「みなみの場合」
風車は、まわる。
その細く 白い指に摘まれて、
その薄紅色の唇に吹かれて、
その薄き緑の瞳に覗かれて、
風車はひたすらに吐息を受けてまわる。
「絵になるな」
「はい?」
「みなみがそうしてると、…絵になる。フレームで切り取って縁に飾りたいほどにな」
「先輩って結構恥ずかしい人ですよね」
「言うな」
俺を見つめて、軽く微笑む彼女。
短い髪を、なんとなしに撫でる。瞳と同じ色のその柔らかな髪を。
「先輩?」
不思議そうに、少し照れた様子の彼女に、
俺は答えずに髪を撫でる。
彼女も、黙ってなすがままにされる。その指には風車がまわる。
不意に、外から聞こえていたアスファルトを水滴が叩く音が消える。
「雨、やんだな」
「そうですね」
雨が、嫌いと昔言っていた。
雨が、好きだとも言っていた。
「いまはどっち?」
「…好きですかね」
「どうしてだ?」
「先輩と二人きりの部屋で、雨音を聞いてぼぅっとしてると。あぁ幸せだなって思えるんです」
「…そうか」
髪を、あえて乱暴にくしゃっとして
彼女の身体を抱き寄せて、胸に強く抱きしめる。
柑橘の、淡い香りがいとおしい。
「先輩、…苦しいです」
「すまん」
「…先輩」
「なんだ?」
「大好きです」
「…俺もだよみなみ」
最終更新:2009年05月25日 01:07