古泉語り

※ホモネタ注意


おや? もうお目覚めですか。
僕としてはもう少しあなたの寝顔を拝見していたかったのですが…そんな顔しないでください。
まずは、なぜいまこのような状況に置かれているのかを知っていただきたいのですが、構いませんか。
…お返事がないようなら、イエスの意味だと判断します。
要は、なぜあなたはこれほどまでにモテるのか、ということなんです。
失礼ながら、女性心理にあまり明るいといえないあなたでも、現在のご自分を取り巻く人間関係、さすがに異常だと感じているのではありませんか。
いまさらシラを切ろうというのは、少し虫が良すぎです。

無論、あなたは数多くの美点をお持ちのかたです…皮肉やからかいで言っているのではありませんよ。
涼宮さんの力と、自分が彼女に選ばれた存在だという事実を知りながら、それでもなお、自分が特別な存在だなどと思い上がったりはしていない。この一点のみでも、賞賛すべき人柄です。
あなたの公正さ、心優しさ、決断力すべてが、僕にとっては憧れと呼べる領域に達しているのです。
おや、もしかして照れていますか。

あなたに対して特別な好意を持っているかたがた、そのひとりひとりの心の流れは自然です。
たとえば、そうですね、朝比奈さん。
あなたもすでにお気づきかとは思いますが、彼女は自分の使命についてほとんど知らされていません。僕たち現代人に余計な情報を与えないために、あえて権限を持たされていないのでしょう。
彼女たちのテクノロジーに比べたら、現代の科学なんて江戸時代のレベルと大差ないはずです。そんな未開の地にひとり放り込まれ、まるで意味がわからないまま、極めて重要な任務を命じられて…しかしあなたは常に彼女の支えであろうとし続けた。行動的にも、精神的にも。
そんな状況下で、あなたを好きにならないほうがどうかしています。

あるいは、長門さん。こう言ってはなんですが、僕は彼女のことを「よくできたロボット」程度にしか思っていませんでした。
…そうカッカしないでください。この認識が誤りだと気づかせてくれたのは、あなたです。
いまではわかっていますよ。彼女にだって人間にも理解可能な感情がある。ただ、自分の感情を認識して、それを表現するスキルが与えられていなかっただけなんだと。
彼女という存在自体、ヒューマノイドインターフェースに人間の行動原理が学習できるか、という実験であったのかもしれません。
あなたは彼女を人格ある存在としてあつかった。彼女の中のささいな感情の発露を見抜き、それを喜んだ。
人間には、「損/得」という価値判断のほかに「快/不快」という行動原理があるといわれます。あなたはそれを、身をもって彼女に教えたのです。
おそらくいまの彼女にとっては、あなたを喜ばせることが「快」であり、あなたを苦しめることが「不快」なのでしょう。


どうやらいまひとつ、僕の意図が飲み込めてもらえてないようですね。面倒かもしれませんが、もうしばらくおつきあい願えませんか。いきなり本題に入っても、たぶんあなたは混乱するだけでしょうから。
それでは、泉さんはどうでしょう。彼女の人柄についてどう感じていますか。いたずら好きで、たまによくわからないことをおっしゃいますが、いつでも明るくて、元気で…
あまり納得されていませんね。あいつはそんなに単純なやつじゃない、とおっしゃるんですか。
彼女がよく親しい人間に対して、害のない悪ふざけをくりかえしたり、理解されないのを承知で趣味の話をしたりするのはなぜでしょうね。
僕が思うに、あれは人間関係の距離を計測しているんです。
どこまでなら相手が許してくれるのか、常に確かめていないと気がすまない。ついうっかり踏み込みすぎて、自分が嫌われてしまうことを極端に恐れている。そんな感じがします。
だとしたら、彼女の普段の明るい態度は、みなコンプレックスの裏返しですね。
本当は深く気に病んでいるのでしょう。
小学生と言っても通じそうな体格のこと、周囲の理解を得づらい趣味に没頭していること。
彼女のお母様が、病の身をおして自分の出産に踏み切ったせいで寿命を縮めてしまったこと。
父親以外の男性を知らないこと…おっと、どんな意味かはご想像にお任せします。
しかしあなたは、彼女の心のどこかに影があると気づいていながら、それをまるで気にしなかった。
責めているのではありませんよ。逆です。あなたのその大らかさが、きっと彼女にとっては救いだったのです。
家族の前でも、親友の前でも、明るく元気な自分という仮面をかぶって踊り続けてきた彼女が、本当の自分をさらけ出してもいいと思える唯一の相手、それがあなたなのでは。


