『豆撒き』

さて、皆さんは今日が何の日か既に知っているだろう。
 節分の日である。
「節分とは、本来各季節、立春や立冬の前日を指すのです。江戸時代以降は主に立春の前日が『節分』と言われるようになっていき、毎年三日、閏年の日は四日が節分となっ
ているのですよ」
 と部室で高良が泉やつかさに知識を披露している。
「節分と言えば豆撒きですが、東北など地方によっては落花生などを撒かれる所もあるそうです。他にも、米、麦、かちぐり、炭なども使用されていたのですが、豆が一番収
穫しやすく、鬼に当てた時の音や、豆自体の粒の大きさが適当だったため、大豆が一般的に使用される事になったそうですよ」
 感心する俺とつかさ。ちなみに、ハルヒ率いる朝比奈さん、かがみ、古泉らは買出しに行っている。
 差し詰め豆でも買いに行ったのだろう。
「いやー、凄いねみwikiさん」
 今泉の発音が変に聞こえたのは気のせいだろうか?
「そんな情報何処で仕入れているの?」
「Wikipediaです」
「やっぱりネ」
 何がどうやっぱりなのかはいまいち分からないが、そんな会話をしているうちに、
「たっだいまー!」
 と半開きとなっていたドアを壊れるのではないかというぐらい勢いよく開け、ハルヒたちが帰ってきた。

「ふぃー。疲れた」
 そう言いながらずっしりと中身の詰まったスーパーの袋を机の上に置くハルヒ。さっきまで持ってたのは古泉だがな。
「おい、こんな荷物どうしたんだ?」
「買ってきたのよ」
 憐れな子羊を見るような目でこっちを見るハルヒ。
「そうじゃなくてだな。こんな荷物、一体何に使うんだ?」
「豆撒きよ豆撒き。今日は二月三日、節分の日よ」
 そんなことは知っている。さっきまで高良たちとその話をしていたのだからな。
 しかし、ハルヒたちが買ってきたその荷物は豆撒きのためだけに買ってきたとは思えないほど重そうになっており、スーパーの袋の持つ手を持ったら袋が破れてしまいそう
なほどである。
「何が入っているんだ?」
「豆よ」
「こんなにも豆があるって言うのかよ」
 袋の中が全部豆だとしたら全部撒くのに一時間以上はかかるだろうよ。とんだ豆撒きだな。
「誰が全部豆って言ったのよ。あんた、何のために豆を撒くか知ってるの?」
 福を呼び込んだり、厄を払うためにするものだ。
「わかってるじゃない」
 足し算の計算が出来た小学三年生を褒めるような態度であしらうハルヒ。少し馬鹿にしすぎだろう。
 いくら年中行事に興味・関心が無い俺といえど、一端の常識ぐらいは弁えているものだ。
「だから、これも買ってきたわよ」
 そう言って袋の中を漁るハルヒ。

「じゃじゃじゃじゃーん」
 ハルヒが袋から取り出したのは鬼の面である。
 それも幼稚園児や小学生がつけて遊ぶようなデフォルメされた鬼ではなく、本当にどこぞの匠が作り上げたかのようにリアルな顔立ちをしている面である。
 朝比奈さんはこのお面が出てきた時点で怯えている。うーん、怯えてる姿も可愛らしい。
「どこ見てんのよ。で、このお面、二枚あるんだけどどういう意味かわかるわよね」
「なるほど、キョンキョンとかがみんがつけるんだね」
 唐突に糸目少女がかがみの方を見てニヤニヤしながら言った。
「何で私なのよ」
 とかがみ。どうやら俺であることはもう決まっているらしい。
「いやーだってかがみんは鬼のように凶暴じゃん」
「誰がだ!」
 とまあいつもの会話がありながらも結局女子に豆を投げるのは抵抗があると言う古泉のジェントルマンな発言により鬼の仮面は俺と古泉がつけることとなった。
 はあ。何で俺の鬼役は絶対なのだろうか。

「鬼はー外。福はー内」
 もしここにいるSOS団メンバーが全員、つかさや高良、かがみのように思いやりがあり、優しく豆を投げてくれる人だけだったらどれほど良かったか。
「滅びろ!」
 などと、なにかのゲームの言葉なのかは知らないが、そう叫びながら思いっきり豆を投げる泉や、
「鬼はー外ー!福はー内ー!」
 と野球選手顔負けの速度で豆を投げてくるハルヒ。
 長門は豆を投げずにそのまま食べているし、朝比奈さんに至っては鬼のお面に怯えてまともに豆も投げれていない。
 それにさっきから不服なのはつかさや高良は古泉だけに当てていて、それだけ見れば非常に微笑ましい風景なのだが、俺はと言うと泉やハルヒにだけ狙われる始末である。
 時々かがみが緩い豆を投げてくるが、それ以外の豆は全力投球。投手が投げたいように投げているだけで優しさのかけらもあったもんじゃない。
 塵と積もれば山となる。いくら豆でもこんなに多く投げられていると俺の痛点も活動しだし、痛いのである。
 それにしてもいつまで続くのだろうか。本当にあの袋全部に入っている豆を全部使うつもりなら、無くなった頃には俺は生きているかどうかすら不明だ。
 死ぬ前に遺書ぐらい書いておきたかったな。

 それかだ数分たった後、流石にもう厄払いは充分だろうと満足したのか、それともただ単に飽きたのかは知らないが豆が結構残ったまま豆撒きは終了した。
 どうやら俺も無事らしい。
 古泉のほうを見ると、笑顔でつかさたちと談笑している。今日ほど古泉に腹が立った日は無いぞ。
「キョン君」
 と俺がお面を取り、それを机に置いた瞬間朝比奈さんが俺の元へと駆け寄る。
「とっても、怖かったです」
 ウルウルとした小動物のような目で俺の方を見る朝比奈さん。うん、やっぱり可愛らしい。
「いやー。仲がいいネ」
 俺と朝比奈さんの間にニュッと泉が顔を出す。
「でもさ、朝比奈さんにも鬼のコスプレとかさせたらいいと思うんだよネ」
 そう泉が言った瞬間、朝比奈さんの顔がビクッと、ハルヒの顔がニヤッとなった。
「それもいいかもしれないわね。こなたの案採用!」
「どうもー」
「ふぇぇ」
 芸人のようなノリをしたのが泉で、可愛らしい反応をしたのが朝比奈さんである。
 こころなしか泉が少し怒っているようにも見えるが気のせいか?
「そんな事無いヨ」
 泉は糸目のまま否定する。
 まあ俺としても朝比奈さんのコスプレが拝めるのは嬉しいけどな。
「しまった!逆効果だったか……」
 何か泉は独り言を呟いているが気にしないでおこう。

 その後、俺たちは豆の掃除をして、帰ることとなった。
 何で俺は撒いていないのに掃除をしなくてはいけないのだ。
 けどそんなことも気にせず家に帰ったら妹や家族と豆撒きでもやろうかなどと考えながら、俺は余った豆を少し貰い、それを家に持って帰った。






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最終更新:2009年02月20日 21:33
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