冬・二日目

お昼休み。
「ああもう、つまんない。つまんないつまんない…」
いつものように自席でお弁当を食べていたら、背後から地獄の亡者の呪いのごときつぶやきが聞こえてきた。ちょっとハルヒ、いまあんた完全に危ない人と化してるわよ。わたし以外に聞こえるところではやめてね。
朝からかなり虫のいどころが悪そうだったけど、今日はイライラがマックスに達しているらしい。かまってあげるべきか、放置しておくべきか。
そうね、昨日のこともあるし。
「ねえ、今日はいっしょに帰らない?」
唐突なネタ振りではあるけど、友達どうしとしてはごくごくまっとうな提案。このぐらいなら、なんとか会話が成立するラインよね。
「うるさい」
ううっ。機嫌悪いのわかってて話しかけたこっちもあれだけど、ほかに言いようってもんがないの。キャッチボールのつもりが、バットで打ち返された気分よ。
はあーっ、とハルヒは深くため息をついた。
「今日は話しかけないで。絶対ひどいこと言っちゃうから」
おや。いまこいつ、わたしに気をつかった? 自分がいつも以上に機嫌悪いことを自覚していて、わたしとのいさかいを回避するために、先手を打って警告したってことよね。
以前のハルヒなら無警告で発砲していたと思うけど、ちょっとは成長したんだね。無差別テロが予告テロになった程度には。依然として、言葉のテロリストであることに変わりはないけど。
あとでもう一度、いっしょに帰れるか聞いてみよう。いや、断りを入れる必要はないわね。たとえ無視されても、ここしばらくはこいつについていかないと。不審人物に狙われてるとわかってるのに、ひとりになんかさせておけないじゃない。
お昼を食べ終わったあと、わたしはとなりのクラスに向かった。そこで古泉君と高良さんに昨日のことを話したけど、キョンなんてあだなの男子は知らないし、思い当たる人もいないという答えだった。
高良さんには古泉君がついててくれるという話になったので、こっちは問題ないかな。

放課後。なんとなく帰る気になれなかったらしいハルヒは、しばらく自席に突っ伏して憂鬱な顔をしていた。
とりあえずわたしもそばにいて、なにを話すでもなく小説の続きを読む。
たぶんハルヒは、わたしがしびれを切らして帰るのを待っていたんだと思うけど、やがてすっくと立ち上がって教室をあとにした。
「ねえ」
早足で歩くハルヒ。わたしもそれについていく。
「話しかけるな、とは言われたけど、やっぱり気になるじゃない」
無反応。一定歩調。ちょっと進んで斜め前に回りこんでみた。むすっとした顔でアスファルトの地面に目を落としている。
「あんたになに言われたって、今日は忘れたことにしてあげるから。なんでそんなにイライラしてんのか、教えてくれてもいいでしょ」
やや歩調がゆるくなった。よし、効いてる。
「あんたはなんで、いつもそんなに…」
「ん?」
表情をのぞきこむと、ぷいっと顔をそむけた。
「理由なんてないの。あったら言ってる」
はあ、そりゃ手ごわいなあ。人生すべてに嫌気がさしてるって顔してるし。
「前に言ってた、何かが足りない、って感覚。まだ続いてる?」
「そうね。こんなつまんない世界じゃなくて、もうちょっとマシな世界に生きていたはずなのよ。本当のあたしは」
うわあ。本当の自分、とか言い出したぞ。それって現実じゃダメダメな人の常套句じゃない。こりゃあ処置なしか。
あんたは、ちょっと生き方を変えれば人の何倍も輝けるはずなのにさ。ったく、もったいない。たとえ『アイドルデビューする』とか言い出したって、わたしは応援するよ。というかハルヒなら本当に人気が出そうだ。
なんてことを考えながら、いつもの分かれ道にさしかかったとき。
「おい」
北校の制服を着た男子が、わたしたちの行く手をふさいでいた。

