『リンゴ飴』

 

 町中の人が全員来てるのではないかと思わせるぐらい賑わっている。
 俺は今、町内の夏祭りに来ているのだ。
 一人ではない。来ても悲しみが募るだけだし、そもそも一人だったらこんな人ごみにまぎれようとも思わないわけで。
「キョンキョン。リンゴ飴買おうヨ」
 そういいながら口にわたあめをつけて、俺の隣にいるのはこなただ。
 赤色の浴衣を着て、髪はポニーテールと、俺にとっては最高の格好をしている。
「お前は今わたあめ食べてるだろ」
 付き合っている、といえばそうなのかもしれない。
 けど、どっちがどっちに告白しただとか、そもそも告白の言葉は無い。
 気が付けば共に行動して、気が付けば一緒にいた。そんな感覚でしかない。
「いいじゃんいいじゃん。祭りに来たからにはいろいろ食べないと損だヨ?」
「なら、早くそのワタアメを食べきってしまえ。買うのはそれからだ」
 俺がそう言うとこなたはそそくさとワタアメを食べ始める。
 ものの十秒で割り箸についていた綿の塊は綺麗さっぱりこなたの胃の中へ吸収されていった。
 こんなあっさり食われると、買った方としても悲しいな。
「食べたヨ。ほら、リンゴ飴買ってヨ」
 そういいながら泉は俺を揺する。子供かコイツは。……それがかわいらしい所でもあるのだが。
「わかったよ」
 俺はそうとだけ言い、リンゴ飴を二つ買いに屋台へ向かった。

「リンゴ飴二つ下さい」
「はいよ。その後ろにいるのは、妹さんかい?」
 柄の良いお兄さんがそう尋ねる。
「いえ、一応同学年なんですけどね」
「そうかい。それは悪かった。お詫びのしるしとして、一個分の値段はまけといてやるよ」
 ハッハッハ、と高笑いをするお兄さん。
「ありがとうございます」
 そういった後俺は小銭をお兄さんに渡し、店を離れた。
 やはり、俺とこなたが並んでいると兄妹のようにしか見えないのだろうか。そんな疑問が、頭から離れなくなっていた。
「ホラ、買ってきてやったぞ」
「おお、ありがとーキョンキョン」
 こなたは俺からリンゴ飴を奪い、一目散に食べ始める。
 その後も俺たちは露店を歩き回った。
 普通なら仲睦まじいカップルに見えなくも無いはずなのだが、どうしても屋台の人たちや道行く人々には兄妹に間違われるらしい。
 俺もどうせならカップルと思われたいが、それほど気にしてないのだが、こなたにコンプレックスになっていないのか心配だ。
 
 暫く歩いた後、屋台から少し離れた河原で休む事にした。
 こなたは手に持っているヨーヨーを手で弾ませながら河を眺めている。
「ねえ、キョンキョン」
 少ししんみりした表情で俺を呼ぶこなた。
「なんだ?」
「キョンキョンはわたしたちが兄妹に間違われて……嫌?」
 やっぱり、こなたもさっき言われた事を気にしてるのだろうか。
「そりゃあ、カップルって思われたほうが嬉しいが、世間体なんか気にしてたらお前とは付き合っていけないよ」
 そう言うとこなたは少し笑顔になり、
「まあキョンキョンはこんな姿の私が好きなんだもんネ」
 人をロリコンみたいな言い方をするな。断じて違う。
「それじゃあサ、私の何処が好きなの?」
 好きな所、か。
「特に無いな」
 糸目になり、ぶー、と言って頬を膨らませこっちを見ているこなた。
 俺は少し悪戯心が動きこなたの頬に指を押し付け口に出来た風船を押しつぶした。
「それじゃ何で私と付き合ってるのサ。私はこんな容姿だし、オタクなんだよ?」
「さっきも言ったろ。世間体を気にしてたらお前とは付き合えない、ってな。
 俺は、お前がオタクであるとことか、ネットゲームが好きな所とか、そう言った全てひっくるめてお前が好きなんだよ」
 さっきまで糸目だったこなたの目が開き、少し顔を紅潮させている。
「どうした?」
 俺は心配そうにこなたを見る。
 こなたは依然、らしくも無い顔で少し俯きながら、
「初めて、キョンキョンが私のこと好きって言ってくれたんだヨ」
 と言った。

 そういえば、告白もしていない俺たちは好きなんて言葉を伝える事は無かった。
 伝える必要が無かったからだ。
「確かに初めて言ったな。ところで、だ」
「ところで?」
「俺はお前の返事を聞いてないわけだが」
 そう言うとこなたは先ほどのリンゴ飴も顔負けなほど顔を赤らめる。
 そして、その澄んだ瞳で俺を見つめ、
「……今さら、返事聞くのかネ?」
「聞いておきたいな」
 俺たちの間に少しばかりの沈黙が流れる。
 やがて、その沈黙は破られ、
「私も、泉こなたもキョンキョンのことが好き。世界中で一番、キョンキョンのこと愛してるヨ」
 泉はそう言い終えると俺から顔を逸らした。 
 それほど恥ずかしいものなのか。俺は言うのに何のためらいも無かったが。
「キョンキョンは鈍いからそういった事が平気で言えるんだヨ」
「そりゃどうも。ところでこなた、こっちを向いてくれ」
「何……って」
 こなたが振り向きざま、俺とこなたの唇が重なる。
 しばらくそのまま沈黙が続き、俺が唇を離すと、
「もー。不意打ちなんて卑怯だヨ」
「そうやって、膨れてる所もかわいいぞ」
「ムー。いつか仕返ししてやる」
 そう言って顔を赤らめ、口を膨らませながらも、終始笑顔なこなたであった。

 正式に彼女になった事をハルヒたちに報告し、翌日古泉がボロボロで俺に愚痴をこぼし続けたのはまた別の話である。

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最終更新:2009年05月28日 16:31
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