いつも通りの放課後、掃除があった為少し遅れて部室へと足を運びドアを開ける。
ドアを開けるとそこにはいつもの騒がしい様子は無く、ただ一人が机に顔を埋め寝息を立てていた。
私が入ってきた事にも気付かずに顔も隠して机と重なる彼。
「皆どこに行ったんだろ?」
そんなことを思いながら自分の席とは違った、彼の真正面の椅子に座る。
彼と二人きり、なんてのは初めてだった。
彼の周りはいつもたくさん人がいて、騒がしく、良く言えば毎日が楽しい日々。
けどこうやって普段はうるさい部室も静かなときもあっても良いかもしれない。
たまには部室だって静かにしたい時もあると思う。元々は文芸部室なわけだし。
「うーん」
そんな事に思い耽っていると、いきなり彼が声を上げ動き出した。
一瞬たじろいだけど、彼は単に寝相を変えただけで、一向に起きる気配は無い。
彼が寝相を変えたので、机で隠されていた顔が露になる。
その顔は、とても気持ち良さそうに眠っており、とても可愛らしい寝顔をしていた。
……男子に対してそんな言い方は失礼なのかもしれないけれど、私の率直な意見を述べただけなので致し方無い。
本当に、可愛らしかったのだ。
「どんな夢を見てるのだろう?」
そんなことを思いながら彼の寝顔を見つめる。
時折彼は笑顔になったりしかめっ面になったりと、喜怒哀楽、色んな寝顔を浮かべた。
きっとこのSOS団と一緒にいる夢でも見ているのだろう。
「そうだ」
ふと思い立ち、制服のポケットに忍ばせていた携帯電話を取り出す。
画面を開きカメラ機能を立ち上げ、カメラの照準を彼に合わせる。
パシャ。
静かな部室の中にカメラのシャッター音が響き渡る。
彼の寝顔が一枚。私のケータイのプライベートフォルダに保存される。
中々良い寝顔だった。
その後も何枚か撮ろうと試みたけど、もし起きてしまったらどうしようかと思い、結局は一回撮っただけでそれ以降は撮らなかった。
そしてケータイを再びポケットに忍ばせ、私はじっと彼の寝顔を見る事にした。
どれくらいの時間が経っただろうか。
明るかった空も、いつの間にか夕暮れが近づいてくる。
その間も私は飽きることなく彼の寝顔を見続け、また彼も見られていることに気付かず、ずっと快眠に浸っていた。
そして彼女達がまだ帰ってこない事も不審に思いながらも、もう時間だと思い仕方なく彼を起こすことにした。
「ん。ああ、寝てたのか」
彼を起こすと開口一番そう言った。どうやら私がケータイで撮った事も気付いていないらしい。
「まだあいつらは帰ってこないのか?何か買いだしに行くから待ってろって言われて、その内に寝てしまってたんだが」
彼曰く彼女達は買出しに行ってるとの事。とは言ってもこの時期に何か特別なイベントは無いのだけれど、何の買出しだろうか?
「それにしても、俺を起こさないでずっと待ってたのか?」
彼は私にそう尋ねる。私はそれを否定せず肯定をし、一回頷いた。
「何か悪い事したな。暇だっただろ?」
そんなことはない。彼の寝顔もケータイで撮れたから満足です。
とは流石に言えず、とりあえず否定の言葉を述べておいた。
「今度なんか埋め合わせはするから、覚えといてくれよ」
少なくとも私は忘れる事はないだろう。今日という日を。
「あいつらも帰ってきそうにないし、先に帰るか」
そう言って彼は椅子の横に寝かしていた鞄を持ち出し、部室の外へ出る。私も慌てて鞄を持ち彼の後を付いて行く。
私と彼は二人肩を並べ、カップルのようにあの長い長い坂を夕日を前にして下って行った。
最終更新:2009年05月25日 01:17