「キョン!お前は後で職員室に来るように」
と帰りのHRにおいて黒井先生に呼び出しをくらってしまった。
先生にまで呼び名で言われるのは気にしないでくれ。俺は気にしてるが。
しかし俺はこれといって悪い事をした覚えもないし、逆に良い事をした覚えもない。
ハルヒに「あんた何かしたの?」と問われたり、泉に「ムフフー、キョンキョンやっちゃったネ」と糸目のままからかうように言われても俺は「知らん」としか答えようが
無かった。
仕方なく放課後職員室に行くと、俺はその理由を知らされることとなった。
「キョンのこの成績やと危ない事になるぞ」
と入室して黒井先生に会うなり、第一声がそれだった。
真面目な顔をしてそう言う先生に俺は、
「はい?」
としか答えられなかった。
「せやから、このままの成績やと欠点になってまうで」
俺はこの前のテストもいつも通り赤点スレスレのところで通り抜けてきたはずだったのだが。
「それが危ないっちゅーこっちゃ。次のテストも前まで見たいに赤点スレスレにおったら大丈夫かも知れんけど、一歩でも間違えてみ、確実に欠点は免れへんで」
「今回のテストはもっと頑張った方が良いって事ですか?」
そう言うと先生はしばらく悩んだあと、
「まあそう言うことやねんけどな、一人で勉強できるならこんな成績とらんやろ?」
うっ、いくらフランクな先生でもここまで堂々と言われるとなんか切なくなってくるな。
「ウチかて言う相手ぐらい選んどるわ。こんな事言えるんはキョンや泉ぐらいやからな」
そう言って笑顔になり八重歯を見せた後、表情を変え、
「それでウチに提案があるんやけど、どうや?」
その提案ってどんなのですか?
「補習を受ける事や」
いまいち意味が分からなかったので、もう一度尋ねる。
「補習や補習」
二回言われた。どうやら本気らしい。
「そうでもせんと、キョンは勉強できんやろ?」
まあ確かに一理あることはありますけど、それだったら俺より成績の悪い谷口とかはどうなるんですか?
「ウチはキョンやから言えるねんで。さっきも言うたやろ、相手は選ぶって。谷口なんかに言うたってするはずがないやろ」
それはつまり、俺だったらすると言う意味ですか?
「まっ、そう言う事や。先生は期待しとるで。どうする?」
と期待の眼差し百パーセントで俺を見つめる黒井先生。
「けど団活が」
「団活?……ああ、SOS団の事か。それなら構わんて。それが終わってからすればええ話や」
俺は半日ぐらい学校にいなければならないのでしょうか?
「何言うとるんや。文化部とか室内運動部は日が暮れても練習する所はするで」
そういった後先生は不敵な笑みを浮かべて、
「学校が嫌なんやったら、別にウチの家でもええねんで」
「なっ……」
先生の発言に俺が言葉を失った後、
「ハッハッハ。冗談に決まっとるやろ」
と先生は声を上げて笑った。
「ま、キョンがその方がええっていうなら話は別やけどな。で、どっちがいいんや?」
「学校で」
即答をする。すると黒井先生はニヤリと笑い、
「言ったな。キョン今のは補習を受けるという意味やな」
と言った。
「なっ、ちが……」
「じゃ明日から早速始めるからな。ちゃんと教科書とノート持ってくるんやで」
と先生は俺が反論する暇も無くそう言うと俺を職員室から追い出した。
先生は職員室から俺を追い出す間際に、
「この事、泉たちには内緒やで」
と言っていた。何故言ってはいけないのだろうか。
別に言ってもいいと思うのだが、言ったら言ったで先生に何をされるか分からないので言わないようにしよう。俺は心にそう誓った。
職員室を追い出され、部室へ行くといつも通り皆が皆したいことをやっていた。
ハルヒはネットサーフィン、長門とかがみは読書で、つかさと高良と朝比奈さんは三人で談笑、泉は古泉とゲームをしていた。
「あ、キョンキョン。どうだったの?」
俺が部室へ来たのを気付くと泉はそう尋ねる。
「特に何も無かったぞ」
「嘘だー」
明らかに俺を信じていない泉。まあ嘘なのは事実だが。
「別に何かあったからといって、お前に言う必要は無いだろ」
「ひどっ!キョンキョン冷たい……」
少し言い過ぎたか?と反省したのだが、泉はうなだれるように机に突っ伏したあと、
「キョンキョンは私を捨てたのネ」
と言ってきたので反省はするだけ無駄だったなと思った。
「そうそう。知ってる?」
机から体を起こし、古泉とオセロをしながら泉は言った。
「何がだ?」
「八日は先生の誕生日なんだヨ」
先生って誰の事だ?
