七誌◆7SHIicilOU 氏の作品
お題「作文」
俺は昔から自分の事を描写するのが苦手だった。
それは自分の身の回りを思い起こせば起こすほどに、
なにも変わらず退屈で怠惰な日々を送っている事を
否が応でも自覚させられるからだ。
俺は俺という個人に対して興味がなかった。
興味を持つ程なにかがある人間でなかったと理解していた。
自分の身の回りを注視していなければ
記憶なんてのは曖昧になる。
あれはこうだった、それはどうだった、
興味を持たず適当に流していた景色が、光景が、出来事が、
鮮明な記憶になるはずがない。
だからなんだろう、俺は幼少の頃から作文というのが嫌いだった。
運動会、遠足、社会見学に読書感想文なども含めて、
そういった自分の主観を重視する文章を書くのが苦手で嫌いだった。
書く事などなにもない、それがどうだったかなど覚えていない。
覚えてない事は書けない。
小学校の頃はよく先生に真面目に書けと起こられたが、
真面目に俺は無感動で無関心だった。
そして現在、義務教育時代にそんな理由から
完全に作文関係の提出を放棄してきた俺は
周りに目を向けて素直に楽しむことが出来るようになったいまでも作文が苦手だ。
やってこなかったから書き方がわからない、
書く上での約束や表現の仕方、どんな事をどんな風に書けばいいのか。
それがさっぱりわからない。
文芸部の会誌の時はハルヒパワーの作用なのか
長門のためという理由の所為なのか意外とスラスラと書けたのだが…。
「書けん…」
中学の卒業文集以来の作文に俺は四苦八苦していた。
周りの連中は一人また一人と原稿用紙を教卓に置いて、
本を読んだり自習をしたり、控えめに雑談したりとしている。
額をシャーペンの背で小突きながら、
題材と名前を書いて止まってる原稿用紙を睨みつける。
『私の一年間の思い出』がその題材。
「SOS団の事はあんまり書きたくねぇし、それ以外はさっぱりだ…」
泉も国木田も高良もハルヒも、柊や谷口でさえもう終えている。
俺は周囲を見渡した所為で逆に焦った気分になり、
少しげんなりとする。
「キョンさんや、なにをそんなに悩んでいるのかな?」
「泉か」
暇を持て余した様子で泉がいきなり俺の手元を覗き込んで
声量を抑えることなく話しかけてくる。
俺は気分転換も兼ねて敢えて無視を決め込まずに会話をする。
「うわっ、真っ白」
「やかましい」
椅子の背もたれを抱えるように座って俺の机の横に座る泉は
俺の原稿用紙を見て呆れた様に言う。
そして俺の机の端をタントンタントンとリズムを取るように
人差し指でたたく。なんだか起こったような表情をしている。
「なんにもないの? 書くこと」
「思いつかなくてな…、SOS団での珍妙な行動は書きたくないし」
後ろの席の馬鹿がいつも通り寝てるからできる会話だ、
起きていたなら即座にチョークスリーパーを食らっていた。
「思いつかないって、それって少し失礼じゃない?」
「…なぜだ?」
眉を顰めてむっと言う泉。
おや? 泉からもチョークスリーパーを喰らう勢いだぞ。
俺はシャーペンを置いて身体を泉の方に完全に向けて問い返す。
「それってさ、私達と遊んだり話したりしたことなんかどうでもいいってことじゃん?」
…まぁ、確かにそう取れるのかもしれない。
自分が楽しいと、愉快だと、そう感じていた時間を
相手はどうでもいいと認識していたらやはりいい気はしない。
俺は誤解を解く為に素直に話す。
自分の昔話を少しだけ。
「ふぅん…、自分のことを書くのが苦手ねぇ」
泉は少しだけ話を吟味して。
「自業自得じゃん」
一言でばっさりと切り捨てられた。
まぁその通りの自業自得の因果応報ですけどさ。
内心少し語ったことを後悔しかけたところで泉は、
「じゃあ人のことを書けば?」と提案した。
「いや、これは自分の思い出話だろ?」
「だから自分の思い出の中でも、誰かに焦点を絞って書くんだよ」
その発想は無かった。
「じゃあ例えばお前のこととか書いてもいいのか?」
「いいよん、初めて会ってからいままでの事とかさ」
ふむ、と俺は少し顎に手を当てて思案してみる。
そして「どうせこのままじゃ進まないしじゃあ試しにそれで書いてみるか」
という結果に至り。そのまま泉に口にしてみた。
すると泉は
「おっ、やる気になったね。じゃあ私は自席に帰るとするかな、がんばりたまへ」
などと言ってぎったんばっこん、椅子に座ったまま
やかましく音を立てて席に戻った。
「…さてと」
―――
「それで、できた作品がこれかい?」
しばらくしてからやたらと色々な感情が混ざった笑みの黒い担任、
ではなく黒井担任からその作文は赤ペンで評価をつけられて戻ってきた。
なんで個人的な作文にまで評価があるのかは知らないが、
どんな形であれ成績に関与するなら書いといてよかったと思う。
…たとえこんな結果になろうとも。
「まるでラブレターみたいだねぇ、うん?」
試しにと言っておきながら結局最後まで泉の事だけで文面を埋めた俺。
なにを考えてるのか、ちょっとしたやりとりなどを細かく書いた所為で
ラブレターどころかストーカーがしたためた手紙のような内容になっている。
「うっへっへ、こんな形でキョンに想いを告げられるとわね~?」
そして俺は返ってきたB´のストーカーな原稿用紙を読んだ泉に
先ほどから弄られに弄られている。
本当になにを考えていたのだろうか俺は、
職員室で変な話題になってないことを祈りたいが。
担任の表情を見る限り望む薄だろう、死にたい。
「泉、とりあえず原稿だけでも返してくれ…」
「ん? ここに書いてあるみたいにこなたって読んだら返したげる」
「くっ…」
羞恥で顔が熱い、がそんなことを気にしている場合ではない。
もしも万が一この文章がハルヒの目に留まるような事があれば…。
「あら、あんた達なにやってんの?」