布や携帯は忘れてないかとか、そわそわしっぱなしになる俺。
……いいじゃないか。別に、なんか、うん。そわそわで。うん。

 だがそれもここまで、もうすぐ十二時五分前。イコールで予定の五分前。
五分前行動を全てにおいて徹底してる彼女は多分この時計(誕生日に彼女に
買ってもらった奴で、少しデザインの違うペアのものを彼女はつけている。
時間は双方が秒針の単位でカッチリ同じに揃ってる)がジャスト五分前になっ
た辺りでくるだろうと流石に佇まいを居直して彼女を待つ。彼女のその
ピンク色のふわふわな頭髪というのは非常に群衆において目立つため、
こういったイベント日の待ち合わせ場所として定着してる人の多い場所でも
すぐ気付くことができる。……あぁ、えっと、いまさらだが俺がここで待ってるのは
つまるところ、みゆき、だ。高良みゆき。彼女のことをみゆきと呼ぶようになってから
結構立つのだが、まだ若干照れが残ってるのはまぁ御容赦いただきたい。



「…おっ、みゆき!」

 呼ばれて飛び出てという訳ではないだろうが、影が差したのが視界に入ったので
キョロキョロとしている決して小さいわけではない(むしろ局所的には大きい、特大だ)のに
小動物を思い起こす彼女に自分の場所をアピールする俺、やや気恥ずかしいがそこは我慢。
名前を呼ばれて気付いたようで、みゆきはこっちにとてとてと近づいてきて軽く一礼。

「お待たせしました」
「…ん、いや全然待ってない。うん」

 挙動が不振な俺だった。さもありなん。
みゆきのその、なんだろうか……天使? そんな彼女をみたらしかたなかろうて
…いかん、思考が流れてる。落ち着け、アイマイミーマイン、ユーヨアユーユアーズ。

「ふふ、どうですか?」

 なにがどうですかなんでしょうか? なんて聞き返しかかったが、自制。
それに会って直後なら大抵服装か髪型に決まってる。そして感想?
…素晴らしい、の一言だろうか。少し大きめの紺のトレーナーにタイトな感じのスカート
丈は膝と同じくらいで、そこから伸びる足に色っぽい黒いストッキング、もう艶っぽいと言っても可。


そしてトレーナーの上に白いフードのついたフリース生地の上着に俺があげたマフラー。

「可愛いですよ、似合ってる」
「ありがとうキョン君。…それじゃ改めてメリークリスマス」
「ん、メリークリスマスみゆき」

 空は晴天とはいかないまでもそこそこいい天気、今年はホワイトクリスマスという
言葉からは縁遠い感じの空模様。まぁ普段滅多に雪なんか降らない、降っても積もらない
こんな一地域に、クリスマスに狙いをすまして雪なんか降るはずがないのである。
それこそ神様に頼まなくてはいけない。『今年はホワイトクリスマスらしいぞ』と十人単位で
言い聞かせるような感じで頼まなくてはな。

「っと、少しいいかみゆき」
「はい?」

 マフラーに顔を埋めるようにして上目遣いに俺を伺うみゆき
やはり小動物、ハムスターやリスを想起してならない。
なんとなく、そうなんとなくそんな彼女の幾分俺より低い頭をくしょっと撫でてやって、
少し後ろに向かい合ったまま距離をとってポケットのそれを放る。慌ててそれを受け取る
みゆきを、そして俺に問うてから包みを開けていく彼女の一挙手一投足を、
はてどんな表情で俺が見ていたかは定かでないが。しかしその後の

「わぁ…、可愛い。ありがとうございますキョン君! ふふっ、大事にしますね」

 そういって雪の結晶、六方向に伸びた透明に少し青みがかった形の模った
小さなネックレスを首にかける姿をどんな緩んだ顔で見ていたか位は、
流石に鏡が無くても自覚できそうなものであった。

「それじゃ行こうか」
「はい、…キョン君」
「ん?」
「大好きです」
「…俺もみゆきが大好きだよ」






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最終更新:2008年12月31日 09:40
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