「なによ、なんの用?」
男は、まっすぐわたしたちを見つめている。
「ていうか誰よあんた、あたしは知らない男から、おい、なんて呼ばれるすじあい――」
ハルヒは矢つぎばやに、拒絶の意を表明する言葉を並べ立てた。普通の男子なら速攻で退散する勢いね。だけどこいつはハルヒに罵倒されながら…嬉しそうにしているように見えた。うわ、キモ。
ちょっと涙ぐんだ目で、男はわたしに視線をうつした。
「おまえとも、はじめましてになるのか」
なによ、わたしを前から知ってるような口ぶりで…あ、いや、こいつ見たことある。北校の、男子。そうか、文化祭のときにわたしをナンパしてきたやつの連れ。
「初対面でもないけどね。おまえ、なんて気安く呼ばないで」
あっ、とハルヒも声をあげた。
「バカ谷口の、アホ仲間!」
このひとことに、男は目を輝かせた。あちゃあ、餌をやっちゃったかな。
「知ってるのか、会ってたのか、こっちの俺に」
ハルヒはじっと男を見つめ、一歩前に出た。顔はよく見えないけど、その目にそうとうな怒りのオーラがこもっているのは間違いない。普通はびびるよね。でも彼は、負けじと自分も一歩前へ進んだ。
「ハルヒ」
ぴくっとハルヒが頬を動かす。
「誰に断ってあたしを呼び捨てにするわけ、なんなのよあんた」
そのまま口論、というかハルヒの一方的な言語的暴行がはじまる。あらん限りの語彙をつくして罵倒するハルヒと、何かを決意したような瞳ですべて聞き流す男。うーむ、ハルヒの精神攻撃にここまで耐えたやつは初めてね。ただものじゃないのは認めてあげる。
だんだんとギャラリーが集まってきた。見せ物じゃないっての。ああもう、どうしたらいいものやら。
「行きましょ」
さすがにしゃべり疲れたのか、ハルヒは男の脇にそれて通り過ぎようとした。
待ってくれ、と言って男がハルヒの肩をつかむ。
「放しなさいよ、しつこいわよ」
言いながらハルヒはすっとしゃがみこみ、流れるような動作で正確に男のくるぶしにケリを見舞った。今のは効いたぞ。
だけど、男はなおもハルヒに取りすがった。その根性はどこから沸いてくるの。こんな出会いでなければ、ハルヒのお守り役はあんたにゆずってあげてもよかったかも。
「ひとつだけ教えてくれ。三年前の七夕を覚えているよな。あの日おまえは、中学校の校庭に忍び込んで――」
男は涙ながらに、ていうかホントに半分泣きながら、自分とハルヒの愛の思い出を語りだした。
ああ、やっぱりどうしようもなくかわいそうな人だったのね。はい、110番、110番。ちょっと震える手で携帯を取り出す。緊急通報なんてするのは初めてよ、けっこう緊張する。
わたしが、110番の『11』まで押したとき。
「あんた、名前は」
ハルヒは男の襟首をおもいっきり締め上げていた。ちょっと、リンチはまずいでしょ、日本は法治国家なんだから。
「ジョン・スミス」
なめてんの。ここで本名を名乗りたくないのはわかるけど。
「ジョン・スミス? あんたが、あのジョンだって言うの?」

驚いたことに、ジョンなる男が語ったハルヒとの三年前の思い出とやらは、ほぼ真実だったらしい。
中一のとき、深夜の校庭に宇宙文字を書こうと思い立った(おい)ハルヒは、そこでかわいらしい女の子を背負った(おいおい)ジョンに出会い、意気投合して宇宙人へのメッセージを完成させたそうな。
ねえ、この話どこからツッコんだらいいの? このふたりを引き合わせたら、混ぜちゃいけない洗剤を混ぜたときの化学反応が起きちゃいそうよ。
ハルヒといっしょに連れ込まれた、正確には、ハルヒがほいほいついていくのでわたしもつきあった喫茶店で、ジョンは静かに語りだした。
「俺の知ってるおまえは北校にいて、入学式のあとにこんなことを言ったんだ…」
彼の、バカバカしいこと極まりない話を要約すると、こうなる。
・この世界は本当の世界ではなく、誰かに改変された世界だ
・本当の世界では、わたしやハルヒは北校に入学していた
・ハルヒには不思議な存在を呼び寄せる力があるらしい
・わたしは別の地球からその世界に召還されてきた異世界人だ
・そのほかにも、宇宙人や未来人や超能力者がハルヒの力に興味を持っている
・そいつらはハルヒを団長とするクラブに所属して、日夜世界の不思議を追い求めている

