「興味から芽生える愛」

 
 
 いわゆる、オタクと呼ばれる人達(あたしを含む)にはある1つの共通点があると思う。
 それは「同じ趣味を共有できる友達を欲しがってる」って事。
 まあ、中には一人で居たいんですって人も居るんだろうけど、あたしは楽しい事は1人
より2人の方がいいと思うんだよね。
 一緒にゲームの感想を言いあったり、アニメを見たりとか楽しそうじゃない?
 でも、実際問題そう簡単に身近な所に住んでて趣味の合うオタク友達ってのは出来ない
わけでして……そんな友達コミケでしか会える訳ね~……でも出来れば居て欲しい。
 そんな事を考えながら平凡な日々を過ごしていたあたしは、
「とても面白かった。このゲームに関連する書籍やアニメがあったら、是非教えて欲しい」
 ついに、その友と出会ってしまったのですよ!
 
 
 「興味から芽生える愛」
 
 
 今、あたしの部屋でベットの隙間に落ちてる本を、まるで初めてコアラを見る子供みた
いな目で見ているのは、あたしの大事なお友達のながもん。
 ふとしたきっかけ(「不沈艦」参照)で、あたしは彼女にネトゲを紹介したんだけど、
感情表現が苦手なながもんにはオフゲの方があってるんじゃないかな~って思って、いく
つかゲームを貸してあげた――それが昨日の事。
 翌日である今日、あたしの部屋を訪れたながもんはたどたどしくゲームへの感想を口に
した後、冒頭のあの台詞へと繋がったのです。
 ゲーム初心者がたった一日でクリアとかそれどうなのよ! って思ったんだけど、なが
もんによれば学校にゲームを持ち込んでプレイしてたらしい。
 ……でも、貸したのエロゲだったんだけどいいのかな~?
 まあ、多分隠れてやってるんだろうからいいよね。うん。
「あ、ごめんそれは違うの」
 ベットの隙間からお目当ての本を見つけ出したながもんに、あたしは首を横に振る。
「それは読む用で、貸す用のが別にあるのですよ」
「貸す用」
 またの名を、布教用とも言います。
「好きな本ってさ、つい自分用と貸す用と後、保存用の三冊揃えちゃうんだよね~……
あ、こんな所に。な~がもん、昨日のゲームの漫画版とアニメDVD見つかったよ~」
 大量の本とDVDを手にお父さんとの共同本棚から戻ったあたしを、太陽の光を受けた
新雪みたいに輝くながもんの目が見ていた。
「全部借りていってもいいんだけど、どうやって運ぶ?」
 あたしから本とDVDの山を受け取りながら、
「大丈夫」
 そう力強く肯くのはいいんだけどさ、これ全部を運ぶのは重さもだけど見た目的にまず
いでしょ。色々と。
 確かに、気に入った作品の関連商品を見つけたら大人買いしたくなるのは人の常って奴
だとは思うんだけどね。
「ながもん、気持ちは解るけど何度かに分けて運ぼう? ついでに遊んでいってくれたら
あたしも嬉しいしさ」
 妥協案を提案したあたしに、ながもんは渋々肯くのだった。
「ね~ね~、今日はまだ時間あるの?」
「ある」
「そっか、じゃあここで読んでいくかい?」
 細かく挟んだあたしのネタには反応せず、ながもんはさっそく一番上に積まれていた漫
画を開きだした。
 ベットに座ってながもんが黙々と読んでるのは、あたしが随分前に読みつくした漫画だ
ったんだけど……人が読んでる漫画って、何でこんなに面白そうに見えるんだろうね?
 