「黒井先生だヨ。この前ネトゲのチャットでそう話してたんだよネ」
そうだったのか。だったら今度何かプレゼントでも渡すべきなのだろうか。
「何でそんな事今言ったんだ?」
そう言うと泉はきょとんとした表情になり、
「何で言ったんだろ?」
と自問自答していた。アホなのかこいつは。
「泉は何か渡すのか?」
「まあネ。ネックレスだヨ」
「ネックレス!?」
そんな高価な物を渡すのか。いや、泉はバイトもしているわけだし買えないものでもない……のか?
「まぁネトゲの世界のだけどネ」
「そっちかよ」
この日も至って平和な日だった。
次の日。俺はいつも通り団活を終えた後、教室へ向かう。
教室には既に先生が来ており、俺が来るなり笑みを見せた。
「遅かったな。毎日こんなに遅いんか?」
「ええ。まあ」
と適当に相槌を打つ。
「なんや、物凄い嫌そうやな」
俺はそんな勉強に好意的になれる出来たやつじゃありませんよ。
「まあそれが出来たらここにおらんっちゅう話やな」
全くです。
「早速始めようか。教科書とノート出しや」
俺は教室の一番前の真ん中の席に着き補習、と言うよりかは個人授業が始まった。
専ら内容は普段の授業と変わらないのだが、何分相手が俺だけしかいないからなのか先生の喋り方がいつもより更にフランクとなっている。
言うなら「ここは~やねんで」が「ここは~こういうこっちゃ」となっているような感じである。
それに俺も本気で授業を聞いてみると結構分かるものである。今まで理解しようと言う気持ちが無かっただけかもしれないが。
先生も俺の飲み込みの速さに驚いている様子だった。
因みにこの補習は一週間続くらしい。となるとこの補習が終わるのはちょうど先生の誕生日である八日となるのである。
なら感謝の印も含め何かプレゼントを買ったほうがいいのだろうな。
さて、何を買おうかと思い補習が終わった後家までの帰り道ずっと考えていた。
翌日、俺は黒井先生の身なりの変化に気がつく。
いや多分誰でも気がつくと思うのだが、後ろ髪をゴムで括っていないのだ。つまりはさらさらストレートヘアーである。
その事を補習の際に尋ねてみると、
「いやー、それが無くなってもうてな。代えも無いし、しばらくはこのままで言いかなーおもっとるんや」
と言った。
この日、俺の渡すプレゼントが決まった。嬉しい事に、これだと俺の財布にも優しいしな。
補習最終日。今日で今まで授業で習った範囲は全部終了するのである。一週間でこれだけ学習したっていうのは俺としては凄いほうである。
「ふぅー。よっしゃこれで終わりや」
先生も流石に一週間すると疲れたのか、溜息をつく。
ちなみに、髪の毛はストレートのままである。
「それにしても、意外とキョンも勉強できるねんな」
「日本史は好きですから。それと同じ要領でいけば世界史も出来るって事だと思いますよ」
そうかもせんなーと八重歯を見せながら笑みを見せる先生。
先生相手にかわいいと思ってしまった俺がいる。
「先生。渡す物が」
そう言って俺は鞄からラッピングされた小さな袋を取り出す。
「ん?なんやこれ」
袋を開け、中身を確認する先生。
「髪留め……か?」
「はい。以前先生が髪留めを失くしたと言っていたので買ってきたんですよ。それに今日誕生日ですよね?」
そう言うと先生は驚いた様子で、
「誕生日の事、誰に訊いたんや?」
と尋ねてくる。
俺は素直に「泉です」と答えた。
「そうか。ありがとうなキョン」
黒井先生はそう言って俺に微笑んでくれた。
「それじゃあ早速つけさせてもらおかな」
そう言って先生は俺の渡したゴムで髪を括る。
と、その際に俺の中の何かが起動した。
「先生。ポニーテールにしてもらえませんか?」
「ポニーテール?」
きょとんとした顔でそう尋ねる先生。
「はい。ポニーテールです」
「なんやお前ポニーテール好きかいな。しゃーないなあ」
そう言いながら先生はゴムを使い髪型をポニーテールへと変えていく。
「どや?」
八重歯を見せながら俺にそう尋ねる先生。
俺は「凄く似合ってます」としか言いようが無かった。
そして「これからもそれでいてください」と無意識の内に頼んでしまった。
その頼み事に対し先生は笑顔で了承をしてくれた。
次の日から本当に先生はポニーテールで学校に来てくれた。
ゴムも俺が渡したやつそのままである。
みんなに俺の世界史の成績が上がった事と先生がポニーテールになった事を不思議がられたのは言うまでもない。
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最終更新:2009年02月20日 21:17