企画 共同お題 第五弾「ゲーム」
『ソリティア』
俺は誰にも言えない遊びをしている。
それは道徳的に可とされない。
それは倫理的に良とされない。
禁忌とも呼べる人の心を踏みにじる、人の心をもてあそぶ。
誰かに愛してると言った唇を、次の日別の誰かに口付ける。
「ハルヒとかにバレたら騒ぎになるしさ
誰にも付き合ってることは内緒にしてくれよ?」
それが俺の定型句。
それが俺の常套句。
唇が触れるくらいに耳元で、くすぐる様に呟けば。
いつも元気な先輩も押し黙り。
いつも無口な後輩も紅くなる。
「おはよう、待たせたみたいですね泉先輩」
「ううん、さっききたとこだよキョン君」
私服と言い張れる程度の、しかし少しおしゃれを意識した
先日小早川が選んでくれた服装をなんの衒いも無く着て。
いつもみんなが使ってる駅前広場でなんの考えも無く待ち合わせ。
この状況が、俺の非常識なこの行動が明るみにでるのか、
ワクワクするし、ぞくぞくする。
「それじゃいきましょうか?」
「うん」
手はつながないし腕も組まない、見られたら困るから。
代わりにとデートの初めと終わりに短くキスをする、
それだけで彼女はひどく嬉しそうに、満足げに笑う。
白く柔らかな頬を紅潮させて、目を細めて愉快そうに。
「今度二人で旅行に行きませんか?」
「いいんじゃないか? 行き先はどこにしようか?」
楽しそうにパンフレットをだす後輩と、
ともに笑いながらも旅行の間、他の娘との約束を取り付けないようにとか。
ばれるのは構わないが、自分からばらすことは無いように
最低限の予防線を張ってきた。ばれてもいいけどばれないように。
いつまでこの股掛け生活が続くか、それが俺のゲームだった。
「先輩?」
「ん、どうしたゆたか」
「考え事ですか?」
「あぁ、今度ゆたかにプレゼントするならどんなのがいいかなって」
彼女のことは好きだ、あの娘のことも好きだし、あの人のことも好きだ、
みんな素敵で魅力的で心惹かれる女性達だったけど。
でも遊びには変わりなかった。
俺は本気で遊び続けるガキだった。 ソリティア
一人で盤に向かい続け、あぁじゃないこうじゃないと一人遊びをひたすらに。
「最近考え事が多いみたいですね」
「そうですかね? あんまり自覚無いんですけど」
「そうですよ、こうしてのんびりしてる時なんかによくボゥッとどこかを見てるんですよ」
「ボゥッと、ですか」
「ボゥッとです」
でもそれにも限界があった。
ゲームという物に限らず人間は刺激を受け続けないと
物事を楽しめない。同じサイクルに慣れてそれはやがて飽きになる。
「高良先輩」
「? なんでしょう」
「いまから先輩の家って、いけますか?」
エスカレート、と言えばわかりやすいのだろう。
新たな刺激を求めて行動は過激さを増す。
デートしてキスをしていただけの関係は、
俺の飽きというたったそれだけの要因で一気にエスカレートしていった。
「今日お父さんもゆーちゃんもいないんだ…」
「そうなんですか、一人分の夕食作るのって面倒ですよね」
「うん」
「二人分なら楽ですか?」
「うん!」
いままではタブーとしていた互いの家の行き来を行うようにして。
あっという間にその先にまで行き着いた。
つまるところ男女間での最後の行為。
「んっ…、ふぅん! …あっ、ダメです先輩」
「なにがダメなんだ?」
「今日は…、ひぅっ…! …危険な、んです」
「ふぅん? だから?」
「中は…ダメです」
暇さえあれば、毎日違う娘と身体を重ねていた。
「キョンくぅん、もっとぉ…。もっと頂戴…」
「仰せのままに、お姫様」
最低は最低を重ね最低以外の何者でもなくなった。
「先輩って本当に胸大きいですよね」
「恥ずかしいですよぉ」
「綺麗ですよ、恥ずかしがる必要はありません」
「あっ、キョンさんのえっち」
ゲームと言う枠を超えてただ単に快楽を望んでる自分も居た。
だけど俺は誰に責められる所以も無い。
俺は個人に、貴方だけに愛を尽くすと言った覚えなど無いし。
付き合ってくれと言われて承諾したから、できる限りは付き合ったし、
なにより最高の時間と最大限の愛を与えた。
好きだったのも愛しているのも嘘じゃないし、無下に扱った覚えも無い。
「だからそうやって俺に刃先を向けるのは聊か筋違いだと思うんですよね」
俺の言い分なんて結局こんなもの。
まぁゲームに結果がでるときはGAMEOVERかCLEARかのどちらか。
言ってみただけで別に不満は無い。
これが俺の人生をかけたゲームの終焉と言うだけ。
人生にはリセットもリタイアもゲームオーバーもクリアーもない。
ただ電源ボタンはある。
「ま、そういうことで」
最後の視界は3Dメガネをかけたかのように
むやみやたらに色彩が狂って見えた。
最終更新:2009年05月23日 09:03