「どうやら、事なきを得たようですね」
昼休み、昼食を食べ終えた後、俺は古泉に連れてこられるがままに中庭へと来ていた。隣には長門もいるし、朝比奈さんもいる。
「ああ、そうみたいだな」
「あなたは泉さんたちには帰ってもらったほうが良かったんじゃないのですか?」
相変わらずの笑みを浮かべながら尋ねる古泉。
「泉たちが帰りたいって言ってたならそうするけどな。正直、俺も人数が増えて楽しんでいたんだし、帰す理由がなかったんでな」
すると古泉は「ふふっ」と笑い、
「そうですか。あなたならそうしてくれると思ってましたよ」
その言葉を聞いた後、俺は紙コップに入ったコーヒーを飲む。
「そういえば、キョン君、私たちに伝えたい事がある、って言ってましたよね……?」
泉たちが戻ってこれた事による嬉し涙なのだろう、ハンカチで涙を拭いながら俺にそう訊く朝比奈さん。
「ああ、実はですね……」
俺はハルヒの泉たちに対する考えについての自論を述べた。ハルヒが友達を望んだ事。そしてハルヒが俺が泉たちの方を構いすぎて嫉妬した事。
「なるほど」
「ほぇー」
「……」
先から順に、古泉、朝比奈さん、長門の反応だ。
「僕も気づきませんでした。流石はあなたと言ったところでしょうか。ほぼ、それで間違いないと思いますが」
コーヒーを一口飲んだ後、話を続ける古泉。
「最後の部分は、少し解釈が僕とは違うようですね」
「ほう。どんな解釈だ」
そう訊くと古泉は含み笑いをし、
「それはあなたが考えることですよ」
とだけ言った。
「涼宮さんも可愛らしい所がありますね」
「そうですね」
けど朝比奈さん、悪意はないのだろうがその発言はハルヒが普段は可愛くないように聞こえますよ。
「やっぱり、友達は多いほうが良いですもんね」
軽くガッツポーズをしながらそう言う朝比奈さん。うーん、やっぱり可愛いな。
「……何故」
ゆるーい空気の中冷たい長門の言葉がこの空気に鋭く刺さった。
「何故、人は友達を欲しがるの。私には理解できない」
黙り込む朝比奈さんと古泉。俺に答えろってか。
「その、なんだ。長門、俺たちといて楽しくないか?」
「わからない。けど、あなたたちといると独りでいるときより心が落ち着く」
なんだ、分かってるじゃないか。
「要はそう言う事だ。人は人に支えられて生きているんだよ。独りより、皆でいた方が楽しいし、心安らぐものなのさ」
「……そう」
長門、お前だって人間的な感情を持ってきているんだ。しっかりと分かる時がくるだろうよ。
その日の放課後、俺は掃除を終えた後、いつもの通り部室へ向かおうとすると、泉と鉢合わせになった。
「あ、今から部室に行くの?」
「ああ」
とだけ答えると、泉は「そっか」と言って俺の隣に並んだ。
「今日さ、悪い夢を見たんだよネ」
「ほう、どんな夢だ」
「私やかがみが、ハルにゃんたちと離れ離れになる夢」
おっと、それはリアルな夢だな。
「それで、お前はどうだったんだ?」
「言ったでしょ、悪い夢って。嫌に決まってるよ。このSOS団だって楽しいし、皆良い人だし、離れたくないに決まってるじゃん」
俺はその言葉を聴いて思わず笑みをこぼす。どうやら、俺の選択は間違っていなかったらしいな。
「良かったじゃないか夢で。正夢にならないことを祈るんだな」
「うん」
俺と泉は上機嫌で部室へと向かった。あのハルヒを筆頭に、宇宙人、未来人、超能力者にそして新しく入った異世界人がいるSOS団部室へと。
もうちょっとはこの非日常的な生活を楽しんでも悪くはないだろう――