外では雨が降り続いている

泉どなた ◆Hc5WLMHH4E氏の作品です

梅雨特有のジメジメとした生ぬるい空気で満たされた部室。
俺は下敷きを扇ぎながらネクタイを緩め、はだけたカッターシャツの中へ風を送っていた。
「ねぇねぇ、私も扇いでよ」
正面に座るこなたは机に身を乗り出して、汗で光る顔を近づけてくる。
「断固拒否する」
彼女の透けた下着に気が付いて、俺は咄嗟に視線を逸らした。
その動揺を悟られることはなかったが、こなたには俺がしみったれた男に見えたらしい。
「キョンキョンのケチぃ」
こなたは机に顔を乗せ、手を下に垂らして頬を膨らます。
お陰で目の毒が見えなくなり安心したのも束の間、こなたはその姿勢のままで、
いつも何か企んだときに出る怪しげな悪人スマイルを見せた。
「ニヒヒ……そうだそうだ」
椅子のずれる音と共に立ち上がり、机を回り込んでこちらに接近してきて、
その悪人面はさもそれが当然だとでも言うように、俺の脚に座った。
左の太もも辺りに感ずるは、負担にならない程度の重みと柔らかな感触。
「こうすれば二人とも涼しいよ」
「近いし暑い」
「それって恥ずかしさから暑いって意味もあり?」
「無きにしも非ず」
こなたは猫のように目を細めて、至福の表情で人力扇風機の風を味わう。
なんとなくそんなこなたを見ていると、無性に頭を撫でてやりたくなった。
「もぉーやめてよ子供みたいじゃん」
赤く染まった頬をまた膨らませてはいるが、そのわりに無抵抗。
言葉とは裏腹に、その姿が一番子供っぽいように思える。
蒼く長い髪は空気中の湿気を吸って、少し湿っているようだ。
漂う洗髪剤の香りが鼻を擽り、俺の理性を狂わせる。
それはどんなに綺麗な花のどんなに甘い蜜よりも、魅惑的な香りだった。
「……こなた」
火照った顔に手を触れて、半ば強引に上を向かせる。
俺は緊張で身体を硬直させて目を瞑るこなたに、そっと口付けをした。
「ん…ふっ」
苦しげに漏れる彼女の吐息が俺の頭の中をさらに掻き乱していく。
もはや欲求を抑えることは出来ない。 小さな肩に腕を回して、押しつぶさない程度に強く抱きしめた。
胸元にあるこなたの手が弱々しく抵抗してきたが、しばらくして身体を預けてくれた。
「よ、余計暑くなっちゃったネ」
伏し目がちに、震える指先で唇をなぞりながらこなたは呟く。
先程まで感じていた子供っぽさなどはもう、どこかへ消え失せていた。

「……あっ!」
「どうした?」
当たり前のことだが、ここにはSOS団に用がある人間しかやって来ないし、
飛んで火にいるなんとやら、わざわざ厄介な集団に近づこうという物好きはそうそう居ないのだ。
その為文芸部室はいつも静まり返っていて、今のように雨粒が地面を叩く音が聞こえていたとしても、
段々と大きくなってくる、こんな雨降りの陰湿な空気に到底似つかわしくない、
軽やかに階段を駆け上がるその足音に気付くのは、そう難しいことではない。
聞くだけで分かるテンションの高さに、こなたは誰が近づいているのか気づいたらしく、
今の二人の状況を、よりにもよってその人物に見られてはマズイと勢い良く立ち上がった。
その瞬間部室のドアが開かれ、鞄を肩に掛けたハルヒが入ってきた。
「……アンタ達何やってんの?」
「い、いやキョンキョンの目に……」
「どうもゴミが入ったみたいでな、見てもらってたんだ」
「あっそ、私てっきり……」
ハルヒを前にして、今までとは違う汗が米噛みの辺りを流れるのを感じながら、
俺は深い溜息を付いて、ホッと胸を撫で下ろす。
こなたも同じように溜息を付いたようで、俺達はお互い顔を見合わせた。
こなたは苦笑いを浮かべながら、団長席に着いたハルヒをチラリと見る。
ハルヒがパソコンを立ち上げている最中で、こちらを見ていないことを確認すると、
目を瞑ってキスするジェスチャーをした後、白い歯を覗かせて笑うのだった。

外では雨が降り続いている。



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最終更新:2009年06月14日 01:05
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