ちょっと長話になりましたか。なんだかのどが渇いてきました。失礼…
あなたも飲みますか。ただのミネラルウォーターですよ、変な薬品なんて入ってません…必要ない? そうですか。
ここまでお話したんですし、どうせならひととおり行きますか。
柊さんについてはどうです? と言っても、おふたかたいらっしゃいますけど。
ことあるごとにお姉さんを頼るつかささん。それをまるで拒否しないで、むしろ喜んでいるかがみさん。
うるわしき姉妹愛といえばそれまでですが、悪く言うなら互いに依存しています。
完全に一卵性の双子でしたら、もっと対等な関係が成り立っていたのでしょうね。しかし彼女たちのような二卵性の双子は、生物学的に見れば単に同時に生まれた兄弟です。どうしたって遺伝子レベルで能力のばらつきが発生します。
そして彼女たちの場合、知能的にも、運動能力的にも、優れていたのはかがみさんでした。何をするにしても自然と、かがみさんが先導して、つかささんがあとを追うという関係が構築されます。
本来なら彼女たちは、成長のどこかの段階で共依存関係に見切りをつけて、独立した自己を確立しなくてはいけなかったのです。
しかし皮肉なことに、柊家は幸福なご家庭でした。家庭環境的にも経済的にも、問題らしい問題は見当たりません。彼女たちは、ご家族に守られてさえいれば、自分自身のために何かを決断する必要なんてなかったのです。
かがみさんにも、つかささんにも、これといった恋愛経験がありません。中学校時代まで、つかささんが軽度の男性恐怖症だったからです。
きっかけはありふれたことです。小学生の男子というものは、ありていに言って…馬鹿ですから。特に男兄弟しかいない子の場合、ひどく乱暴な、される側にとっては屈辱的な悪ふざけを、ほんのあいさつ代わりに仕掛けるものです。
同年代といえば自分の姉たちしか知らず、父親に手をあげられたこともなかったつかささんにとって、同じ年頃の男子というのは正体不明のモンスターに等しい存在だったのでしょう。
小学校時代、および中学時代前半を通して、かがみさんの使命は、大切な妹をモンスターたちから遠ざけることでした。
高校に入学してからも、彼女たちは女友達しか作ろうとしませんでした。しかし、泉さんにひっぱりこまれる形で僕たちSOS団と親しくなり…つまりは、あなたに出会ったのです。
これは僕にも少々責任があるかもしれませんね。涼宮さんの監視役という立場上、ほかの生徒さんと一定以上に親密になることは避けてきましたから。
わかりますか。柊姉妹にとってあなたは、生まれて初めて出会った「恋愛対象にふさわしい男性」なのです。
しかし、彼女たちはお互いの気持ちについてきわめて敏感です。
かがみさんには、大切な妹の好きな人を独り占めなんてできません。
つかささんには、大好きなお姉さんの好きな人を横取りなんてできません。
決して好きになってはいけない人への恋心、これ以上に燃え上がるものがあるでしょうか。


