外では気象の変化は見られない

泉どなた ◆Hc5WLMHH4E氏の作品です。

雨の日もあれば風の日もあり、雪の日もあれば雷の日だってある。
とくれば、今のように暑くもなけりゃ寒くもない地味な天気の日だってあるのだ。
しかしそれは良いことであると俺は思っている。
雨は濡れるし、風は道端のゴミが散らかるし、雪は滑るし、雷はウルサイ。
そんなことが起こるよりは、ずっとこのような地味な天気のほうが良い。
まぁ農作物のことを考えれば、たまには雨でも降ってくれないと困るが……。

「変化がないのはそれはそれでツマラナイことです。私は好きですよ、雨の日だって風の日だって」
丁寧に眼鏡のレンズを拭いていた高良は、それが終わると
新品と見紛う程に曇り一つ無い眼鏡を掛けながらそう言った。
「まぁそうだがな」
「変化がないのはツマラナイ……それは天気だけに言えることではないんです」
窓の外に目をやって、意味ありげなことを言う。
それがどういうことか尋ねるまえに、高良は口を開いた。
「地球上で起こる気象現象の殆どは、太陽の活動によるものです。
もし太陽が無ければ、地球では熱が宇宙空間に放出されて冷え切ってしまいます。
この太陽の活動によってもたらされる熱や光によって、大気の乱れが発生し……」
何だかよくわからんことを語っているが、とにかく地球上で起こる気象の変化は太陽によるものらしい。
唐突にそんなことを言い出すとは、高良は一体俺に何を伝えようとしているのだろう?
どうしてもそれがよく分からなかったが、構うことなく高良は口を動かし続ける。
「……似ていると思いませんか?」
「似ている? 何が?」
俺の頭の出来が悪いんだろうが、正直高良が何を言いたいのかさっぱりである。
「太陽を涼宮さんに喩えてみてください、SOS団のまわりで起こる出来事は、
その殆どが太陽である涼宮さんを起因とするものです」
確かにSOS団の活動内容はというと、ハルヒが何も言わずにPCを弄くっている場合は特に何もせず
嬉々とした表情でネタを仕入れてきたときには、否応なしにそれに付き合わされる。
ハルヒによってもたらされる熱や光によって、俺達の放課後には乱れが発生するのだ。
「もし涼宮さんがいなければ、SOS団は冷え切ってしまうでしょう」
我が団はその名が示す通り、団長であるハルヒを中心に廻っている。
これが俺にとって良いことなのか悪いことなのか、それは分からない。
しかし高良にとってはどうだろう? 彼女は雨の日も風の日も好きだと、始めにそう言った。
それは今の例え話の意味も込められているのか?
あるいは本当にその言葉通りの意味として言ったのか?
その答えは、俺が悩む暇も与えないほど、案外すぐに見つかった。
「私はSOS団の一員となれて幸せだと、そう言い切れます。
恥ずかしいこともさせられますけど、たまには雨が降ることだってあるでしょう?」
たまに降った雨……その恥ずかしい体験というやつを思い出したのか、
高良は真っ赤になった顔で照れ笑いをすると、やがては俯いてしまった。
「でも、今のようにキョンさんと二人きり……そんな天気も、私は好きです」
高良はそう小さく呟いた後に顔を上げて、流石に驚きを隠せない俺の顔を見つめる。
そして少し首を傾げながら「うふふ」と軽く微笑んでみせた。
未だかつて、異性の笑顔にこれほどまで魅力を感じたことはあっただろうか?
そう思わせるほど、ニッコリ微笑む高良は可愛くもあり、同時に美しくもあった。
雲の切れ間から顔を覗かせた太陽の光が、スポットライトのようにその姿を照らす。
俺はしばらくの間視線を動かすことが出来ずに、ただ高良に釘付けになっていた。

「ですが、この天気もすぐに変わってしまうでしょう」
そろそろ掃除当番を終えたハルヒがここにやってくる頃合だ。
地球上の気象現象は太陽の影響。
今日これからの“天気”は、一体どういったものになるのだろうか?
それはハルヒが部室のドアを勢い良く開けるまで分からない。

耳を澄ませば……ほら、遠くからハルヒのものと思わしき足音が聞こえてきた。
さていよいよ皆さんお待ちかね、団長様のお出ましである。
「遅くなってごめーん! ……って、二人だけ?」
少し残念そうな顔をして、ハルヒは団長席へと向かい腰を降ろした。
その後ろの窓からは空の様子がよく見える。

外では気象の変化は見られない。



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最終更新:2009年06月14日 01:18
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