はあー。
もはやどこを突いてもツッコミ所、いちいち指摘する気にもなれない。
何よりも気持ち悪いのが、こいつが自分の話を100%真実だと信じきっていること。わたしたちをだますための作り話なら、どこかでうそっぽい態度を見せるはずだと目を光らせていたけど、そんなそぶりはまるでない。
そして、何よりも残念なのが…ハルヒがとても楽しそうにしていること。ジョンが『本当の世界』のことを話すたびに、目を輝かせ、話題に食らいついていく。
わたしが今まで、ハルヒとのあいだに築いてきたと思ってた友情、ハルヒにとっては想像の翼の余計な重しでしかなかったのかな。
「これを見てほしい」
そう言ってジョンがカバンから何か取り出す。見たくもない。けど、ハルヒを説得する何かの材料になるなら。
『プログラム起動条件・鍵をそろえよ。小説と漫画。最終期限・二日後』
紙製のしおりに、とてもていねいな字でそう書いてあった。
「これは長門が…そいつは宇宙人なんだが、最後にこの世界に残して行ってくれたヒントなんだよ」
「宇宙人! なに、キャトルミューティレーションとかする連中?」
「いや、どうだろ。殺されかけたことはあったけどな、朝倉と名のる、別の宇宙人に」
このジョンとかいう男、明らかにハルヒを狙ってる。ハルヒの妄想癖につけこんで、こいつが喜びそうなSF的設定をこしらえて、しかも自分自身すらそれを信じ込んで。そのための準備を三年も前から仕込んでいた。普通じゃない。

「鍵ってのはなに、この、小説とマンガ? そろえるとどうなるの」
「わからん。が、たぶん世界を元に戻せるんだろう。そう考えないとやってられん」
やってられんのはこっちのほうよ。こいつ、つかさの言ってた危険人物と同じやつよね、間違いなく。さあ、どうやってとっちめてやろうか。
「ただそろえるだけでいいの? どこか、特別な場所に持ってかなきゃいけないとか」
「それだ。思い当たる場所はひとつしかない。北校の文芸部室」
北校の、文芸部。つかさのみつけた居場所。
わたしについて歩くことしかできなかったあの子が、自分だけの人間関係を、産まれて初めて作り出した場所。
ジョンとやらが、自分の妄想に引きこもりたければ好きすればいい。どの道こいつは手遅れっぽい。
ハルヒがそれにどうしてもつきあうというなら。満たされない現実よりも、満ち足りた夢の中のほうが居心地いいと結論するなら。悲しいけど止めはできない。
だけど、それにつかさを巻き込むなんて。あの子と、大切な友達との居場所を、こいつの勝手な思い込みでひっかき回すなんて、わたしが許さない。
「あんた、ジョンだっけ? 北校では、別のあだ名で呼ばれていたんじゃないの」
反撃開始。
「あ、ああ、そうだ。仲間うちでは、キョンって呼ばれてる。なにか思い出したのか、かがみ」
胃がムカムカしてきた。なにがどうあれ、こいつは自分の都合がいいようにしか解釈できないらしい。
「ありもしない記憶を、どうやったら思い出せるの。あんたのことはつかさから聞いた」
そうか、と言って、ジョンは視線をわずかに逸らした。見逃さないわよ、その挙動。
「へえ、自分が女の子に乱暴したって自覚はあるんだ」
ハルヒが眉をひそめる。ジョンの視線が宙をさまよいだす。
「あれは、ああ。この世界にいきなり放り込まれて、気が動転していて…あいつらには前の記憶なんてないのに、悪かったと思ってる」
しどろもどろの釈明を聞いているうち、キーンと耳鳴りがしてきた。あ、いわゆるプッツンするって、これのことをいうのかな。脳血管が二、三本切れたのかもしれない。怒りで。
「女の子に、『どうしてここにいる』なんて怒鳴りつけることが? 無理やり肩をつかんで壁に押し付けることが? あんたの中では『悪かった』のひとことですむ問題だっての」
ジョンは絶句した。彼を見つめるハルヒの瞳には、もはや疑いの色が浮かんでいる。
わたしは千円札を一枚取り出し、テーブルにたたきつけた。グラスが揺れて、水がこぼれる。
二人分、五百円ずつで足りるかな。いいや、多少こいつにおごらせたって問題ない。
「出るわよ」
ハルヒの腕をつかんで、やや強引に引っ張る。まだ迷ってるみたいだったけど、とりあえず席は立った。
「待ってくれ」
追いすがるジョン。みっともない。あんたの脳内論理に従って、まだわたしたちを説得できる材料があるっての? 言ってみなさいよ。
わたしは視線に精一杯の怒気を込めて彼をにらみつけた。引きつった表情で動きが止まる。
もうジョンは何も言ってこなかった。ハルヒもわたしに抵抗しない。その手を引いて、わたしたちは席をあとにした。
店内のお客さん全員がこっちを見てる。入り口付近にいた中学生ぐらいの女の子が、驚いた顔でわたしを指差した。うう、視線が痛い。
怒りが引いたら急に脱力感が沸いてくる。やっちゃったなあ、とうぶんこの喫茶店は出入り自粛ね。でも、自分の行動に後悔はしてないから。