 
 ながもんの横に寝転んで、適当な巻から読みつくした漫画を読む。
 別に何かお喋りしてる訳じゃないのに、凄く楽しいんだよね~この時間って。
 ご機嫌で鼻歌混じりにページをめくっていたあたしの上から、その声は聞こえてきた。
「1つ、教えて欲しい」
「なになに~?」
 寝転がったまま視線を上げると、ながもんは膝の上に置いた単行本を見ながら
「この作品のヒロインの考えについて、あなたの意見が聞きたい」
 そう呟いた。
 今、あたし達が読んでるのは「メイドロワイヤル」通称、めいろわっていうちょっとエ
ッチな漫画(全年齢)で、ながもんが読んでた1巻は……ああ、ヒロインが主人公の男の
子の部屋に転がり込んだ所だったね。
「彼女は主人公の事を嫌っていたはず。それなのに何故、彼に仕えようとするのか」
「ふむ……なるほどねぇ」
 めいろわの主人公は確かに優柔不断で特にいい所も無い、よくあるタイプの男の子だ。
 ながもんに言われるまでは「そ~ゆ~どうしてこの主人公が? ってキャラが主人公の
方が、より感情移入できて読者に受けるんだよ」って納得してたんだけど……。
「そうだねぇ……多分、興味が芽生えたからじゃないかな?」
「興味」
「うん、興味。最初は特別意識してなかった相手に、なんとな~く興味を持つようになっ
て……気がつけば好きになっちゃってた、とか。そんな感じじゃないかな?」
 ながもんはあたしの言葉の意味がわからないのか、少し困った顔をしている。
 いちいち可愛くて仕方が無いながもんの仕草に、
「ねえながもん? ながもんは今……興味のある男の人って居る?」
 あたしはそんな事を聞いていた。
「興味」
「そう。つい目で追っちゃうとか、気がつけばその人の事を考えてるとかさ」
 暫くの間あたしの顔を見て静止していたながもんは、やがて小さく肯いた。
 ……肯いたぁ?!
「い、居るの!? 本当に? ゲームの中とかじゃなくて?」
「居る」
 はっきりと答えるながもんは……少しだけ、恥ずかしそうに見えた。
 それにしても驚いたよ。
 あの殺風景な部屋で暮らし、エッチなゲームに興味があって、しかも普段の行動から男
の気配がまるでしないながもんも現実の男の人に興味があったんだねぇ。
 ようやく驚きが収まる頃になると、今度は好奇心が疼き始めるのは自然な事ですよね。
 体を起こしてながもんの隣に座り、さりげなく逃げられないように片手を押さえながら
聞いてみる。
「ねねね、どんな人? かっこいい? 同じクラス――」
 ――えー、売り上げ部数が伸びそうなネタを掴んだマスコミの如くながもんを追求した
結果、以下の事が判明しました。
・その人は同級生でクラスは別
・ながもんとは同じ部活に所属している
・一緒に図書館に行きたいと伝えた事はあるが、返事は無い
・優しい人
 ……図書館に誘うとはねぇ。ただ想うだけの片思いかと思えば意外や意外、ながもんに
そんな積極的な一面もあったりするとは。
「――そうなんだぁ……ねえ、ライバルとかは居るの?」
「ライバル」
「そうそう、恋のライバル。その――えっと、そういえばその人の名前なんだっけ?」
「キョン」
「そのキョン君の回りには、ながもんみたいに視線を送ってる人って居るの?」
 あたしの質問に、ながもんは財布の中から一枚の写真を取り出して見せてくれた。
 そこには、教室の黒板の前で変なポーズを決めているながもんを含んだ男女計5人が写
っていて、
「彼」
 ながもんが指差したのは、彼女の左側で膝を付いてポーズを決めている冴えない感じの
男の人だった。
 おお、この人かぁ……。
 あたしとしては右端の人の方がかっこいいと思うんだけど、まあ人それぞれだからねぇ。
 それにしても凄いメンバーだね、これ。
 中央に立ってる美人さんもだけど、イケメン君も居るし、ながもんは言うまでもなく、
巨乳なロリっ娘まで揃ってるとかどうなのさ。
 豪華過ぎる程のメンバーの中、ながもんが指差すキョン君は……何ていうか普通だった。
 そんなあたしの感想は、ごく一般的な内容だと思ったんだけど
「この写真に写っている全員が、彼の事を気にしている」
 世の中は不思議で満ち溢れていたのでした。
 こ、この「普通の高校生 日本代表」みたいな特徴の無い彼が……この全員にですと!?
「……マジですか?」
「本当」
 肯きながら答えるながもんの言葉からは、冗談といった雰囲気は感じられなかった。
 そんなエロゲみたいな状況が実在するとか……世界は本当に広大だねぇ。
 ながもんは丁寧に丁寧に写真を財布の中へとしまい終えると、
「私は、彼の事が気になる。でもその理由は解らないでいる」
 そう呟いた。
「ながもん……それは恋だよ」
 あたしも概念でしか存在を知らないけど、きっと間違いない。
「恋」
「めいろわのヒロインの心境も、多分今のながもんと一緒なんだと思うよ? どうして気
になるんだろう? 何で一緒に居たいんだろうってね」
 ながもんは沈黙し、俯いたまま何かを考えている。
「ながもんは、キョン君と恋人になりたいって思わないの?」
「恋人」
「そうそう。来年からは受験勉強もあるし、一緒に勉強したり励ましあったりさ」
 本当はもっと直接的な欲求が先に来るとは思いつつも、あたしはあえて遠まわしな表現
からながもんに聞いてみたんだけど、
「……」
 ザ・無反応。
「じゃ、じゃあ。一緒に図書館に行ったりなんてのはどうかな?」
 苦し紛れにいった言葉に、ながもんの無表情な顔が緩やかに赤く色づくのだった。
 ……く……可愛すぎるよながもん……。
 思わず抱きしめそうになる気持ちを何とか自重していると、ながもんは何故か辛そうに
俯いて
「でも、どうすればいいのか解らない」
 そうあたしに言った。
「ながもん……」
 そっかぁ。一度、自分から誘ったのに返事が来ないんだもんね。
 ながもんの性格からすると返事を催促とかは出来ないだろうし、辛いねぇ……。
 恋愛経験なんて2次の世界にしか無いあたしには、今のながもんに言ってあげられる事
なんて……ん~。
 でもさ、あたしは目の前に居るながもんの事が好きで、そうなったのはやっぱり
「ねえ、興味を持ってもらう所からはじめたらどうかな?」
「興味」
「そうそう。ただ待ってるだけじゃなくて、自分の趣味や好きな物を相手に伝えてみると
かどうかな? そうすれば、もっと仲良くなれると思うよ」
 あたしの提案にながもんは頷いて、
「やってみる」
 そう答えた後、
「ありがとう」
 いつもは無表情な顔にほんの僅かな笑顔を浮かべて、そう言ったのだった。
 その笑顔さえあれば絶対大丈夫だよ。ながもん。
 
 
 「興味から芽生える愛」 ~終わり~

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最終更新:2009年03月26日 21:43
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