なにやらお疲れのご様子ですが? すみません、でもあなたには知っていただきたいんです。もう少しですから。
では。泉さん、柊姉妹ときたら、お次は高良さんでしょうか。
控えめなかたですよね。なんにつけてもそうですが、あなたの前では特に。
ところでご存知ですか、彼女にはお兄さんがいらっしゃるとか。
僕たちはいままでに何度か、彼女のところの豪邸にお招きいただいたことがあるわけですが…そんな人物、いましたっけ。
そもそもあのお宅からは、まるで男っ気が感じられないと思いませんでしたか。
うすうす察しがついたかとは思いますが、すでに離婚されているんです、彼女のご両親。お兄さんはそのとき父方へ引き取られました。
われわれが彼女の経歴を調査した際、機関のメンバーが…あなたもご存知の田丸さんですが、そのお兄さんへの接触に成功しています。彼のお勤め先の取引相手、という名目でね。
何度かお酒の席にお誘いして、昔話を聞き出してもらった結果、興味深いことがわかりました。
ひとつが、まだご家族一緒に暮らしていらしたとき、妹がとても懐いていたのでよく相手をしてあげていた、と。
もうひとつが…高良さんのお母様ですが、ちょっと不思議なかたですよね。若々しいというか、子供っぽいというか。
とにかく家事をしたがらないかただったので、よくお兄さんが代わりにしていたと。そのほかにも、突拍子もないわがままを突然言い出すことが多々あって、そのたびに振り回されて大変だった、と語っていらしたそうです。
この関係、どこか似ていませんか。そう、あなたと涼宮さんに。
きっと高良さんは、あなたを見ていたらどうしたって思い出してしまうんですよ。大好きだったのに離ればなれになってしまったお兄さんのことを。
そして同時に、自分があなたに対して抱いている感情は、失った思い出の代償に過ぎないとも自覚しているはずです。彼女は聡明なかたですから。

ところで、一番肝心のかたを抜かしていましたね。もちろん最後にとっておいたわけですが、涼宮さんです。
彼女があなたに好意を抱く理由は明確。おもしろいからです。
あなたというかたがこの町に生まれ、いまの人格を持つあなたに育ち、そして彼女に出会った。それらすべてが、彼女にとってきわめて都合のいい偶然です。
僕や朝比奈さん、長門さんのような存在が、そろって涼宮さんのそばにいることもまた同様。彼女の望む環境を作り出すべく調整された偶然、つまりは宿命と呼んでさしつかえないでしょう。
ただ、いま僕が問題にしたいのはそこではありません。
彼女、目立ちたがり屋に見えますよね。自分ではそんなおつもりないんでしょうけど。
思い起こしてください、ビラ配り、映画撮影、そして彼女がたまに口にする言葉、「SOS団を世界に広げる」。
ようは、多くの人々に認めてもらいたいんです。自分自身がではなく、自分が大切に思っている存在を。自分が好きなものは、世界中の誰もが好きなものであってほしい、そう考えておられるのです。

やっと話を戻せました。脱線が過ぎるのは僕の悪い癖ですね。
もうおわかりですか、なぜあなたは人気者なのか。
なぜあなたの周りにはこれほどまでに都合よく、すばらしくチャーミングで、あなたに好意を抱く理由が充分ある女性たちが集まってくるのか。
そう。涼宮さんから見て好ましい男性であるあなたは、ほかの女性から見ても好ましい男性でなくてはならないのです。
それらの女性は、みなそれぞれに魅力的で、かつあなたの存在を心から求めているかたがたでなくてはならないのです。
そして、誰を選ぶかの決断をあなたにゆだねた。彼女のそういうところ、僕には驚きなんですがね。
誰が選ばれても不自然ではない状況を作り上げておいて、その上で勝負がしたかったのかもしれません。結果が誰にも予測できない、勝っても負けても納得がいく、そんな全力の戦いを。

しかしあなたは逃げた。自分への好意に気がつかないふりをして、結論を先延ばしにして、ただ彼女たちの期待だけを膨らませた。
その結果、どうです。彼女たちのあいだにあった友情も、信頼も、いまや見るも無残な状態です。
僕にとってもわりあい居心地のよかった人間関係は、もはや修復不能なレベルにまで破壊されました。
不思議ですね、これまでに何度となく世界の運命がかかった判断をせまられ、そのたびに正解を選択してきたあなたが…こと恋愛に関しては、ここまで優柔不断だったなんて。


