七誌◆7SHIicilOU氏の作品
お題 「雨」
「併鏡虹」
雨が降った。
それはもう酷い雨だった。
台風が接近していた訳でなく、
前日から厚い雲がかかっていた訳でもなく、
唐突に、突然に、突発に、バケツをひっくり返した様な雨が、
否、バスタブをひっくり返した様な。
否否、まるで25mプールをひっくり返したかのような豪雨が降った。
「洗濯物干せないね」
なんて発言をするあやのだが、
実際はそんな素朴な悩みにとどまらない。
下手をするとトイレは逆流するし、床上浸水も危うい。
学校も今日はどこも休校になったらしいし、
テレビをつければ電車も飛行機も運休になり
多数の人間が立ち往生を食らっている始末。
「休日でよかったと喜ぶべきなのか、それとも折角の休日にと落ち込むべきなのか…」
「前向きに考えなくちゃキョン君。今日は一日ゆっくりしましょ」
「…そうだな」
あやのは、少し年を重ねた分さらに魅力的になった微笑を俺に向ける。
俺は苦笑を返しテレビをニュースから切り替えた。
「そうだ、この間作ったクッキーがまだあるから食べちゃいましょ」
「じゃあ俺は紅茶を入れるか」
外からは強いノイズ音、
流石にここまで音が大きいと自然の演奏などといって楽しんでもいられない。
鳥類などは雨にたたき付けられて落ちてやしないだろうか?
少しだけそんなことに思考を回してから俺はキッチンで茶葉を取った。
クッキーを食べながら、紅茶を啜って。
うるさい雨音を良いことにいつもよりも大音量で音楽を流して、
今日の晩御飯買い物行けなかったらどうしようか? とか
明日まで続いたら会社どうなるんだろうか? とか
いい話題の種としてしばらく会話をしていた。
助かることに床上浸水どころか床下浸水もは今のところなかったしな。
「あら?」
「ん? どうしたあやの」
クッキーも食べ終え一休憩終えて、
先日レンタルビデオショップで借りたDVDを二人で見ていると。
あやのがふときょろきょろとし始めた。
「…ちょっと、DVDとめて良い?」
「ん、あぁ構わんぞ」
「ありがと」
ピッ、と緊迫感溢れるBGMが
見事な筋肉の外人俳優の怒鳴り声が、消えうせて。
そこに残るのは静寂。