『屋上にて』

 

「最近暇ねぇ……」
団長席でネットサーフィンを続けている団長様が呟く。
「…………」
指定席で読書に集中する長門さんは無反応。
「お茶がはいりましたよ~。」
メイド姿でお茶を配る朝比奈さんはお茶を淹れるのに夢中で聞こえなかったらしい。
「不思議探索ツアーがあるじゃないですか。」
手はチェスの駒を動かしつつ、笑顔を涼宮さんに向ける器用な事をしてのける古泉君。
「……チェックメイトだ。」
またか……という顔をしながら古泉君に止めを刺すキョン。

SOS団……いつも通り、平和。

「不思議探索ツアーもやるわよ。だけど、ここら辺はもうほとんど見たじゃない。
それより谷口はどうしたのよ?国木田……だっけ?あんたと一緒に呼んだのに。」
まあ、そんないつも通りで平和なSOS団だけどいつもと違うのは、僕が部室にいることと、語り手がキョンじゃないことだろうね。
「トイレ行ったら行くって言ってたけどなぁ。逃げたのかな?」
「あっそう。」
涼宮さんが呼んだのにどうでもいいという返事。まあ、涼宮さんにとって大事なのは僕や谷口がいることじゃなく、暇を潰せることがあるかどうかだろうからね。
「……で、あんたは何か考えてきたの?」
「言われたから考えてきたけど、涼宮さんの好みに合うかなぁ。」
「なによ?」
「この学校って山の上にあるでしょ?だから屋上からの景色がいいんだよ。」
「屋上ねえ……確かに遠くまで一度に見渡せるなら不思議も見つかるかもね。」
という訳で、今日の団活は屋上にて不思議探しに決定された。

パタン
と長門さんが本を閉じる音がした。いつもは団活終了の合図らしいけど、今日では団活開始の合図だ。 

「へー、思ってたより高いね。」
「ふわ……風か強いです……」
「…………」
朝比奈さんは涼宮さんに引っ張られ、長門さんはまた別の場所で景色を見ている。
「なあ国木田、屋上って自由に入れるものなのか?」
「どうだろう。僕が屋上に来たのは前のクラスイベント以来だけど……」
「僕が手配しておきました。通常は禁止のようですが、今回は許可を得ているのでご心配無く。」
「キョーン、古泉くーん、何やってるのー!早く来なさーい!」
大した距離じゃ無いのに大声で呼ぶ涼宮さんのもとに片方は苦笑い、片方は微笑みながら向かう。
どうやら呼ばれてないらしい僕は辺りを見渡すと、一人で景色を眺めている長門さんが目に入った。

「どうかな?僕はこの景色結構好きなんだけど。」
「……どう、とは?」
「気に入ってもらえたかな?」
「涼宮ハルヒはこの景色を気に入ったと思う。」
長門さんの言う通り、涼宮さんは四人でわいわい騒いでいる。不思議探しはしてないようだけど気に入ってくれたみたいだね。
「…………」
会話が途絶えてしまったので、僕も空を眺めることにしよう……としたら……
「私も気に入った。また来たいと思う。」
……実は途絶えてなかった。長門さんはこっちを一切見ないでボソボソと喋っている。
「気に入ってくれたなら僕も嬉しいよ。そういえば、そろそろ夕日が見えるころだと思うけど……」
「あっ!」
突然声を上げたのは涼宮さんだ。涼宮さんが指差す方向には真っ赤な夕日が空を染めていた。ここで夕日を見るのは僕も初めてだな。

「…………」
四人の後ろ、僕の横で、長門さんも赤く染まった顔で数ミリだけ口を開けて、じわじわと沈む太陽を見入っていた……

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最終更新:2009年05月25日 00:48
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