そうそう、ついでに僕の話もしておきましょうか。
僕が自分の同性愛的傾向を自覚したのは、中学に入ったころでしたかね。
クラスの男子が、道端で拾った成人向けコミックを回し読みしていて、まあ僕もちらっと見たわけですが…それのどこがそんなに面白いのか、まるで理解できなかったんです。
そんなものよりも、グラウンドを走る運動部員の体操服から伸びた腕や脚のほうが、よほど魅力的に映りました。
普通ならそこで、女性に欲情できない自分は異常なのではないか、と悩むところなのでしょうが、そんな暇はありませんでしたよ。ほぼ同時期に、超能力者としての覚醒が始まってしまいましたから。
青い巨人が灰色の町を破壊する幻覚を、昼夜関係なしに突然見せられてしまうのです。もちろん当時は、神人のことも閉鎖空間のことも知りませんでしたが、あれを放っておいたら世界が破滅する、ということだけは直感できました。
その後、僕が機関に発見してもらえるまでの数ヶ月間のことは、あまり思い出したくありません。ただ恐怖におびえる毎日でした。
自分の使命を知って戦いに参加できるようになったあとも、とても平穏な日々ではありませんでした。
だけどある日、とても奇妙な任務を命じられました。涼宮さんと、そのパートナー…あなたの監視。人選に深い意味はありません、消去法で考えてこの仕事に一番向いているのが僕だった。それだけです。
その後のことは、まあくどくどとお話しする必要もありませんね。あなたもご存知の通りですから。
ただ、誰にも言えない心境の変化はありました。かつて僕は…あなたのような存在でありたかったんです。
本当は、こんな力は必要なかった。毎日当然の義務として学校に行くような、平凡な生活が送りたかった。でも、この世界には秘密があるという事実まで忘れてしまいたくはないんです、つまらない好奇心ゆえですね。
あなたに嫉妬してないと言えば嘘になります。では、僕があなたの立場だったら? 必要最低限の情報しかなしに、常識のまるで通用しない怪事件に次々と遭遇したら?
悔しいですが、僕にあなたと同じことができたとは思えません。もしこのゲームの主人公が僕であったなら、何回ゲームオーバーになっていたでしょうね。
いままでのように、あなたの友人のふりをしてあなたのそばにいられれば、それでわりあい幸せなんだと気がついたのです。
何をするでもなく放課後の時間を潰して、たまにあなたに何か相談されたり、たまに迷惑がられたり。人知を超える事件が起きたときには頼りにしてもらったり。そんな毎日が、この上なく幸福でした。

もうすでに長門さんあたりから聞いているかもしれませんが…いま現在、閉鎖空間は広がり続けています。おそらく今夜じゅうに全世界を飲み込んで、作り変えるでしょう。
不思議ですね、どうして僕はこんなおしゃべりをしていられるんでしょう。以前なら、世界を救わなくてはならないという使命感に突き動かされて、いてもたってもいられなかったはずですが。
それ以前に、どうしてあなたは今回、涼宮さんのもとにご招待されていないんですか。
なんてね。わかりきったことを聞いてしまいました。彼女はもう、あなたに幻滅しています。いまさら抱きしめてキスなんかされたって、それであなたを信じることなんてできないのです。
あなたへの失望は、すなわちこの世界への失望です。あなたはそれだけ大きい存在だったのですよ。もっと早く気づいていただけると思っていましたが。
どうしました。もう抵抗しないんですか。それとも僕を油断させようという作戦ですか。
駄目ですよ。いまあなたの両脚を自由にしたら、きっと走って逃げてしまうでしょう? あなたの両腕を自由にしたら、つかみかかって抵抗するのでしょう?
あなたの口を自由にしたら、僕を口汚くののしるのでしょう? どれも耐えられません。
思うのですが、涼宮さんはまだ、完全にあなたを諦め切れてはいない。少なくとも、あなたをほかの女になんか渡したくないと思っておられるのでは。
同時に、あなたへの好意を表現することすら許されなかった僕に、少し同情してくれているのかもしれません。
あとは、そうですね。あなたなんかひどい目にあってしまえばいい、と考えておられることは確実です。
さあ。これから僕は、いままであなたにしたくてたまらなかったことをしますよ。そちらにとっては不愉快としか思えないことでしょうが、まあ我慢してください。どのみち今夜限りです。
では、いただきます。






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最終更新:2009年01月08日 21:02
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