帰宅。あの男のくっだらない妄想につきあわされたせいで、今日はじゃっかん門限オーバー。お父さんのお小言を神妙に聞いて、帰りが遅れそうなときはもっと早く連絡することを約束させられた。あんな珍事、もう二度と起きないと期待したいわね。
夕食後、姉さんたちがお風呂に入っているあいだ、つかさの部屋に行ってみた。
「うーっす、入るわよ」
ちょっと元気のない返事が返ってくる。そういえば、ごはん中もつかさはほとんど話しかけてこなかった。なにかわたしに言いづらいことがあるんでしょ。それがなんなのかもだいたい予想がつく。
つかさはベッドに腰掛けて枕を抱えていた。わかりやすいな。その横にわたしも座る。
「今日、例の分かれ道で、キョン君とやらに会ったわよ」
つかさがぎゅっと枕を抱きしめる。
「う、やっぱり…えと、どうだった?」
「最っ低なヤツ」
うう、とうめいて、つかさは顔の下半分を枕にうずめた。背中をぽんぽんと叩いてあげる。
「べつに怒ってるわけじゃないから。あの男がさ、まるでわけわかんないこと言い出して、それで怖くてわたしのこと教えちゃったんでしょきっと。あれは刺激しないほうが正解よ」
つかさの背中がぴくっと震える感触があった。ゆっくりと顔を上げて、横目でわたしを見る。
「違うよ。たしかに、キョン君の言ってること、全然わけわかんなかったけど。でも…悪い人じゃないと思うの」
はあ? と問い詰めると、つかさはまた枕に顔をうずめた。ありゃりゃ、びっくりさせちゃったか。
「なんなのよ、あいつ」
今度は優しく問いかけてみる。
「うん…昨日は言わなかったんだけど。わたしも、ゆきちゃんも、キョン君に助けてもらったことがあるの。ちょっとしたことなんだけど。本人も覚えてなかったみたいだし」
なんとまあ。それも三年越しの仕込みのうち? 本当に気の長いやつ。
「わたしも信じてるわけじゃないよ。世界が変わってどうこうとか、ありえないよ。でも、キョン君すごく、すごく困ってるみたいだったから。それで、ハルヒって人は、陵桜のお姉ちゃんのお友達だって言っちゃったの。約束、破ってごめん」
はあ。困ってる人は放っておけないのがこいつの性分だしね。そこにつけこまれちゃったのか。
わかった、と言って立ち上がる。つかさが半べそかいてわたしを見つめた。だから、そんな顔されたらもう責められないじゃない。
「あんたがどう思おうと、あいつが危険人物なのは変わりない。あんまり近寄っちゃダメよ」
つかさはうなずいた。まだ納得はしてなさそうだったけど。自分の部屋に戻ろうとしたら、つかさの部屋のドアがかちゃりと開く音がした。
「あ、あ、お姉ちゃんごめん、いっこ忘れてた」
駆け寄ってきて、わたしに一冊の本を手渡した。カバーがかかったままの文庫本だ。
「これね、こなちゃんが、お姉ちゃんに貸してあげるって言ってたの。自分は読まないからって」
はあ、あの子が? まあいいけど。

お風呂から上がって、今日の宿題を片付けて。さあ寝るかと思ってベッドに入ったけど、まだ明かりを消す気にはなれなかった。今日はなんかいろいろあったし。
机の上に、つかさから渡された文庫が置きっぱなしにしてある。これって、こなちゃんが一冊だけ持ってる借り物のラノベってやつよね。それを人にまた貸しするか? ったくあの子は。
手にとってカバーをはずしてみる。そのタイトルを見てわが目を疑った。何度かまばたきする。背表紙も見る。見まちがえなんかじゃない。
なによ、『涼宮ハルヒの憂鬱』って。
表紙はセーラー服の女の子。どう見たって北校の女子制服。マンガチックに書いてはあるけど、これハルヒよね。
ばっと裏返す。裏表紙には作品の概略が書いてあるものだ。
『「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたら――』
ハルヒの、いまや伝説となった入学初日のあいさつそのまま。
最初の数ページはカラーイラスト。人気の出そうな絵柄ね。どう見たって、素人が描いてみましたというレベルじゃない。
わたしは引き込まれるように本文を読み始めた。

小説を一冊、最初から最後までほとんど休憩なしで読んだのは久しぶりかも。
『涼宮ハルヒの憂鬱』を読みきったとき、すでに、明日は寝不足確定のシャレにならない時間になっていた。
うん。わりと、いやかなり面白かった。内容的には文句なし…単に、こういうお話だと思って読むのなら。
だけどなんで、夕方にキョンとやらが語った妄想そのままの世界設定なのよ。
主人公があいつ、ヒロインがハルヒ、ラストが異空間でキスってのは、やつの願望そのものよね、きっと。
これの作者はあいつ? だとしたら今すぐプロ作家としてデビューできる。
巻末のあとがき、解説、広告、発刊者の仰々しいお言葉まで含めて、わたしがよく読んでるレーベルを完全再現してる。
わたしの理性が、ありえない、ありえないと繰り返し叫ぶ。
あいつは、プロ並みの腕を持つ作家兼イラストレーターで。かつ、実在の文庫そっくりのダミー本を個人出版できるほどの暇人で金持ちで。つかさの友達のこなちゃんもこの陰謀に一枚かんでいる。それが、ただひとつの合理的結論。
だけどわたしの感性は、まったく別のことを訴えていた。
――わたしは、別の世界でこの本を読んだことがある――
別の世界。ハルヒの存在が、単にライトノベルのキャラクターであった世界。そこからわたしは来た?
喫茶店で見せられたしおりに書いてあった言葉、『鍵をそろえよ。小説と漫画』。これがその鍵のひとつなのかな。
寝よう。もう寝よう。きっとわたしは疲れてるのよ。
たとえハルヒが世界の神だとしても、明日はまた日が昇るし、わたしは学校に行かなくちゃいけないんだから。

……

(やふー)
毎朝の光景。
(おっす、こなた)
わたしたちは通学バスに乗って。
(かがみん、見た? 第二話)
つかさがわたしに寄りかかって居眠りしてて。
(ハルヒだよ、ハルヒ。これは今期の本命確定だね。第一話はちょっと微妙すぎたけど)
こなたが嬉しそうにアニメの話をして。
(あー、アニメのほうも始まったんだっけ)
わたしも嫌々つきあうふりをして。
(そーだよー、かがみんも原作好きで読んでたじゃん)
でも実はけっこう乗り気で。
(まあ、普通に名作だと思うけど。こんど貸したげる)
そんな毎日が永遠に続くと思っていた。


冬・三日目

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最終更新:2009年01月07日 23:54
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